第4章

 あれからどのくらいの日数が経ったろうか。ずいぶん経った気もするけれど、昨日のような感じもする。たぶん暦を見たら、一週間くらいしか経っていないのだろう。

 学校の帰り道。

 わたしは元カレと一緒に北の丸公園のベンチに肩を寄せて座っている。

 今日は珍しく部活も休みらしい。

「キス、していい?」

 そう聞いてきたので、わたしは考えるふりをする。

「いや、ダメならいいんだけど」

 先輩のくせに心配そうな声色だ。

「ふふ、いいよ」

 そうして彼と唇を重ねる。ただ唇を触れさせるだけの軽いキス。わたしは、もっと深いキスを知っているけれど、そのことは秘密。


 あの日、ストーカーさんともみ合っていたときに現れたあと、わたしとストーカーさんを引きはがし、なんだかよくわからないうちに事態は収束していた。

 とりあえず、先生にはバレなかったらしいから、小さく収まってよかったと思った。

 その後、わたしは元カレに手を引かれたまま、二人きりで向かい合った。そこで、再度告白された。

「あのさ、俺とまた付き合ってくれないかな」

「でも、わたしにいま、彼氏がいることは知っているでしょ?」

援助交際の噂は当然、元カレのところまで回っているはずだ。

「うん、わかってる」

「なら――」

 わたしの言葉を遮って言う。

「でも俺は、お前と彼氏さんが体の関係にあるなんて思ってない。俺と付き合ってる時だってそんなのを求めたことはなかったし、キスすらしなかったから。お前は簡単に体を差し出す人だなんて思わないから」

「うん」

「だから、お前さえ良ければ、俺とも付き合っていてほしい。わがままなことを言っているのは分かっているよ。だから、これでだめなら、諦める。俺は空手も陸上も辞める気はないから、お前の寂しさを埋めてやることはできない。でも、お前の寂しさを埋める人は、すでにいてくれてるわけだよね。悔しいけど」

「うん」

「お前は俺と別れるとき、『好きだからこそ別れよう』って言ってた。今もその気持ちが変わらないなら、俺はお前の彼氏でいたい。学校で会える時は一緒にいよう。お昼ご飯も一緒に食べよう。できるだけ近くにいるようにするよ。だからさ」

 わたしは迷った。どうすべきなのか。でも、元カレも、今の彼氏も、行動範囲が違うんだから、このことがバレることはない。悪いことをしていても、バレなければ罪ではない。

「わかった。いいよ」

 わたしは、そう答えた。

「ごめん、ありがとうね」


 わたしは、彼と重ねた唇を離す。そうして見つめあったまま二人で微笑む。

「そういえば、あの日はなんでわたしとストーカーさんが揉めてるって分かったの?」

「たまたま通りがかったんだよ。そしたら、泣き声なんだか叫び声なんだかわからないような声が二人分聞こえたからさ。あの場所って、姿は見えないけど、声は結構響くんだよ」

「そうだったんた」

 こちらの彼氏は、わたしがまだ処女だと思っている。

 わたしは笑いながらスマホを開く。

 画面にはLINEの通知が来ていた。

 こちらの彼氏は、わたしが元カレと復縁したことを知らない。

 わたしは二重の秘密を抱えながら彼らと生きていくのだなと思い、罪悪感を感じながらも、その罪悪感はなぜか清々しく感じた。

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