第11話 《Bパート》

 翔太は、暗闇の中を走っていた。アパートの入り口を走っているはずなのに、その距離は異様に長い。何も見えない暗闇だったが、翔太の手の中にあるカードは、闇の向こう側に青い光を指していた。先に、譲がいる、という確信をもって翔太が走り続けた時。

 がくん、と、身体が傾く感覚。それを――翔太は知っていた。

「これって……!」

 走っていたはずの足が、地から離れる。身体が宙に浮くようにバランスを失う。それでも青い光は一点を指し続けて線を作っていた。

「この先に譲がいるって……まさか……!」

 そして、翔太の足がようやく地に着く。青い光は翔太の正面を指し、そこには――

「譲!!」

 暗闇の中、真っ直ぐに立つ譲の姿があった。翔太と向き合うように立つ譲だが、翔太の姿を見ても何の反応も見せない。

「譲、待ってて! 今そっちに!」

 翔太は譲に向かって手を伸ばして走ろうとしたが、その手には見えない壁で遮られる。

「なっ……?!」

「……バトルだ」

 小さく開かれた譲の口から放たれたのは、力のない低い声。翔太を見つめるその瞳には、光が灯っていなかった。

「譲……!」

 譲の宣言と同時に、翔太の前に白い光の線が走る。線と線が繋がりブレバトのバトルフィールドを形成する。

 翔太は、この空間を、このバトルを知っている。以前、ディス・パレイドの騎士シャドウと戦った時と同じ、闇に包まれた空間。そして、このバトルは――ダメージがブレイバーの身体に痛みを伴う。

「譲!! やめて!! このバトルは、ただのバトルじゃない!!」

「――何を言っても彼には届きはしない」

 翔太が譲に叫んだその時。譲の隣にぐにゃり、とした影が生まれる。そしてそれが少しずつ形を作り、黒い鱗の半魚人の姿が現れた。

「だ、……誰だっ!!」

「私の名は、『深淵の賢者 ダークマーリン』……彼のアルターだ」

 黒い鱗にぎらぎらと光る金色の目。それ以外、見た目はほとんど翔太が手にしている譲のアルター『深海の賢者 マーリン』と同じだった。

「譲のアルター……? 違う! 譲のアルターはマーリンだ!」

「果たしてそうかな? 彼は、私を受け入れたのだから」

 翔太の叫びに対し、黒の半魚人――ダークマーリンはくすくすと笑いながら譲の頬に触れた。触れられた譲は表情を一切変えず、虚ろな瞳で正面を見ているだけだった。

「譲に……譲に何をしたんだ!! 譲を返せ!!」

「なら、方法は一つ」

「――バトルだ」

 ダークマーリンの言葉に合わせるように、虚ろな表情の譲は小さく口を開いた。同時に、譲の前にあるバトルフィールドに黒いデッキが置かれ、翔太の目の前のフィールドにも赤いデッキが置かれた。

「さあ、どうする? バトルをしないのなら、キミは無事に返してあげよう……彼は、私のモノだけれど」

 にや、と笑うダークマーリンに翔太は表情を強張らせる。このバトルがただのバトルではないことは、翔太自身が一番知っている。

――あいつを倒して……仲間を……!

