4-3 まるですべてが仕組まれて

「ああ、やっぱり消えましたねえ。魔法陣の宝石」


何もなくなった広間。広間と洞窟の合間にあった門−−朱色の鳥居の上辺に刻まれた魔法陣。

それは正円で、円の線上に等間隔に12個の石が配置されている。その石は水晶に似ているが、12個のうち9個は白い光を発している。

アシュランちたちが来た時、10個の石が光っていた。そして、今、丁度北の方角にあたる、一番右の石の光が失われている。


「消えた上のものが、今の白虎だったんだな」

「そうですね。あとの9つがいまのようにすでに起きはじめているのかはわかりませんが…このあいだの蛇はやっかいでしたね。右上の。ああいうのがまだ9匹いるとは。めんどうくさいことこのうえないです」

「魔王復活、っていうのは本当なんだろうな。中心にある青い石が、きっとそれだろう」

「ええ。ですが、この機械仕掛けのような仕組みは…」

「機械?」

「魔王の復活も、そして12の石にかたどられたこの魔獣たちも、そしてそれが再度倒され封じられると消える石も…まるですべてが仕組まれているような……いえ、いまのままでは全てが憶測ですね。とりあえず、アシュランとしてはこれでいいんでしょう?」


ロキはいまだにいぶかしんでる顔であったが、シヴァはにっこりと微笑みながらアシュランのほうを振り返る。アシュランの黒衣の姿はひとつの血のシミもついていない。


「ああ、問題ない。別に俺は他の9つも、どうでもいい」

「はいはい。リンゴ王女がパレスティにいくにあたって、パレスティの近くのこの山にこんなのがいたら邪魔だからって、倒しただけですもんねえ。この間の竜もリンゴ王女が水害にあっている街があると聞いて不安がっていたから倒しただけですもんね。あなたは魔王とかどうでもいいんでしょう」

「何を当たりまえのことをいっている。魔王がいようが、いまいが、リンゴ様が無事ならそれでいい」


無表情なうえに火傷もあり、元々表情が読み取りにくいが、それでも「何を当然なことを聞いているのだ」と呆れている意味の無表情をしているアシュランにシヴァは肩をすくめる。


「承知しておりますよ。私は伝承の十二将の存在を確かめられればそれでいいわけですし。まあ、ロキにはまだ苦労をかけますが」

「問題ない。転移は慣れているしな。このまま他のきなくさい噂を確かめるよ。いまのところいくつか確認しているが、おそらく9つのうちのどれかだろう。位置はマーキングしているから、飛ぼうと思えばいつでも飛べる」

「きっとアシュランがまたリンゴ王女を理由にどこかに飛ぶことになると思いますから、そのときはよろしく御願いします」

「構わん。召還に必要な魔石をその分お前からもらえるんだからな。ところで、もう戻るか?そろそろ夜明けが近づいているだろう」

「ああ、戻る。姫様が目覚められる前に戻らなくてはいけないからな」

「本当に過保護だな」

「ほんとうですよねえ。日中はリンゴ様にひたすらくっついていて、リンゴ様が寝てからの夜の数時間だけを使ってこんなところまでロキの転移を使って、魔獣と戦って、起きられる前に戻るとか。本当はこの数時間も離れているのもいやなんですよ、こいつ」

「しかもここに来ている間は王女殿下に気づかれないように部屋にシヴァの結界魔法を5重くらいにはって、誰も近づけないようにしてるんだろ?むしろそれ王女殿下も部屋からでられないんだろ?」

「そうですよ。だからリンゴ様がぐっすり寝ている間だけしか動けないんですよ。そして目覚める前に結界をといて、朝起こすんですよこいつが。ちなみに微妙に時間があいていたら隣の部屋で起床時刻まで待ちますからね」

「お前いつ寝てるんだよアシュラン」

「睡眠をとらなきゃ動けない身体はしていない」

「お前もとんだ規格外だよな。人間は睡眠をとらなきゃ動けないんだっつーの」


やれやれ、とあきれ顔のロキとは対照的にほんの少しだけ苛立った様子でアシュランが答える。


「いいから用が済んだんだからさっさと戻るぞ。城におくってくれ」

「魔王並の伝説をもつ十二将を倒すことをおつかい並の扱いでいってくれるなよ…」

「まあアシュランからしたら、リンゴ様の安全を守るためのおつかい感覚ですからねえ」





「リンゴ様、御起床の時間ですよ」


むにゃあああ。いま、いま、たくさんのケーキが目の前に広げられたところだから、まだ、まだ待って……と夢うつつのリンゴが寝返りをうったところで、布団がはぎとられた。


「きゃあああああ!ちょっと、ベッドから、ベッドから落ちたわ!なんてことしてくれるのアシュラン!せっかくのケーキが…じゃなくて、あなた私の護衛騎士でしょう!?従者でしょう!?わたし一応主的なものじゃないの!?」

「もちろん、私はあなたの前に現れる障害物を全て取り除き、あなたに敵するものすべてから守る、あなただけの騎士ですよ、姫様。そしてつまりは寝すぎであなたの体型が変わることを守るのも私のつとめです」

「欺瞞、欺瞞だわ!だからってベッドから落とす必要は………ってごめんなさいごめんなさいごめんなさい朝食抜きは勘弁してー!そこにあるトレイを下げようとしないでー!」

「それではさっさとお体を洗いになって、ご準備なさってください。本日は国の代表としてパレスティにいくのですから。道中の安全は確認済みです、問題はありませんよ、リンゴ様」


そういったアシュランの顔は、珍しく微笑んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る