第26話:轟け! 捨て身の大爆裂



「何をするんですか、何をするんですか! 人がせっかく格好いい再会を演出したというのに、この仕打ち!」

「演出で全力を使い切る奴が居るかバカ! お前どうすんだよ、逃げる時に背負う荷物が米俵一つ増えただけじゃねーか!」

「こめっ、米俵とはなんだ! おい、私のどこらへんを指して俵と評したのか聞いてやろうじゃないか!」

「うるせー、ぶっ倒れてる癖に偉そうにすんじゃねーぞお荷物! オラ離せよ、アホに付き合ってる暇は今は無いんだよ!」


 一歩一歩大地を揺らし、巨大ゴーレムが里を踏み潰そうとする危機的状況の中。

成り行きのまま別行動していためぐみんだが、再会してそうそうお荷物になった。

……なんで俺の仲間たちって皆こうなんだろうね。


「うぇぇー、めぐみん、めぐみーん! 置いて行かないでよー! ゼル帝探すの手伝って欲しいんですけどー!」

「アホに付き合ってる暇は無いって言ってんじゃねーかコラッ!」

「どゆこと!?」


 遅れて茂みの中から現れたアホ丸出しの女神を怒鳴りつける。

相変わらずの疫病神っぷりに脱帽だ。わざわざ追っかけてきてまで厄介事を引き起こす才能には笑いも起きない。

めありすも居た筈なのに、なぜ「大人しくする」という選択肢が無かったのか。

……有るわけないよな。多分あいつにもそんな選択肢は無いし。


「何……? なんで私、会ってそうそうカズマさんに怒られてるの!?」

「いや、特に深い理由は無い。あえて言うなら俺がスッとするためだ。超スッキリした」


 無言で殴りかかってくるアクアにアイアンクローをかましていると、なんだか肩のあたりに溜まっていたコリが解れていくようである。

おかしいな、パーティの誰にもツッコミをしなくて良いってのは凄い楽なことだった筈なのに。

ひょっとして俺、いつの間にか物足りなくなってる……?


「……あ、あれ。あの人って、女神様なんじゃ……」

「ああ、うん。彼らはあれが普通なんだ。最初は戸惑うけどね、いい加減慣れたよ」

「うるせー、じゃれ合ってるみたいに言うんじゃねえよ。俺は正常だ、こいつがぶん殴りたくなる顔してるのが悪い」

「むー! むー!」


 なんせこの女神ときたら、やっちゃいけないことはやらかすし、やらかさなくても大抵なんか酷くなる。

そんな逆噴射装置と一緒に日銭を稼ぐとか、当時は本当によくやれていたと思う。


「くくく……感動の再会も大事ですが、それよりも今は我が里の一大事。さぁカズマ、早速でなんですが精神力下さい」

「おい誰だ、こいつに再補給の味を覚えさせたのは! 高い餌食った後の猫みたいになってんじゃねーか!」

「だって魔法無効化の相手とか、カズマが居るタイミングでは絶対渋られるんですもん! あんなに硬くてデカくて黒光りしている標的相手に、それは無いでしょう!? 万が一(ぶっ倒して)気持ちいい所に当たったら、こりゃホンマ絶頂モンですよ!?」

「女の子が地面でくねくねしながら叫ぶんじゃありません! お前わざわざ誤解されるような言い方しておきながら、最後にド直球の下ネタに着地してんじゃねーかよ! 何の意味が有ったんだよその遠回りは!」


 ああ、まったく本当に。

ちょっとの期間離れていただけなのに、なんとも頭が痛くなる。

こいつらと来たら、本当に何時になっても変わんねえな。

アイリスに、ミツルギやゆんゆん……こっちは数年見ない内に、それなりに変化があったってのに。


「……だが、ようやく調子が戻ってきたんじゃないか、カズマ?」

「なんだよダクネスまで。……俺そんなに変に見えたか?」

「変と言うか……まぁ、妙に真面目に見えたな。いや、それは別に良いこと何だが、いつもの勢いが無かったというか」

「うっせ、何割かはお前のせいじゃねーか」


 めありすとの親子の約束もあるし、ちょっとは責任感じてたんだよ。

……だがまぁ、確かに責任だなんだで動くのは非常に俺らしく無かったな。

うん、そうだ。責任なんて知ったことか。

自分自身を思い出せサトウカズマ。

お前が何者だったかを思い出すんだ……!


