マスク・ド・ドリアン四度!!

 桜花が学校を休んでそろそろ一週間が経つ頃。

「…ブツブツ…メールでは明日あたりには来れると言っていたけど…ブツブツ…」

「桜花の家に遊びに行ったのら。そしたら、消臭剤が50個は転がってたのら」

 とは言え、桜花の部屋は秋なのに窓開けっ放しで送風機かけまくりだったので、寒くて直ぐに帰ったのだ。

「私も差し入れ持って行ったのですが、芳香剤まみれで鼻がやられそうでしたわ」

 ヤバいと感じた梅雨は、芳香剤に当てられる寸前に帰ったのだ。流石に危機的状況を回避する能力に長ける梅雨である。

「電話で話したんだが、桜花の両親も近寄ろうとしないってよ」

 もし自分ならゾッとする。月夜は自分で自分を抱き締めながら震える。

「あれ?白雪がいないのら?」

 いつものメンツに白雪がいないのを知った紅葉はキョロキョロと辺りを見渡した。

「白雪は昨日すっ転んで捻った足首が痛いとかで遅刻して来るってよ」

 なんだかんだ言いながら連絡を取り合っている美少女軍団。だんだんと外見だけじゃなく、中身も仲良しになっていた。


「ふぅ…何とか1限目には間に合いそうですの…きゃん!!」

 ただでさえ、よくすっ転ぶ白雪は、左足首の捻挫により、すっ転ぶ回数が数倍に跳ね上がっていた。

「あーもう!!保健室で着替えなければならなくなったですの!!」

 よくすっ転び、よく制服を汚している白雪は、保健室に制服をストックしているのだ。

 素早く保健室に移動するも、途中で何度もすっ転んでいた白雪は、結局素早く移動するには至らなかった。

 とりあえず保健室に入り、自分で転んで作った傷の手当てをする白雪。

 儚げな表情が哀しいように映っているが、内面ではかなりキレていた。

(あーもう!超イライラするですの!!このイライラをぶつけたいですの!!)

 イライラしながらも包帯を巻いていく白雪…某綾波みたいなコスプレに近付いて行っているのを白雪は知らない。

 

 一方その頃、珊瑚のクラスではざわめきが起こっていた。

 あの若大路 光輝が退院したとかで、病院に行ってから学校に来るらしく、遅れてはいるが、幌幌高校に向かっている最中だとの情報が入ったのだ。

(…ブツブツ…今度は顔合わせる事になるのかしら…ブツブツ…私みたいなゲスな女より更に生きている価値の無い若大路君と…ブツブツ…)

 珊瑚は若大路と接触していないが、何故か若大路を酷く嫌っていた。

 マスク・ド・ドリアンとして接触していた事実があるのだが、若大路がマスク・ド・ドリアンと言う変態なのは珊瑚は勿論知らない。

 それ故に奇妙な事があるもんだ、とか思っていたのだが、特に関心は無いので、また車に跳ねられて休学すればいーのに、とか酷い事を思っていた。

 しかし、それは珊瑚のクラスメート全員がそう思っている事なのだ。ただ誰も口にしないだけなのだ。

 ふと予感がして校門を見る珊瑚。

(あ…来た…ブツブツ…チッ)

 若大路が意気揚々と登校してきたのを確認した珊瑚は、心の中で舌打ちをした。


「なんとか一限目には間に合いそうだねぇ~!!」

 そうは言っても特に焦って走る様子の無い若大路。馬鹿で能天気なのが丸解りだった。

「若、無理に登校しなくとも…お医者様もしばらくはリハビリのつもりで、と申されたではないですか?」

 若大路の肩に乗っかっている紐みたいな物が若大路に心配そうに言う。

「子猫ちゃん達がボクの帰りを待っているんだから仕方ないだろ~?それよりもサザンクロス。お前は出て来ちゃダメじゃないか~!」

 若大路にたしなめられ、紐みたいな物はスルスルと鞄に入っていった。

「若、申し訳ございませぬ…このサザンクロス、配慮が足りませんで…」

「解ってくれればいいんだよ~イタッ!!」

 若大路は転んで手を擦り剥いた。

「若!!大丈夫ですか!?」

「大丈夫大丈夫~。でも保健室に寄ってバンドエイドでも貰っていくよ~」

 そんな訳で若大路は保健室へ向かった。

 若大路は擦り剥いた右手の泥を制服のズボンで拭いながら保健室に向かって歩いている。

 偶然にポケットに手が入る。

「おっと!!ドリアンカードを掴んでしまったよ~!!」

 ベルトのバックルに無理やり入れていたドリアンカードはグシャグシャのシナシナになっていた。

「若……そのカード、まだちゃんと使えますか?」

 あまりのグシャグシャにサザンクロスが心配になった。

「使えるよ失敬だなぁ!!ほら!!」

 若大路はドリアンカードをベルトのバックルに押し込んだ。

「わ、若、何を!?」

 若大路は黄金の光に包まれる!!

