外伝〜優太幼少期①〜

 この話は優太が小さい頃につけていた日記を元に作者が作った話である。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ほらそこが崩れてる! もう一回最初から!」


 僕は今、小暮道場でお師匠様に武術の型を教わっています。

 空手ボクシング剣道拳法などなど、たくさんのことをです。


 やることそのものは簡単で、基本の型を維持するのです。ただ、その時間が長く、1時間でした。

 今日は空手です。型をやらなくてはなりません。

 しかも、どこか少しでも崩れたら最初からなのです。また一時間やらなくてはなりません。

 もう5時間ぶっ通しです。


「お師匠様、もう疲れました……。」


 そう訴えましたが、


「ダメだ。」


 の一言で終わってしまいます。

 僕の隣では、可愛い女の子が休んでいます。彼女も同じ内容の課題、だけど時間は5分間、これをこなしていました。

 この女の子はお師匠様の娘です。

 お父さんはお師匠様の事を『おやばか』と言っていましたが、これがそうなのでしょうか?

 お師匠様に、


「これは差別ではないのですか?」


 と聞いたところ、僕は人間より優れているから、人間の、それも女の子である、陽菜ちゃんより厳しいのは当然だと聞いてくれません。


(あー、これって、考えてたら終わらないやつですね……。)


 心を無にして、型の練習を続けます。

 できるだけ崩さないよう、崩さないよう、そう気をつけながら。


 それから3回程やり直しを食らいましたが……


 ピピピッピピピッ


 ようやく一時間のタイマーがなりました。終了です。


「よし、終わりだ。優太、10分休憩した後に陽菜と空手の試合だ。今のうちに休んどけよ!」


 そうお師匠様がいい、タイマーをセットします。


「大丈夫?」


 陽菜ちゃんがそう話しかけてくるけど、返事をする余裕などありませんでした。



 ピピピッピピピッ


 無情にも、時間は待ってくれません。

 もう10分経ってしまったようです。

 誰に言われるまでもなく、僕と陽菜ちゃんは道場の真ん中に立って構えます。


「では、始め!」


 お師匠の言葉と共に僕たちは動き始めます。互いに打ち合い、防ぎ合います。ちなみに、今まで僕はほとんど勝てていません。試合の前の型の練習で疲れ切ってしまっているのです。


「フッ!」

「クッ……!」


 互いの実力は、道場の娘である陽菜ちゃんの方が優勢です。空手という縛りが無ければ余裕で勝てるのですが……。今は関係ない話ですね。


「ヒュッ。」

「キャッ。」


 しかし今日は調子がよく、今のところ疲れてはいません。むしろ陽菜ちゃんのほうが疲れています。

 ……しかし、今の悲鳴で師匠がピクッと動いたんですけど、いや、凄い形相で睨みつけてくるんですけど!? ハッ! 今は目の前の試合に集中です。


 陽菜ちゃんはさっきの大きな僕の隙に攻め込む事が出来ていません。それどころか……


「ハァッハアッ……。」


 息が切れ、陽菜ちゃんは一瞬隙を作ります。

 そんな隙を僕は見逃さずに陽菜ちゃんの胴体の上の方に向け突きを放ちました。

 寸止めをしないといけないので、途中で止める……つもりだったのですが、少し触れてしまいました。


 フニュッ


 そんな感触が、握りしめた僕の右手の指四本にしました。

 あ……これ、所謂おっ

 その時、陽菜ちゃんは顔を真っ赤にしたあと、


「キャァァァァ!」

「グッ!」


 ドンッ

 バキィッ


「グヒャッ!」


 悲鳴を上げて僕を突き飛ばし、そのままどこかに逃げてしまいました。

 あとに残ったのは、壁に叩きつけられて変な声を出した後、唖然として尻もちをつく僕、そして無表情のお師匠様だけです。


 僕は握りしめた右手を見つめ、ただただこう思っていました。


(柔らかかったなぁ……)


 そう考えていると、後ろから突然肩を掴まれました。

 後ろを振り向くと……。


「ヒィッ。」


 そこには般若の顔が。いや、師匠の怒った顔がありました。


「娘の胸を触ったんだ。覚悟は出来てるんだろうなァ?」


 あ……これ……やばい……かも……。


 その後、師匠にこってりと絞られ、そのまま夜になりました。

 その日、一日中陽菜ちゃんは顔を見てくれませんでした。

 哀しみに打ちひしがれながら、僕は家に帰りました。




「ハッハッハ! そうかそうか! それはやっちまったなぁ!」


 お父さんに相談すると、笑い飛ばされました。


「明日、陽菜ちゃんに謝っときな! それでいいはずだ!」


 でも、きちんと解決策も提案してくれます。自慢のお父さんです。


「ありがとう! お父さん!」


 少し安心しました。


 ベッドに潜ると、絞られた時の疲れが残っていたのか、直ぐに寝てしまいました。


 

〜父親視点〜


 俺は息子が眠りについたことを確認したあと、ある奴に電話をかけた。


「よう。随分とウチの息子が世話になったじゃねえか。」

『ハッ! 娘の胸を触ったんだ。これくらい当然だろ?』


 相手はこのバカだ。

 まあ、うん。コイツならこうなるわな。


「チッ……で? どうだったんだ?」


 息子とコイツとの訓練。本来なら耐えられるわけがないんだが……。何故か息子は普通に歩いて帰ってきた。

 普通なら歩く事すらままならないはずなのに、だ。


『ああ、普通なら1分と持たないだろう俺との訓練を、10分も、それも複数回耐えたんだ。やっぱ普通じゃねえよ。』

「やっぱりそうか。で、明日はアソコだな?」

『ああ、実戦だ。もう寝てるんだよな? そろそろ移動したほうがいいんじゃないか?』

「……命の危険は無えだろうな?」


 息子が死ぬのは避けたい。


『安心しろ。いくら実戦とはいえ、訓練だ。』


 なら安心だ。


「わかったよ。んじゃあ、頼んだぜ。」

『おう。』


 そして俺は電話を切る。

 アイツも随分と機械に慣れたもんだ。


「さて、行きますか。」


 そして俺は息子の部屋へと入っていく。




〜優太視点〜


「んん……ここは……どこ?」


 次の日の朝。いえ、朝なのかはわかりませんが、恐らく朝って言うだけです。

 僕は……知らないところにいました。


「……ええ!?」

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