「よし、帰って二度寝しよう」

「戻りすぎだ馬鹿者! お前はどうしてそう、最後までキメてくれないんだ!」

「冗談だよ……えーっと、ちょっとこの辺の地図あるか」

「何か思いついたのですか、お兄様?」

「……ああ、まぁな。そんな奇をてらう必要無いんだよなって」


 少しばかりスケールに圧倒されてしまってたが、そう考えればなんてことはない。

よくよく考えれば、転ばしたりとか縛り上げたりとかは俺の基本戦法ではないか。


「ほら立てよアクア、それとめぐみんも。せっかく来たんだしちょっとは働いて貰うぞ」

「「?」」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「……よし、この辺りで良いな」


 紅魔族の里がある場所は、端的に言って山奥だ。

RPGで後半に行く街みたいな、周囲を山で囲まれた窪地に里はある。

……多分、誰かがまさにそのままの価値観でここに家を構えたのだろうなぁ。

実際この辺のモンスターって強いし。

魔王の城が展望台で確認出来るほどに近いから、当然っちゃ当然なんだが。


 それの何が重要かっていうと、つまりこの辺は土地が起伏に富んでいると言うことだ。

地面が凸凹しているから、絶対に「水の貯まりやすい場所」ってのができる。

ここにアクアが居るんだったら、その利点を活かさない手は無い。


「いいか、『セイクリッド・クリエイトウォーター』だ。『セイクリッド・クリエイトウォーター』だぞ? それ以外に余計な気は一切きかせるなよ。もし『今日寒いから水じゃなくてお湯にしといたわ!』とか言い出したら、お前のその羽衣売りさばいて里の復興代金に当てるからな」

「ちょっと何よ、藪から棒ね。そんなに言わなくたって私が今までカズマさんの足ひっぱった事あった? むしろカズマの方が戦闘面ではお荷物だったんじゃないの? 胸に手を当ててちゃんと思い出してみなさいよ、名誉毀損で訴えるわよ」

