第24話 エルフの里

 門番にしばらく足止めされたけど、とりあえず里の中には入ることができた。周りのエルフたちに随分と警戒されているけど、そんなことは無視。森で助けたエルフの男に少し近寄る。

「まずは病院に連れて行って」

 少し喋るだけで集中力が途切れそうになる。どうにか持ち直したけど、私は喋らないほうがよさそう。

「ああ、わかってる。人間は嫌いだが、命の恩人を見捨てるなんてことはしない。任せてくれ」

 人間嫌いではあるんだね。まあ、私もエルフは好きでも嫌いでもないし、どう思われようと気にしない。むしろ、初対面で好きって言われるほうが気持ち悪い。

 病院にはすぐにたどり着いた。町の病院は他の建物より二回りほど大きかったけど、ここの病院は他の建物と変わらない大きさだ。そのせいで怪我したエルフで溢れかえってしまっている。順番を待っているエルフが十人以上はいるね。

 杖を持った不気味な女っていう化け物にやられたのかな。そういえば、その化け物は見当たらないけど倒した? 気になるけれど、まずは治療だ。

「みんな! 通してくれ!」

 エルフの男が病院に入っていく。フレンは重傷だから、優先して診てもらえないか頼みに言ったのかもしれない。そうじゃなったら怒る。


🌙


 少し待ったけど、病院の中に入れてもらえた。重症だから優先してもらえたみたいだ。ベッドにたくさんのエルフが眠っている。ベッドで病院の中がいっぱいだ。

 一人だけ白衣を着たエルフの女性がいる。エルフの女性がこちらに近づいてきた。

「その子から治療を始めるわ」

 エルフの女性はエストを抱えてベッドに寝かせる。すぐに魔法で治療を始めた。どうしてエストからなんだろ?

「わ、私は……」

「その体でよく歩いてこられたわね。内臓がボロボロで腕の骨もひどい状態。

ひどい状態の骨は腕だけじゃないわね……」

 ……私が馬鹿だった。森の破壊王ダークグリズリーに突進されたんだ。外から見れば平気そうでも、中が無事だとは限らない。そんなことくらい、少し考えれば気づくだろうに。

「エスト……ごめん」

「私は大丈夫よ! 少し休めば治るから!」

 エストは笑っている。でも、よく見れば辛そうな表情が隠れている。フレンは右腕を噛み千切られて、エストはこんな死にかけてて、私だけ無傷。フレンの隣で戦うとか言っておいて結局は……結局何もできてないじゃないか。


🌙


 フレンの治療が始まったところで私は外に出た。

「よう。悪いが里長のところまで来てくれないか」

 森で助けたエルフの男が話しかけてきた。

「あんたらがこの里に何をしに来たか知らないが、里長に会えば話は早いと思うぞ。だから頼むよ。俺一人だと人間を連れてきたことを怒られちまう」

「……わかった」

 なんだか頭がボーとしている。さっきまでずっと集中していたからだろうか。こんな状態で里長さんと会うのは不安だけど、フレンとエストには休んでもらわないと。できるだけのことはしよう。

「そうだ、名乗ってなかったな。俺の名前はニッチだ」

「私はルナ」

 ニッチね。一応覚えておこう。変な名前だし忘れないでしょ。

「ニッチはこの里では偉いほうだったりする?」

 もし偉いエルフだったら、助けてすごい得したことになるんだけど。

「一応、里長の弟ではあるな。偉いというよりかは、厄介者って思われていそうだが」

 ふーん、まあ、普通のエルフを助けたのよりかはマシかな。


🌙


 到着したときはそれどころじゃなくて見ていなかったけど、エルフの里は化け物に襲われてぼろぼろになっていた。どうやらニッチが森で話していたことは嘘ではないみたい。

 全壊や半壊している建物は珍しくない。全壊している建物は後回しにして、すぐ住めるようになりそうな建物から修復しているようだ。

 それにしても見られてるな。憎悪とか、そんな感じの感情のこもった視線な気がする。

「人間が来ることって珍しいの?」

「まあな。居心地が悪いと思うが少し我慢してくれ」

 なんか今にも襲ってきそうな雰囲気のエルフもいて怖いな。まあ、人間に里をぼろぼろにされたばかりだし、こうして人間にうろうろされると殺したくもなるのかな。

 ……あ。

「フレンとエストは大丈夫かな」

 怪我している二人をエルフがたくさんいる場所に置いてきちゃった。私がいたところで守り切れるわけないけど……というか、どこにいてもエルフだらけだから、私たちにとって安全な場所なんてないのか。

「医者のねーちゃんは俺たちからしても秘密の多い怪しいエルフだが、患者はどんな種族でも治す。もし患者を殺そうとするエルフがいたら、反対に返り討ちにするだろうから安心しろ。危ないのはあの二人よりルナかもしれないぞ」

「……そうだね」

 私も医者のエルフの女性は大丈夫な気がしたから、こうしてニッチと行動しているのかもね。あまり気にしていたら何もできないし、早くできることを終わらせて、二人を迎えに行こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る