もしアインズ様と守護者達が日本へ転移してしまったら

@sirasagi

第1話プロローグ

「アインズ様、此度の作戦は万事抜かりなく終えることができました」

「そうか。よくやったアルベド、デミウルゴス。これでモモンの英雄としての名は更に高まり、ナザリックはまた一つ上の次元へと進むだろう」


 骸骨姿の男――アインズと呼ばれた男は小悪魔の女性アルベド、スーツに身を包んだデミウルゴス他、片膝を突く部下達に対して鷹揚に頷きながら答える。

 先の戦いにて敵の軍勢を自らの魔法にて壊滅させ、都市の一つを手に入れたのだ。

 だが人外に支配されるなど都市の反感は必須。

 しかしモモンという表向きは人間の冒険者を装ったアインズが、うまく立ち回り人々の希望を一身に受けることで当面は不満を抑えることに成功した。

 今まではこそこそと裏で動いていたアインズだったが、ここまで大々的に動いたのは初めてかもしれない。

 玉座から見下ろしていた彼はふとホールに掲げられているかつての仲間達の旗に視界に入る。

(多くの人間共が死んだ……だがこれも全てはナザリックを世界に知らしめ、その名を不変のものとするため。そして、できれば仲間達が自分達の存在に気付くことができれば……)

 大規模な作戦を行い、成功させた。ある意味、ちょっとした区切りゆえか、想いに更ける。


 骸骨の王は元々モモンガという名のゲームのキャラクターだった。

 アインズとは元々人名ではない。

 ナザリック大墳墓を拠点とするアインズ・ウール・ゴウンというギルド名が元だ。

 ユグドラシルというDMMOーRPGという世界にいたはずなのに、そのゲームのサービス終了時に何の因果か、異世界へモモンガとNPCごと飛ばされてしまったのが事の始まりだ。

 肉体に引っ張られる形で精神は変容し、かつて人間だった頃の常識は薄れ、人を殺すことに良心の呵責はない。

 かつての仲間達が残した子供とも言える部下達に慕われ、その想いを裏切らないために頑張ってきた。

 多くの生物の血で大地を赤く塗らしてでも、彼は願い続ける。

(そうだ、ヘロヘロさんやたっちみーさん。ペロロンチーノさん、ブループラネットさん、ぶくぶく茶釜さん……この異世界にいるかもしれないみんなを見つけなくては)

