第38話 別れ2

 外でプヒーと鳴き声が聞こえる。ベッドから出て窓に近づき外を見ると、エストとウリ坊が追いかけっこをしている。

 もう朝なんだね。いつベッドで眠ったかな。昨晩は宴会っていうのに招かれて、エストとご飯を食べた後にまた食べることになって、気がついたらベッドで目覚めていた。なんだか服がお酒臭い。お酒を飲んだ記憶はないけど、酔っぱらっちゃったのかな。

「ルナー!」

 エストが私に気が付いて呼んでいる。仕方ない、行ってあげるか。


🌙


 外に出るとエストがいた。ドアの前で私が出てくるのを待っていたみたい。私がいた建物は……宿屋?

「おはよう」

「聞いてよ! 昨日話した弟子のことだけど、許可してもらえたわ!」

 断られる可能性も高いと思っていたけど、弟子になれたんだ。へー。

「良かったね。あのエルフはなんて名前なの?」

「師匠の名前は……そういえば教えてもらってないわ。聞いてくる!」

 エストが走っていこうとしたから、腕を掴んで止める。

「聞きに行かなくていいよ。私はもう出発するから」

「え? もう行くの?」

 驚くようなことでもないと思うけど。今から出発しないと、今日中に町に着けなくなる。急げば今日の夜あたりに町まで行けるはず。一人で野宿はしたくない。

「うん、もう行くよ。フレンに伝えといて」

「会っていかないの?」

「ずっとソフィアさんを看てて疲れてるでしょ。見送りなんていらないって、そう伝えといてね」

 夜までの食料をお店で買って出発しよう。お金は少ないけど、今日のご飯くらいは買えるでしょ。

「フレン悲しむと思う……」

「もう会えないってわけじゃないんだからいいの。エストの特訓が終わったら会いに来てくれるんでしょ?」

「そうだけど……」

「プヒー……」

 もう、エストもウリ坊もしょんぼりしちゃって。いつまでも子供なんだから。

「私に勝つんでしょ? こんなところで落ち込んでないで特訓だよ特訓!」

「私じゃなくてフレンが落ち込むって言ってるの。でも、いいわ。あっという間にルナよりも強くなってみせるから!」

 エストは元気よく病院へ走っていく。ウリ坊もエストの背中を追いかける。最初は鬱陶しかったけど、別れるとなると寂しいものがあるね。

「ルナ! またね!」

 振り返って手を振っている。仕方ないな。

「またね」

 私の声が聞こえたか知らないけど、手を振り返したからか、満足そうに病院に入っていた。さてと、私も行こうかな。


🌙


 里を出るときにニッチに「またな」とだけ言われた。夕方まで寝てそうなイメージだけど、意外と早起きなんだね。挨拶にまで来てくれるなんてびっくり。

「やあ、おはよう」

「……おはよう。こんなところで何してるの」

 里を出るとフレンがいた。すごく眠そうにしている。

「ソフィアさんと一緒にいなくていいの?」

「大丈夫。ソフィアならすぐに元気になるから」

「無理しなくていいよ。ソフィアさんは先が長くないんでしょ」

 私は医者じゃないから、ソフィアさんがどんな状態なのかは知らない。でも、呪い魔法のことをある程度知っているから予想はできる。ていうか、今までも何度か予想してきた。間違いなく、ソフィアさんの寿命は短くなっている。今生きているのが奇跡なくらい、短くなっているはず。

「……ああ。それでも、ルナの見送りをしたかった。ルナがいなかったら、ソフィアを助けられなかったから」

「たいしたことはしてないよ。私もお父さんの杖を取り返したかったし……ああもう! グダグダ話すの面倒くさい!」

 私が突然叫んだからか、フレンは驚いた顔をしている。そんなフレンに、なんとなくタックルする。フレンは私を受け止めてくれた。

「せっかく助けたソフィアさんを死なせたら許さないから。愛の力とか奇跡とか何でもいいから、絶対にソフィアさんと幸せになって。ソフィアさんを死なせないなんて、これまでしてきたことと比べたら簡単でしょ?」

「……ああ、そうだね。その通りだ」

 フレンから離れる。よし、もう思い残すことはない。

「またね」

 フレンの横を通って旅立つ。旅は家に帰るまで旅だ。

「ああ、また会おう!」

 ああもう。タックルなんてするんじゃなかった。顔が熱いよ。


🌙


 エルフの里を出発して色々あったけど、無事に村まで帰ってこられた。一人で王カマキリと戦ったりとか、本当に色々あったよ。

 ……で、どうしてこんなことになってるの。村でゾンビがウロウロしてて、村の中に入れないんだけど。夜だから村の全体は見えない。それでも少なくない数のゾンビがうろついているのが分かる。

「おい杖。いったい何をしたの」

(さあ?)

 本当に知らないのかな? ゾンビがいるってことは、この杖が関係していると思うけど。まあいいや。話してくれないのなら、どっちでも同じことだ。役立たずだから一回杖を地面に叩きつける。

(ぐへっ)

 お仕置きは中断。お母さんは無事なのかな? リーゼおばさんや先生……村のみんなは?

(そこの茂みに誰かいるぞ)

 ん? あ、本当だ。頭が見えてる。

「誰?」

「ゾンビではない……? ってルナさん!」

 おお、先生だ。数日ぶり。

「村はどうなってるの?」

「それは……いえ、お話の前に移動しましょう。ここは危険です」

 先生は茂みの中に入っていく。歩きにくそうだけどついていってあげようか。


🌙


 しばらく歩いていると、たき火でもしているのか、明りが見えてきた。おお、クラスメイトのみんながいる。あと大人が数人。リーゼおばさんもいる。

「あ、先生が戻ってきた!」

「静かにしろよ。ばれたらどうすんだ」

「あれって……ルナじゃない?」

 クラスメイトのみんながごちゃごちゃ喋っている。誰一人名前を覚えていないな。本当にクラスメイトで合っているのかも不安になってきた。

「ねえ、先生。村にゾンビがいるから、みんなでここに隠れてるの?」

「はい。町へ行こうにも夜になってしまったので、明日の朝に移動する予定です」

 ふーん、お母さんが見当たらないけど、無事なのかな。あ、その前に先生にお礼を言っておこう。

「先生のメモ帳役に立ったよ。だいたい覚えたから、返してあげる」

「随分とボロボロになりましたね」

「うん。何も書いてなかったところに、勝手に書いちゃったから。ごめんね」

 私が書いたところを見ても何も言わなかった。怒られなくて良かった。

「町へ行ってどうするの? これだけの人数で町へ行っても、お金がないとどうしようもないよ」

「まずは安全な場所へ移動しなければなりません。町にも力を貸してくれる方はいるはずです」

 いないと思うな。タダで力を貸してくれる人がいるのなら、シスターは詐欺師なんかになっていない。たぶん。

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