第2話

「茉莉花、大丈夫? 口から魂出てるわよ」

「……」

「……もう講義終わったんだけど」

「……ハッ!!」

 眼前でふるふると親友が手を振ってくれていたことにようやく気づいたころには、講義室からほとんどの学生が退出してしまっていた。口から出ていたという目には見えない何かをゴクリと呑み込む。

 この席に座ってから90分。そのほとんどを覚えていない。

「はあ~」

 大きな溜息をつきながら、机の上に一応は並べてあった筆記用具やら教科書やらをかき集める。そして、それらをバッグの中へと放り込む直前、彼女からあることを指摘された。

「あんたのルーズリーフ、すごいことになってんじゃない」

「へ? ……わっ、何これ!?」

 手に取ったB5サイズのルーズリーフには、紛れもなく自分の筆跡でなんとも奇怪な内容が記されてあった。板書を写したはいいものの、意識が途切れてしまったところでは見事に文章や単語も途切れており、繋げて読むと驚くほどに支離滅裂だ。

陽奈ひなちゃ~ん!! 帰る前にノートコピーさせてください~!!」

 親友——陽奈ちゃんこと、紺野こんの陽奈子ひなこの右手を両手でパシッと挟んで泣きついた。……だってこの科目の先生、自分の書いたノートだけは試験時に持ち込み可能なんだもの。繁忙極める時期なだけに、一単位たりとも落としたくはない。

「はいはい」

 バッグの中から大学ノートを取り出すと、陽奈ちゃんは『ほら』と手渡してくれた。入学してから、いったい今まで何度助けられたことか……痛み入ります。

 陽奈ちゃんとは、入学式のときに偶然席が隣同士になったことにより、話をするようになった。神戸市出身の私と京都市出身の彼女。同じ関西出身ということもあって、仲良くなるのにさほど時間はかからなかった。

 絵に描いたような卵形の小顔に、少々まなじりの上がった大きな目と、シャープな鼻がバランスよく乗っている。パシッと揃えた前髪と、背中まで伸びたストレートロングヘアー。その艶やかな黒髪が、彼女の魅力をよりいっそう際立たせている。

 身長は、私よりも7センチほど高い165センチ。手足の長いこのモデル体型に、着用してるワインレッドのロングセーターが、とてもよく映える。クールビューティーとは、彼女のためにあるような言葉だ。

「で、また今日も、その『速水さん』とこに夕飯ご馳走になりにいくの?」

 学生用に開放された複合機でせっせとコピーしていると、唐突に彼女からこんな質問をされた。さきほどの講義が上の空だった原因を突きつけられ、眉をしかめて口を尖らせる。

「……だって断れないんだもん」

 例の一件から今日で3日目。彼女には、速水さんに拾ってもらった次の日すぐに、経緯をまるっと報告した。

 最初は、怪訝そうな顔つきで私のこの『できすぎた』話を聞いていた彼女だが、短時間にどういう心境の変化があったのか、最後は『いいんじゃない? 甘えちゃいなさいよ』と、やけに軽いノリで言われてしまった。

「でも、なんだかんだ言って、昨日も一昨日も律儀に行ってるじゃない。まんざらでもないんじゃないの?」

 陽奈ちゃんの言う通り、今のところ、彼との夕食は皆勤賞だ。毎日夕飯だけを食べに、彼のマンションへと赴いている。どこからどう見ても、不思議な関係であることは否めない。

 昨日の献立はキッシュ、一昨日はスパイスにこだわった本格的なカレーだった。

「……そんなこと言ったってさ」

「?」

「おいっしいんだよ!!」

 彼女の両肩をガシッと掴み、目をキラキラさせながら訴えかける。

 そう。彼の料理の腕前は天下一品だ。人は見かけによらないのだと、改めて学んだ。あの強引な俺様に翻弄されている私だけれど、出されたものはありがたく頂戴する。だって料理に罪はない。

