黒い陰険!!

 前日デジベルを連れ去ったカンキョハカーイナンバー2のシーペストを見た桜花は焦っていた。

 授業など上の空である。

(あいつ、かなり強えーな絶対…白雪は私等にダメージ与えるし、梅雨は節操無いからいつ寝返るか解らねーし、私と珊瑚、紅葉の他にも戦力になる奴が必要だよな…)

 桜花は白雪のドジと梅雨の無節操を諦めていた。戦力外と見做しているのだ。

 勿論二人共ラフレシアンなんだから戦えば強いのだろうが、桜花は面倒見る分のお金は貰っていないので、取り敢えず傍に置いているだけだ。

(また転校生来ねーかなぁ……) 

 ぼやく桜花だが、そうそう都合良く転校生が来る訳じゃない。しかもラフレシアンなんて一握りだ。

 そんな桜花の仲良し(表面上は)の脇乃 役子が桜花に手紙を投げる。

(ん?)

 桜花はカサカサと手紙を広げ、その手紙に目を通した。

(マジで!?)

 桜花は驚いた!

【隣のクラスに転校生が来たよ~。可愛い女の子だってさ!桜花、またライバル増えるねぇ?】

 と書かれていたのだ!!

 ついさっき切望した転校生、しかも可愛い女の子…ラフレシアンではないだろうか?おかしな匂いを発しているとまで来れば確定なのだが。

 取り敢えず次の休憩時間に見に行く事にした。

 

 そして休憩時間に隣のクラスにさり気なく向かう桜花。コッソリと教室の中を窺う。

(ほう、あいつか……)

 一目で解った。

 ショートカットだが襟足だけ長めな細身の女の子。メガネを掛けているその瞳は少し冷たく、クールビューティーと言った感じだが、同時にメガネっコ萌属性の男のハートを捕らえるだろう。他の女子生徒より長めのスカートが真面目さを際立たせる。優等生キャラのようだ。

 クラスメイトに囲まれ、質問に答えているその笑顔も可愛らしい。

(そんで問題はラフレシアンかっつー所だな…)

 桜花は再びさり気なく隣のクラスから去る。

 背中に強烈な視線を感じるが、男に見られるのは慣れているので気にしない。だが…

(品定めされてるような視線だな……)

 微かに振り返る桜花…すると転校生と目が合った。

 転校生は薄く笑い桜花を見ていた。その眼鏡の奥から邪悪な気を発しながら。

「皇至道さんて趣味は何?」「月夜さんて部活決めてるの?」

 質問攻めにそつなく応えながらも、その邪気をひっこめる気は無いようだ。

 なるほど、転校生は皇至道月夜すめらぎつきよと言うのか。

 しかし名前も解った桜花は、視線を気にしながらも速やかに立ち去った。

 そしてそのまま屋上に向かった桜花は鞄をひっくり返して底で半分失神していた雷太夫を落とした。

「か、鞄の底は…辛い……グエッ!!」

 ただでさえぐったりしていた雷太夫を桜花は握り締めた。

「メモリーカードだ。早く」

「わ、解った…解ったから離せぇ~!」

 そこで桜花は雷太夫を解放した。

「ったくラフレシアンがそう簡単に…」

 ブツブツ言いながらも雷太夫はメモリーカードを咥えた。

「……!?ラフレシアンがいたぞ!棒忍愚ばーにんぐ!!棒忍愚が見つけたラフレシアンか!!名前は…皇至道 月夜…」

 やはり、と頷く桜花。自分の感が恐ろしい。しかし…

「棒忍愚だぁ?お前等微妙にカッケー名前だよなぁ」

 従者は武器になる道具程度の認識しかない桜花は、棒忍愚の事はあまり興味が湧かなかったが、皇至道 月夜がラフレシアンなのには安心した。

「後は戦力になるかどーかだなぁ…」

 桜花はタバコに火を点け、プッカァ~とやった。屋上に来たからにはタバコを吸わなきゃならない。これは習慣だ。朝起きたら顔を洗うようなものだ。

「神宮寺 桜花…ふん。噂と違い、随分と下品ね」

 慌ててタバコを揉み消す桜花。そして高速で振り返る。目撃者は排除しなければならない。具体的には超強力な腹パンで記憶を失って貰うのだ。

 しかし、記憶を失って貰う手間は省けた。そこには転校生の皇至道 月夜が薄く笑いながら立っていたからだ。ラフレシアンならば人に知られたくない二面性は必ず持っている。

「ふん。そっちからお出ましとは、手間が省けて結構だぜ」

 桜花は変身携帯を取り出す。

「出せよ皇至道 月夜……オメーの真の姿を見せろや!!」

 月夜は桜花に倣い、変身携帯を取り出した。

 桜花の明るい色の桜色の変身携帯とは違い、紫混じりの黒い変身携帯だ。

 因みに珊瑚はコバルトブルーの変身携帯で紅葉は真紅、白雪は銀が混ざったような白で梅雨は碧だ。

「ケッケッケ……私の力を試そうっつーの?とんだボケだなお前!!」

 醜く歪んだ笑みを見せた月夜!!

