第3話

 雀部安佐子の顧客は女子で、名は方波見かたばみ喜和きわと言うらしく、天之原が知っている子だった。


「知ってるって言っても友達ってほど仲がいいわけじゃないから」


 と、天之原は言っているが、知っているならそれでいい。


「部屋はわかるか?」


「まあ、同じ階だし」


 なんという偶然か。


「今、そいつは部屋にいるか?」


「いや、いないと思うよ。わたしが部屋を出たときに、方波見さんも部屋を出るのを見たし」


「じゃあ、どこにいるんだよ?」


「知らないわよ。ていうか、風紀委員はちゃんと調べてるよ。ほら」


 リストを渡される。そのリストをよく見てみると、密売人とその顧客の情報が載っている。


 密売人に関する情報は少ないが、顧客の情報は多い。寮のどこの部屋に住んでいるのかというのは当たり前として、そのほかによく行く場所、バイト先なんかがある。


「ファミレスでバイト、ね」


 方波見はファミレスでバイトをしているらしい。ならば、そこに彼女がいる可能性が高い。


 俺は歩き出す。


「どこ行くの?」と言って天之原がついてくる。


「方波見喜和が働いているファミレス」


「行ってどうするの?」


「見張る。見張って、雀部安佐子と接触したその瞬間を狙う」


 俺と天之原はファミレスへ向かった。



 ♢  ♢  ♢



「いらっしゃませー」


 ファミレスに入ると、店員が出迎えてくれる。


「二名様ですね、こちらへどうぞ」


 店員の案内で席に着席。店員は水を運んでくる。


 俺は水を運んできた店員を傍目で見る。


 鳶色の髪をポニーテールに結っている少女。方波見喜和だ。リストにあった写真と同じ。


「ご注文がお決まりになられました、そちらのボタンを押してください」


 言って、方波見は厨房の方へ戻り、できあがった料理を運んでいた。


「あんまりジロジロ見るもんじゃないよ」


 メニュー表に目を通しながら天之原は言う。


「わかってる」


 俺は水で口を潤した。


「わたし、サーロインステーキの洋風セットね」


「は?」


「いや、そろそろ昼だし、お昼ごはんをここで済ませようかと思って」


「俺たち、飯食いに来たわけじゃないんだけど」


「知ってるよ。でも、何も頼まないっていうのはおかしいでしょ」


「まあ、そうだな」


「だから、サーロインステーキ」


 これが噂の肉食女子というやつなのだろうか。


「戌井くんは、何か食べないの?」


「いや、食うけど」


 確かに彼女の言う通り、そろそろ昼なのだ。どうせファミレスに来たわけだから、ここで昼食を済ませてもいい。


 天之原からメニュー表を受け取り、何を食べようか考える。


《デウス》が切れてて身体は怠く、その所為か食欲はない。


「じゃあ、ミートスパゲッティで」


「それだけ?」


「うん」


「男ならもっと食べないと」


「体調がすぐれないもんでね」


「だからこそ、食べないと。あなたの場合、風邪じゃないんだから」


「無理なもんは無理だ」


 俺は呼び出しボタンを押す。


 店員がやってくる。方波見とは違う店員だった。方波見は別のテーブルの注文を取っている。


「えーと……」と俺が注文をしようとしたら、天之原が口を挟んでこう言った。


「サーロインステーキの洋風セットを二つ」


「サーロインステーキの洋風セットをお二つですね。かしこまりました、少々お待ちください」


 店員はそそくさと去っていく。


「お前……」


 俺は天之原を半眼で睨みつける。


「食べなきゃダメだって。いざというとき力がでないよ」


「はあ」と俺は嘆息。


 頼んでしまったものは仕方ない。わかりました、肉を食います。


 その後、サーロインステーキが運ばれてきて、俺はそれを胃の中にねじ込むことになった。

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