第8話 作戦会議


 街に戻って無残な姿のブルセラ子4の話を聞いて、他の仲間と合流して晩御飯を食べることにしました




「それは大変な想いをしましたわね」


 フェアリ子が肉にかぶりつきながらブルセラ子4を可哀そうな子を見るような目で見つめる。


「あ、脂身! これは脂身ですわ! わたくしは、赤身の部分を要求しましたのに!」


「赤身は噛み切れないから、ほどよく赤身と脂身が混じった部分を要求したじゃねーか」


「ですが、これは脂身100%で……」


「あぁ……、どうしてもフェアリ子ちゃんサイズになると食べる場所によって脂身だったり赤身だったりしちゃうプルから」


 とフェアリ子の給仕をしてやっているグリスラ子が申し訳なさそうに言う。


 とどうでもいいやりとりはさておき。


 ネルルの実家でもある秋月の子ヤギ亭は今日は定休日ということで、ネルルを送り届けてから俺達は別の店で夕食を摂っていた。


 銀盤の春風亭とかいうわけのわからない店名だったが、ネルルの紹介である。店主――片方はネルルの実父――同士も仲が良く、昨日は魚メインだったので美味い肉が食える店というリクエストに応じて教えて貰った店だ。

 俺達はオークの呪縛から解放されたので骨付き肉をむさぼりながら、作戦を練っていた。


「トラウマなのじゃセラ……」


 ブルセラ子4がテーブルに目を落す。


「目の前で何人もの仲間が死んで逝ったのじゃセラ。

 わっちだけ生き残って申し訳ないのじゃセラ。

 恥ずかしながら帰ってきたのじゃセラ」


「恥じることはない。ブルセラ子4。

 夕方にも言ったがお前の持ち帰った情報こそ至宝。

 それでもって今後の行動の指針が組み立てられたのだからな」


「で、どうするんですの? お兄様?」


「概要は話したと思うが、ここで飯を食って力を蓄えたら、夜に狩りにでる。

 夜のほうがモンスターの出現率は高いからな」


「徹夜はお肌に悪いのですけど?」


「タマは平気だにゃ。兄たま。どちらかというと夜行性にゃから」


「わたしも平気プル。今日はあんまり動いてないプルし」


「従わないと言えば素材にされてしまうのじゃセラよね?」


「よくわかってるじゃないか。というわけで、全員一致でナイト狩りハンティングの参加に賛成ということで」


 今いるメンバーは、俺とグリスラ子とフェアリ子とタマとブルセラ子4の5人――一人と4匹の幼女(に見えてしまいがちだが18歳以上)だ。


 朝までに、遅くとも昼までには、壁役の泥子を50体を軸に、回復も担えるブルセラ子も数十、あとは手当り次第に出会った仲間をそのまま捜索部隊へと編入させる。

 目標は150程度だ。

 さらに欲を言えば、最終防壁としてレベルの高い泥子を用意したいし、司令官であるブルセラ子4も早死にしないようにそこそこレベルはあげておきたいといったところか。


 俺達は食事を終え、腹ごなしということでゆっくりとコーヒーやハーブティーを飲んで一服してから、夜の街の外へと繰り出した。


「パーティが分けられたらいいんだけどな。

 俺以外でもモンスターを仲間にできると効率が上がって捗るからな」


「それは名案ですわね!