「お前ヘシ折れたDVDみたいな記憶容量してるな」


 つまり0ってことだが。


 だが、今回の作戦をするにあたって、流石にこいつ以上の適任は居ない。

腐っても水の女神というか、どうにも古びて"す"の入った脳みそをしていらっしゃるが、こいつの水を操る能力は本物だ。

俺たちがこの世界に来たばっかりの頃にも、街を洪水で水浸しにしてどデカい借金を背負わせやがったからな。


「ゆんゆん、いいか? アクアがこの辺を水浸しにしたら、俺たちで思いっきり『フリーズ』をかける」

「『フリーズ』を? 地面にですか?」

「……ああなるほど。つまりカズマがいつもやってる事を、より大規模にやるんですね」

「そういうこった。寝ぼけてふらふらしてる相手なら、効果てきめんだろ」


 流石に俺だけじゃ無理なので、不本意ながらアクアの手を借りなきゃならないが。

……本当に余計なことすんなよ、頼むから。水を出すだけで良いんだからな。


「そういうことなら、僕も女神様を少しサポートしよう。このままじゃいい所も無いし」

「ミツルギ? お前、シンプルな剣士だろ。なに、精神力でも分けてくれんの?」

「いや、少し相手を削ぎ落としてくる。魔剣グラムならできるはずだ」

「削ぎ落とすってお前……」


 流石にサイズ差がありすぎると思うんですけど。

設計した奴が何考えてたのかは分からんが、刃渡りで考えたら小指がせいぜいだ。


「小指を舐めちゃいけないよ。人が踏ん張る時に使ってるのは、主に足の小指なんだぜ。まぁ相手は人じゃなくて巨大ゴーレムだが、それでもかなり効果は有るはずだ」

「ホントかよ……」

「それに君だって、いざどんな手段でも使うとなったら執拗に小指とか耳とかそういうイヤな所ばかり狙うだろう」

「ああ、カズマならやりますね」

「カズマならやるな」

「嫌な信頼をかけるな!」


 まぁ良いや。行くなら行けよ、止める義理も特に無い。

現状必ず転ぶという確証も無いし、少しでも成功率を上げてくれると助かるのも確かだ。


「という訳で先にミツルギが一度つっかけるけど、お前間違っても魔法に巻き込むなよ」

「……え? ちょっと待って、急にやること増えたわね」

「行って帰ってくるのを待つだけだろ!? なんでそんな難しそうな顔してんだよ知力1!」

「はぁー!? 神の御業にはタイミングってもんが色々あんのよ、外野が口挟まないでくれる!?」


 嘘つけ、呪文唱えるだけのくせに!


「あのー女神様? できれば支援魔法を承れると嬉しいのですが……」

「……わたくしがかけますから、頑張って下さいね、ミツルギさん」

「は、はぁ……恐縮です」


 ちょっと残念そうなミツルギが巨大像の前に立ち、迫り来る相手を迎え撃つ。

お前、このバカのどこが良かったんだ。要らん魔法かけられても知らねーぞ。

なお、その頃俺たちは揉み合うようにして互いの頬を引っ張っていた。


「ハァ……ハァ……分かった、じゃあ俺が『よし』と言ったら魔法を打て。良いな?」

「ふぅ……仕方ないわね、本当なら三度頭を下げて頼み込ませるところだけど、みんなの顔に免じてやってあげようじゃないの。その代わり、私のおかげで成功したらちゃんとアクア様のことを敬うのよ?」

「芸仕込まれる犬みたいな存在が何ぬかす」


 思わず素で言葉を返すと、相手も同じく真顔で拳を返してきた。

ええい、こんな不毛な争いをしている場合じゃないと言うに。

いや、よく考えると俺があれをどうにかしない理由もあんま無いんだけどさ。

そんなに危険がなくて感謝は一杯なら美味しい仕事だし。

ゆんゆんもスッゲー美人に育ったしな。色々恩を吹っかけておけばおっぱいくらい触れるかも知れないじゃん?


「ああもう、二人してじゃれあってないで少しは魔剣の人の活躍を見守っててあげましょうよ。ところでカズマ、我が爆裂魔法に活躍の場も有ると思うのですが?」

「おばあちゃん、今日はもう撃ったでしょ。本来身体に付くはずだったカロリーまで撃ち尽くしたような体しやがって」


 おおっとここでめぐみんが乱入するときた。

二人がかりで腹を蹴るのは止めろ! 苦しい、苦しいから!


『マナコちゃん、こいつら本当に女神様なんだッシー?』

「す、姿は間違いないはずだけど……あ、あ、ストンピングは危ないのでは……」


 あまりの残虐ファイトと成り果てたせいで、まだこの世界に染まりきってない子は大変引いているようだった。

くそっ、こいつら後でヒールするからって手加減なしでやりやがって……!