「……そりゃあ、あんた……なによりじゃない」

 顔に苦笑を浮かべ、なかば呆れ気味にこう言った陽奈ちゃん。

 なにより——確かになによりだ。自分でもわかる。今の自分の体調はここ最近、いや、入学して以来最上級に良好だといっても過言ではない。明らかに食が改善されたおかげだ。けれども、そのことを素直に喜ぶことはできなかった。

 こんなにも彼に世話になりっぱなしで本当にいいのだろうか。自分はどうしようもなくだめな人間へと堕落してしまっているのではないだろうか。

 彼に出会ってからというもの、こんなふうに自問しつづけている。気分が滅入っているのはそのせいだ。

 両面印刷で2枚半に及んだコピー作業を終えると、彼女のノートを両手で持ち、頭を下げながら『ありがとうございました』と返納する。単位取得まで、これで一歩近づけた。

「……ごめんね、茉莉花」

「え……?」

 と、私の手からノートを受け取った彼女に突然謝罪をされてしまった。これには疑問符しか浮かばない。

「いやいや、私が陽奈ちゃんに謝ることはあっても、陽奈ちゃんが私に謝らなきゃいけないことなんてなくない?」

 常日頃から、彼女に助け船を出してもらってばかりいる自覚は十二分にある。今回のこのノートの件なんて、実にいい例だ。

 しかし、彼女の口から語られたのは、意外なものだった。

「あたしもさ、多少なりとも責任感じてるわけよ」

「……何に?」

「あんたからバイトの時間増やしたって聞いたときに『これヤバいな』って思ったんだけど、何も言えなかった。あんたが家の事情を精いっぱい考慮して決めたことだって、わかってたから……」

「あ……」

 目を伏せ、困ったように笑いながら陽奈ちゃん。チクリと胸に痛みが走った。

 私は現在、調剤薬局で事務のアルバイトをしている。1年の秋から始めて、早いものでもう3年が経過した。これまでは週3回だったアルバイト。それを今月から週4回へと増やした。『一日くらい増やしたところでどうってことない』……この考えが甘かったということは言わずもがなだ。陽奈ちゃんや速水さんには、本当に申し訳なく思っている。

 けれど、彼女の言うとおり、私にはのっぴきならない事情がある。この点を彼女が理解してくれていることは大変ありがたい。……ありがたいが、現段階でシフトを元に戻すことには、やはり抵抗があるのだ。

 お礼を言うべきか謝るべきか……うつむき思い悩んでいると、先に口を開いたのは彼女のほうだった。

「……まっ、この際づけでもなんでもいいわ。あんたの健康が保持できるなら」

「あたっ!」

 沈めていた私の頭をノートでペチンとひとつ叩いてから、それをバッグに仕舞い込むと、陽奈ちゃんはひとり納得して出口のほうへと爪先を向けた。

 ……ちょっと待って。今の言葉の中に、聞き捨てならないワードが入ってたんだけど。

「『餌づけ』って何!?」

「そのまんまの意味よ」

 しれっとこう言って、スタスタと先を行く彼女の背中を慌てて追いかけた。履いているショートブーツの甲高いヒールの音が、廊下に反響する。

 薬学棟から出ると、外はもう薄暗くなっていた。ビュオッと吹き抜けた一陣の冷たい風。顔の前を覆い、視界を遮った髪を、かき上げて押さえつける。

「速水さんによろしくね」

「え、ちょっと!!」

「お疲れ、茉莉花。また明日」

「陽奈ちゃん!!」

 まったく納得できていない私のことなんてお構いなしに、それはもう麗しい笑みをこぼして陽奈ちゃんはさっさと帰ってしまった。某ファーストフード店ではスマイルが無料らしいが、彼女のそれを無償で提供してもらうことに、ときたまさいなまれるこのモヤモヤとした感じは、いったいなんだろう。

