第17話
結局、一軒目で解散することになり、わたしは早々と一人暮らしのアパートを目指すことになった。何か満たされていない、消化し切れていないもやもやが付きまとい、わたしは鈴木さんがいつも立っている繁華街のある駅で降りることにした。
駅前広場に着く。今日も人で溢れていた。
宝くじ売り場に目をやるが、その横に鈴木さんはいなかった。ふうと、小さく溜息が出る。
さすがに、毎日立っているわけではないみたいだ。わたしはがっかりして、当てもなく街を歩くことにした。社会人になってからも、わたしの世界観は特に広がりをみせていなかった。特に行きたいと思う店もない。行きつけの店もない。テレビでよく見かける人気のカフェとか、今年流行のコートとか、代謝をよくするエクササイズだとか、本当に、みんな興味があるのだろうか。
わたしは、毎日同じ仕事をこなし、距離の近い同僚は変な人で、土日はイベントに駆り出されて、あっという間に毎日が過ぎ去っていく。
「え? 事務職なの?」
これが、わたしの母の、内定を報告したときの第一声だった。
すぐに、おめでとうという言葉を付け足していたが、わたしはこの最初の一言が頭から離れない。経営者として働く母にとっては、それはそれは、つまらない仕事に見えるのだろう。父は殆ど海外暮らしで単身赴任のため、家にいることはない。
――二人に、気に入られるように努力するようになったのは、いつからだろうか。
そして、その努力をやめたのは――。
わたしは、いつのまにか、見覚えのある場所に立っていた。
かじかんだ手を擦り、その雑居ビルを見上げる。窓を確認することはできるが、真っ暗で、中の様子を伺うことはできない。すこしだけ目を瞑った後、わたしはエレベーターに向かった。そして、五階で降りる。
この勇気は、どこから湧いてきたのだろう。でも、今日はこの勇気を信じたい。
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