奴らは絶対に後で泣かす。回復や蘇生があっても痛いもんは苦しいのだ。


 流石に見かねたダクネスが2人を止めに入り、俺が息を吹き返す頃には巨人とミツルギの距離はだいぶ近くなっていた。

まったく、危うく本格的な激突が始まる前に死亡者が出るところだったじゃねーか。

とはいえ、いい加減ふざけるのも限界だ。剣を構えたミツルギが息を呑むのがここからでも分かる。

そりゃ、あのデカさだ。ただ歩いてくるだけっても、プレッシャーが半端ないよな。


「ちょっとー、ハムの人大丈夫ー? 怖くなったら帰ってきても良いんだからねー!」

「だから僕は別所哲也では……いえ、どうかご笑覧下さい女神様。そして活躍できたら是非名前だけでも覚えて帰って下さい」


 見えない筈の涙がキラリと光る。切ないなぁ、ハムの人。

わりとしょっちゅう美味いもん送ってきてくれるんだけどな。


「行くぞ鉄巨人よ……! 我が魔剣グラムの冴えを受けてみろ!」


 ミツルギが魔剣を大上段に構えると同時に、光が迸る。

その剣気たるや、背後に居る俺たちにもビリビリとオーラが伝わってくるほど。

なるほどあれが、魔剣グラムの本来の力なのか。

良いなあ、俺もああいうの使いたかった!

ミツルギはそのまま相手と交差するように踏み込み、銀の一閃となって駆け――!


「その小指、貰い受けるッ!」


 締まらねぇー……。


 と、ちょっとガッカリしたものの、その神器チートの切れ味は本物だ。

全体から見れば足の欠片といったレベルだが、無敵の装甲が一部切り裂かれ、地に落ちる。

何でも切れる、というのは嘘でも無いのだろう。

今回も明らかに刃渡り以上の分を切ってるし。


 ――――ッ!!


 巨人の声なき声が上がる。

はたして痛みを感じているのかは定かじゃないが、反応らしい反応を初めて見せた。

手応えを感じたのか、魔剣士は恐怖を振り払って薄く笑い――


、効いてるぞミツルギ! 一旦離れて……」

「『セイクリッド・クリエイトウォーター』ァァァ!!」


 返す刀を繰りだそうとした所で、突如として出現した水の渦に飲み込まれて行った。






「……ッ! …………!!」

「カズマさんが! カズマさんがよしって言った! ガズマざんがい゙っだぁ!」

「落ち着いて下さいお兄様! 幾らアクアさんの胸ぐらを掴みあげても状況は変わりませんわ!」


 ……はっ、いかん。あまりのことに思わず手が出てしまった。

アクアが頬を赤く腫らしている間にも、鉄巨人は次の一歩を踏み出そうとしている。

今はアクアに構っている暇はない。俺たちにとっては池でも、向こうにとっちゃ水溜りのような物なのだから。


「くそっ、やっちまったモンは仕方ない。ゆんゆん! 全力で『フリーズ』だ!」

「ええっ!? でも、ミツルギさんがまだ沈んで……」

「最悪アクアに蘇生させりゃあいい! 凍死なら死体も綺麗に残る!」

「で、でも……!」


 思いっきり巻き込まれたミツルギに鞭打つことに躊躇があるのだろう。

やらなければいけないと分かっては居ても、ゆんゆんは一歩踏み出せない様子である。

優しい子だからしょうがないな。ここは背中を押してやらねば。


「いいのかゆんゆん……? お前の里を守るんだろう? 国に払う税金が足りないって言っていたじゃないか。あいつに里を踏み荒らされて、直せるだけの金が残っているのかな……?」

「う、ううううう!?」


 実際には優秀なアークウィザードの皆さんが持ち出しでやるだろうから、そんなには掛からないと思うけどな。

しかし混乱中のゆんゆんには効果が抜群だ。落ち着きなく瞳を動かし荒く息を吸う。

これならもう一押しか。


「今やるなら金をダスティネス家の名で幾らでも貸し付けてやる! さあ!!」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 『フリィィィズ』ッ!!」

「こういう時のお兄様は本当にイキイキとしてますねぇ……」

『分かってたけど、やっぱりこいつら最低だッシー』


 菌糸類に人としての程度を語られる筋合いは無い。

ともかく、勢いと欲望がないまぜになったゆんゆん渾身の『フリーズ』は、アクアが作った即席の池を一瞬で氷漬けにした。

ミツルギによって切られた足が、氷で覆われた池の上で滑る。


「よし、転べ……っ!」


 ギャリギャリギャリ、と氷が削れる音。

安定しない足場の上で、ただでさえ重い鉄巨人の身体が大きくグラついた。

このまま倒れるかと思った身体はしかし、完全には倒れきらぬ形で膝をつく。


「ああっ」

「だ、ダメか?」


 倒れてはいる。倒れてはいるが、相手はまだ完全には倒れきらず踏ん張っている。。

巨人は確かに、態勢を立て直そうとしているのだ。足場は悪いのになぜ?