 翔太の頭の奥に響く、ショウの声。その姿を思い出して翔太はぎゅっと目を閉じた。

「おれは……!」

 くすくす、とダークマーリンの笑い声があたりに響き渡る。その声を聞いてもなお、譲の表情は一つも変わらない。翔太は拳を握って震えていた。

――譲を……

「……っ!」

 その時、翔太の耳に声が届く。目を開けると、赤く輝くデッキの一番上に青い光が見えた。

「……これ、って」

 青い光の中に映るのは、『深海の賢者 マーリン』。その姿は祈るように手を組み、目を深く閉じていた。

――譲を……誰か、……助けて……

「マーリン……」

 そこに映し出されたマーリンの姿を見て、翔太は強く頷いた。

「おれが……譲を助ける!!」

 そして、デッキを手に取り、翔太は真正面に立つダークマーリンに向かって叫んだ。

「おれと勝負しろ!! おれが勝ったら、譲を返してもらう!!」

「いいだろう。なら、私が勝ったら……フフッ、キミも彼と同じようにしてあげよう」

 翔太の宣言を聞いたダークマーリンは薄く笑い、そして一歩前に出た。

「アルターコール、『深淵の賢者ダークマーリン』」

 譲は言いながら、一枚のカードをアルターゾーンに置いた。ダークマーリンの周りに黒い風が渦巻き、服がふわりとなびいた。翔太も、自分の手元に一枚のカードを引き寄せた。

「……アルターコール、『剣の勇者ショウ』」

 アルターゾーンにカードが置かれると、目の前にショウの姿が現れる。

「ショウ!」

 翔太が名前を呼ぶが、目の前のショウは微動だにしない。そこに立つショウは――あくまでカードの中のショウだった。

「ふん、我々に歯向かう勇者がまだいたとは。まあいい、勇者など我々、ディス・パレイドが全て滅ぼしてやる!」

 にや、と笑いながらダークマーリンは翔太たちに向かって言い放った。翔太は険しい表情を浮かべ、手を動かした。

「くっ……! ば、バトルだ! ドロー! チャージ、ドロー!!」

「カードを一枚レイズ。アクション」

 アクションゾーンに裏返しに置かれたカードを、翔太と譲は同時に表に返した。

「パーティーコール! 『勇者の剣シルバーソード』でアタック!」

「『無知の力 イグノラント・ナイト』でアタック」

 翔太が宣言するとショウの前に銀色の剣が現れ、ショウはそれを掴んでダークマーリンに向かって走る。一方、ダークマーリンの前には、錆びついた銀の鎧を全身に纏う騎士、イグノラント・ナイトが現れた。ゆらゆらと揺れる不気味な鎧姿に、翔太はびくりと震える。

「『ダークマーリン』のアルター効果、『聡明な犠牲』発動。手札のカードを一枚ドロップゾーンに置くことでアクションポイントを500ずつアップ」

 譲が淡々とした口調で宣言すると、ダークマーリンがイグノラント・ナイトの肩に触れた。ダークマーリンの手から出た黒いオーラがイグノラント・ナイトの身体全体を包む。

「ああ……あああ!」

 悲鳴のような、咆哮のような、獣のような声が鎧の中から放たれる。そして、イグノラント・ナイトは茶色に錆びた剣をショウに向かって乱暴に振り回した。その剣が当たったショウの身体は吹き飛ばされて、地面に叩き付けられる。

「ショウ! うっ……うわぁっ!!」

 ショウに向かって叫んだ翔太の全身に、痛みが走る。叩き付けられたような痛みに、翔太は思わず地に膝をついた。

「うっ……!」

「『イグノラント』の打撃力は2。次のラウンドだ」

 目の前でうずくまる翔太を見ても、譲の表情も声色も変わらない。完全に操られている状態の譲を、翔太はじっと見つめた。

「……っ、カードをレイズ……」

「パーティーコール、『滑稽な槍 アンジャスト・スピア』」

 譲がカードを表に返すと、刃先が奇妙に曲がった青銅色の槍がダークマーリンの前に現れた。ダークマーリンはにやりと笑いながらその槍を掴み、刃をショウに向けた。

「おれは『炎の狼 ファイヤ・ガルル』をパーティーコール。ディフェンス!」

 ショウの前に炎を纏った狼、ファイヤ・ガルルが現れ咆哮をあげた。

「エフェクト、『高笑いの刃』を発動。チャージを2つ追加し、さらに相手にダメージ1を与える」

「ふっ、ハハハハ! 残念だったねえ、勇者くん!」

 ダークマーリンが笑い声を上げながら槍を振ると、風が吹き荒れ、ファイヤ・ガルルの小さな身体が吹き飛ばされて炎と共に消える。ショウのマントも強くなびき、そしてその風を避けようとした翔太の腕に鋭い痛みが生じる。

「うっ……!」

 翔太のライフは7、譲のライフは未だに10のまま。このままダメージを受け続けるままでは譲を取り戻すことはできないと焦る翔太を、ダークマーリンが嘲笑う。

「おやおや? 随分と消極的な戦い方だなあ? それとも、このまま彼を私のモノにしていいということかな?」

「違う!! おれはカードをレイズ!!」

 ダークマーリンの言葉を否定する様に、翔太は叫び、カードを裏返しに置く。譲も、そっとカードをアクションゾーンに置いた。

「アクション。『新たな知恵 メラ・ドーロ』をパーティーコール」

「おれは『勇者の剣 レッドソード』をパーティーコール!」

 ダークマーリンの前には黄金に輝く林檎――メラ・ドーロが現れ、ショウの前には赤い刃のレッドソードが現れる。ショウはその剣を取り、ダークマーリンに向かって構える。

「『メラ・ドーロ』でエフェクト、成功時チャージを3増やす」

「おれは『レッドソード』でアタック! レッドソードの打撃力は2!」

 譲と翔太がそれぞれ宣言をする。その宣言を受けたショウは、ダークマーリンに向かって、剣を振った。炎を纏った風がダークマーリンに向かって吹き、そしてその風は譲の元にも届いていた。

