第10話

「まったく、なんてひどい顔をしているんだ」


 俺たちは風紀委員の詰所に連れてこられた。そこの委員長室で俺と天之原は生徒会長に出会う。


 生徒会長の大斗乃結実は俺の顔を見るなりそう言って、呆れ顔。


「で、なんで俺はここに連れてこられたわけ?」


「経過を知りたいから呼んだ。それだけだよ」


「五十海の居場所は未だわからず。以上だ」


「もっと真剣にやりなよ。君の人生がどうなるかは、君の働き次第だよ」


「わからないものは、わからない」


「だから、それは君が真剣にやっていないからだ。疲れているから、苦しいから、だからって二言三言の会話を交わしただけで話を終わらせるな。自白させたければ、じわじわと相手を苦しませるなり何なりをしないと」


「早く終わらせたいんだ」


「苦しいから?」


 こくりと頷く俺。


「なら、なおさら拷問的なやり口をするべきだ。急がば回れっていうじゃない」


「あの、」と不意に口を挟んできたのは天之原奈月であった。


「何かな?」と生徒会長。


「もう、いいんじゃないですか。戌井くんはもう限界です。もう、赦しても」


「赦す? 何を? 別に私は怒ってないよ。やめたければ、やめればいい。ただ、やめたら最後戌井涼悟は少年院行き、人生終了、それだけの話だよ。私は優しいから、こうやって条件を出してそれを遂行できたら今回の件を見逃してあげるって言っているの。だいたい、自業自得じゃん。彼が辛いのは。自分の過ちは自分でどうにかしなさいって話だよね」


 悪いのは俺だ。


 わかっている。わかっているのだ。


《デウス》に手を出した俺が悪い。こうなったのは俺の過ち。本来ならば問答無用で退学になって少年院にぶち込まれるのだろう。


 しかし、生徒会長は俺が最強だからという理由で条件次第で今回のことを見逃すと言ってきた。


 俺としてはそりゃあもちろん学校に残れる方を選ぶ。ドロップアウトなんてしたら、きっともうろくな人生を歩めない。これはいわく分岐点なのだ。一度、道を外した俺が、もとのレールに戻れるか否かの。


「で、どうするの? 戌井君。続けるかい? それともここでやめて、人生終了かい?」


 こんなことになったのは俺の所為だ。俺が辛いのは俺の責任だ。誰の所為でもない。


《デウス》に手を出したのだって、俺の弱さが招いた結果だ。


 そして、俺は今、チャンスを手にしている。


 自分の過ちを清算し、人生のレールに戻れるチャンスを。


 ならば、このチャンス掴む以外に道はない。


「続けます」


 俺ははっきりとした声でそう言った。


「そう」


 あっさりとして口調で生徒会長は答える。


「ちょっと待って」と天之原。「さすがにこれ以上続けるのはまずいよ。本来ならすぐに治療するところを無視して動き続けているのよ。もしかしたら、命関わるかも……」


「別に私はそれで彼が死んでも一向に構わない」


「生徒会長は黙っててください」


 天之原は俺を見る。


 これ以上続けたら命関わる。いや、そんなことを言われても、俺は俺が死ぬなんてイメージがまったくできない。


「死ぬなんて、それはおおげさじゃないのか?」


「そうでもないかも」


「なんで、そんなことが言えるんだよ。お前は未来が見えるのか」


「未来なんておおげさなものは見えないわ。でも、あなたの身体が悲鳴を上げていることは見える」


「そんなの自分でもわかっている。俺の身体は悲鳴を上げている。でも、それが死につながるなんて」


「まあ、過労死するかもね」と生徒会長はどうでもい感じでそう言う。「でも、ここでやめたらブタ箱行きね。たとえ戌井君の身体が限界でも、それでこの条件が変わることはない。結局、やるかやらないかだから」


「じゃあ、やります」


「だってさ、天之原さん」


 天之原は伏し目がちになり、渋々と言った感じでこう言った。


「……わかりました」



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