 しかし桜花は動じない。二面性はラフレシアンのさが。持っていて当然。というか持っていなければ超強力な腹パンで記憶を消さなけければならない。

「行くぜクズ!!チェンジィ!!ラフレシアンンン!!」

「後悔しなボケ!!チェェンジ!!ラフレシアアアン!!」

 同時に眩い光に包まれ、同時に変身した二人。先にピンクのラフレシアンが名乗った。

「咲き誇る桜…目にも艶やか心も豊か…だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃ!!美少女戦士!!ラフレシアン チェリーブロッサム!!」

 次はオメーの番だと月夜を睨み、笑う。

「闇夜を照らす満月…心捕らわれ暫し魅入る…だけど!!ススキで跳ねてるバッタが不快い…!!美少女戦士!!ラフレシアン フルムーンナイト!!」

 月夜は頭上に掲げている左手のひらを掴むよう固く握り締め、胸に当て、そこで留めて薄く微笑した。

 これがフルムーンナイトのキメポーズだ!!

「フルムーンナイトか。随分セクシーなラフレシアンじゃねぇか」

 フルムーンナイトは黒い魔法少女みたいな格好だが、ノースリーブでミニスカートだ。

 当たり前だがスカートは脚を上げる度にパンツが見える。ちょっと動くと必ず見える。

 黒い網タイツを着用し、フリルはレースだ。

 掛けていたメガネは無くなり、頭部にはデカい黒い花が咲いている。

「ケッケッケ…お前みたいなブリッコとは違って、こちとら大人の色気満載なんだよボケ!ケッケッケェ~…」

 桜花と同じ毒吐き系だと思っていたが、少し違和感を覚える。笑い方が陰湿だった。

「まあ、どうでもいいか。ツチノコ、来い!!」

 桜花は雷太夫を呼んだ。

「ホントにやるのか?グエッ!!」

 桜花は雷太夫を鷲掴みにし、変身携帯のボタンを押す。

「ラフレシアンン!01!」

 硬鞭にトランスフォームする雷太夫。

「硬鞭とはマニアックだなボケ。ケッケッケェ~…棒忍愚!来いよ~…」

 月夜は棒忍愚を呼んだ。

「なんだ?黒い毛蟹?ヤシガニか?」

 棒忍愚はシパシパと歩き、立ち上がり桜花に向かって威嚇する。

「誰が毛蟹じゃあ!!ワシはタランチュラの棒忍愚!!断じて甲殻類じゃないわい!!」

 棒忍愚は毒蜘蛛タランチュラだった。しかし威嚇されてムッとした桜花。踏んでやろうかと凄む。

「あいつに構うなボケ!!ちゃっちゃと来いよ~!!」

 月夜の目が、イっている…この状態の月夜に逆らうのは得策じゃない。後で必ず虐待される!!

 棒忍愚はしぶしぶ月夜の手のひらに乗る。本当は味方同士で争わせたくはないのだ。雷太夫もそれは同じ。

 だが、桜花に逆らえば必ず虐待される。逆らわなくとも定期的に虐待を受けているように思うけど。

「良く見とけチェリーブロッサム…これがフルムーンナイトの必殺技だぁ~!!」

 棒忍愚は細くなり、尻から鎖を出した。

 そして胴体部分はグリップ部分が生えて爪が鉤状となる。

「そりゃ鎖鎌かよクズ!!」

「そうだよ~。ケッケッケェ~…ロングレンジとショートレンジでの戦闘が可能な武器さぁ~…ケッケッケェ~…!!」

 確かに鎖鎌は非常に恐ろしい武器だが、桜花はあのイっている月夜の表情に脅威を感じていた。マジで危ないな。こいつ!!と。

「チェリーブロッサム。やるのは仕方ないにしても手加減はしろ。ラフレシアンは仲間だぞ」

「あ~…できたらな」

「フルムーンナイト。間違ってもるなよ?ラフレシアンは一人でも多い方がいいからな」

「自信ねぇなぁ~…ケッケッケェ~」

 従者は一応注意したが、桜花と月夜はやる気満々だった。

 場に緊張した空気が漂う。強者ならではの緊張感だ。西部劇の草の塊があったら転がっていただろう。

 その時、校庭から土煙が上がった!