「わー!!変身するつもりはなかったのにー!!」

 若大路は無駄にマスク・ド・ドリアンに変身してしまった!!

 若大路は馬鹿なので、こういう無駄な失敗をかなり繰り返しているのだ。

「幸い誰も近くにおりませぬ!!早く変身を解いて下され!!」

 サザンクロスはパニックになり、若大路の鞄からスルスルと出てきてしまった。

サザンクロスは太さ3センチ、長さ30センチのデカいミミズなのだ!!

「何…?この臭い…ラフレシアンとは違うですの」

 悪臭を嗅ぎ付けた白雪は保健室のドアからヒョイと顔を出して廊下を見た。

「な!何あれ!?カンキョハカーイ!?」

 白雪は慌てて保健室に引っ込んだ。

 変身した若大路、マスク・ド・ドリアンを初めて見た白雪はカンキョハカーイと判断してラフレシアンにチェンジする。

 眩い光に包まれ、ラフレシアン ホワイトスノーブリザードが現れた!

 勢い良く保健室を飛び出し、マスク・ド・ドリアンに指差す白雪。

「待ちなさいカンキョハカーイ!!この私に遭遇した事を後悔させてやるですの!!」

 若大路はキョトンとし、白雪を見る。

「え?白いラフレシアン?」

「舞い散る雪…手のひら触れると溶けて無くなり儚くて……だけど!!寒いと垂れる鼻水が不快っ!美少女戦士!!ラフレシアン ホワイトスノーブリザード!!」

「白いラフレシアン…フハハハ!!やっぱりボクはラフレシアンと関わる運命なんだよ~!!」

 若大路は両腕を広げ、白雪に近付いて行く。

「初めまして白いラフレシアン。ボクはマスク・ド・ドリアン…ラフレシアンの夫となる者さぁ!!」

「夫?カンキョハカーイではない?まぁどうでもいいですの!!いずれ幌幌高校に現れた変態はこのラフレシアン ホワイトスノーブリザードが撃破しますの!!」

「面白いじゃないか。ボクが勝ったら君を連れて行くからねぇ!こいサザンクロス!!」

 若大路に呼ばれたサザンクロスは若大路の肩に乗る。

「デカいミミズですの!不動王!!」

 のそのそと白雪の側に来た不動王。相変わらず眠そうだった。

「ふあぁぁあ~…ん?マスク・ド・ドリアン?」

 マスク・ド・ドリアンの名は白雪も知っていた。先日梅雨にやられた変態だ。

「アナタがマスク・ド・ドリアンなんですの?」

「フハハハ!!ビビったのかいラフレシアン!!サザンクロス、トランスフォームだ!!」

 サザンクロスは若大路の手のひらに移動した!

 その瞬間!

 不動王は舌をビッと出し、サザンクロスを捕らえるとパクンと一気に食べてしまった!!

「ぎゃあああああああああ!?サザンクロスぅぅぅ!!!」

 若大路はその場にへたり込んで頭を抱えながら首を振った。号泣しながら。

「す、スマン…つい…ゴクン」

「飲むなああああああああああ!!吐き出せええええええええ!!」

 顔が汚い事になっている若大路。意外と従者想いだった。

「最早救出は不可能ですの」

 白雪の一言がトドメになったのか、泣くのをやめてプルプルと震え出す。

「こ、このカエルめっ!!」

 不動王を捕らえようとする若大路。不動王はジャンプして白雪の肩に乗っかり、若大路のタックルを躱す。

 白雪は変身携帯を取り出し01と入力、不動王はビームキャノンにトランスフォームした。

「ば、バズーカ!?」

 若大路は重火器が出てきてビビってしまい、ダッシュで逃げ出した。

「待ちなさいですの!!」

 当然追う白雪。

「だ、誰が待つんだあい!?僕ももう怪我は勘弁なんだよねえ!!」

 言いながら若大路は焼却炉の方に逃げ込む。

「はぁ、はぁ……追い込んだですの…」

「ひっ、ひっ…サザンクロスは食べられ、相手は重火器…これは一度出直さないと…」

 若大路は塀を越え、校舎の外に出た。

「まちな……」

 止めようとした白雪だが、若大路は逃走に成功し、既に道路の真ん中まで出ていた。


 キキイイイイイイイイイ!!!

