第10話 グリスラ子の活躍


 街で出会った幼女ネルルの願いを叶えるべく、彼女のお父さんが喜ぶ花を探そうとしたのだけれど、花があるのはゲームでは通れなかった危険地帯で、危ないのでモンスターを集めて派遣したらほぼ全滅したのでもっとたくさんのモンスターを集めようとしていたら、どういうわけだかグリスラ子も仲間を集めることができるようで二手に分かれて仲間探しをすることになりました




「進捗は……」


 グリスラ子パーティと別れて――といってもそれほど遠い距離ではないが――仲間集め&コアとなる仲間のレベルアップを目指してそれぞれがモンスターを狩っていた。

 1時間後の再集合ではそれほど差がついていなかった。まだまだ目標にはほど遠いという理由から、また、グリスラ子には安心して任せていられるので次の集合は3時間後として別れてからの再合流。


 進捗はどうだ? と尋ねるまでもなく。

 俺は言葉を失った。


「な、なかなかやりますわね」


 俺と行動を共にしていたフェアリ子ですら、普段は人を貶め、上から目線で物を言い、自分が一番、自分大好きなフェアリ子ですら。

 わなわなと震えながら、その成果を認めていた。


「べ、別に悔しくて悔しくて震えているわけではありませんから!」


 などと、フェアリ子は負け惜しみを吐いている。

 寒くもないし、悔しくもないのであれば、小用でも我慢しているのだろうか。まあそれを突っ込んだところでどうでもいいことなので、放っておいてやった。


「それにしてもすごいな。俺達のざっと3倍は居る」


 そうなのである。俺も少し自分の面目を保つべく、3倍などというまあそれくらいならありかな、5倍とか言ったらさすがに差がつきすぎだし、少なく見積もれば、恣意的に少なく見積もれば3倍という見方はできなくもない。

 と、言葉では3の倍数――別にアホになるわけでもない――にしたが、多く見積もれば6~7倍ぐらいは居てもおかしくないぐらいのモンスターを引き連れたグリスラ子軍団が現れたのである。


「どんな魔法を使ったラミか? 確かにこっちのパーティは、ブルセラ子4さんと、フェアリ子さん、新たに加わったフェアリーさん、ブルースライムさん達がなにかにつけて口喧嘩や口論してたから、効率は悪かったといえば悪かったラミが?」