「……」

 ぐら、と譲の身体が揺れる。その表情は苦痛に歪む。

「譲!!」

 翔太が叫ぶが、譲は体勢を整えて再びフィールドの前に立った。先ほどの苦痛に歪んだ表情はなかったが、やはり無表情のままだった。

「……『メラ・ドーロ』は、アクション失敗時、ドロップゾーンからチャージを2つ増やすことが出来る」

 淡々とした口調で言う譲に、翔太はぎり、と奥歯を食いしばる。

「さあ、次のラウンドだ!」

 高らかに、ダークマーリンが言う。翔太は焦りを抱きながら、自分のライフとチャージゾーンを確認する。翔太のライフは7、チャージは3。譲のライフは8、チャージは6。

 翔太と譲はデッキからカードを引き、チャージゾーンに置いてもう一枚カードを引いた。

「パーティーコール、『奪う剣 シーフ・シミター』」

 ダークマーリンの前に、鈍い銀色に光る曲剣が現れる。ダークマーリンはそれを掴み、軽々と振り回す。

「おれは、『勇者の盾 ラウンド・シールド』をパーティーコール。ディフェンスだ!」

 ショウの前に銀色の盾が現れる。ダークマーリンはくく、と喉の奥を鳴らして笑う。

「残念だったなあ、勇者クン?」

「エフェクト、『強奪の犠牲』。オレはライフを1払い、相手ブレイバーに支払ったライフ分のダメージを与え、チャージを奪う」

「えっ……?!」

 譲の効果説明に、翔太が目をはっと開く。直後、ダークマーリンは譲に向かって曲剣を振り下ろした。

「ぐぁっ!!」

「譲!!」

 剣のダメージを受けた譲はがくり、と地に膝をついた。剣撃を受けた左肩を押さえて荒い呼吸をする譲を、翔太は揺れる瞳で見るしかできなかった。

「ふん、ライフ1程度か……まあ、いい」

 ダークマーリンはシーフ・シミターが纏う青いオーラを、目を細めてみる。それから、ぎろ、と視線をショウ――の背後にいる翔太に向けて歯を見せて笑った。

「オラァ!!」

 ダークマーリンは低い声を上げ、乱暴に剣を振った。ラウンド・シールドを構えるショウの身体は易々と吹き飛ばされ、そして、翔太の身体も地に叩き付けられた。

「うわぁっ!」

 どすん、と翔太の全身に音が響く。うめき声を上げる翔太を、ダークマーリンは嘲笑うように見ていた。

「おやおや、もう立てないのかな? まあ、そもそも私に勝負を挑む時点でキミの負けは決まって――」

「どうして……」

 嬉々とした声で多弁に語るダークマーリンに、翔太はうめき声交じりの言葉を繋ぐ。

「どうして……譲のライフを犠牲に……!」

「どうして?」

 翔太は立ち上がろうと、前を向いて地面に手をついた。そんな翔太をダークマーリンは見下していた。ぎらぎらと輝く黄金の瞳が、にやりと歪む。

「コイツのライフなんてどうなっても構わないさ……私が勝てれば、なァ!!」

「……ッ!!」

 ダークマーリンの言葉に翔太は怒りを露わにダークマーリンを睨む。その翔太の表情を見ても、ダークマーリンは嘲るような笑い声を上げていた。

「さあ、どうする勇者クン? 賢明な判断がキミに出来るかな? ッハハハハ!」

 翔太は拳を強く握る。翔太のライフは6、チャージは7。譲はライフ・チャージ共に7。自分がバトルでダメージを与えても、このままバトルを続けていても、譲に痛みを与えてしまう。苦悩の中、翔太はようやく立ち上がった。