「……お茶菓子買って行こ」

 そのことについて考えるのは即座に諦めた。4年も一緒にいるのだから、いまさら答えを出したところで、そんなものはナンセンスだ。

 途中、お気に入りの洋菓子店で何かスイーツを購入しよう。そう心に決めて、私は彼のマンションへと足を進めた。




「……うおっ!!」

「……」

 玄関のドアを開けてくれた速水さんは、私の姿を見るやいなや驚倒した。

 ボサボサに乱れた髪。鼻をうずめるように巻きつけたマフラー。それらのあいだから覗くライトブラウンの無気力な双眸。

 その反応、大正解です。

「……さ、寒かったな。ほら、中入れ」

「……お邪魔します」

 地面から宙へ巻き上げられる街路樹の落ち葉を横目に、唸るように吹きすさぶ風の中を洋菓子店経由で歩いてきた。道中、ショートパンツは失敗だったと、何度後悔したことか。けれど、120デニールのカラータイツが大活躍してくれたおかげで、いくぶん被害は食い止めることができた。

 寒かった……とにかく寒かった。この日の風は、今季で一番手強かった。

 ようやく敵の魔の手から逃れられたので、髪を手櫛で直し、マフラーを外す。そして、着ていたトレンチコートと一緒に、玄関に備えつけてあるコートハンガーにかけさせてもらった。

「とりあえず、これでも飲め」

 ダイニングテーブルに着いた私に、彼が提供してくれたのはホットココア。とろけるような甘い香りが、湯気とともに立ち込めた。この匂いだけで生き返る。

「ありがとうございます。……あの、速水さん。これ」

「え?」

「少しですけど」

 来る途中に購入した焼き菓子アソートを彼に差し出す。ケーキにしようか迷ったけれど(あのお店のフルーツタルトは極上だ)、賞味期限と量を勘案した結果、こちらを選んだ。

「わざわざ買ってきてくれたのか? ……なんか悪ぃな。気ぃつかわせちまって」

「いえ。せめてこれくらいはさせてください」

 申し訳なさそうに笑いながら袋を受け取った速水さんに、私も同じような表情で応える。すると、彼にこんな提案をされた。

「サンキュー。じゃあ、あとで食べような」

「えっ、私が食べたら意味ないじゃないですか」

 だって、これはあなたのために買ってきた、お礼を兼ねたお土産なんですよ?

「こんないっぱい俺ひとりで食い切れねぇよ。それに、もらった時点でこれはもう俺のモンだからな。お前にも食わせる権限がある」

 ニヤッと笑った彼に、ピクピクッと口角を引き攣らせる。

 出たよ、俺様節。すごい理屈だな……さすがだわ。でも、不思議と嫌な気はしないんだよね。

 こうして彼と過ごすのは4回目。なんとなく、彼の人となりというものもわかってきた。

 言葉づかいはお世辞にも丁寧とは言えないが、接し方や言葉選びは非常に丁寧だ。根が優しいんだろう。捨てられた動物とかは、きっと放っておけないタイプだ。

 ココアをゴクッと飲み干し、キッチンへと入った彼のあとを追う。初日は、手伝うことはおろか動くことさえ制限されたが、一昨日からは、このゾーンに踏み入ることを許可された。

「今日のメニューはなんですか?」

「パエリア」

「すごいっ! 私、お店でしか食べたことないです」

「覚悟しとけよ。店のより、だんぜん美味いから」

 自信満々にこう言い放つと、速水さんはすでに作っていたパエリアをオーブンで軽くあたためはじめた。彼の場合、このように豪語したとしても、実際に味がともなうので憎めない。事実、口にするのが楽しみで仕方がないのだ。

 ……餌づけ? いや違う! 私は純粋に彼の料理を享受しているだけよ!!

