03

 正直、俺のキャンパスライフに輝かしいことは何もない。

 友人と言っても、授業が一緒なら話す程度で外に出れば交流は皆無。

 無論、サークルにも入っていないし、学校行事は終わってから学内掲示板で気が付く程度だ。

 誇れることと言えば、無遅刻無欠席って所だろう。

 まぁ、この大学の単位認定は出席点が大きなウェイトを占めているから、真面目な学生を演じているだけだ。

 単位を落とすようなこと無いし、出席しているだけで総合評価も中の上……正直温ゲーだ。

 



 そして、4限の授業が終了し最寄りの駅に到着。

 茜色の日差しが商店街を照らし、ちらほら学生服を着た集団が目立ち始め、中には有栖川の制服を着た人も居る。

 以前までは視線が向かうことは無かったが、野球部との絡みが有ってからは何か親近感が沸く。

 これも今朝の来夢の言葉が影響しているな。

 そんな高揚感の中商店街を右へ左へ突き進むと、スポーツショップの前へ。

「……久しぶりだな」

 フルスイングスポーツ。

 野球を中心に取り扱った個人経営のショップ。

 オーナーが元プロ野球選手ということも有って、大手には無いこだわりの品が揃っていて、現役時代の俺が良く利用した店だ。

 煉瓦作りの小さな階段を上り、年期の有る自動ドアがスライドすると鈴音が聞こえる。

 何ともノスタルジーな店に入り辺りを見渡す。

 俺は目的の品、グローブを手入れするローションとオイルを探す。

 来夢が俺の道具を保管していた時に使用していた物を譲り受けることも考えたが、俺より来夢の方が使う頻度が高いと思うし、これ以上厚かましいことを要求するのは気が引ける。