……そうか、ひびか。重さで足元がさらに踏み固められたことにより、氷の上でも小さな窪みができて踏ん張れているのか。

なんてこった、既にミツルギという尊い犠牲が出ているのに!

完全に出す必要の無い犠牲だったのは別の話だ。犯行の張本人はまだ凹んでぐずってるし。


「くそっ、足場が悪いのは確かなんだ。最後の一押しが有れば……おいゆんゆん! たしか竜巻が作れる魔法あったろ! お前あれ使えないのか!」

「わたし……わたし、お金に目がくらんで……ごめんなさい……ごめんなさいぃ……」


 そしていつの間にか、もう一人泣いてるだけの奴が増えていた。


「ダメですねこれは。罪の意識にやられて、仮に精神力が残っていたとしてもしばらくは再起不能リタイアでしょう。ゆんゆんは生真面目ですからね」

「サラッと言ってるけどよめぐみん、普通致死級の呪文に仲間を巻き込んだらこうなるもんだからな? 普段シレーっとしてるお前の面の皮がどんだけ厚いかってことだよ」

「おおっと、最高にカズマに言われたくない台詞きましたね。彼女をここまで追い込んだのが誰かをあっさり棚に上げてるあたり、いま凄く下衆ポイント高いですよ。さすが鬼のクズマです」

『って、畜生同士で言い争ってる場合かッシー!』


 チッ、野生動物よりも食物連鎖が下の癖にやかましいキノコだ。

つっても、流石に俺にあと一押しになるような火力は無い。

となると、頼みの綱はめぐみんなんだが……こいつ、貴重な爆裂を登場シーンで使いきりやがったからな。


「ちょっとカズマ、さっきから私をバカにしすぎじゃありませんか? まさかこの私が、なんの手立てもなく貴重な爆裂魔法を使い切るとでも?」

「おいおい、そんなの当然じゃないか」


 思ってるよ。


「いいですかカズマ? 世の中には回復アイテムというのが有るんですよ? ……ふふふ、どうしてカズマはいつも私に最高の見せ場を作ってくれるのでしょうね。ひょっとしてカズマなりの愛情表現ですか」

「頭ゆだってんのか? だいたい世の中にそんなひょいひょい精神力を回復できるアイテムがあんなら、俺が金にあかせて買い漁っとるわ。そしてカフェの店員さんに直接精を捧げるんだ」


 あのエロい店員さんに、夢の中でなく直接精気を吸ってもらう。

おそらく、アクセルの街で一番支持を集めるだろう男の夢である。

精神力を吸い取るモンスターがいると分かれば騒ぎになるから、と決して直接触れようとはしない奥ゆかしい彼女らだけども、そんな彼女たちの目の前でダース単位の回復剤を並べこう言ってやりたい。


 俺の心配なら要らないぜ、お嬢さん。とびっきりのタフを見せてやるよ――


「なるほど、それを私に直接告げるとはいい度胸ですね。今度キンタマが爆発する魔法をかけてあげます」

「要るかそんなサービス! ヒュッとくること言うんじゃねえよ! ……まぁそんな感じで探したけど見つかんなかったんだぜ、実用レベルの精神回復剤は」


 どうやら精神力を余計に使いたいならマナタイトを使えってことらしい。

マナタイトから精が吸われていっても全然気持ちよくないだろうがよ。

いや、それはそれで彼女たちには喜ばれるかも知れないが、俺がやりたいことはそうじゃないんだ。


「いやカズマのクッソ下らない野望はどうでも良いんですよ。とにかく、ここにめありすがくれた虹色の薬があります。これを飲めばたちまち爆裂魔法一発分の精神力が回復する魔法のお薬です。ただしギリギリまで飲むなとも言われていましたが」