 取り皿や飲み物などを用意し、先に椅子に座っていると、彼がメインディッシュの入った白い正方形の耐熱皿を持ってやってきた。それをテーブルの中央に置く。

 ムール貝やイカといった、さまざまな魚介類と、サフランで着色された黄金色のご飯。上に乗せられ、トロトロになったチーズの香ばしい匂いが、なんとも言えない。

 彼の分と自分の分とを取りわけ、『いただきます』と手を合わせると、私は勢いよくパクついた。

「~~~~っ!!」

 思わず瞼をギュッと瞑る。おいしすぎて言葉にならない。だけど、おそらく顔には、この感情があますところなく表現されているはずだ。

 神だ。神がここにいる。彼に作れないものなどないんじゃなかろうか。

 ……なんて考えながらモグモグと口を動かしていると、彼に凝視されていることに気づいた。首を傾げて問いかける。

「どうしたんですか?」

「いや、食に興味がないんだとばかり思ってた」

「え? そんなことないですよ。食べるの好きです」

「うん、意外と結構がっつり食うよな」

 何か新しいものを発見したかのような口ぶりで、彼にこんなことを言われてしまった。

 私ってばそんなふうに思われてたんだ。まあ、それもそうか。ゼリーとヨーグルトしか食べてなくてぶっ倒れたりすれば、そう思われても仕方がないわ。

 実をいうと、これほどの量を胃に収められていることに、自分自身ビックリしている。自己に秘められた未知なる領域を発見したのは、私のほうかもしれない。

「だっておいしいんですもん」

 けれど、すべてはこのひとことに尽きる。

「サンキュー」

 せっかく彼が私のことを考え、設けてくれた機会だ。変に思い悩んだりせず、素直にこの厚意に甘えようではないか。

 自分にこう言い聞かせ、本日も彼の手料理を心ゆくまで堪能した。もちろん、帰る前に片づけも済ませる。

 彼の隣に立ち、彼が洗剤で汚れを落とした食器をお湯ですすぎ、乾燥機の中へと入れていく。シンクが広いおかげで、ふたり並んでいてもまったく窮屈ではない。

 視線を上げると、今私が立っている場所からちょうど真正面に、吸い込まれそうなほど『あお』が魅力的なあの写真を眺めることができる。自身の手を動かしながら、同じく両手を泡まみれにしている彼に語りかけた。

「速水さん」

「んー?」

「あの写真」

「? ……ああ、あれな。あれがどうかしたか?」

「すごい綺麗ですよね。私好きです」

 空の蒼と海の碧。

 最初に目にしたとたん、私はそのふたつの『あお』に心を奪われてしまった。

「そりゃどーも」

 と、正直な感想をただ述べただけの私に対し、彼は頬を緩めて頷く程度に頭を下げた。

 え? 今の言い方、ひょっとして……

「あの写真、速水さんが撮ったんですか?」

「ああ。……あれ? そういや言ってなかったっけか。俺、フォトグラファーなのよ」

「……」

 初耳ですね!! 今まで聞かなかった私も私ですけど!! ってか、素性尋ねないとか私どんだけこの人のこと信用してんのよ!?

 なんというか、このタイミングで自分の『ぬるさ』のようなものに直面し、落胆してしまった。

 初対面の人とも、そこそこ距離を置きながらも親しくできてしまう自分のキャラクターを、いまいちど再検討するときがやってきたのかもしれない。

「……あ、じゃあ写真集とかあるんですか?」

 とか思ったそばから反省の情をかき消した、この節操のない好奇心の強さを、私は呪ったほうがいいのだろうか?

「ん? まあ、あるけど……」

 あるって言ってる! これはもう好奇心の完全勝利だわ!!