「でも……勝たないと……! 譲をこのままにしておけない……!」

「はぁ……キミは愚か者の道を行くようだな。哀れだ……」

 先ほどまで嘲笑していたダークマーリンだったが、立ち上がった翔太を見た途端、顔から笑みを消した。

「ならば、哀れなキミを私が導いてあげよう……破滅の道へと」

 鋭い金の瞳が、翔太を射抜くように見つめる。翔太の背筋にぞくり、と悪寒が走る。

「ど、ドロー! チャージ、ドロー!!」

 そんな悪寒を振り払うように、翔太は叫びながらカードを引いた。

「アクション! おれは『炎の剣 フレイム・ソード』でアタック!」

「ブレイク」

 譲は小さく口を開いて、しかしはっきりと宣言した。その単語に、翔太の目が大きく開かれる。

「『破滅の黙示録』、チャージを5、そしてライフを2支払い発動。相手にダメージ5を与える」

「なっ……?! ダメだ、譲!!」

 譲の言葉に翔太が叫ぶが、その声は譲には届かない。翔太の悲鳴のような声を聞いたダークマーリンは、再び歪んだ笑みを浮かべた。

「何を叫んでも無駄だ。彼にはキミの声は届かない」

 そして、ダークマーリンの前に一冊の本が宙に浮かび現れる。ダークマーリンはその本のページをめくり、目を薄く開いて翔太を見た。

「勇者クン、キミに教えてあげよう。――これが、破滅の道だ」

 ダークマーリンが言った直後。

「ぐっ、うわあああっ!!」

 ダークマーリンの背後で、譲が悲鳴を上げる。譲の周りには黒いオーラが纏わりついていた。

「譲!!」

 そのオーラはダークマーリンの持つ黒い本に吸収される。そして吸収し終えると、譲の身体は力を失ったように地面に倒れた。

「譲……譲!!」

「人の心配をしている場合かな?」

 翔太が譲に向かって叫ぶ。その間に立つダークマーリンは本の中のページを指先でなぞっていた。

「……闇よ、我が言葉に答えよ」

 ダークマーリンの言葉に反応する様に、翔太の周りに黒いオーラが揺らめく。翔太ははっと、あたりを見る。

「飲み込め、奪え」

 黒いオーラが翔太の足と腕に纏う。ぎり、と縛り付けるような痛みに、翔太は抵抗しようと手や足を動かす。

「くっ……?! 何、これ……?!」

「暗黒の中、彼の者に絶望を与えよ!!」

 ダークマーリンが翔太に掌を向ける。その手の中から、翔太に向かって一気に闇のオーラが放出された。

「うわあああああっ!!!」

 真っ暗な闇に包まれ、全身に痛覚が走る。闇が消えた途端、翔太の身体もばたり、と地面に倒れた。

「うっ……ううっ……!」

「ッハ、ハハハハ! ああ愉快、愉快! また愚か者を破滅へと導けたのだからなあ!! ハハハハハ!」

 高笑いを上げるダークマーリンの姿も、その足元で倒れる譲の姿も、翔太の視界からどんどん薄れて行く。痛みが、全身の感覚を鈍らせていた。

「ゆ……ず、る……」

 翔太は、わずかに残った力で譲に向かって手を伸ばす。しかし、その手は思うように動かず、途中で地に落ちた。

「おれ……おれは……!」

 感覚が、遠のいていく。翔太の瞼が少しずつ閉ざされていく。


――お前は、どうしたいんだ

 そんな声を、翔太は聞いたことがあった。誰の声だったか――鈍っていく翔太の感覚では、思い出せない。

――おれは、強くならないといけない。リヴァーズを守るためにも、もっと強く

 真剣な表情の少年。彼は翔太の顔を見ると、ふっと柔らかく笑った。

――おれの仲間を返せ!!

――おれは……ここで退くわけにはいかない……! おれは、お前に負けるわけにはいかないんだ!!

 強い意志が含まれた、少年の声。例えどんなダメージを受けても、少年は構えた剣を下ろそうとしなかった。例え相手がどんなに強い敵でも――負けたくない、と背中が語っていた。

――おれは、ここで負けたくない。だから、お前の力を貸してほしい。

 赤いマントを揺らして、自分に振り向く少年。真っ直ぐな黒い瞳が、翔太を見つめていた。

 自分をここまで導いたマーリンの光。操られてバトルをし、ダメージを受けて倒れている譲。残された自分のライフは1つ。

――お前はどうなんだ、翔太

 少年が――ショウが翔太に問いかける。

「そんなの、決まってるじゃないか!!」


 ダークマーリンが笑いを止める。倒れていたはずの翔太の身体が小さく動き始めた。

「……ん?」

「……お、れ」

 翔太は拳を握り、地を押す。ゆっくりと、翔太の身体が起き上がる。

「おれ、知らなかった……。ショウは、ずっと、一人で戦ってたって……」

 震える翔太の身体を見ながら、ダークマーリンは鼻で笑う。

「何だ、まだ立ち上がるか? まだ戦うつもりか? 残念だが、キミに勝ち目はない。諦めたほうが賢明だ」

「ショウは……諦めなかった」

 ダークマーリンの嘲笑を受けても、翔太は立ち上がろうとする。光るバトルフィールドに手をかけて、翔太はしっかりと立つ。

「負けそうだっておれが思ってたバトルも、ショウとなら戦えた。例え負けたって、また、立ち上がろうって思えたんだ……」

――おれ、もっと強くなれる気がしたんだ

 翔太の目の前にいるショウは、カードの中で剣を構えるポーズのままだった。しかし、翔太の中にはショウの声が響いていた。

「おれは……まだ負けてない。……負けたくない!」

 翔太は顔を上げ、叫んだ。

「おれはお前に勝って、譲を取り戻す!! お前たちディス・パレイドなんかに負けない!! もっと、もっと強くなるんだ!!」

「ハッ! 今さら何を言う!!」

 翔太の叫びを嘲笑うダークマーリンが手を背後に向ける。倒れていた譲の身体がふわりと浮かび、立ち上がった。虚ろな表情の譲だったが、その顔色は先ほどまでより明らかに悪くなっている。