 そして、目的の品を見つけ商品を手に取ろうと伸ばす。



「きゃっ……!」



 刹那、手の甲が誰かと接触する。

「ごっ、ごめんなさい」

「こ、こちらこそ申し訳ない」

 慌てて仰け反り最敬礼した頭を見下ろすと、どこかで見たこと有るポニーテールが震えていた。

「えっ!? 監督さん!?!?」

「り、梨乃か?」

 対峙すると、そこには制服姿の有栖川学園主将の梨乃が目を点にして指さしていた。

 ショルダーバックとバットケースを斜めに掛けている姿から、部活帰りに寄っただろうと推測できる。

「はい! いやーまさか監督さんとばったり何て、想像もしていませんでしたよ。まさに奇跡ですね、奇跡!」

「奇跡って……そんな大げさな」

 と謙遜すると梨乃は首を大きく横に振る。

「ううん。だって、これ監督さんも買おうとしていたじゃないですか」

 と商品棚からオイルが入った箱を手に取った。

「あたしもこれ超お気に入りで、駅前のスポーツショップだと売っていないから、部活帰りにって」

 と、未会計の商品に頬ずりする梨乃。

 美少女の頬に触れられるなら、商品も報われるかもな。

「そうか。俺も現役の時に色々使ったけど、それが一番しっくりきた感じだったな」

「うんうんっ! 他の商品だとちょっと水気が大きかったりするんですけど、これだと丁度良いって感じですよね」

「だな」

 グローブの管理はプレイに直接影響する。

 メンテナンス道具まで拘っている梨乃は流石って感じだ。

「それにしても、聞きましたよ。あたし達に足りないもの」

「……来夢からか?」

 チームワーク。

 試合の帰りに来夢と桂子ちゃんには話したが、あいつ早速言ったのか。

「はい。あの時に言って下されば良かったのに」

「あんなピリピリした所で言えると思うか?」

 有紀みたいに空気ガン無視で貫けるような肝っ玉は備わっていない。

 梨乃はくすっ、と笑って。

「そうですよね。本来あたしが率先するべきなのに、ホントダメダメな部長です」

「いや、梨乃はしっかり出来ていたよ。少なくともプレイでは」

 経験が浅い桂子ちゃんへの配慮。

 VSクリスの際の守備シフトの指示。

 どれもチームを意識しているこその行動だ。

「それに、練習も梨乃が中心になってやっているんだろ? バッティングピッチャーとか」

「はは。それはあたしが部長だから……当たり前ですよ」

 その当たり前が難しい。

 部長とは言え一人の選手だし、打ちたい気持ちが有るだろうに。

「その……そろそろ買ってきますね。一緒に行きます?」

 まぁ、買う予定の物は揃ったし一緒に行くのも悪くないな。

 俺は軽く頷いて梨乃の後ろヘついていき、商品を購入。

 お揃いの袋をぶら下げて店を出た。




「そう言えば、この後予定有りますか?」

「予定? ……無いけど」

 商店街を並んで歩いていると、ふと梨乃が口にする。

 ここで予定が有る、と言えない非リア充ぶりは恥ずべきだろうけど事実なのでしょうがない。

 来夢、桂子ちゃんとのトレーニングは朝だけだし。

「じゃあ、一緒に来てくれませんか? 迷惑だったらごめんなさい、ですけど」

 縮こまった声でそっと視線を合わせる梨乃。

「別に良いけど。どこへ?」

「相模中央球場。あたし、社会人チームの練習に参加していまして監督さんも是非、って思って」

 相模中央球場は本相模川沿いに有り、ここからだと徒歩10分位の距離に位置する。

 現役の頃、練習試合とかで使ったな。

「構わないが、良いのか? 野球道具は家だし」

 梨乃は首を振る。

「道具なら予備の物が有りますよ。ちょっとあたしのわがまま、も有るかなー、なんて」

 何がわがままなのか分からないが、女子高生が社会人チームの練習に参加している姿を確かめたい、という気持ちが強い。

 プロレベルの選手が大勢いるだろうし、そんな人たちの練習に女子高生が参加しているのは興味深い。

「気にすんな。俺も感覚確かめたかったし」

 私服だから出来ることはほぼ無いけど、見ているだけでも感覚を養えるだろう。

「ありがとうございます! もう、感謝ですよ、感謝」

「そんな大げさな」

「大げさじゃないですよっ!」

 と肩をツン、と当ててくる。

 背の高さがあまり変わらないのも有って、さっとポニーテールが耳元を擽り、清涼感溢れるフレッシュな香りが嗅覚を刺激する。

