青く煙る確かな愛。凛として、月光下俯く薔薇の愛。

 この物語を読んだ私にとって、誇り高き天空人エレオノーラは薔薇の花、地球人ハイメは土、アンドロイドのジュリアンは庭師である。

 美しいクラシックが涼やかな月光の下、聞こえてきそうな気品に満ち溢れた情景描写、美しいSF的世界観の中で、三者三様の燻る想いが月の光にそっと溶け込み私の心を震わせた。エレオノーラとハイメの関係は、まるで『風邪と共に去りぬ』のスカーレットとレット・バトラーである。目を離せないような鮮やかな恋を内に秘めながら、気づいてはいないエレオノーラ。狂おしいほどに彼女を想いながら、地に這いつくばるハイメ。己の中に生まれる名をもたない感情に軋むジュリアン。こんなに美しく、そして心がぎゅっと締め付けられる繊細なSFを、私は初めて読みました。

 個人的にはハイメを愛おしいと思うし、エレオノーラの恋心は可愛らしいと思う。そしてジュリアンの軋みを切なく思う。物語の終わりと共に、私の頭の中ではドビュッシーの『月の光』が再生された。色鮮やかに斬新に始まったこの気高い物語は、最後に私達にかさぶたに触れるような仄かな痛みを残して終わる。

 ずっと余韻に浸っていたい作品である。

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