第3話 範疇外


 幼女とピクニックしながら、花を探している時に、仲間にしたモンスターから有力情報を得ました




「なんか知ってるのか? ブルセラ子?」


「たぶん、おそらくなのじゃセラー」


「いいから、教えろよ!」


「教えても素材にしたり、合成にしたりしないのじゃセラか?」


「しねーよ!」


 俺は突っぱねたが……。

 なんだか視線が痛い。突き刺さる。


 特に泥子(もう何番だか忘れた)からの視線が痛い。


「ああ、大丈夫だ。ブルセラ子は、牧場行きが決まってるからな。

 安泰だ。だから教えてくれ」


「わかったのじゃセラー。

 すぐに牧場行きとは、納得しかねるものがあるのじゃセラが、素材にされるよりはましなのじゃセラ。

 この辺りの北側には、山脈が聳えているのじゃセラろう?

 その山の中腹あたりに行けば、珍しい花も咲いているし、沢山花が咲いているのじゃセラー」


「なるほど、山のほうか……。

 フェアリ子、知ってたか?」


「わたくしはあまりあちらのほうへは行きませんから。

 魔物も出るようなところですし」


「魔物? お前らだって魔物だろう」


「ちがうぷるよ。お兄ちゃん。

 わたしたちはモンスターだもん」


 グリスラ子に言われて俺の頭に疑問符が浮かぶ。

 はてさて、魔物とモンスター。どこにどう違いがあるのだろうか?


「魔物というのは、我らのような容姿をしていない、もっと恐ろしい連中ラミね」


 ラミ子がしたり顔で解説してきた。


「ちょっと待て、モンスターと魔物は別物なのか?」


「そうラミ」「そうプルよ」「当たり前なのじゃセラ」「なにをいまさら」「にゃ!」「ウガー!!」


 一瞬で全員からツッコミが入る。ネルル以外の面々だ。


「しかも北の山って……ことは……」


「どうかされたのですか?」


「いや、あの山は険しくて上れないとかそういうことはないのか?」


「魔素が濃いというのはありますが、だからといって上れないってことはないでしょうね」


 今俺の頭の中に浮かんでいるのは、この世界の元となったゲームの俯瞰マップである。

 何度もプレイしたからある程度正確に思い出すことができる。


 この地点の北にも大陸は広がり、街などもあるが、山に阻まれて直接向かうことはできないはずだった。


「なあ、念のために聞くんだが、山を越えて向こう側に行ったりとかってできないよな?」


「そんなことはないのじゃセラね。

 数は少ないのじゃセラが、儂らの仲間も山頂付近を行ったり来たりしたりしているのじゃセラ」


「そういえば、お母さんが山を越えていったら近道だって言ってた気がするぅ」


 ブルセラ子とネルルが答えてくれた。


 落ち着いて整理することにしよう。


 この世界はゲームに準じているから、てっきりゲームで通れなかった場所は俺も侵入できないとばかり思っていた。

 今治してもらっている橋だって、川に入れないからわざわざイベントをクリアして修理を頼んでいるのだ。


 だが……。例えば川なんてどこまでも広い、深い河が続いているだろうか。

 上流へ行けばもっと川幅が細くて浅い場所も出てくるのではないだろうか。

 その時に、ゲームでは渡れなかったから、俺が渡れないなんて状況になるのだろうか。


 そしてもう一つ気になるのは魔素という単語。

 ファンタジー小説などでおなじみの魔界由来の気や、なんとなく邪悪な力を宿した不思議物質(気体っぽい?)なのだろう。


 ゲームではそんな設定は一切出てこなかった。

 ついでに確認してみる。


「魔素ってのはどこにでもあるものなのか?」


「そうでもないのじゃセラ。

 深い森の奥や、さっき言ったような山には大体あるのじゃセラ。

 あるといっても、この辺も薄くはあるのじゃセラから、あるというよりは特別に濃いと言ったほうがいいかもしれないのじゃセラが」


「魔素というのは、魔界から漏れ出した瘴気で、魔物が生息するには必要不可欠なものですわ。

 わたくしたちもあまり長く魔素の濃い場所に居るといろいろな影響を受けてしまうかもしれない、それはそれは恐ろしいものですのよ」


 ひとつ想像がつく。

 ゲームでは魔物など存在しなかった。ゲームでは魔素など存在しなかった。

 ゲームでは山は越えられなかった。


 つまり。

 その魔素の満る地というのは、ゲームでは侵入禁止だったりした地域なのであろう。

 ゲームはシナリオや製作者の都合上、山なんかに阻まれて行き来できない領域が沢山あった。

 それはゲームのシステムとしてそうであり、別にわざわざそこを通る必要もなかったし、そもそもそれは不可能であった。


 が、この世界は違う。

 現実に、頑張れば川は渡れるだろうし、山にだって登れる。ショートカットできる。


 だが……。

 そこには未知の世界が広がっている。


 俺の知らない世界。

 ゲームとは異なる世界。

 幼女(に見えるけど18歳以上)を基本としたふざけたモンスターではなく本物の魔物の住む世界。


 つまりは……。


「すまんな、ネルル。

 場所はわかったようだが、危なくてお兄ちゃんは行けないよ。

 もうちょっと他の場所も探してはみるから、それで見つからなかったら諦めてくれ」


「ちょっと、お兄ちゃん! せっかく場所が分かったのに行ってあげないプルか?」


「だって、魔物が出るんだろう? 危ないじゃないか。

 それにお前達だって、魔素の濃い場所に行くといろいろ不都合が起きるかもしれないんだろう?」


「そんなに長い時間じゃなかったら大丈夫なのじゃセラけどね~」


「いや、それでも心配だ。君子危うきには近寄らず」


「虎穴に入らずんば虎児を得ずじゃないのじゃセラね」


「とにかく、俺は決めたんだ。

 その辺を探してなかったら諦める。

 いいな!」


 俺は押しきろうとした。押しきれると思った。

 どうせ、モンスターどもは俺のいいなりだ。


 文句言う奴がいたら、素材に変えてやると脅せばいい。

 それでも文句を言う奴がいたら、本当に経験値玉に変えてやればいい。

 新たな代りのモンスターなんて幾らでも見つかるのだから。


 だが……。

 ひとつ誤算があった。


「勇者さまぁ、お願いぃ。

 探しに行こぉ。

 だめぇ?」


 リアル幼女、ネルルの存在である。

 俺は幼女に頼みごとをされると弱いのである。

 幼女に頼みごとをされた経験などこれっぽっちもないが。

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