 来夢と同じタイプ、だとは思っていたけど、こう話していると明確な違いを身を持って感じるな。

「あっ、そろそろ練習始まっちゃう! 監督さん、ちょっとペース上げますよ!!」

「おっ、おい!」

 刹那、何かの記念で作られた時計台の時刻を見た梨乃が、俺の手をぎゅっ、と掴み走り出す。

 細身ながらしっかりと力の入った掌は、俺の抵抗を物ともせず先へ急ぐ。

 風と共に梨乃の髪が頬や脇腹を掠め、その度に強くなる香りや擽ったさに色っぽい気持ちが支配する中、梨乃のペースについていった。




「はぁ、はぁー……ごめんなさい。急に走っちゃいまして」

 商店街から住宅街を抜けて河川敷。

 球場の壁に寄りかかり大きく息をする梨乃と、隣で浅く深呼吸を繰り返す俺。

 流石に準備運動無しでのダッシュは厳しい物が有る。

「いや、時間を気にしないで話した俺にも責任有るし……それより手、平気か?」

「手……?」

 俺が軽く腕を振ると梨乃の視線が下を向く。

「はっ! す、すみません!!」

 さっ、と手を離すと握っていた左手を隠すように右手を被せ、胸の前へ引く。

「その……握っちゃいました。えへへ」

 申し訳なさそうに背中を向ける姿は、お兄ちゃんLove you(ラブ ユー)とか平然と言う来夢と共に生活を送っている身として、とても新鮮な反応だ。

 俺のイメージでは男女とか関係無しにコミュニケーション出来る、ってイメージだったので、耳元を赤くさせている姿を見て、梨乃も一人の女子高生だと認識する。

「すまんな。イケメンじゃなくて」

 自己評価を述べると、梨乃がさっと俺と視線を合わせる。

「そうですか? あたしにとって、監督さんはかっこいいですよ。らいむーが羨ましい」

「お世辞でもありがとな」

「お世辞じゃないのに……あっ、そろそろ中へ入りましょう。みんなに紹介しちゃいますので覚悟ですよ、覚悟」

 とハートのボリュームが急上昇した梨乃はぴょんぴょん、と壁から離れ入り口の方へ向かう。

 ちょっとした距離感に少し寂しさを覚えながらも、梨乃の後を追う。



「こんばんはー!! 新庄 梨乃、只今到着しましたー!!」

 開口一番、球場いっぱいに響きわたる声で踏み入れた梨乃に対して、整備をする選手が会釈する。

「オッス。ちょっと遅かったんじゃない? もしかして……デート中?」

 梨乃に一番近い位置で尻を地面に付けてストレッチをしている短髪の選手がニヤニヤ俺を指さす。

「デ、デート!?!? 違います、違いますって京子さん!! この人はあたしの高校の監督さんですっ」

「へぇー……監督……」

 京子さんが立ち上がると俺の周囲を毛先まで吟味するように観察する。

「若いねぇ……有栖川の先生?」

「まだ大学生です。ちょっと訳有って先日から」

「えっ!? 大学生!?!? うちより年下じゃん」

 と驚愕した京子さんはベンチで準備している選手の固まりへ走り込むと、俺の方を指さす。

 視線を感じた俺は軽く会釈すると、黄色い歓声がベンチのボルテージを上げる。

「うそ、大学生?? 超ー可愛いよね、よね!?!?」

「男の子、て言うより男の娘? て感じ?」

「でもでも、むさい男よりマシですよね」

 と割と距離が有るが、俺の耳元まで所感が届く。

 見渡す限り男は俺だけみたいだから当たり前と言ったら当たり前だが、可愛い、というのは素直に喜べない。

 確かに、男のくせに肌が綺麗とか、爪が綺麗とか揶揄されてきたが、女子から言われるのは気恥ずかしい。

「ごめんなさい。先輩達、男の子の話になるといつもこうで」

 と前髪を引き延ばす仕草を繰り返す。

「俺がイレギュラーなのは今に始まったことじゃないし、気にすんな」

「そうですか? もし、先輩達に変なことされたらあたしに言ってくださいね。加減を知らない人達なので」

 苦い顔は過去に何かされたような感じだな。

 体育会系独特の絡み、ってのも有るし良識の範囲内だろうよ。

「おーい! 大学生ーー!! こっちでお姉さん達と語り合おうよ」

 ベンチの方で手を振る京子さんが、梨乃以上のパワフルボイスで俺を呼んでいる。

「あ、あたしは着替えてくるから……その、お願いしてもいいですか?」

 腰を低くして手を合わせる。

 俺は適当に返事して、先輩達の花園へ向かうと京子さんがベンチをトントン、と指示する。

