第27話 答えはスマホの中にある

 どんな人間でも、本能的に「何が正しくて、何が間違っているか」を判断する能力を持っているという。理由を聞かれると答えられないが、「なんとなく違うなあ」とか「これは信じてみよう」と思う時がそれだ。そして、その判断はだいたいが正しい。

 科学的に解明されてはいないそうだが、こういう不思議な力が、人間にはあると、僕は思う。スピリチュアルな意味ではなく、科学が追いついていないという意味でだ。


 柳からの説明を聞いて、僕が思ったことは、「信じるならやはりオオイシタツルがよさそう」というものだった。だが、柳と坂井はフジナカマコトを信じているので、それを口には出さなかった。



 柳からの説明はこうだった。


 この世界に僕達が来てすぐ。

 この「エへン」という巨大掲示板に新しいスレッドができた。

 誰が作ったのかはわからない。「コンビニから誰もいなくなった」というタイトルだった。この存在は、高校生の多くが利用しているいくつかのSNSで拡散された。この時点で、閉じ込められてすぐに、スマホを使いインターネットで情報を集めようとした約4000人がこの掲示板に辿り着いていたという。


 僕が、途方にれてコンビニの商品数を数えている裏で、そんなことが行われていたわけだ。ゆで卵が多いとか、本当にどうでもよかった。嗚呼、情報化社会。


 その中で現れたのが、フジナカマコトとオオイシタツルの2人だ。

 

 最初はフジナカだった。

 掲示板の中で、この世界で起こっていることの説明を始めた。

 この世界がコピーであることや、コンビニが無限につながっていることなどである。

 誰も信じなかった。

 しかしそこで、スマ子からのラジオとチキングからのゲーム解説が入り、フジナカの書き込みが本当であったことがわかる。


 フジナカだけが、この世界のことを知っている。皆がフジナカに質問した。

「なぜ知っているのか」

「どうすれば助かるのか」


 フジナカの回答は

「僕はずっと前からこの世界の、コンビニの外に住んでいる」

「1週間経てばコンビニのドアは開く。だから下手に動かず待て」

 というものだった。それ以上の詳しい説明はなかった。


 「エヘン」の中では皆がフジナカを信じ、「1週間はとりあえずおとなしく過ごそう」という流れになった。


 そんな中で、ある動画のリンクが掲示板に掲載された。


 世界最大規模の動画共有サイトには、ある男子高校生の「演説」ともとれる映像がアップロードされていた。


 その映像は僕もさっき見せてもらった。


 オオイシタツルの動画だ。


 場所はコンビニの中。レジを背景にして、真ん中に制服を着た男が立っている。短髪で、痩せ型。身長は高め。目はつり目。全体的に攻撃的な印象だ。その後ろには20人近くの高校生が、微動だにせず、立っていた。視聴者側から見て右側に男が、左側に女が固まっている。


 この動画は、その掲示板を見ている高校生のほぼ全員が視聴した。


 この段階で、さらに拡散され、アクセスを集めたこの掲示板と動画に辿り着いた高校生の数はおよそ5000人。

 全体の半数の高校生が、ネット上の動画や掲示板に情報を求めてアクセスしていたのだ。あらゆることの答えは、スマホの中にある。


 僕や鍵野さんは、「情報弱者」というやつだろうか。宮澤は……ちょっと違う種類な気がする。


 とにかく、そこから、フジナカマコトとオオイシタツルのどちらを信じるかという派閥争いが起こる。

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