第7話 助け合い

「よく眠れたか?」

 上半身を起こしてぼんやりしていたら、知らない男の人に声をかけられた。この人誰だろう? この家の人かな。そういうことにしておこう。

「うん。お布団貸してくれてありがとう」

「布団だけじゃねえ。傷の治療も洗濯もしてやったんだ。礼は倍返しで頼むぜ。ゲヘヘ」

 親切な人だなぁ。この人が助けてくれなかったら死んでたかもしれない。でも……

「お金なんて持ってないよ。倍返しなんて無理だよ」

「そんくれぇわかるさ。金なんていらねえよ」

 男の人は少し不機嫌になってしまった。お金が嫌いなのかな?

「その話は後だ。まずは飯を食え。食わねえと傷が治んねえぞ」

「ご飯までもらえないよ」

「いいんだよ。倍返ししてもらうから」

 怖いなぁ。何を返すことになるんだろ。でも、口調が怖い割には良い人っぽいね。

 パンをくれたから食べることにした。お腹ぺこぺこだったからすごくおいしい。お茶もおいしい。


🌙


「ごちそうさまでした」

 パンを食べている間に自己紹介とかした。名前はローランで情報屋らしい。情報屋って初めて聞いた。

「『情報同盟』ってギルドがあってな。あちこちに散らばって、あらゆる情報を集めて、それを本部に送る。情報と金を交換ってわけだ。嬢ちゃんから金を貰わなくても、その傷を負った理由を聞けば儲かるってわけよ」

 聞いてないのに色々教えてくれた。ギルドってのは先生のメモ帳に書いてあったような。よく覚えてないけど、同じ仕事をする人たちが集まったらギルドになる。そんな感じだったかな。

「お金が嫌いなのかと思ったよ」

「金なんてどうでもいいんだよ。俺は話を聞きてぇ。だからこの仕事をしてるんだ。金なんておまけだって―の」

「へー変わってるね」

 正直な感想だった。お金がないとご飯も食べられないからね。

「このあたりの領主はぼったくり野郎だからな。嬢ちゃんの気持ちも分からんことはない。さて本題だ。その傷を負った理由……いや、昨日のこと、一昨日からでもいい、全部話してくれ!」


🌙


 ローランは聞き上手で、旅に出てからのことを全部話したけど、それほど時間はかからなかった。

「嬢ちゃん頑張ったなぁ……俺、感動しちまったよ。森の破壊王ダークグリズリーゾンビは地面の振動に反応していて、軽い嬢ちゃんよりも重い鎧を着た坊主に強く反応していた。嬢ちゃんの投げた鎧の欠片の振動で誰かいると思ったゾンビは、そっちへと向かっていったってわけだな。嬢ちゃんの勇気が絶望的な未来を変えたんだな……」

「視力とか聴力とかほとんどなかったみたいだったよ」

 視力の方は少しは確実にあったから、結構危なかったと思う。ゾンビ化して馬鹿になっていてくれて助かった。

「ゾンビの野郎はいずれいなくなり、坊主が残った力を振り絞って町へとやってきた。嬢ちゃんを背負ってな。会ったばかりだってのに二人とも見捨てねぇなんてな。こんな助け合い初めて聞いたぜ。いや、これは助け愛かもな」

 話に満足してくれたみたいで良かった。少しはお礼できたかな。

「私の話せるのはこれくらいなの。あとはこれくらいかな」

 先生のメモ帳を見せる。これもフレンは運んでくれたみたいだ。

「ああ、それか。悪いが話で得た情報しか信用しねぇんだ。俺には【聞く】能力アビリティがあるからな」

 能力! まさかこんなに早くて出会うことができるなんて。

「普通の聞くって言うのとは違うの?」

「違うね。まず本当か嘘か分かる。どれだけ気持ちが込められているかもわかる。言葉の裏に隠された感情まで分かる。話を聞いて俺に分からねぇことはねえのさ」

 すごーい! 私の能力も知りたい!


🌙


 先生のメモ帳がお礼にならないんじゃお礼できないや。

「治療の時に私の体見たんでしょ? 倍返しは無しにしてよ」

「がきんちょの肌見ても何にも思わねえよ」

「ひどーい」

 まあ、仕方ないか。

「分かったよ。でも払うのを延期くらいにはできない?」

「もちろんいいぜ。それどころか、情報量によっては金を払ってやるよ。坊主と助け合っているように、俺とも助け合おうぜ。な?」

「いいよ」

 断る理由はなかった。少し怪しいところもあるけど、命を助けてもらったし、たとえ悪い人だったとしてもお礼はしないといけない。

「正直でいいねぇ。それじゃあ最初の助け合いだ。坊主のことだが、なかなか目を覚まさねえな」

「うん」

 それは思ってた。これだけ隣で話しているのに起きないのは、よほど消耗してしまっていたのか、お母さんみたいに理由があるのか。

「あ」

 どうやらお母さんみたいに理由があるみたい。森の破壊王の呪いが少しだけフレンに移ったのか、呪われた魔力を体から感じる。このままフレンが死んだりしたらゾンビ化する可能性がある。どうにかしないと。


🌙


 フレンの体のことをローランに話した。助けられる方法を知ってたらいいけど。

「嬢ちゃん。ここからの情報は有料になるが、それでもいいかい?」

「これまでのは無料だったんだね。すぐには払えないけど、必ず返すから教えてほしい」

「ゲヘヘ、毎度ありー。貴重な話を楽しみにしてるぜ」

 借金が溜まっていく。未来の私頑張って。

お呪いおまじないのことが書かれたものなら、この町の教会に魔導書か何かあるはずだぜ」

 なるほどね。呪いの弱点である光魔法を神父さんに使ってもらうんだ。それか、お呪いのことを調べて、自分で解除するんだね。

「だがな、この町のシスターは詐欺師でよ。神を信じる馬鹿どもから金を巻き上げるような奴だ。嬢ちゃんに協力してくれるとは思えねえ」

「どうしたらいいの?」

「俺は情報を売るだけだ。どうするのかは自分で決めな」

 シスターって人が悪い人なら協力してくれないかもしれない。でも、もしかしたら快く強力してくれるかもしれない。とりあえず行ってみよう。一人で行くのは不安だけど、フレンは一人で森の破壊王と戦ってくれたんだ。私も頑張らないと。

「決まったようだな。ちょっと待ってな。嬢ちゃんに似合いそうな服を買ってきてやるよ。もちろん倍返しな」

 あ、私の体は包帯を巻きつけただけだった。着ていた服は外に干してくれているのだろう。こんな格好じゃあ外に出られない。

 借金がまた増えちゃうけど、素直にお願いすることにした。

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