「愚かな勇者は何度でも導いてやらないと理解できないようだな! キミはここで敗北する!! キミに彼は救えない!! ディス・パレイドには敵わない!!」

 ダークマーリンが翔太を威嚇する様に低い声で叫ぶ。しかし、翔太はそれに怯むことなく叫び返した。

「おれは譲を助ける!! 絶対にお前に勝つんだ!!」

 翔太の前のバトルフィールドの、アルターゾーンが赤い光を灯す。翔太はそれに気付かないまま、ショウの背中を見つめていた。

「おれは……もう、バトルなんて嫌だって思ってた……、おれには関係ないって……。でも、おれ、譲を助けたいんだ……。おれ一人の力じゃ、……勝てないから」

「何だ、十分理解しているじゃないか」

 翔太の小さな言葉を聞き逃さなかかったダークマーリンが翔太を見下しながら笑う。そんな笑いを受けても、翔太はダークマーリンをまっすぐに見つめた。先ほどまであったはずの怯えや不安の色が見えない翔太の瞳にダークマーリンは訝しげな表情を浮かべる。

「何だ……その目は……!」

「そうだ……おれ一人じゃ、勝てない。だから……」

 翔太はぎゅっと目を閉じて、その名を呼んだ。

「一緒に戦ってくれ!! ショウ!!」

 瞬間。アルターゾーンから、ショウの周りから、赤い光が一気に放たれた。

「なっ?! 何だ、この光は?!」

 突然放たれた光に動揺したダークマーリンは光から目を隠そうと両腕を顔の前で覆う。一方の翔太は、その光の中にいる人影を見つめていた。

「……翔太」

 光が少しずつ薄まり、人影がはっきりと映し出される。翔太を見つめていたのは――ショウだった。

「ショウ……!」

 翔太が、震える声でショウを呼ぶ。ショウは、困惑したような表情で、翔太を見つめていた。

「どうして……お前……」

「今、譲がディス・パレイドの奴に捕まってるんだ」

「え?」

 翔太の説明にショウがはっと目を開く。そして振り返れば、光が消えてようやく顔を隠していた腕を下ろし、不快感をあらわにした表情を浮かべるダークマーリンが立っていた。その後ろには、虚ろな表情の譲の姿もあった。

「まさかお前……一人で戦ってたのか?!」

 ショウは再び翔太の方を向き、驚いたように叫んだ。翔太は恐る恐る、小さく頷いた。

「どうして……どうしてお前が、ディス・パレイドと戦ってるんだ?!」

「譲を助けたいんだ!!」

 翔太の叫びに、ショウははっと息を呑んだ。今まで、翔太がこんなにも強く意志を見せる姿を、ショウは見たことがなかった。

「おれ……正直ショウと一緒に戦っても、ショウの気持ちがわからなかった……。シャドウとの戦いのときだって、ショウが戦うからってだけで戦ってたんだ……。おれは、関係ないって……。でも、今は譲を助けたい……大切な友達を助けたい……! だから……!」

 翔太はぎこちなく、けれどしっかりと、ショウへの思いを紡ぐ。そして、ショウの顔を見つめて、はっきりと言った。

「おれも、ショウと一緒にディス・パレイドと戦う。ショウと一緒に、強くなりたい!」

「……翔太」

 翔太の言葉を聞いたショウの瞳が、震える。そして、そんな瞳を翔太に見せまいと、ショウはぎゅっと目を閉じた。

「翔太、おれ……ずっと、一人で戦ってきてたんだ」

 目を閉じていても、ショウの言葉は震えていた。翔太はそんなショウの言葉を小さく頷きながら、しっかりと聞いていた。

「仲間を助けたいって思いながら、でも……本当は、逃げ出したいって、いつも、思っていたんだ」

 ショウは、溢れ出そうになる感情を抑えるようにこぶしを握る。ちゃんと翔太に思いを届けようと、ショウはゆっくりと目を、開いた。

「怖かった。ずっと、一人で……でも、翔太が一緒に戦ってくれた時……嬉しかった。背中に仲間がいて、そんな仲間の……翔太のために戦おうって、思ったんだ」

 ショウの瞳には、涙が浮かんでいた。瞬きをした途端、雫が頬を伝う。

「翔太が戦えないって、わかってた。この戦いに関係のないお前を、おれが勝手に仲間だって思って。だから、また、今まで通りに一人で戦おうって思って……でも、怖かった。もう、一人になりたくないって……」

「ショウ……」

 ずっとショウは強いと、翔太は思っていた。剣も使って、仲間のために戦うと言い、あのシャドウに立ち向かおうとしていた。しかし、目の前にいるショウは――自分と同じだった。

「翔太。本当に、おれと、戦ってくれるのか?」

 ぽろぽろ、と涙をこぼしながら、ショウは翔太に尋ねた。

「これから先、もっと厳しい戦いが待ち受けているかもしれない。前の戦いより辛い思いをするかもしれない。それでも、……それでも戦ってくれるのか?」

 不安に震えるショウの声に、翔太はしっかりと頷いた。

「戦うよ。だって……」

 翔太はアルターゾーンにあるショウのカードに触れる。

「おれたちは、一緒に戦う仲間だから」

 再び、ショウの姿が赤く光る。その光景を、ダークマーリンは忌々しいと言わんばかりの表情で見つめていた。

「慣れあいはそのあたりにしてもらおうか! 今さら私に立ち向かおうとしてももう遅い……」

「いいや!」

 ダークマーリンの言葉を遮ったのは、ショウの声だった。ショウは銀色の剣を大きく振り、ダークマーリンに刃を向けた。その後ろにいる翔太も、真っ直ぐにダークマーリンを見ていた。