 亡者の執念とでも言うべきそれは他者からは狂気と映るかもしれない。

 だがそれでも願わずにはいられなかった。

 できれば、もう一度かつての仲間達に会いたい。そして一緒に冒険でもできれば、と。


「……む?」


 内心で色々思っていたアインズの視界が一瞬だけ揺らめく。


「どうかされましたか、アインズ様?」

「いや、さすがに久しぶりの大魔法は疲れたようだ。自室に戻って少し休むとしよう」

「でしたら私がマッサージなどどうでしょう! こう二人きりでゆっくりと――」

「なにいきなり盛ってるでありんすかアルベド。アインズ様はお疲れと仰ってるのに邪魔しようとは随分なあばずれでありんすね」


 アルベドが瞳孔を蛇みたく縦に細めながら寄り添おうとすると、真横から不機嫌そうな少女の声が遮る。

 まるで芸術的な美しさを持つ絵画をそのまま体現した容姿をしているその者は吸血鬼のシャルティアという少女だった。

 それを余裕の表情でアルベドは受け止める。


「妬いているのかしらシャルティア。その偽乳では碌な奉仕もできませんものね」

「この身体はペロロンチーノ様に御創りいただいたもの。やりようはいかようにもありんすえ。それより――」

「……デミウルゴス、あとの始末は任せる」

「はっ! 騒ぎが大きくなるようでしたら、きつく言い含めておきます」

「うむ」


 『アルベドはアインズを愛している』――そんな設定を加えてしまったがゆえか、彼女はアインズに対して愛情を隠さない。

 ギルドの運営ならともかく女性の扱いには長けていない上に、自身が遠因となっては女性達の喧嘩を止めるのも気が引ける。

 支配者として完璧に振る舞えないなら、他の者に問題を投げるしかない。

 いつものように言い合いを始めた二人を余所にアインズはこそこそと自室へと戻っていくのだった――



 ――――――



 その日、アインズは夢を見ていた。

 それはとても幸せな夢。

 かつてのギルドメンバー達との思い出。遅れてきた青春ともいうべき素晴らしく宝石の様に輝いていた日々。

 眩しかったがために、日々の出来事が本当に輝いていたのだと気付けなかった。


 異形種だからと心ないプレイヤー達にPKされ、ユグドラシルを止めようかと思っていた矢先に、自分を助けてくれたたっちみー。

 エロゲ好きなのに姉がエロゲ声優で、たまにゲームに出てくると萎えると愚痴をこぼすペロロンチーノとの雑談。

 環境破壊で見ることができない夜空を再現したブループラネットとその素晴らしい星の瞬きについて語り合う日々。

(あぁ…………あぁ……素晴らしい。どうして俺はこんな日々を当然のごとく享受していたんだ。もっと、もっとやりようがあったはず。だからこそ……?)

 アインズはそこでふと疑念がよぎった。

 なぜ夢を見ているのか、と。

(アンデッドの身体になってから睡眠など不要となった。気疲れから横になることはあるが、睡眠とは言えまい、ならば何故……っ!?)

 これは夢だ、間違いないと彼は断言する。

 かつての仲間達が目の前にいるわけないのだ。

 とんでもないことが起きていると本能的に察知した彼は、とにかく起きろ起きろと強く念じるしかなかった。

 そして目が覚めたとき目に入ったのは、


「我が創造主たるアインズ様。一大事にございます!」

「……パンドラズアクター? なぜお前がここにいる? 宝物殿の守護を命じていたはずだ」


 卵型の頭をした男パンドラズ・アクターだった。

 ドッペルゲンガーでもある彼は様々な姿を取れるアインズ自身が創造した従者。

 しかし本来はナザリックの宝を守る任を受けている。

 一応アルベドが作成中という『ドリームチーム』――かつての仲間を探すための捜索隊にも入ってはいるが、必要なら彼女から連絡がくるはず。

 少なくともアインズの寝床に無作法に来るような者ではないはずだった。


 ただ一大事という言葉を耳にしたアインズは即座に身体を起こすと続きを喋るように促す。


「それで随分こじんまりとした部屋にいるようだが、それに関係しているのか?」

「はい、どうやらこの薄汚い部屋へ何かしらの要因でテレポートしてしまったのでは、と愚考致します」


 まるで舞台俳優のごとくオーバーアクションを交えるパンドラズ・アクター。

 軍服に身を包んだその姿は自分が心からかっこいいと感じている風に感じられて、かつての黒歴史そのものの彼の動作に、痛まないはずの頭が重くなる錯覚を受ける。

 だが今はどうやら非常事態。

 抑えろと自身を律しながら会話を無理矢理にでも続けた。


「う、む。しかしどういうことだ。ナザリックにいた私とお前をテレポートさせるなど通常ならあり得ない。そこら辺の防諜は完璧に行なっていたはずだ。……まさかシャルティアを洗脳した連中、だとで……も……?」

「アインズ様のご明察通り、シャルティア様を狙った者達が一番可能性があるかと。もしくはナザリックに敵意あるぷれいやーという線も。ですがそうすると今まで危害を加えてこないことに疑義が生じますし、どうにもこうにも――」


 パンドラズ・アクターが滔々と持論を展開していたが、その言葉は途中からアインズの耳を素通りしていた。

 なぜなら、そうここは。


「……鈴木悟の、俺の、部屋?」


 自分が横になっていた寝台には懐かしいユグドラシルをするための機器が無造作に転がっている。

 そこは、かつての人間、鈴木悟であったころの部屋。

 だが自分の身体を見下ろしても骸骨のままだ。鈴木悟の肉体はどこにもない。

 あまりにもあり得ない光景にアインズは、精神の安定が起きるまで、茫然とした様子で周囲を見続けるのだった――


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