第3話 回復魔法科学園の優等生

 グリスラ子とコボル子とフェアリ子で街に向ってます




「お兄様っ! 敵襲ですわ!」


 フェアリ子が叫ぶ。

 自ら哨戒しょうかいの任務をかって出てくれて、俺達より前に出て索敵さくてきしてくれているのだ。


「ブルースライム1体、ラミア2体の混成パーティ!

 ブルースライムの回復も厄介ですが、ラミアも吸血で自分の体力を回復しますから。

 発動頻度は少ないとはいえ、ラミア優先で各個撃破と行きましょう。

 お兄様、コボル子、グリスラ子さん、右のラミアに攻撃を集中して……」


「フェアリ子、張り切ってるコボな……」


「なんか、ちゃんと世界のために戦ってる感が出てきて興奮するプルね!」


 まあ、フェアリ子が仲間になる前から一応は世界のために戦ってるんだけどな、グリスラ子よ。


 とにかく、フェアリ子が来てからパーティの雰囲気が変わった。下手すると今後の展開とかテンションとかも変わってくる可能性が出てきた。


 とはいえ。

 なんか、無理にヒロインぶっている感もいなめない。あたしがメインヒロインです感の押し売りとでもいうのだろうか。

 キャラがどっかの誰かとまるかぶりしそうで怖いのは怖い。


 といっても、どうせ戦闘は神の意思システムに沿った素早さ順――プラスある程度のランダム要素を含めて――のターン制バトルだ。

 作戦を考える時間は十分にあるし、そんなに焦る必要もない。


「やれやれ……」と俺は声にならないつぶやきを漏らしながら、俺はラミアの一体に向って距離を縮めた。


 ラミアというのは半人半蛇の怪物である。出典によって単なる蛇だったり、ヒュドラっぽいビジュアルをしていたりといろいろあるようだが、この世界の世界観的には下半身が太い蛇になった幼女(と見分けがつかない外見の18歳以上の女性)である。


 上半身には三角の極小ビキニを着用なさっている。一部のファンからは根強い人気を誇るキャラであり、グリスラ子やコボル子と比べると格段に強いレアリティ1のモンスターである。また、MPを消費するものの吸血という相手の血を吸って――別に血液が流れていないようなモンスターでも吸える――自分の体力を回復するという特殊技能持ちでもある。


 一部のマニアからはあえて血を吸われて干からびるとかいう趣味が理解できる人にしか共感されないプレイで人気を博したが、まあ序段で出てくるモンスターだけあって、進化させても最終決戦まではひっぱれないぐらいのほどほどの強さしか持ち合わせていない。あと付け加えるのなら、敏捷性が低いという欠点があるぐらいか。

 それは下半身が蛇だからということに起因しているのだろう。

 本当の蛇であればかなり素早く動けるのだが、上に人間の半身を乗せてしまうとどうしても移動に難が出てしまう。そこまで考えて作られてステータスかどうかはわからないが。


 で、煽るだけ煽ったフェアリ子は、


「バックアップはお任せください、お兄様!

 回復魔法の発動の準備はいつでもできてますわ!」


 と、俺達――グリスラ子、コボル子含めて――の陰に隠れて、敵から攻撃を食らわないように後ろのほうでふよふよと飛んでいるのだ。


 目の前をうろちょろされてもうっとおしいし、フェアリ子に攻撃力を期待するのは意味がないからそれはそれで正解なのだが、なにか釈然としない。


 それでも。

 敵が出てきて、遭遇したのだから戦闘を進めなければならない。


「せいっ!」


 と俺は掛け声を上げながら、ラミアに剣を振るった。


「ラ、ラミー~~!!」


 運よくクリティカルヒットが出たようで、ラミアのビキニがふっとんだ。それすなわちとどめを刺せたということだ。

 ちなみに、ラミアは下半身は蛇なのでなにも装着していないので、第一段階のダメージで水着にほころびが生じ、第二段階で片乳が露出し、第三段階で全裸という地味なグラフィックパターンである。


「さすがです、お兄様」


 後ろの方からフェアリ子の声がする。まあたまたまクリティカルが出ただけだから、さすがでもなんでもないんだが。


「じゃあ、わたしも行くプル!」


 とグリスラ子が二匹目のラミアに体当たり、コボル子の行動順ターンの前にラミアが反撃してくる。

 ターゲットは俺のようだ。


「気を付けてお兄様!」


 わりとのろのろと近づいてくるラミアその2。実際問題こんな速度で近づいてくる相手など躱しようは五万とあるし、それ以前になんぼでも反撃が可能である。

 が、それがシステムによって制限されているので、俺としては動かない体をもどかしく感じながら、ただただ攻撃されるのを待つだけのことしかできないのである。

 たまに敵の攻撃を躱すことや、剣でガードすることができるのは、相手の攻撃力とこちらの防御力の関係上ダメージがほぼ発生しない状況だとか、運よく回避成功の判定を貰った時なのであろう。そういう時は自然と体が動くというかやるべきことが明確に浮かんでくるのである。楽は楽だが良しあしだ。