「おれたちは、まだ、負けてない!」

 翔太とショウの声が、重なる。その声を聞いたダークマーリンの表情からは、先ほどまでの余裕が失われていた。

「愚か者どもが……! 私に勝てると思うな!!」

「勝負だ!! ドロー!」

 ダークマーリンの言葉を聞いても翔太は怯むことなく、カードをデッキから引いた。そして、手札の一枚をチャージゾーンに置き、もう一枚引く。

「チャージ、ドロー!」

 翔太の手元に来た、一枚のカード。それを見た翔太は驚いたようにはっと目を開いた。

「……そっか」

 そのカードに語り掛けるように、翔太は言う。

「一緒に、譲を助けよう」

 そして翔太と譲はパーティーゾーンにカードを置いた。

「パーティーコール、『強欲な司祭 マグス』」

 譲が宣言すると、ダークマーリンの隣に意地汚い笑みを浮かべた司祭服に身を包んだ中年の男が現れる。

「パーティーコール! 『深海の賢者 マーリン』!」

 ショウの隣に青い光が生じ、その中から青い鱗の半魚人――マーリンが現れた。澄んだ金色の瞳が、真っ直ぐに譲を見つめていた。

「……、マーリン……」

 その姿を見た譲の口から、小さく声が漏れる。一方譲の前に立つダークマーリンは忌々しそうにマーリンに向かって舌打ちをした。

「そんな奴を出したところでキミに勝ち目はない!」

「アクション、オレは『マグス』でアタック。さらに『ダークマーリン』のアルター効果、『聡明な犠牲』で手札を一枚ドロップしてアタック値を上げる」

 譲が言うと、ダークマーリンはマグスの背中を強く叩いた。その衝撃にマグスの身体が飛び上がり、マグスの身体に黒いオーラが纏わりついた。

「必ずあいつを倒せ!! お前が出来るのはそれだけだ!!」

「ヒッ、ヒィッ……?!」

 ダークマーリンの気迫ある表情にマグスは怯えた様な声を上げたが、黒いオーラに包まれたマグスは意志を失ったかのようにマーリンに向かって突進する。

「おれは『マーリン』でディフェンス!」

 突進してくるマグスに向かってマーリンが右手を向けると、青い光が壁となり、マグスの身体は弾き飛ばされた。翔太に残された唯一のライフは、マーリンの手によって守られた。

「『マグス』の破壊時効果、『失われぬ欲望』でチャージを2増やす」

 淡々とした口調で言う譲はチャージゾーンに四枚目のカードを置く。一方のマグスは「ああ……」と掠れた声を上げ、助けを求めるようにダークマーリンに手を伸ばしていた。しかし、ダークマーリンはマグスを見下して舌打ちをした。

「……貴方も、彼に操られていただけなのですね」

 そうやって黒いオーラと共に消えるマグスを見ながら、マーリンは小さく呟く。顔を上げたマーリンは、譲を見つめた。

「譲、待っていてください」

「ハッ! そんなことを言ったところで彼は私のモノだ!!」

 ダークマーリンはマーリンの言葉を否定するように手を大きく横に振り払う。

「諦めるんだな、偽りの賢者!」

「それはこちらの台詞です。そうやって力だけで縛り付ける者は、賢者でも何でもない」

 マーリンはすうと目を閉じ、小さく息を吐き出した。再び開かれた目は、先ほどまでの穏やかさを消した、鋭い輝きを灯している。

「ただの、愚か者だ」

「……ッ!! 黙れ!!!」

 ダークマーリンが悲鳴のような声を上げると、ダークマーリンの身体から黒く禍々しいオーラが一気に噴出される。その光景に翔太とショウは、表情を強張らせた。

「何、あれ……?!」

「あれが、ディス・パレイドの力……!」

 目前に迫るその禍々しいオーラ。必ず勝つ、と宣言したがその圧倒的な力の気配に二人は不安を抱いた。

「大丈夫」

 そんな不安を抱く二人に、柔らかな声がかけられる。二人が前を見ると、マーリンが穏やかに微笑み、しかし確信を持った口調で言う。

「私たちは……いや、君たちは必ず勝てる。そのために、私はここにいるのですから」

「マーリン……?」

 翔太が名を呼ぶと、マーリンはしっかりと頷いた。

「翔太、ショウ。君たちには力がある。私は今、そう確信しています。君たちの力はまだまだ未熟で、けれど、必ず強くなる。今は、君たちの足りない力を――私が貸しましょう」