「失礼します」

「はいはい。ようこそ相模スマイルハニーズへ。それで君の名前は?」

「三上 一です。今は産業経営大学の二年です」

「そう改まらなくても良いよっ! うちらの仲じゃん」

 いつ好感度が急上昇したのか、と疑問に思っていると、京子さんの腕が首に巻き付きぎゅっと顔を寄せられる。

「あー、抜け駆け禁止。梨乃が見てたら泣いちゃうよ」

「ちょっとだけだよ。梨乃はうち達の娘って感じだからよろしく」

「はぁ……はい」

 返事をすると京子さんの力が弱まり、拘束が解除される。

「……はぁ、何事ですか」

 落ち着いた雰囲気の黒髪のお姉さんがゆっくり歩いてくると、対面に座る。

「ごめんなさい。京子は年下好きだから遠慮を知らないのよ」

「いえ、別に嫌じゃなかったので」

 こういうコミュニケーションは妹で慣れているので。

「そう? あ、一応私はここのキャプテンの雫(しずく)よ。それにしても……」

 俺の顔を凝視して

「どこかで見たことがあるわね。どこの高校出身?」

「……湘南東しょうなんあずま高校ですが」

 正直、あまり明かしたくないが。

「確か、二年前甲子園に出場した高校だよね? あの決勝戦凄く覚えている」

 嫌な予感がする。

 まさか、こんな短時間で……

「決勝スリーラン……あなたでしょ?」

 見破られてしまう何て。

「ええ、まぁ。俺が打ちました」

 雫さんが攻めているとは感じない。

 ただ、俺の中に残る苦しい記憶で声が震える。

「なぜ申し訳なさそうに言うの? 私、会社の有休取って観戦しに行っていたけど、もの凄く感動したよ?」

「えー、あの湘東しょうあずの二番バッター? うちも一緒に行ったけどどったまげたなぁー」

 とフンフンと京子さんが頷く。

 あんな地味な二番バッターを覚えていてくてたのは悪い気はしない。

 まぁ、神奈川大会自体が激戦区で注目が集まるし、決勝でホームランを打てば嫌でも記憶残るだろうから気にしてもキリがない。

「そうよね。でも……その、聞いて良いのか分からないけど。何故あなたは……」

 俺のもう一つの苦い思い出が無意識の氷山から溶け始める。

 そんな予感がした。



「何だか騒がしい……って、有栖川学園の監督ではないか」



 刹那、フローズンキャッスルの女王様が光臨したかのような幻想的な雰囲気を醸し出す、銀髪の選手。

「……クリス?」

「そうだ。あなたとは縁が有りそうだ」

 あの練習試合で決勝ホームランを打った、天羽学園の主砲。

 漆のストレートをバックスクリーンに叩きつけた時と変わらない威圧に、背筋が凍る。

「おっす、クリス。相変わらずクールだぜ」

 萎縮した俺に反して白い歯を見せる京子さんに、クリスはお辞儀する。

「申し訳ない。少々練習が長引いてしまって」

「気にしないで大丈夫ですよ。監督が渋滞で遅れていますので、ちょっと様子を伺っていた所ですよ」

「左様ですか」

 と武士みたいな言葉遣いに感心していると、後ろの方から梨乃の姿が駆け足で近づく。

「お、お待たせしましたぁー! ってクリクリ! お疲れだね、お疲れ」

 クリスの肩をトントン、と叩くとクリスが首を梨乃に向ける。

「あぁ。それにしても、梨乃が男を連れくるとは心底驚いたぞ」

 色っぽい口調に梨乃はにこっ、と頬角を上げて。

「そうかなー」

「お前は野球一筋、って感じだからな」

「それを言うならクリクリもでしょ。それでそれで、フルスポでメンテ道具揃えていたら偶然ね。これって運命?」

「知らねぇーよ」

 俺が口を挟むと、ベンチメンバーがくすっと笑う。

 それにしても、クリスと梨乃がフランクに話しているのは、あの試合を見ていた身としてとても違和感が有る。

 漆VSクリス、の勝負での氷のオーラとは違う。

 まるで双子の妹が来たかのように、別人って感じだ。

「それで、とても仲が良さそうだな?」

「ああ。私と梨乃は古き時からの友人として切磋琢磨している」

「えへへ、何だか照れますなー」

 と恥じる梨乃の肩に腕を回し、頭と頭を接触させる。

 まるで姉妹だな。

「学校は離ればなれになってしまったが、こうして練習に参加してお互いを確かめあっている、てことだ」

「うんっ! 運命共同体だね!」

「それは言い過ぎだ……悪い気はしない」