 現状でも、パーティには余剰要因が居ますし、回復役もわたくしとブルセラ子で重複してますから」


「まあ、それは少しメンバーが増えてからだな。

 2人パーティと3人パーティに分けてしまうと若干戦闘に不安がある」


 というわけで、俺達は街の外を散策する。

 メインは使い捨ての泥子なので、マッドゴーレムの出現地域を重点的に回ることになる。

 出現するのはラミアとマッドゴーレムとたまにブルースライムがほとんどだ。

 この辺りはゲームにのっとっているのか、それ以外のモンスターはほとんど出現しない。

 ワーキャットであるタマが川のこっち側に出たのは本当に低下確率を引き当てただけのようだ。




「よし、パーティを分けるぞ」


 マッドゴーレム2体とラミアが加わって8人構成になった俺達は、効率を上げるべく実験に取り掛かることとなった。


「もちろん、サブパーティのリーダーはわたくしですわね。

 お兄様と離れてしまうのは寂しいですが、十分な役目をはたして見せますわ」


「じゃあ、とりあえずフェアリ子のパーティを作るか。

 そうだな。泥子と……、ラミ子とタマも入ってやってくれ。

 俺の方はグリスラ子と泥子とブルセラ子4だ」


「バランスが良いですわね」「頑張るにゃ!」「ウガ!」×2「ラミ!」「わかったプル!」「のじゃセラ」


「といってもいきなり別れてしまうのもアレだしな。

 とりあえずフェアリ子パーティが戦うのを俺達は見ていることにする」


「ちょうどモンスターが居ましたわ。

 マッドゴーレムとラミア」


「ああ、手ごろな相手だな。戦って仲間にできるか確かめてくれ」


 俺の指令でフェアリ子パーティがモンスターに向かう。


 タマがマッドゴーレムに先制を仕掛け、ラミ子も攻撃。ラミアの反撃を受けつつも泥子が攻撃を加えて、ラミアを沈める。

 次のターンで早くも決着がついた。フェアリ子は後ろでパタパタと飛んでいるだけだったが。


「仲間になりたそうに見てきませんわね……」


「これは計算外だったなあ……」


 目論見は外れたということだろう。モンスターを手懐けることができるのはどうやら俺だけのようである。


「ちなみに、素材にしたり合成素材にしたり経験値玉にはできそうか?」


 俺はフェアリ子に尋ねてみる。


「やり方がわかりませんわ」


 そうだろうな。なんとなくウィンドウを思い描きながらコマンドを選択するなんて芸当はゲームをプレイした俺でもなければ想像もつかないだろう。


「タマもリーダーやってみたいのにゃ!」


 とタマが言いだした。


「わたくしに出来ないのにタマにできるわけないでしょう」


 フェアリ子はそういうがものは試し。


 別にリーダーを切り替えるためのコマンドなどはないので、単に自分がそう思うだけということになってしまうが、念のためにタマをリーダーに任命して、もう一度戦闘を行わせることにした。


 戦闘はあっけなく終わり、モンスター達は全裸になってその場に崩れ落ちるが。


「やっぱり無理だったのにゃ!」


「そうでしょう。ほら、時間の無駄でしたわ。いわんこっちゃないですわ」


「お前らが倒したモンスターは俺の言うことを聞くでもないし、止めを刺すわけにもいかないし。

 俺が念じたところで経験値玉にも素材にもならねーな」


 結局わかったことといえば、モンスターを仲間にするのも素材や経験値玉にするのも俺にしかできないということだ。


 そりゃあそうなのかもしれない。

 俺の仲間になったとはいえ、フェアリ子もタマも元々は倒したのと同じモンスター。

 それが同士討ちで仲間を増やしたり、倒したモンスターを合成素材にして勝手にレベルアップができたら、この世界にはレベルが高くてバランスが崩れるモンスターや、大群を組んで人を襲うモンスター幼女が存在することになってしまい脅威となってしまう。


「仕方がない。面倒だがちまちま俺のパーティで狩っていくしかないってことだな」


 俺が諦めそうになったその瞬間。


「あの、まだ時間に余裕があるならわたしも試してみたいプル」


 とグリスラ子が言いだした。


「幾ら、先輩のグリスラ子でも無理だと思いますけど?」


 フェアリ子が小ばかにしたように言う。


「なんか、出来そうな気がするぷる……。確実じゃないぷるけど……」


 本人が言うのならたかが戦闘一回のことである。

 試して損はない。


「わかった。最後に一回だけ試してみよう。

 それでだめならあきらめる。

 パーティの再編成だな。

 グリスラ子のパーティはじゃあラミ子と入れ替えで、グリスラ子、フェアリ子、タマ、泥子で。

 早速モンスターを探しに行こう」


「無駄だと思いますけどね」


「やるだけやってみるにゃん。がんばるにゃん」


「ウガー!! (ついていくウガ)」


 三者三様のパーティメンバーからの言葉を受け、グリスラ子は静かに頷いたのであった。

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