第34話 希望の光

 これまではほとんど動いていなかったソフィアさんが、フレンから大きく距離をとる。ソフィアさんの表情は苦しそうにも見える。

「ルナ」

 フレンに話しかけられる。なんでフレンが光ってるのか知らないけど、早く光るのをやめてほしい。なんだか、少しずつ体力を削られている気がする。

 でも、私と同じように、ソフィアさんも光を嫌がっているみたい。私は我慢できるから、少しでもソフィアさんを弱らせるためにも、フレンにはそのままでいてもらおうか。

 光のことは後で聞くとして、せっかくフレンが作ってくれたチャンスだ。最後のチャンスかもしれないから、絶対に無駄にはできない。

「一緒に戦うよ!」

「ああ!」

 フレンが走り出して、私もフレンに続く。フレンの光が剣に集まっている? 苦しんでいたソフィアさんがフレンの接近に気づいて、フレンの前に呪われた魔力でできた巨大な壁を作った。あんな巨大な壁、私じゃあどうしようもない。

「はあ!」

 フレンが光り輝いている剣を下から上に振り上げる。巨大な壁は、砂でできてたんじゃないかと思うくらい、あっさりと両断されて消滅した。

「ルナ!」

「うん!」

 分かってる。今なら接近して杖を奪える。巨大な壁を両断されて驚いているソフィアさんが見える。うん、奪える!

 と思ったけど、すごい速さでソフィアさんは呪われた魔力を作り始めた。これじゃあ駄目だ。奪うのは諦めて、ソフィアさんの作った魔力を魔剣で切り裂く。ソフィアさんの呪われた魔力を作る速さの方が上回ってる。どうしよう。

「フレン、ごめん」

 もう一回フレンにチャンスを作ってもらわないと届かない。まだフレンは光り輝いているから、どうにかできるはず。

 フレンがソフィアさんに突っ込む。おお、すごい。フレンが近寄っただけで、呪われた魔力が消えていく。さっきみたいに巨大な壁にしないと、フレンの動きは止められないみたい。

 ソフィアさんが杖でフレンを迎え撃とうとしている。そうはさせないよ。両手に小さな魔剣を作って投げる。フレンの隣を通った時に、私の魔剣も少し小さくなったけど、どうにかソフィアさんまで届いて両腕に刺さった。杖を落としはしなかったけど、これでフレンを迎え撃てないはず。私が魔剣を投げるといつも命中するね。自分でも惚れ惚れするコントロールの良さだよ。

 よし、あとはフレンが終わらせてくれるはず。フレンの光り輝く剣が、ソフィアさんの胸へと突き出される。って止め刺すつもりじゃ……


🌙


 止める間もなかった。でも止まっていた。フレンの剣は、ソフィアさんの胸には刺さらず、その手前で止まっていた。

「なんで……?」

 ソフィアさんが止めた様子はない。もしかして、フレンがソフィアさんを傷つけることができなかった? だとしたら不味い。

「フレン! 離れて!」

「あっ……」

 遅かった。ソフィアさんの杖がフレンの腹部に刺さっている。フレンの光が徐々に消えていく。

 ソフィアさんが杖を引き抜くと、フレンがよろよろと下がって、剣を杖のようにして倒れるのは阻止する。でも、片膝をついてしまった。

 まったく……優しいっていうのも考え物だよ。

「くっ……一度下がるか」

 ソフィアさんも追いつめられたからか、私たちを警戒しながら離れていく。戦えるのは……私だけ? 里長さんとフレンは戦える状態じゃなくて、エストは私が言った通りにしてくれたのか姿が見えない。エルフがいつの間にか集まってきているけど、役に立つのか分からない。

「私がやるしかない」

 もう自棄やけだ。変に難しいことを考えるよりも、思いっきり戦ったほうが良いかもしれない。どうせ考えたって、私の攻撃なんて通じないんだ。

 ゆっくり離れているソフィアさんへ駆ける。すると、ソフィアさんは杖を大きく振った。でも、魔法は何も飛んでこない。

「魔力切れかな」

 難しいことは考えない。魔剣を適当に投げながら走る。ソフィアさんはゆっくり動いているから、どんどん差は縮まっている。投げた魔剣はちゃんとソフィアさんの方へ飛んでいき、全て防がれてはいるけど、少しは動く速さを落とせているはず。

 ……ん? あれは?

「お前ら、時間を稼げ」

 森の破壊王ダークグリズリーのゾンビと巨大猪のゾンビがすごい速さで近づいてきた。限界を超えた速さを出しているのか、何にもぶつかったりしてないのに、少しずつ体が崩れている。私がソフィアさんに追いつくよりもずっと早く、私の前に二匹は立ちはだかった。

 何も考えずに突撃……無理でしょ。体が崩れていてゾンビらしい姿をしているけど、崩れているのせいぜい半分程度。二匹の間を通ってソフィアさんに攻撃しようとしても、その前に二匹に潰される。せっかくここまで追いつめたのに諦めるしかないのかな?

「ゾンビは我々に任せてくれ」

 見知らぬエルフに話しかけられた。周りで見ていたエルフが、いつの間にか近づいてきていた。おじいさんやおばあさんもいて、里長さんと比べると戦えるとは思えない。

「任せて大丈夫なの?」

「人間の子どもが里の為に戦ってくれているのだ。さっきまで見ているだけだった自分が情けない。光り輝く少年を見たあたりから、やっと自分が情けないことをしていることに気が付き始めたんだ」

 エルフの里のために戦ってるんじゃないけど……まあいいか。少し気になることを言っている気がするけど、そのこともどうでもいい。戦ってくれるのなら戦ってもらおう。エルフが風魔法を使い始める。

「よし、私も」

「待て……」

 倒れている里長さんに話しかけられた。

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