戦国フロンティアオンライン

 どこまでも広がる大草原。しかし、ここは現実じゃない、ゲームの中や。こんな大草原があるのは、中央アジアくらいのもんやろうが、一応の設定上は、戦国時代の日本やった。戦国フロンティアオンライン。それが、このゲームのタイトル、戦国というベタなテーマでそこそこ流行ってるオープンワールドのオンラインゲームである。

(しかし、困ったなー。ログインしたら、いきなりゲームの中に吸い込まれてまうなんて)


 ワイは、草原をひたすら歩いていた。おそらく、1時間くらいはこうして歩いているやろう。しかし、誰にも会わんし、何も見つからん。このゲームは、マップが無駄に広いからしゃあないんやけど。アバターを伊達政宗に設定するんやなかった。こいつの鎧めっちゃ重い。とりあえず、街までたどり着かんと。

(てか、もしかして、ワイ以外の奴らはゲームに吸い込まれたりしてないんか?)

そんな思いが頭をよぎったその時だった。

 ワイは、草原の遥か彼方に、うごめいている巨大な物体を見つけた。


 なんや、あれ。ワイは、近くまで走って行くことにした。すると、意外な正体が明らかになった。


 こ、これはまさかリクガメか?


 体長二メートルはありそうな巨大なリクガメ。ゲームとはいえ、戦国の日本にリクガメいるとはどういうことや。世界観おかしいやろ。いや、確かにこのゲーム、武器に対戦車ライフルとかブーメランが出てきたり、回復アイテムが焼きおにぎりとバナナやったり世界観はだいぶ狂ってたけど。


「そこの伊達政宗さん。ちょっと助けてくれませんか?」

 突然、若い女性の声で話し掛けられた。

「いっ、一体何や!」

 驚いたワイは大声で叫んでしまった。

「驚かしてごめんなさい。体が穴にハマって、動けないんです。どうか、助けてもらえませんか?」

「わっ、分かった。今助けるで」

 リクガメを助けるワイだったが、頭の中は混乱していた。なにせ、巨大なリクガメが女の子の声で話し掛けてくるんやから。

 小説や漫画では、いきなりゲームの中に吸い込まれたら、美少女と出会うのが王道だが、リクガメと出会うのが現実なのか。まさに、事実は小説より奇なりとはこのことだ。


「ありがとうございます。助かりました。お礼に竜宮城へと言いたいところですけど、私はリクガメだから無理ですね」

 ワイは苦笑いする。リクガメのジョークにはどうやって対応したらいいか分からない。


 とにかく何か聞いてみるか。

「もしかしてこのゲームのプレイヤーか?君もゲームの中に吸い込まれてしまったんか?」

「そうです。ログインしたらいきなり気を失って気づいたらリクガメに変身して、この大草原に……ってここゲームの中だったんですか」

「た、多分そうやで。ワイ、ゲーム中でこのアバター使っとたし」

「なるほど、モンゴルの大草原じゃなくて安心しました」

 そこは、安心するところやないやろ。

 このリクガメやはりちょっと変だ。


「きっ、君はやっぱりガラパゴス諸島辺りの出身なんか?」

「違いますよ!普通に日本ですよ。こんなアバターですけど、現実では一応女子高生だったんです」

「なるほど、では君は美少女似のリクガメということやな」

「リクガメじゃないです!というか美少女似のリクガメってなんですか」

「美少女は否定しないんやな……。じゃあ、リクガメ似の美少女か?」

「それはそれで酷いですよ!このゲームで使ってたアバターがリクガメだったからこうなっちゃったんですよ」

「てか、君の名前まだ聞いて無かったな」

「あ、名前ですか?倉坂里奈です、ちなみにアバター名は見た目通り【リクガメ】です」

 少々噛み合わないところはあるものの、ワイとリクガメ似の美少女との会話は思いの外弾んだ。現実世界(?)で、女の子とこんなに会話したのは久し振りや。このリクガメ少女ともだいぶ打ち解けられた気がする。

 まあ、なんで、リクガメのアバターを使ってるのかは謎やけど。


「じゃあ、ワイの自己紹介をさせてもらうわ。ワイは、千石竜兵。アバターは、伊達政宗の【マサムネ】や。ちなみに、現実では32歳独身のニートやで!」

「なんで、自信満々なんですか!ダメ人間じゃないですか!てか、普通にキモいです」

「なかなか、辛辣やな里奈ちゃん。でも、このゲームでは結構強かったんやで。領土は東北地方に百万石くらいあったし」

「そ、そんなに!私は、播磨に領土が100石あっただけでしたよ……」

 このゲームは、戦国武将となり領土広げながら天下統一を目指すのが目的だ。領土は、ザコ敵を倒してレベルを上げたり、他の武将(プレイヤー)との合戦に勝利することで、広げることができる。自分で言うのも何だが、ワイは、天下統一を狙えるレベルの実力があった。


「ワイはこう見えてもめっちゃ強いからな。

正直、ゲームの中に吸い込まれたけど不安は全くないわ。最悪、元の世界に帰れなくてもええしな」

「すごいですね、私は不安で今にも泣きそうですよ……」

 不安で当然だろう。友人もおらず、親にも社会にも見捨てられたワイとは違うのやから。ワイと違って、彼女は、早く現実世界に帰りたい気持ちでいっぱいだろう。


「私、もう元の世界には帰れないんでしょうか。このままずっと、リクガメのままだと思うと不安で」

「大丈夫やて、すぐに現実世界に戻れるって、1人が不安やったら、ワイと一緒に行かへんか?」

「本当に竜兵さんについていってもいいですか?私、このゲームの初心者で、よく分からないんです。戦力にはならないですよ」

「別にええって、里奈のことはワイが守ったるから安心してや。絶対に現実世界に返したるわ!」

「ありがとうございます。竜兵さんのおかげでなんだか気分が楽になりました」

 そう言ってらリクガメの里奈が笑顔を見せた。まさか、女の子にこんなに頼りにされるとは。やはり、ゲームの中に入ったら、そうこなくては。これこそ王道というものだ。


 しかし、調子に乗ってかなり恥ずかしいセリフを吐いてしまった。32歳のニートが言ったと考えると生理的嫌悪感を催すレベルだろう。

「じゃあ、早速街を目指して出発しましょう」

 そう言うと、里奈は歩き始める。リクガメの割に以外と速い。重い甲羅を背負っているのに大したものだ。ワイも、里奈を追って、歩き始める。

「竜兵さん、遅いですよー」

 こうして、関西弁の伊達政宗と女子高生のリクガメの旅が幕を開けた。

 先を行く里奈の背中は、大きな甲羅しか見えないがなんとなく楽しそうだった。




「あの、竜兵さん……ひとついいですか?」

「何や?」

「さっきのセリフ、ワリとガチでキモかったです」

「里奈ちゃん。やっぱり辛辣やな……」







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