「そんなに時間を無駄にしたわけではありませんわ!」


「そうなのじゃセラー」


 こういう時だけ共闘するフェアリ子とブルセラ子4。それに他のフェアリーやブルースライムも加わって、ラミ子を取り囲んだ。


「ラ、ラミー」


「おい、いじめてやるな。確かにラミ子の言うことは正しい。

 が、それだけでは説明がつかない差になっていることも確かだ」


「ちなみにわっちは最大レベルの10にまでレベルアップしたのじゃセラー」


 あいつは最初にグリスラ子の仲間になった瀬良せらだろうか。

 その声に、


「わっちもなのじゃセラー」


 とブルースライム数体が声をそろえる。


「ウガー!!」

「「「「「「ウガー!!」」」」」


 背後から泥子たちも声をそろえて何か叫んでいる。


「あのマッドゴーレムたちもレベル10まで成長したのにゃん」


 と、タマがグリスラ子を立てるように言う。


「そして、わたくしは……」


 フェアリーの紗羽さわが、言いかけたところで、


「き、聞きたくありませんわ!!」


 と、フェアリ子が耳を塞いで己の世界に閉じこもった。

 特に妨害しているわけではないので紗羽は、


「さすがに最大レベルの30には程遠いのですが、レベル18まで上がりましたわよ」


 と言い放ってほほほほほと高笑い。

 未だにレベル7の、フェアリ子が聞いてしまったらかなりのショックを受けてしまうだろう。

 いや、実際に耳を塞いだところで聞こえてしまったようで、放心状態で蹲っている。


 さすがの俺も絶句しそうになる。

 数だけならまだしも、質までそろえてくるとは。


「ど、どんな魔法を使ったん……だ?」


 多少どもりながらも、グリスラ子に尋ねた。魔法というのはもちろん比喩である。

 そして、グリスラ子は他の面倒なモンスターと違っていいこなので、特に自分の手柄を誇るでもなく、ただやるべきことをやったという淡々とした口調で答えてくれた。


「あのぷるね、こっちはこっちで手分けしたぷる。

 わたしが居なくても戦うことはできるぷるから、手分けしてモンスターを探して、弱らせつつ一か所に集めるようにお願いしたぷるよ。

 それからわたしのパーティで最後の一撃を加えて仲間にしたり、合成したりを繰り返したぷる」


「なるほど、追い込み漁ラミな。それは効率がいいラミ。ラミもそっちにいけばよかったラミ」


 ようやくレベル3まで上がったラミ子が心底羨ましそうに、グリスラ子軍団のラミア達を見た。

 レベルはわからないが、滲み出る自信からなんとなくラミ子よりはレベルが上がっていそうである。


「まあ、よくやった。褒めてつかわそう」


「えへへ。お兄ちゃんの役に立ててうれしいプル」


 俺が、グリスラ子の頭をポンポンしてやると、グリスラ子は頬を赤らめて照れ笑いをした。

 使える仲間でよかった。また、性格が良い子で良かった。俺と同じく仲間を増やしたりできる謎の力を得たモンスターがグリスラ子で良かった。

 これが、フェアリ子なんかだったら、謀反を起こされそうで気が気でないし、意思疎通が不可能なマミーなどであっても不安が大きい。


 念のために、グリスラ子の表情に、その奥底に俺への裏切りやら、下克上やらの悪い感情が潜んでいないか、じっと顔を見つめてみたが。


「な、なにぷるか? 照れるぷる……」


 どうもそういった想いとは無縁のようである。

 仮に、腹黒で、そういうのを表だって見せないように隠せるのならばわからないが。

 念のために、しばらくグリスラ子には寝首をかかれないように、寝る部屋を別にするなどの対策が必要か? いや、そんな心配は不要か?


 とにかく。

 弾は揃った。


「えっと、全員は無理だろうけど、レベルを上げた仲間だけでも紹介するぷるね。

 まずは、ブルースライムの、セイラちゃんに、青蘭ちゃんに……」


 名前を呼ばれたモンスター達が、一歩前に出て軽く頭を下げる。

 始めの仲間の瀬良セラ達と同じく本心では俺のことなど眼中にはないのだろうが、きちんと教育が行き届いているようだ。


 が、俺はそんな行事を遮って、


「ああ、そういうのはいいから。どうせ派遣して帰ってきたら素材か経験値玉に変えるからな。

 少し早いが、もうじき夜も明ける。

 俺達は宿に帰って寝るとしよう。

 後は、ブルセラ子4に任せた」


「あ、お兄ちゃん。もうひとつあるぷる」


「どうした? グリスラ子?」


「少しだけど経験値玉も作ったプル」


 少しとはいいつつ、かなりの量だ。


「これも?」


「お兄ちゃんに使って欲しいぷる」


「余ったのか?」


 そう聞いたのは、グリスラ子がレベルを最大の10まで上げてしまった可能性を考えたからだ。


「余ったというぷるか、集めたのはこれが全部プル。たまにマミーとかコボルトとか強化合成できないモンスターも現れたぷるから」


 確かにグリスラ子のレベルを確認してみると、別れる前と同じレベル6だった。


「じゃあ、折角だからそれはお前が使え。レベル10まで上げて余ったら俺が使う」


「わかったプル」


 そう言って、グリスラ子は経験値玉を取り込み始めた。


「じゃあ、これが余りプル」


「ああ」


 俺は受け取って、同じくレベルを上げる。

 7だったレベルが一気に11に上がった。労せずしてである。


レベル11

 体力:24(19→24)

 魔力:18(14→18)

 筋力:19(12→19)

 敏捷:31(18→31)

 知力:17(14→17)

 精神:21(15→21)

 器用さ:16(11→16)


 ステータスが格段に上がり、しばらくは安心できそうだ。


「ありがとうな、グリスラ子。じゃあ、ブルセラ子4、あとは頼んだぞ。

 俺達は宿に帰って早めの朝食を摂って寝るとしよう」


「結果論から言えば、お兄タマ達は寝ててもよかったにゃん」


「まあ、そういうな……」


 俺はタマの言葉を流しつつ、グリスラ子、フェアリ子、タマとともに街へと帰るのだった。

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