夜に響く声、コンクリートの上の紅
田舎の夜は静かだと誰もが思うだろう?
だがその思い込みは間違いだ。一度田んぼが広がる田舎に来てみればいい。
アマガエルの大合唱が今頃響き渡っている。
風物詩と言えば聞こえはいいかもしれないが、毎年聞いている身からすればそれもまたやってきた、程度にしか思えない代物でしかない。
じっとりと湿った空気を感じ、喜びの歌を奏でる彼らは待ち望んでいる。
もうすぐやってくるであろう恵みの雨を。
憂鬱な季節の始まりを。
そしてはしゃぐように飛び跳ねて私たちの前に現れる。
深夜、眠気をこらえて風呂に入っていた時の事を思い出す。
まだ夜は肌寒かった。窓が開いている事に気づいて閉めようとノブに手を掛けると、カエルが引っ付いていた。寒さで満足に動けないカエルは、じっとこちらを見ながら呼吸をしていた。
そのカエルをつまんで外に追い出し、窓を閉めた。
冷える夜はまだ時折訪れる。そのたびにカエルの事がふと脳裏をよぎる。
昼間の事。
ぼんやりと車の中でうたた寝をしていると、ふとコンクリートの壁に動く何かが目についた。赤い小さなそれは、多数蠢いている。
たしかダニの一種だったかと思う。
ちょっと調べた限りでは、無害なダニで花粉やらを食べるのでは? という風に記載があったが何せ害も得もない虫なので誰も調べようとしない。
だから誰にも詳しい事はわからない。
ただ暖かい季節になるといつの間にか姿を現し、梅雨の頃になればひっそりと姿を消す。誰の気にも留められない。
自分もそんな存在になりたいと思った、昼休み。
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