 言葉と同時に、マーリンの身体に青い光が灯る。それを見た翔太がはっと、目を開いた。

「マーリンの力……!」

 そしてその光は、譲の元にも届いていた。

「……マーリン」

 力なく零れる譲の声。翔太は譲を見て、小さく頷いた。

「譲、マーリンの力を思い出すんだ! 『マーリン』のパーティーコール効果『力与えし者』! この効果で、『マーリン』は次のラウンド時にアルターと共にアルターゾーンにコールすることが出来る!」

「ハッ! そんなことをしても無駄だ!!」

 ダークマーリンはショウとその隣に立つマーリンを睨みつけて叫ぶ。

「キミたちに勝ち目はない! キミたちにあるのは友を救えない絶望と己の弱さが招いた敗北だ!」

「おれたちは絶対に勝つ! 仲間のために、大切な友達のために勝つんだ!!」

「譲は絶対に! おれたちが助ける!!」

 ダークマーリンの叫びに、ショウと翔太が叫びかえす。二人の叫びに呼応する様に、デッキに赤い光が灯る。

「チャージ! ドロー!!」

 翔太が引いた一枚。そして、譲もカードを一枚引き、パーティーゾーンに置く。

「ブレイク、『破滅の黙示録』」

 譲が宣言すると、ダークマーリンがにやりと笑う。

「さあ!! 今度こそ絶望を――」

「ブレイク!! 『バーニング・スラッシュ』!!」

 ダークマーリンの言葉を遮るように翔太が宣言する。

「ライフが1の時に、コストを支払わずに発動! 相手に5のダメージ!!」

「その程度の力で私に勝てると思うな!!」

「『ダークマーリン』のアルター効果で、手札を捨ててブレイクポイントをアップさせる」

 ダークマーリンに応じるように譲が手札をドロップゾーンに置く。同時に、ダークマーリン自身から黒いオーラがさらに強く出始める。『ショウ』と『バーニング・スラッシュ』のブレイクポイントと、『ダークマーリン』と『破滅の黙示録』のブレイクポイントは、ダークマーリンの方が優勢だった。それを確信したダークマーリンが天を仰ぎながら、大きく口を開けて笑う。

「ッハハハハハハ! 愚か者どもが!! 私に立ち向かおうとした時点で間違いだったんだよ!! さあ、絶望だ!! 絶望しろ!!!」

「愚かなのは貴方の方です」

 凛とした声が、ダークマーリンの耳に届く。はっと顔を下ろすと、そこに青い光を纏ったマーリンの姿が見えた。

「自分の力だけに溺れる貴方では私には勝てない。私には――譲が与えてくれた力があるのだから!」

 マーリンの言葉と同時に、ショウの周りに青い光が輝く。そして、ショウが構える銀色の剣から、赤い炎が燃え上がる。

「このラウンドのポイントは、おれのアルターのショウと……アルターゾーンにいるマーリンのポイントが合算される!」

「なっ……!?」

 先ほどまでの笑いは消え、ダークマーリンは焦りを覚えたような、引きつった表情を浮かべた。

「そんな……バカな?!」

「ショウ!」

 困惑するダークマーリンに向かって、翔太が呼ぶ。ショウは炎の剣を高く天に向けた。赤い炎と青い光がショウを包む。

「翔太、ショウ! この先は私が導き手となります! 後は君たちの力を信じるのです!」

 マーリンが前に手を向ける。青い光が、ダークマーリンに向けられた。

「うっ?! 何だ……何なんだこの光は!!」

 光を受けたダークマーリンは苦しげな声を上げる。

「おれたちの力を受けてみろ!!」

 叫んだショウが、ダークマーリンに向かって炎を纏う剣を振るう。

「必殺!! バーニング・スラッシュ!!!」

 翔太とショウの声と共に、避けることすらできないダークマーリンが炎の剣で一刀両断された。

「許さない……許さないぞ、貴様らァ!!」

 低い声が、炎の中に響き渡る。ばりん、とガラスが割れるような音がすると、譲の目の前にあったバトルフィールドが砕け散る。

「――っ」

 それと同時に、譲の身体がふらりと傾く。

「譲!」

 倒れる譲の身体を支えたのは、譲の元に向かって走った、マーリンだった。どさり、とマーリンの腕の中に倒れ込んだ譲が、うっすらと目を開ける。

「……あ、れ?」

 譲の瞳には、光が灯っていた。マーリンがその譲の顔を見て、安堵の表情を浮かべる。

「譲、よかった……」

「マーリン……?」

 マーリンの姿をぼんやりとした表情で見ていた譲だったが、小さく笑った。

「……ありがとう」

 そして、譲はすうと、目を閉じた。


「譲! 譲!!」

 翔太の声に、譲の瞼が小さく動く。譲が薄く目を開けると、目の前に翔太の顔があった。譲は地面に横になっていたようで、翔太が自分を上から覗き込んでいる、というのに気付くまで少し時間がかかった。状況を理解した譲は身体を起こして、改めて翔太を向き合う。

