4-4 幕間2

 中央通りに面した喫茶店。そこには、おそらくスシバーで行われた銃撃騒ぎを知らないであろう人々が、昼食をとっていた。

 空調は効いておらず、ストーブのたぐいもない。


 家族連れは少なく、客は男の商人たちがほとんどだ。格好としては、スーツ姿のものが多い。

 商売という物、第一印象が大切である。身なりはきっちりしておいた方がいいのだろう。


「意外と凶暴なやつだったな」

 イスに腰掛けたジェミナスの第一声がそれだった。ずっと走ってきたので、茶色のシャツをまくり、汗にまみれた腕を丸いテーブルに投げ出していた。


「いきなり銃を出すなんて。

 話には聞いていましたが対処できませんでした」

 ジェミナスの横に座るエミールはそう漏らす。こちらはあまり消耗した様子を見せていない。息や顔色などはいつも通りだ。

 もっとも、エミールが様子をうかがった茶色のセーターに七三分けの男も、あまり息を切らせてはいなかった。


「フィレシェットの魅力はそこですよ。銃だけでなく、戦車も出せますからね。それだけ強力なポテンシャルを秘めているということです」

 危うく殺されかけたというのに、まだ笑みを浮かべて話す。どういう神経なのかとエミールは思う。

 天才というのは何かを欠いているということを、実際に目にできるという絶好のサンプルではある。


「で、あれをどうやって捕まえろっていうんだ? 殺していいっていうなら別だが」

「ジェミナス君。私の目の前で二度とそういうことは口にしないように」

 注意しようとしてエミールが口を開ききる前に、フィリップが睨みつける。

 ジェミナスは腕をテーブルの下に引っ込め、心なしか萎縮しているようにも見えた。


 ジェミナスには手を焼く。とにかく失言が多い。腕がいいのは確かだが、どこの部隊でも上官との折り合いが悪かったと聞く。

 だからこそ前線勤務が多く、若くしての昇進が可能だったのだが。


「ボス。フィレシェット捕獲のための秘策はお持ちなのでしょうか?」

 そう婉曲に聞いてみる。

 その間にも、フィリップは紅茶とサラダとハムを挟んだパンを三人分注文していた。


 せっかくのスシだったのに、これではいつもと変わらない。

 そんな思いは口にはせず、エミールは左手で自分の膝をつかむだけでこらえる。エミールはジェミナスとは違うのだ。


「銃の後には幻影戦車ファントム・パンツァーが出てきますからね。でも、それが最大の弱点でもあります」

「弱点?」

 エミールはそのまま言葉を返す。


「あの戦車が精神エネルギーの塊でしてね。もし潰すことができれば、具現化能力はなくなります。あとは普通の歩兵以下ですよ」

「生身では無理、ということですか?」


「もちろんです。あの神出鬼没さに対抗するには、機動力、火力共に備えたAWVしかありません。

 パイロットも一流でないと」

 それは暗にハンマーベアを指しているのだろう。


「おかげでこの辺りにいることは分かりました。次の戦闘でおびき出します。フィレシェットを」

 机に肘を突き指を組み合わせ、フィリップはうつむいて含み笑いを漏らす。

 エミールはさすがに周囲が気になり、たしなめようとした矢先。店員にパンと紅茶を置かれて、気勢はそがれてしまった。

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