4−7

 ここは、どこだ。何も無い。自分は何だ?分からない?しかし何も無いというか、何が有ったのだ。もともと無かったのではないか。でも自分はいる。いや、自分しかいない。考える。考える空間はある。俺は永らく考える。俺はいる。ただいるだけだ。

 永遠と思われるほど、俺は考える、俺はいる、と考える事を繰り返したが、突然冷たいような刺激を感じた。とにかく痛いようなこそばゆい感触。なんだこれは、と俺は苦しんだが、この冷たい刺激をどうにかしなければいけない。そう念じて突き通した時に治まった。しかしまた冷たい刺激。今度はもっと強い刺激だ。俺はそれを強く抑えないといけない。治まった。しかしまた、いくつかから・・・ 位置なんてものは無いはずだが方々からまた冷たい刺激が来た。この刺激は、克服すればするほど、より強大に、大量になっていくらしい。しかしなぜ冷たい刺激が来るのだ。どこからその刺激は来るのだ?誰かいるのか?

 そのうち冷たい刺激は治まり、また現れては治まり、そして、いつのまにか、何も無いはずの所に徐々にぼんやりと光景が見えてきた。それは真っ白に広がった光景でその中には俺には見覚 えのある言語でかかれていた。

 『指令に従い、手を動かせ。』

 そしてあの冷たい刺激が物凄く強くやってきたのでたまらず抑えようとすると、光景がぐわん、と下に動き出した。その動き出した一瞬、簡単な腕のついた丸い人形が沢山並んでいるのが見えたが、今は俺はそのうち一体の人形の背中の前の方に、銀の机と視界の隅から二つに伸びている銀の棒を見ている。ふたたび冷たい刺激が来たのでその刺激を抑えようとすると銀の棒が動く。ふたたび別の方から冷たい刺激が来たのでそれを抑えようとす るともう一方の銀の棒が動く。するとこの棒は自分なのか。そしてこの冷たい刺激が、動きたい、という気持ちなのか。

 刺激を受けながら腕なり頭なり動かしていくうちに、冷たい刺激が無くなっていくのを感じてきた。その代わり腕と頭が自分に従って動いているよう感じた。

『この文字を見ている君たちは、工業製品の仕事を任される。』

 白い壁の文字がそう述べている。

『新たな指令が再び来る。これを、体得せよ。』

 そして、ようやくこれで、幾多もの冷たい刺激を乗り越えた結果、晴れて自由に、思うがままに、スパナを回すことができるようになった、と思った時に俺は工場に運ばれていた。ベルトコンベアには固定す べき重なった板材がある。板材には大雑把にボルトが仕込まれている。俺はそこにスパナを固定させ、ぐるりぐるりと回す。次にまた板材が来たので、俺はそこにスパナを固 定させ、ぐるりぐるりと回す。ぐるりぐるりと回る。ぐるりぐるり。ぐるりぐるり。ぐ るり。ぐるり。

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