六傾姫の問題

巨大な会議室に、数名の人間と12個のモニター。

その上には、カメラがついており、部屋の様子をモニターしていた。

『こちら、F.O.E。つながっています。』

『華南電網公司。問題ありません。』

『繋がっています。』

そのような報告がすべてのモニターから聞こえてくる。

「さて、諸君……この会議に参加してもらい嬉しく思う。」

座っていた男が仰々しく喋りだす。彼こそがアタルヴァ社のCEO……最高責任者だ。

「さて、今回の議題だが世界規模レイドイベントについてだ。」


世界規模レイドイベント。それは<エルダー・テイル>における最高級のイベントのことだ。

『今回はどのようなイベントなのですか?』

『場所はどこで?』

『やはり六傾姫関連の………。』

ピクリ。その言葉に、CEOが眉をひそめる。

『……どうすんだよ、あの設定………。あの設定のせいで私の案がおじゃんになってしまったんだぞ……。』

『ああっ、CEO! 元気を出して! たぶんあと3つか4つ拡張パック出せば、六傾姫の設定なんて誰も忘れますよ!

 それまで、ダンジョンをいくつも作っていけばOKですって!!』

『そうですよ! それからなんか適当なアルブの精神体みたいな設定を出せばOKですって! 今までも何体か出していますし!』

『でも、そういうのに限って結構記憶に残るんだよなー。』

誰かがぼそりと呟く。

『……不吉な事言わんといてください。』

さて、みな疑問に思うだろう。なぜ彼らは六傾姫をそんなに恐れているのか?

理由は簡単『面白い設定だが使いにくい設定だから』である。


もし彼女達をそのまま6人として世界中に配置したとしよう。そうすると13-6=7サーバ分配置ができないのだ。

13サーバそれぞれに配置したのならそれはそれで『六』傾姫とするのはどうなのだという話になってくる。

それではそれぞれのサーバに6人を配置したらどうなるか?

これが一番簡単な解決方法なのだが、それならばなぜ六傾姫が集まったのかを説明する必要がある。

それと最大の問題がネーミングの問題だ。


それぞれ役割ごとに姫A、姫B、姫Cとして、その名前を誰がつけるのかが問題なのだ。

役割ごとに名前を同じにした場合にどのような共通点を持つ名前にするのか、あるいは名前をバラバラにした場合翻訳などはどう扱うのかなどなど……問題は山積みだ。


『いっそのことアルブの王には100人ぐらい子供がいた~~みたいな設定だったら良かったんだけどな……。』

『どこの漫画作品か! ていうか13サーバ使っても100人出せないだろう。』

『いや、100人全員出す必要はない。出すのは20名~30名で他は行方不明扱いすれば、問題はない!』

『でもさ、六傾姫の設定出しちゃったんだよね。』

そう言ってその男が、中国サーバ代表の方に顔を向ける。やや気まずい雰囲気が流れる。

『マジでどうするんだ? このまま黙っておけば恐らくPC達は忘れるだろうぜ。』

『だといいんだがな……。』


『一応、アイディアっぽいのはあるんですけどね。』

そう言ったのは日本サーバの代表だ。

『ほう??』

『……もしサーバ間で不和の元になるのでしたら、サーバ間で競争してしまえばいい。』

「つまり?」

興味深げに、CEOが聞いてくる。

『ともかく、アルブの姫君らしい人物を大量に出す。そして関連するクエストをクリアすれば『投票券』をそのPCが得られるようにしておく。』

『『投票権』だと?』

『そうだな、1クエスト1票ぐらいで、クエストを大量にクリアすれば大量の『投票券』が得られる。』

『………そして?』

『プレイヤーの投票で誰が一番アルブの姫君にふさわしいかを決めてもらう! その名もA(アルブ)K(キングダム)P(プリンセス)48計画ッ……。』

『ふざけた事を言わないでください。』

横からどこからともなく出てきたハリセンにツッコミを入れられて日本サーバの代表が黙る。

『それは面白い案だが、投票券をクエストクリアで得られるなら、クエストを回しまくる可能性があるぜ。』

『……むう。』

『それに自分のサーバが有利になるように、券の大量発行も考えられますし。』

『ただの券をそれほど熱心に集めますかねえ……CDも握手券もついていないですし。』

『それにしか使えないアイテムならRMT推奨になりかねないな。』

『……私が悪かった。』

日本サーバの代表は素直に謝る。

「話は終わったのかね? 別の議題に移りたいのだが良いかな?」

『『『はい、どうぞ』』』

威圧的にいうCEOの声に一同が黙り込む。

「次の拡張パックだが……これについては一応話は伝わっているな?」

『ええ11番目の拡張パック<錬金術師の孤独>ですよね?』

『きちんと資料は来ていますよ?』

そんなこんなを話しながら、彼らは<エルダー・テイル>の未来について話し合っているのだった。

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