 私は、瞳を輝かせながら、無言で彼にねだった。

「見たいのか?」

「愚問ですね。ここで首を横に振る理由なんてあるわけないじゃないですか」

 好奇心の赴くまま、ずずいっと彼に迫ったりしてみた……のだが。

「……あ、でもプロの方にこんなこと言うの、失礼ですね。やっぱいいです」

 瞬間冷却。

 冷静に考えてみれば、それを生業としている人に、タダで品物を見せろだなんて無礼千万だ。……やっぱり呪っておけばよかった。

 洗いものを終え、ふうとひと息。

 速水さんは、シンクの上でピッピと両手の水分を切ると、タオルで拭きながらリビングのほうへと移動した。そして、そこにある本棚からB4サイズの写真集を2冊取り出し、私のもとに持ってきてくれたのである。

「ほら」

「……いいんですか?」

「どーぞ」

 写真集を濡らさないように、私も入念に両手をタオルで拭く。彼からそれらを受け取ると、食事を摂るときと同様、再度対面してダイニングテーブルに着いた。

 風景写真家——これが速水さんの肩書きらしい。

 ゆっくりと、彼の作品の扉を開く。

「う、わぁ……」

 その瞬間、鳥肌が立った。

「すごい……」

 桜花、新緑、紅葉、雪原といった四季折々の日本の姿や、山、川、海、空を被写体としたパノラマ写真。彼のファインダー越しには、自然の有する『生命いのち』が躍動していた。

 全身が震える。これほどまで深い感動をおぼえたのは、いつぶりだろうか。

 彼のすばらしい技量を目の当たりにし、軽々しく拝見してしまったことに対する悔悟かいごの念に駆られた。

 ひとこと謝罪を……そう思ったとき。

「あ……」

 私の瞳に、ある見慣れた風景が飛び込んできた。食い入るように、じっと見つめる。

「神戸港」

 それは、自分が生まれ育った故郷の夜景だった。

 ライトアップされたポートタワーや海洋博物館が、海面に反映されて揺らめいている。彼が人工物を撮影していることに多少なりとも違和感はあったが、闇に浮かぶ色と光の三原色は、とても幻想的だった。

「おっ、行ったことあんのか?」

 胸を詰まらせ、少々ノスタルジーに浸ってしまっている私に、彼がこんな質問をしてきた。

 そういえば、まだ話してなかったな。

「私、出身が神戸なんです。だから、すごく落ち着きます。この写真見てると」

 いまだ写真から目を離すことなく、彼に告げる。

「今年は夏に帰れなかったから……年末年始は帰りたいなって、思ってるんですけど」

 故郷には、もう一年近く帰省していない。

 大学に行って、バイトして、帰って寝て起きて……この生活を繰り返しているうちに、いつの間にか歳をひとつ重ねてしまっていた。いや、この一年に限ったことじゃない。入学してから今までずっとだ。自分で選んだ道のはずなのに、何もかもいっぱいいっぱいで、余裕なんてなくなっていた。

 だけど、彼と出会い、短時間だけでも彼と過ごすようになって、日々のぎちぎちのタイムテーブルの中に隙間を見いだすことができた。自分でもわかる。今の私の心には、ゆとりがあるということが。

「んじゃあ、体調万全にしとかないとな。……家族には、会えるときに会っとけよ」

 私の話を聞き、彼はこう言葉をかけてくれた。その優しさに、目を細めて首を縦に振る。

 ……あれ? 今、ほんの一瞬だけ、速水さんの顔曇らなかった? それにさっき、私の出身地聞いたときも、少しだけ驚いてたような気がするんだけど。

「ちょっと待ってろ、今コーヒー淹れっから。お前が買ってきてくれたやつ食べようぜ」

 柔らかく微笑んだ彼は、立ち上がり、再びキッチンのほうへと入っていった。その姿は、いたって普通だ。

 ……私の思いすごしかな?

 それから、はじめに彼が宣言していたとおり、自分が持ってきたお土産(だったもの)を、コーヒーと一緒にいただいた。その後、小一時間ほど他愛もない会話をし、私は帰宅の途へ。

 連日、彼は私を下宿先まで送ってくれている。この日も、当然のように愛車のスポーツカーを走らせてくれた。彼のマンションからの所要時間は15分ほどだ。

 到着し、車から降りる際、私は昨日から目論んでいた、とあることを彼に打ち明けた。

「ありがとうございました。……明日は、料理しないでくださいね」

「え?」

 満面に、悪戯な笑みを含んで。

「私が作ります」

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