「ラミラミ~!!」


 ラミアが俺の肩に手を置いて……。


「いけない! 吸血攻撃ですわ!」


「いけないとか言われてもなあ……」


 俺はラミアが肩口に顔を近づけ、首筋に牙を突き立ててくるのを為されるがままに受けていた。躱せないのだからしかたない。


「ひぃっぷる!」


 その光景にグリスラ子が悲鳴をあげる。


「あ~、吸われてるコボな……」


 ちゅうちゅうと音を立てながら、俺の血を吸っているラミア。

 痛みは感じるが、つまようじを2本、少し強めに押し当てられたぐらいである。計何リットル吸われるのかわかったもんじゃないが、――おしのけようにも体が動かない――ゲームでの吸血攻撃のダメージは通常の攻撃とそれほど変わらないからこのまま血を吸われてあえなくゲームオーバーということにはならないだろうと楽観的に考えていた。


 そもそもにして、フェアリ子もグリスラ子もコボル子も俺が血を吸われているのをただ眺めているだけなのである。行動順ターンの縛りさえなければ、無防備なラミアに攻撃を加えるなりなんなりのアクションを起こしてしかるべきなのだが、どうせ体が動かないんだからそれを言っても詮無いことなのである。


「ぷっはー、ラミラミ……」


「やっと終わったコボね」


 予想通り、ほどほどに血を吸われたところで吸血行為が中断する。若干のだるさは感じるがそこまでのHPは奪われなかった。


「お兄様! すぐに回復致します!」


「いや、別にまだ全然……」


 俺が言い終わらないうちにフェアリ子は詠唱を始め出した。


「聖なる光の導きよ……、清き流れの光煌よ……。

 聖櫃を解き放ち、愛する兄への癒しの力とならんことを……」


 ちなみに、フェアリ子が現状使えるのは初級単体回復魔法エキュアのみである。

 そして、それは単に『エキュア』と魔法名を唱えるだけで発動する。

 わざわざ詠唱を行っているのは、どうせ自分のターンの間は他の誰も動けないというシステムの制約を活かした(悪用? 逆手にとった?)自分大好きヒロインアピールと雰囲気づくりのためであろう。


「エキュア!!」


 ほんのりと俺の体が輝き、フェアリ子がふうっと髪をかきあげながら息を漏らす。

 わざわざ俺の顔の真ん前まで来て呪文を使うもんだから――パーティメンバーであればそこそこの距離でも魔法は届く――フェアリ子の顔がまじまじと目に入った。


 実はフェアリ子は20センチそこそこと小さいのと、あっちこっちふらふら飛んでいるのと、いろいろあってちゃんとその姿を見たのは初めてであった。


 長い黒髪を揺らすフェアリ子は幼女らしからぬ美貌を持ち合わせていた。

 大人びた幼女とでもいうのだろうか。どこかしら妖艶である。

 そりゃあゲームでもファンが一定数以上ついてたよなという微妙な思い出を想起しつつ。


「お兄様、わたしくしの顔に何かついてますか?」


「いや、別に……」


「それとも、単にわたしの顔に見とれていた……とか?」


「コボー!!」


 コボル子がラミアに攻撃を加えている間にフェアリ子はそんなことを言いだす。

 確かに可愛いというか綺麗だし、ヒロイン感をだそうと頑張っているのはわかるんだけど妙に痛々しいのは何故だろう?


「ぷる~!!」


 グリスラ子が、ブルースライムから攻撃を食らっていた。ブルースライムはグリーンスライムよりも上位種だが、グリスラ子はレベルも上げてるし、近接戦闘能力ではだいぶと上だからまあ心配することはないだろう。

 戦闘が終わってダメージが蓄積してるようならフェアリ子に回復させるぐらいで。


 というわけで第二ターンの開始である。


「残りのラミアは一体です。ターゲットをこちらに!

 先ほどの吸血で回復しているでしょうけど兄様とグリスラ子さん、コボル子で攻撃を集めればおそらくこのターンで倒しきることができるはずですわ!

 ブルースライムにはわたしも攻撃いたします!

 倒しきることはできないでしょうけど、残り一体になれば、あとはたとえ回復魔法を使われたところで戦闘を長引かせることにはならないでしょうから」


 相変わらず仕切ってくれるフェアリ子に「…………」と俺は無言で返し、コボル子に至っては、


「あっしのほうが先輩のはずなのにコボね……」


 と愚痴とも非難ともつかない言葉を聞こえないぐらいの音量で漏らしながら――フェアリ子とグリスラ子には聞こえないように配慮しているが、俺には届くぐらいの気持ちが込められていそう――、その次のターンで3体のモンスターを仕留めることができた。


 うん、いろいろ言いたいことはあるが、順調に進んでいることに間違いはない。

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