 拘束を解きほんのり顔を染める。

 まぁ、こいつらの仲の良さは十分に分かった。

 練習試合にクリスが来ることを梨乃が知っていた理由も明らかになったし、あんな豪快なホームランを打った選手に認められている点からも実力の高さも改めて認識する。

 だが、これだけの選手がなぜ有栖川で野球をしているのだろうか。

 何か、理由が有るのか……。



「はいはい雑談はここまで。そろそろ練習始めるから、ほらっ、出なさい」

 頭の中を整理していると、雫さんが手を叩いて意識を集約させベンチに座るメンバーの背中をポン、と押す。

「じゃあ、行ってきますね。監督さんはどうします?」

「俺は見学しているよ」

 私服、ランニングシューズで練習できないし、社会人チームの練習から明後日のヒントを得たい。

「了解です、了解。くりくり、全力ダーーシュッ!!」

「はは、オーバーペースは怪我の元。明鏡止水、落ち着いて取り組むことも必要だ」 

 とクリスは梨乃の後ろをゆっくり追った。

 帰ったら練習メニューを考える必要も有るし、しっかり観察しないとな。




「うぅー、疲れたぁー! 監督さんアイスありがとう。感謝ですよ、感謝」

「約束したからな」

「へぇー、覚えてくれたのですね! ちょっと意外です」

 あれから3時間後、練習終えた梨乃に自動販売機で購入したアイスを渡すと、ブイブイとピースサイン。

 元気が有り余っている様子の梨乃を母親のような温かい眼差しを送るクリスは、大きめのタオルを頭から被り流れ出す汗を拭く。

「ほらっ、クリスも」

「良いのか?」

「ついでだよ。まぁ、口止め料みたいな物だ」

 京子さん達にバレ、ボンビーな大学生の財布がすっからかんになるのは避けたい。

「あの人達は容赦無い。その心遣い、感謝する」

 かつあげされた記憶でも有るのだろうか。

 クリスに限ってそんなこと無いと思うが、やっぱ女って怖い。

「それにしても、二人とも良い動きをしていたな」

 フリーバッティングでは半分以上柵越えしたクリス。

 社会人顔負けの連携を見せた梨乃。

 京子さんや雫さんも流石社会人って感じだったが、大差無い動きをしていた二人の実力の高さを証明していたと思う。

「えへー、そうかな? クリクリには負けちゃうよ」

「そんな事はない。梨乃の無駄の無い動き、とっさの判断力……是非、天羽に欲しい人材だ。なぜ、来なかった?」

 俺も気がかりだった。

 梨乃ほどの実力が有れば推薦の話しも有ったと思う。

 有栖川も施設は充実しているが、天羽ならより専門的に野球に取り組めるし、全国目指すなら最も確率が高い。

「うーん、そうだね」

 梨乃は自販機の側面に寄り添い月を見上げる。

 楕円型の輝きはどこか神妙な雰囲気へ誘う。

「……自信無かったからかな」

 小さな唇でワッフルコーンの端をかじる。

 自信、まるで過去の俺に繋がる。

「あたしって、特徴が無いというか。クリクリみたいな力も無いし、うるるんみたいな剛速球も投げられない。当たり前なことを当たり前にするだけ」

 例え同じ投手、打者が相手だとしても、その時の心情や調子、天候や風向きで微妙な調整が必要な野球において、期待通りの結果を出すのは至難の技だ。

「そんなあたしが競争に勝てるのか、って考えていたら有栖川に通っていた先輩から誘われてね……オッケーしちゃたんだ。でも、後悔してないよ、絶対」

 あんなまとまりの無いチームをフォローする梨乃は立派だ。

 野球そのものから離れ、自信の無さを棚に上げていた俺とは違って。

「今なら自信が持てる。親身になってくれる監督さんが居て、少しずつチームがまとまって……そんな景色が思い浮かぶの。全国大会で活躍するあたし達」

「そうか。地区予選が楽しみだ」

「うん。絶対天羽に勝って全国に行くのはあたし達だもん。ねぇー、監督さん」

 と俺の頬に人差し指を当ててくる。

 振り向くと指がめり込み、クスクス梨乃とクリスが微笑む。

 つられて笑うと、何だか気持ちが和らぎ自信がどんどん沸いてくる気がする。



「あぁ、そうだな」


 

 良いよな、そういうライバル関係。 

 もし俺に夢を語り合える仲間が居れば、あの日、間違った選択をしていなかったかもしれない。


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