第2話
今年から社会人になったわたしは、一ヶ月の研修を終えて、昨日数名の同期社員と共にこの支店に配属された。着任日には、どこの会社でもあるであろう、所属部署による歓迎会が開かれた。
わたしは今日、誰よりも早く出社した。そう指導されたからだ。
ぽつぽつと、出社してくる先輩社員たちに、わたしは一人一人お礼を言った。しばらくして課長が出社してきた。頃合いをみてわたしは席から立ちあがり、課長のそばによる。
「昨日はありがとうございました!」
そう言うと、課長は頷きながら、わたしに向かって笑みを浮かべた。
「また、みんなで飲みに行こう。親睦を深めるのは大切だ。心配いらない。一円も出させたりはしないよ」
うちの課長は太っ腹だと、先輩社員が嬉しそうにはしゃいでいたのを思い出す。わたしはありがとうございますと頭を下げた。
鈴木さんは、まだ出社してこない。
心が落ち着かなかった。
わたしの指導担当になった鈴木さんは、男性社員なのに事務職をしている。昨日は予定があるといって、歓迎会には出席しなかった。支店から近い繁華街に地下鉄で移動した後、その駅の改札近くで待ち合わせをしている鈴木さんを見つけたとき、予定があるという理由は決してウソではなかったとすこしだけ安堵した。
飲み会を終え、二次会のカラオケが済み、ようやく解散だと開放感に包まれた別れ際で、再び同じ場所で、同じ表情の鈴木さんを見たのだ。そんなことが起きるなんて、誰だって思わない。
そのときの鈴木さんは、本当に、姿が消えてしまいそうなほどか細く見えた。
今日、ちゃんと会社に来るのだろうか。
――結局、そんな心配をよそに、鈴木さんは始業時間五分前に慌てる様子もなく現れた。
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