第9話 ツインルーム

 四人で宿の部屋、ツインルームに入りました





「ベッドがふたつしかないじゃない!」


「ああ、三人だからな。四人部屋を取るとちょっと値段も高くなるし軽い節約だ」


「それにあっしら体が小さいから二人で一つのベッドで十分コボからね。

 フェアリ子入れても全然余裕コボ」


「なに、そのわたしが頭数に入ってないみたいな言い方!?

 ムキー、頭きちゃう!」


「だって、そうだろう? お前まさか一人でベッドを占有する気か?」


「しないわよ! いいわよ。わたしは兄様と寝るんだから!

 グリスラ子ちゃんはともかくコボル子なんかと寝ませんよーだ!!」


 などとひと悶着あって、グリスラ子がフェアリ子をなだめるために、フェアリ子専用のベッドを作ろうかなどと提案するも、フェアリ子から「赤ちゃんベッドみたいじゃない! そんな扱いしないで!」と一蹴されて、その話は一応決着した。


 地味に補足を入れると、この世界の宿屋は人数というよりも部屋の大きさで宿代が決まっているようで、3人で二人部屋ツインだと、若干の追加料金は発生するものの、4人部屋を取るよりもお得なのである。

 ちなみにではあるが、フェアリ子は俺の中でも宿屋の従業員の中でも頭数に入っていない。




「わ、わたしの料理は!?」


 と、食堂に場所を移してもまた部屋に入った時のような揉め事が発生する。


「あ、わたしそんなに食べないプルから。

 フェアリ子ちゃんが好きなだけ食べていいぷるよ。

 半分こしましょうぷる」


「そもそもその体で半分も要らないコボだろうけどね」


「ちゃんと取り皿は用意してやる。あいにくとお前のサイズに合うスプーンもフォークもないけどな」


「う、うぅぅぅ……。なんで?

 仲間じゃないの? どうしてわたしだけこんなごまめ(※)扱いなの?」


 ※ごまめ(元々は子供の遊びなどで使われた。極端に年齢の低い児童などと一緒に遊ぶときに、例えば鬼ごっこだったら、ごまめ扱いされている子はなんとなく遊びに混ざって逃げてるものの、鬼は本気で追いかけないとか、鬼もたまにはタッチするけど、ごまめからはみんな本気で逃げず、ある程度追いつけそうな距離になったらわざとタッチされてそこからまた本気のゲームに切り替えるみたいな配慮をすること。

 ドッチボールだったら、ごまめは狙われない、当てられないし、気の利く年長者が居れば、ごまめに向ってわざとワンバウンドするゆるいボールなどを投げて一応ドッチボールに参加している雰囲気だけ味あわせるような感じ。多分関西圏の方言)


「その体でよくそんな口が利けるコボね。

 兄貴、試しに一人前料理を注文してやればいいんじゃないコボか?」


「少しでも残したらペナルティってか?」


「話が早いコボ」


「もう! お兄ちゃんもコボル子も。

 冗談だろうけど、そんなこと言ったらフェアリ子ちゃんが傷つくぷるよ。

 あ! フェアリ子ちゃん!」


「知らない! 知らない!

 みんなわたしのこと、仲間だって思ってないんだわ!

 お暇いただきます!

 短い間お世話になりました~~~~~~!!」


 パタパタと羽ばたきながらフェアリ子は飛んで出て行ってしまった。


「じゃあ……。

 冷めないうちに食べようか」


「そうコボね」


「えっ!? 追いかけないでいいプルか? お兄ちゃん!」


「まあ、変わりは幾らでも居るし。

 あいつのことだ。ケロッとした顔で帰ってくるだろう」


「でも、もし……。もしプルよ?

 ほんとに居なくなっちゃたら?」


「うまいコボね」


「ああ、うまいな」


「(ああ、態度ではお兄ちゃんもコボル子もこんなことを言ってるけど、実はフェアリ子ちゃんをちゃんと信頼してるから、こんな自然な態度でご飯を食べてられるぷるね。きっと帰ってくるだろうって。それにひきかえわたしはちゃんとフェアリ子ちゃんを信頼できないってことぷる。もっと仲間を信じて、最古参だからって責任があるわけじゃないぷるけど、しっかりしなくちゃぷる)おいしいぷる~」




 で、部屋に帰るとさも当然のようにフェアリ子が居た。


「もう! 遅いじゃない! 待ちくたびれたわ!」


「ああ、すまんすまん。

 サービスで食後のデザートを振る舞ってくれてな」


「味わって食べてたからちょっと遅くなったコボ」


「それに明日の予定も話し合ってたし」


「デ、デザート……?」


「それより、フェアリ子ちゃん。ちゃんとご飯食べたプルか?

 今なら少しぐらいなら、残ってる料理とか貰ってこれると思うぷるけど」


「食べたわよ! 元々わたしは花の蜜とかそういうのでお腹を満たしてるから。

 ちゅーちゅー吸ってきたわよ。

 ほーんと、美味しかったんだから。

 残念よね~、みんなあの蜜の味が楽しめないなんて」


「蜜といえばコボ、あのデザートにかかってた……」


「そうそう、はちみつな。

 あれが、美味しかったな。砂糖の甘さもいいが、やっぱりはちみつはコクがあるというか深みがあるというか」


「グリスラ子なんて、追加で頼んでドバドバかけてたコボもんね」


「だって、おじさんがかけ放題だって教えてくれたプルから……」


「……。

 もういいですわ。さっさと体を拭いて寝ますから!

 明日も早いんでしょうから!

 みなさんも、だらだらしてないで、寝るしたくしなさい!」


「まあ言われなくてもするけどな」


 というわけで、全然そんな雰囲気じゃなくなったので今夜は各自で各々の体を拭いて就寝することになったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る