2−6

「先生。」

 二週間後の科学の授業の後に、ジョーはウーラム先生に話しかけた。

「ちょっと相談したい事があるのですが。」

「おお、ジョー・プラーシックバウエくんだね。いいよ。準備室で話そうか。」

 そういって理科室の脇の今まで入った事の無い部屋に入った。そこには書類と机と椅子のある小さな小さな部屋であった。かつてオオプルネンゲの魂が入った四足の人形はもう動いていない。

「掛けて。」

 ジョーは椅子に座る。ウーラム先生はパイプに火を着けながら言った。

「それで、相談って何かな?」

「それなんですが。」

 ウーラム先生はパイプを銜える。

「僕はどうしても、あの植人技術が好きになれないんです。」

「あー、なるほど・・・でもそれでは、君の兄さんの研究分野を否定する事になっちゃうね。」

「いえ、あの技術はすごいと思います。思いますが・・・人の心を、強制的に石板に封じ込めて、思い通りに使おうというのがどうもイヤなんです。」

「植人は栄誉であり、刑罰でもある。君が自ら望んだり、或いはよほど悪い事をしなければあの光線が当てられる事は決してないはずだ。」

「わかっています。でもなんだか・・・。」

「なんだか?」

「うーん、うまく言えないです。」

「いいたい事はきちんとまとめよう。ジョーくん。」

 ウーラム先生はジョーの目をしっかり見て言った。

「いいかい、君は何か大きな問題提起をしたいようだけど、ただの違和感だけでは世の中は動かない。だからまず第一に何ができるか、この色々動いている世の中でまず何をしなければいけないのか、考えて、予測し、実行に移さなきゃ意味ないよ。そのためには君の考えだってこの今の出来事でどんどんふわっふわ遷り行くような脆い考え方でははっきり言って予測するヒマなどまるでないから、多少の出来事でブレないために何度でも反芻して、自分はどうあるべきかまでしっかり固めた方がイイ。分かる?」

 ジョーはウーラムの突然の叱責に驚きつつ、その言葉をゆっくりと頭に消化していった。

「わかります。」

「それと僕を説得できるのならそれは一つの実力だけれど、僕如きを論破しても全く意味がない。僕は君の考え方は否定しないよ。ただ、相手がすごく大きい事はちゃんと理解するんだ。そのためにはどうすればいいか、よく考えよう。」

 ウーラム先生の言葉はとても納得したものの、ジョーの疑念が完膚無きまでに叩きのめされたような気分もしてそれでフラフラと教室から出て行った。その様子を誰か見ている気がしてジョーはジロリとにらんだが、副学校長であった。仏頂面の中年の女性である副学校長はそのまま後ろを向いてどこかへ行ってしまった。

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