 車が急ブレーキをかけた音がした。

 ドン!!

 何か大きな物にぶつかる音が続いた。

「ぎゃああああああああ!!」

 あの変態の叫び声が聞こえた。

 白雪は塀をよじ登り、道路を見る。


 人集りになっていて良く見えないが、救急車を呼べ!!とか、凄い出血だ!!とか、しっかりしろ!!意識を失うな!!とか、ちょっと血生臭い、シャレにならない事ばかり耳に入ってくる。


 白雪は変身を解き、何も無かったが如く保健室に戻ってお茶を飲む。そして俯いて呟いた。

「私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない、私のせいじゃない……………」

 カタカタ震えながらお茶を啜る白雪。脚の震えで地震までおこしそうな勢いだった。

 不動王がノソノソと出て来て白雪に話かける。

「マスク・ド・ドリアンは弱くて脆いヒーローだが、回復力だけは惑星ドリームアイランドの中で最強なのだ。車に跳ねられた程度じゃ死なん」

 それを聞いて安堵する白雪。

「死なないならそれに越した事はないですの!ああ良かった!」

 震えが治まり、いきなりお茶が美味しく感じた。

 その時保健室のドアが開く。

「…ブツブツ…なんかマスク・ド・ドリアンの臭いがしたけど…ブツブツ…」

「あの変態、今度こそギッタギタに壊してやるのら~クスクスクスクス……」

「懲りない男ねぇ。この前私に半殺しの目に遭ったと言うのに…オッホッホ!!」

 いつものメンバーが集まって来た。しかし…

「マスク・ド・ドリアンは私が撃破しときましたですの。でも月夜は来ないですの?」

 そうなのだ。

 匂いが取れなくて学校を休んでいる桜花はともかく、月夜が駆け付けて来ないのだ。

「そう言えば…来ないですね」

「月夜が敵が現れたのに来ないのは珍しいのら」

「…ブツブツ…ラフレシアンになった理由も…ブツブツ…敵をやっつけて憂さ晴らししたいから、と言っていたのに…ブツブツ…」

 白雪達は不思議に思ったが、真面目な優等生キャラで通している月夜だ。

 授業をサボってまで駆け付ける必要は無いと判断したのかもしれない。

「まぁいいですの。マスク・ド・ドリアンはしばらくは来られない状態になったですの。平和は守ったですの!!」

 自力での勝利は実は初めてだった白雪は、結構満足し、胸を張った。

「頑張ったのら~。よしよし」

「頭を撫でるなですの!!」

 仲間で一番背の大きい自分が、仲間で一番チビの紅葉に頭を撫でられ、多少屈辱を感じたが、初勝利の余韻が増したような気がして満更ではなかった。


(……マスク・ド・ドリアンが出たみたいだな)

 授業中なのに話かけてくる棒忍愚。

(話かけてくんなボケ~!私は優等生なんだぞボケ!!)

 ノートを取りながら棒忍愚を制する月夜。しかし、内面穏やかではない。

(つまり若大路が幌幌高校に転校して来ている訳だが)

(バカ大路なんざ知るかボケ!あの野郎、半殺しにしてやったと思ったらいきなり姿を消しやがったが……)

 マスク・ド・ドリアンとラフレシアン フルムーンナイトには、何か確執があるようだ。

(またあの悲劇が繰り返されるのか…)

(あん時より酷い目に遭うぜバカ大路はよ~…なんぜ幌幌高校にはラフレシアンが6人もいるんだからなぁ……)

 バキッ!!

 月夜は握り締めていたシャープペンシルをバッキリと折ってしまった。

(腐れストーカーが…今度は命が無いと思えっつったよなボケぇ!!)

 何かを思い出しながら怒りに震える月夜…

 折れたシャープペンシルを筆箱にしまい、新しいシャープペンシルを取り出しながら、ノートを取る振りを一生懸命に頑張っていた!!

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