「下らなくねえよ、男の夢だろうが! それにめありすの持ち物だと? やめとけやめとけ、十中八九地獄が出処だ。飲んだ途端身体が爆発しても知らねーぞ」

「なんですかカズマ。私たちの娘を信じてないのですか? ほらここ、白いラベルに手書きで『えりくさ?』と書いてあるでしょう? これはもう、伝説の回復剤エリクサーと見て間違いありませんよ」

「疑問形ついてるじゃねーか、未鑑定だよコレ!」


 だが、爆裂魔法をもう一発撃つという欲望に取り憑かれためぐみんは止まらない。

俺の制止を振りほどき、腰に手を当てて謎の液体を一気飲みすると、なぜか満足気な顔をこちらに向けた。


「お、おおおぉぉ……?」


 カラン、と薬瓶が地面に転がる。

途端、めぐみんの……オーラ? 魔力? 的なものが何やら七色の光を帯びて、肩くらいにまで伸ばした髪が風もないのにゆらゆらと揺らめく。

……なんだろう。漫画やアニメでは良くあるシーンだが、実際に見ると髪がクラゲみたいだな。


「身体が……熱い! 熱いですよカズマ!」

「そうか……なんだかんだ長い付き合いだったけど、俺お前のこと絶対に忘れないよ。きっと忘れたくても忘れられないと思う。墓には『最後の瞬間まで爆裂に殉じた偉大なる魔導師、ここに眠る』って刻んでやるからこっち寄らないでくれな?」

「ちーがーいーまーすー! そういうのちょっと本気で傷つくからやめて下さい泣きますよ!?」


 だってお前、絶対そのままだとボーンってなる光り方してるんだもん。


「撃てるなら早く撃ってくれ、向こうが体勢を立て直す! でなければ私が行ってしまいそうだ!」


 見ていたダクネスが悲痛な、しかし若干上ずった声で叫んだ。

こいつはこいつでいったい何処に逝く気なんだ。行った先でマジ泣きエリス様に困ればいい。


「めぐみん、本当にやれるんだろーな!」

「ええ、ええ! もちろんですとも! 我が名はめぐみん! この世で最強の爆裂魔法の使い手! 撃ちたい時に撃ち、放つべき時に放つ! それこそが我が爆裂魔法道!」

「なら決めちまえ! どうせあれも、めありすの未来に関わってないわけがねーんだ! 跡形も残さない勢いでふっ飛ばせ」

「ええ。というかそろそろマジでヤバい感じに身体が熱くなってきました! これは本当にボーンってするかも知れません」

「じゃあ尚更とっとと撃てやぁ!!」


 メルトダウンとか、洒落になってねーんだよ色々と!

なんか見た目スーパーモードに入っためぐみんが息を整えると、俺ですら肌で分かるレベルの魔力の渦が逆巻いた。

あの薬の作用なんだろうか。明らかに尋常を超えて集まる魔力に、流石のめぐみんも冷や汗が滲んでいる。


「……神々の影より黒きもの、闇中の光より輝くもの。すべてをえぐり、壊し、押し潰す破界の化身よ現われろ。理と不条理の狭間から、黄昏の世界を塗り替えせ!」


 結局、あの虹色の薬はどんな効果だったのか。

それを調べる時間も無いが、次にめありすと会った時はこう告げよう。

……バカが癖になりそうなものをあたえるな、と。



「『エクス、プロージョォォォン』ッ!!」



 カッ、と彼方の空が輝いて。

おそらく、この世界で最大の熱波と爆風が、俺たちごと膝をつく鉄巨人を飲み干していった。

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