第9話 コボル子2

 コボル子仲間にしました




 グリスラ子は最弱中の最弱であるために、なんの特徴も兼ね備えていない。

 しいていえば、親しみやすい性格をしているというぐらいだ。

 数あるグリーンスライムなのかで俺が一番グリスラ子を気に入ったというのは選択肢が多かったというのも大きいとは思う。

 が、一番最初の仲間だということも影響しているような気もしなくはない。


 まあ、それを差し引いてもグリスラ子は素直ないい子なのである。

 ただし、戦闘要員として長く使えるかといえば答えは否である。


 だから、若干力が強く、クリティカル(ちょっと威力の強い攻撃)がグリーンスライムに比べて出やすいというコボルトをメインに据えようという案もあった。


 だが、コボル子は、グリスラ子に比べて一緒にいて居心地がよろしくないのである。

 いや、主人は俺だし、逆らったりするわけではない。

 なんとなく慇懃無礼だと感じてしまうのは気のせいではないだろう。


「おっと、宿へ向かってるコボっすね!

 このまま牧場へ一直線かと思ってたコボっす」


「いや、まあパーティに空きはあるし、お前ら武器とか装備できないじゃん? 雑魚だから。

 だから宿代ぐらいは余裕があるし。

 明日も一緒に戦ってもらうんだからな。

 いちいち、牧場に預けて宿代けちって朝引き取りに行くなんてことは面倒くさい」


「ありがたいお言葉コボ。

 しかしあっしは、あくまで兄貴の二番弟子。

 一番弟子のグリスラ子姉さんのお邪魔はしませんから。

 安心なさってくださいコボ」


「一番弟子って……」


「そ、そんな。ねえ、お兄ちゃん。

 弟子とかそんな……。一番も二番もないプルよねえ?」


「弟子を取った覚えはないな。

 加えて言うなら、まあそのなんだ。

 お前らはもう少し強い仲間を見つけるまでのつなぎだから。

 そこんとこわきまえておくように」


「もちろんだぷるよ。お兄ちゃん。グリスラ子、こうして少しの間でもお兄ちゃんと一緒にいられるだけで幸せぷるから。

 グリスラ子は、全然役に立たなくって、最終的に牧場で会いにも来てもらえなくなってもずっとお兄ちゃんの事忘れないプルから」


「かぁあ!! 泣けるコボなあ。

 世界平和のために、愛する仲間と泣く泣く別れる兄貴と、それをわかってあえて負担にならないようにするグリスラ子姉さん。

 お二人の信頼関係はあっしの入るすきがないくらい濃密コボよ」


 おちょっくってるのか? とはりたおしたくなるが、こういう反応をするのがコボル子の素の対応らしいということがわかってしまい、どうしようもなくなってきた。


 予定を変更して明日の朝、牧場に預けてグリスラ子と二人で旅立とう。


 だが、その前にやることがある。

 どうせ、レアリティが0だから、コボルトだって宿屋で一緒に泊まったところで何ができるわけではない可能性が高い。高いというかほぼ100%だろう。

 だが、念のために試してみる価値はあると思っている。


 あれはグリーンスライム種独特の制限だという可能性だって0ではないのだ。ほぼほぼ期待はしていないが。


 そういうわけで、行儀も良く、扱いやすく気も使えるグリスラ子と、特に深い理由はないのだが、ちょいちょい気になる仕草や腹立たしい一歩手前の言動をとるコボル子と夕飯をとり、就寝のために部屋に入った。


「いい部屋コボなあ! さっすが兄貴。

 稼いでるだけあるコボなあ!」


 特に特別な部屋というわけでもなく。レベルも大したことがないから今日の成果はコボルトとグリーンスライムだけで、その数も知れている。ほとんどを経験値、合成に使ったのだ。

 それを見ていて、知った上でのこの言動なのである。

 わざとではないと思いたいが、若干どころかかなりうっとおしく感じてくる。


「グリスラ子も宿に泊まるのは始めてだな。昨日は牧場に寝かせて悪かった。

 寝る前に体を拭いてやるから、ちょっとそこに座れ」


 と俺は湯だらいのすぐよこを指す。


「いいコボなあ。お邪魔しては悪いコボし。今日は疲れてるコボから、タオルだけ濡らさせて貰ってもいいコボかい?

 さっさと体を拭いて寝るコボから」


「眠いのか? じゃあ、さきにコボル子から拭いてやる。

 悪いがグリスラ子はちょっと待っててくれるか?」


「全然大丈夫ぷる。

 じゃあ、お兄ちゃんの荷物とか、触っていいんなら整理しとくプルね」


「ああ、特に大事なものは入ってないし、整理もする必要ないとは思うが」


「服とか丸めて入れてたら皺になるぷるから」


 グリスラ子は嫁のごとく、かいがいしく俺に尽くしてくれるようだ。

 だが、そこに打算は感じられない。

 ただ、そうしたいからしているだけというのがありありと伝わってくる。


「そういうわけだ。コボル子。

 そのままじゃ拭けないから……、っていうかそれって脱げるのか?」


 ふと疑問に思う。

 ゲームのシステムを踏襲しているからこそ、コボル子の着ぐるみ姿は、ダメージを食らうと水着のように面積が小さくなって肌を露出し、上、下の順ではだけていくのだ。

 そして仲間にすると、不思議な力で破けたはずの毛皮のような着ぐるみが元に戻る。

 いわば体力が全快するのである。

 それって普通に脱げるのか? 皮膚と癒着した毛皮なのか? どっちだ?


「試したことないコボなあ……」


「まあいい。そのまんまじゃお前、顔しか露出してないからな。

 抜くためには脱ぐしかないんだから」


「わかったコボ。ちょっとやってみるコボ」


 その場でコボル子はじたばたとするが、どうにも脱ぐきっかけがつかめないでいた。


「ちょっと、見せて見ろ」


 まあまあだぼだぼでボディラインなんて一切見えてこない着ぐるみではあるが、首の部分の穴の大きさが、完全に肩幅より小さく、脱げない仕様になっているようだ。

 が、毛皮のように体に密着しているわけではなく、構造としては脱げてもおかしくない。


 ふと閃いて、背中を見ると、チャックがあった。


「このチャックを下ろしたら脱げるんじゃないか?」


「そうなのコボか? まったく今まで気付かなかったコボ」


 グリーンスライムの場合、粘液を纏っているからある意味ではそれが体を清めているともとれる。やろうと思えば自分で体を綺麗にできそうなのだ。

 だが、コボル子は背中のチャックに手が自分では届かず、脱ぐことができないでいる。

「俺が下ろしてやる」


 と手伝ってやった。

 ちらりとのぞくほっそりとした背中は特に汗臭いわけでも汚れているわけでもないようだ。普段どうしているのか謎だ。


「じゃあまずは上半身からだな」


 着ぐるみを腰まで下ろした段階で俺はコボル子の背中にタオルをあてて拭き始めた。

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