「……しょう、た?」

「譲……! よかった……!」

 翔太が目を閉じて安堵の声を上げる。そんな翔太の表情の変化の理由がわからない譲は、まだ覚醒しきれていないふわふわとした感覚の中で翔太を見ていた。

「オレ、なんかあったの……?」

「えっ、えっと……」

 譲に問われた翔太は、困ったような声を上げる。どこからどう説明すればいいか悩む翔太に対し、譲は楽しげな笑い声を小さく上げた。

「譲……?」

「なんかよくわかんないけど、いいや。大丈夫、オレ、大丈夫だから」

 いつもと同じように笑う譲につられて、翔太も笑った。

「でもさあ、何か、不思議な夢を見たんだよなあ」

「え?」

「なんか、オレ、捕まってて。それから……翔太とショウと……マーリンが、助けてくれたんだ」

 にこ、と譲は目を細めて笑う。

「マーリン、すっげー強かったんだ。まあ、オレと一緒にブレバトしてるから当たり前なんだけどさ!」

「……うん、そうだね」

 翔太は、知っていた。譲と共に戦ったマーリンがどれほど強いかを。そして、譲を思う気持ちがどれほど強いかを。

 それから翔太たちは廃アパートから出て、シャインに戻ろうと商店街の中を歩いていた。

「やっぱりちゃんと思い出せねえんだよな……なんでオレ、あんなところにいたの?」

「ええっとー……おれもよくわかんなくて……えーっと……」

 道中、やはり廃アパートでいきなり自分が倒れていたことが納得できない譲は首を傾げながら何度も何度も翔太に尋ねていた。もちろん事情を説明できるはずのない翔太はそうやって誤魔化してみるが、譲の疑いの視線から逃れるには限界があった。――その時だった。

「譲!!」

 前方からかけられる声。翔太と譲が前を見ると、そこにいたのは肩を荒く動かして呼吸をする要だった。

「あ、兄ちゃん……」

「お前……! どこ行ってたんだよ!!」

 要が怒鳴るように叫ぶと、譲は肩を震わせる。それから譲に向かって走る要を見て、譲はぎゅっと目を閉じた。

「ご、ごめん! オレ、よく覚えてな……!」

 譲が目を閉じたまま必死で謝ろうとするが、それよりも先に要が譲の身体を抱き込んだ。想像していなかったのか、譲は目を丸くして驚いていた。

「に、兄ちゃん……?」

「バカ……本当にお前は……!」

 いつも余裕のあるような表情を見せる要が、泣きそうな顔をして譲に声をかける。が、それは言葉になりきれず、吐息のようなものになって要の口から漏れる。普段の兄とは違う必死な姿――自分を思ってくれていた姿を見た譲は、しばらく瞬きをしていたが、何度か繰り返したところから目の端に涙が浮かび、そしてぽろぽろと涙を落とし始めた。

「にいちゃ……兄ちゃん……!」

 わんわんと泣き始める譲を見た要が、肩を震わせる。二人の姿を、翔太も泣きそうな顔をしながら、それでも微笑みながら見ていた。

「よかった……譲が無事で……」

[お前が、頑張ったからだ]

 翔太の安堵の言葉に答えたのは、ショウだった。翔太はデッキケースからショウのカードを取り出し、その姿を見る。間違いなく、カードの中にショウが、いる。

[お前が頑張ったから。お前が、譲を助けたいって思ったから助けられたんだ]

「それだけじゃないよ。ショウが一緒に戦ってくれたからだよ」

 翔太が言うと、ショウが驚いたような顔をした。そんなショウに、翔太は笑みを向ける。

「おれ一人じゃ勝てなかった。ショウが一緒にいてくれたから戦えたんだ。ありがとう、ショウ」

[……それは、おれのセリフだ。翔太がおれのことを仲間だって言ってくれたから、おれも戦えた。もう、怖くないんだ]

 ショウは、真っ直ぐな黒い瞳で翔太を見つめる。翔太もショウを見つめ返した。

[これからもよろしくな、翔太]

「うん! よろしく、ショウ!」

「翔太!」

 翔太に声をかけたのは、泣き終えた後のまだ赤い目を、服の袖で拭った譲だった。

「翔太! シャイン行こう!!」

 譲は翔太に向かって手を伸ばす。

「一緒にブレバトやろうぜ!!」

 いつもと同じ、にっと歯を見せた笑顔を浮かべる譲。翔太は一度持っていたカードの中のショウを見ると、ショウは強く頷いた。

[お前は、どうしたいんだ?]

 笑いながら、小さく首をかしげてショウは翔太に問う。翔太もショウに笑い返し、そして譲を見た。

「うん! ブレバトやろう!!」

 ショウのカードをケースに収めた翔太は、差し出された譲の手を掴み、一緒にシャインに向かって走り出した。そんな二人を、要は小さな笑い交じりの溜息をついて見た後、追いかけた。



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