第4話

 昼食をとって、その後、俺はコンビニへ向かう。


 コンビニに入ると俺は真っ先にトイレへ行き、その個室でデウスを吸う。一服を済ませ、どうせだからコンビニATMで《デウス》二十袋分の代金である十万円をおろし、適当に商品を手に取ってレジへ向かった。


「優勝おめでとう」


 コンビニ定員に知り合いはいない……あ、いた。顔を上げれば、そこにいたのは天之原奈月だった。


「どうも」と俺は言う。


「どう? その後。わたしへのいらいらはなくなったかな?」


 いらいら。そういえば、ない。俺は俺を負かした天之原奈月に対していらいらしていたはずだ。しかし、優勝して、再び最強として名が通るようになって、俺は彼女にいらいらしていない。


「なくなったみたい」


「そう。それはよかった」


 言って、彼女は微笑んだ。


「はい。ありがとうございました」


 袋に詰めた商品を俺は天之原から受け取る。


「どうも」と言って、俺はその場を去り、コンビニを出た。


 そもそもの目的である十万円は手に入ったので、もう外に用はない。俺はコンビニを出て寮へ帰ることにする。


 歩いているとまた女性から声を掛けられる。


「やあ、戌井君。優勝おめでとう」


 声がした方を向けば、そこには風紀委員長の九条先輩がいた。


「ああ、どうも」


「どうかね。優勝の実感のほどは?」


「実感してますよ。みんな俺を見ただけで萎縮して、俺に刃向ってくる奴はいない。むしろ、みんなへーこら頭を下げて寄ってくる始末です」


 それに、天之原に対するいらいらだってない。これはすべて俺が優勝したからだ。


「もう取り巻きを持つ気はないんだ?」


「ないです」


 取り巻きは取り巻きに過ぎず、友人にはなり得ない。偽りの友情。偽りの尊敬。偽りは偽りで、本物ではない。空虚なものに価値はない。


「まあ、変な輩もいるからね。そういうのを寄せ付けないためには、寄ってくる奴らを拒絶するというのはいいかも」


 変な輩? まあ、初等部から高等部まである沢瀉学園。いろんな人がいるだろうね。


「まったく、大変なんだよ。風紀委員も。変な輩を取り締まるのに」


「いや、俺に愚痴を言われても。いっぱい人がいる学園なんだから、いろんな人がいるでしょう」


「まあ、そうなんだけどねー」


 疲れからくるものなのだろう。九条先輩は一つ溜息をついた。


「九条先輩はお仕事なんですか?」


「まあね。詳しいことは言えないけど、大変なお仕事を遂行中」


 大変なお仕事、なんて言うのだから、本当に大変なんだろう。どういう仕事なのか、気にならないと言えば嘘になるが、俺が今、一番気になるのは《デウス》がきちんと手に入るかどうかなのだ。


「まあ、頑張ってください。大変でしょうけど」


「ほんと大変なんだから」


 なんて言いながら、九条先輩は手を振ってその場を去る。俺も彼女に手を振った。


 十人十色、いろんな学生が沢瀉学園にはいる。その中には風紀委員の手を煩わせる悪い奴だっているのだろう。


 まったく、悪さなんてするもんじゃねえよな。


 どうでもいいことを考えながら、俺は寮の自室へ帰り、約束の午後五時まで暇を潰す。

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