伝達 二〇一二年 秋

 震える指先で、携帯電話のキーを押した。


 教えてもらった電話番号。メンバー限定、直通。

 相手は一コールで出る。

(もしもし)

(あの――)

(この番号に電話をかけたということは、貴方は『Nの子供たち』ですね。大丈夫、心配しないで)

(――はい)

 落ち着いた大人の男性の声に宥められつつ、準備しておいた用件を簡潔に伝える。

 途中、適宜相槌はあったが口を挟まれることはなかった。

 そして、話が終わっても改めての内容確認はなかった。

 私の語った内容は、語ったそのままの形で受け入れられたのだ。

(そうですか――)

 電話越しに男性の深い溜息が聞こえてくる。

(それは本当に大変でしたね。よく我慢してこられましたね。立派ですよ)

 大人の落ち着いた声で褒められることなど、今までなかった。

 私の全身が細かく震え出し、

(ああ――)

 思わず声が出た。

 涙が筋となって流れ落ちていくのが分かる。

 私が咽(むせ)ぶ中、電話の向こう側から聞こえてくる声。


(では、浄化を始めましょう)

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