「ふはははは!今日こそケリを付けるぞラフレシアン!!」

 機害獣コウギョウハイスイと共に現れたヘドロだった。

「ち、一時休戦だフルムーンナイト」

「仕方ないなぁ~…代わりににあいつを痛い目に遭わせててやるか~」

 桜花と月夜はヘドロの方を向く。

「おうクズ!丁度いいっちゃ丁度いいぜ!!」

「フルムーンナイトとチェリーブロッサムの共闘だせ~…ケッケッケェ~…」

 強襲敷いた筈がいきなり臨戦態勢の桜花にビビるヘドロ。

「な、何でそんなにやる気なんだ?気が早いなチェリーブロッサム…と、黒いラフレシアン?」

 ヘドロは目が点になった。そんな情報は無かったからだ。

 予定では一人ずつ襲って倒すつもりだったが、これでは強襲した意味が無い!!

「行くぜぇボケぇ~…ケッケッケェ~」

 月夜は鎖鎌の鎖部分を回し、分銅をコウギョウハイスイの脚部に絡めてぶっ倒した。

――コウギョウハイスイイイイイイイ!!

 ズウゥゥン、と倒れたコウギョウハイスイ。あの巨体を倒すとは、凄まじい馬鹿力だ。

「切り刻むぜぇ~」

 月夜はコウギョウハイスイのボディを鎌でザクザク切り刻む。あの巨体を鎌で斬り裂くとは凄まじい斬れ味だ。一撃の重さは皆無なれど、何度も何度も斬り付けて行く。なぶり殺しだった。

「き、貴様!可哀想じゃないか!一思いに倒せよ!」

「あ~…私はジワジワとなぶるのが好きなんだよボケぇ~」

 構わず切り刻む月夜に見ちゃおれん!!とヘドロはコウギョウハイスイに駆け寄る。

「うわあ!?あ、脚がっ!?」

 ヘドロの脚に鎖がいつの間にか巻き付いていた。結果派手にすっ転ぶ。

「なんだ~?お前から切り刻まれたいってか~…いいぜいいぜぇ~ケッケッケ~」

 月夜は凄く陰湿な笑顔でヘドロに近付いて行く。

「や、やめろ…」

 ガチで脅えるヘドロ。自由にならない脚を懸命に動かしながら後ずさる。

 その時、唐突に雷太夫が喋った。

「今棒忍愚から連絡が入ったんだが…フルムーンナイトは普段は真面目の優等生だが、中身は陰湿で勝つ為にはどんな手でも平気で使うそうだ」

「陰湿?今の所そんなイメージはあの笑顔だけだが…」

「ライバルを蹴落とす為に靴を隠したり、下剤飲ませたり…」

 それはつまり私生活でも油断ならない奴と言う事になる。

 優等生キャラの月夜は、頭脳明晰の桜花と学力で争う事になるかもしれないのだ。自分の身がリアルで危ない!!

「あいつとは友達になった方がいいかな…」

「それがいいかと思うぞ」

 歪んだ笑みでヘドロとコウギョウハイスイを切り刻む月夜を見て、桜花は月夜と友達になる事を選んだ。ラフレシアンとしても戦力になるし、まぁいいかな、と思ったのだ。

 そして棒忍愚にも情報が入った。勿論雷太夫からだ。

「チェリーブロッサムは幌幌高校はおろか、他校にもファンクラブがあると言う美少女だそうだ」

 敵を切り刻みながら、会話をする月夜。

「ああ?クラスで聞いたよ。頭もいいみたいだなあのボケは~……私と被るな。ケッケッケェ~」

 テスト前には下剤でも飲ませてやろうか、と嗤う。

「それだけじゃないぞ。ラフレシアンにチェンジしたら一人で機害獣と幹部三人を撃破する程の強さだそうだ」

 切り刻む手がピタッと止まる。

「一人で!?機害獣はおろか、幹部三人も倒しただって?」

 驚愕した月夜。桜花をただの毒吐き自信過剰のボケだと思っていたのだ。

「…あいつとは友達になった方が賢いかもな~…」

「ワシもそれがいいと思うぞ…私生活も取り巻きが半端ないらしいからな…」

 月夜は桜花と友達になる事を選択した。

 ラフレシアンは一人でも多い方がいいからな~…それに取り巻きが多いのなら、下手をすればこっちがボッチにされちまう。 

 美少女で優等生の自分は周りに頼られてこそ光り輝く。とか思いながら。

「こ、こなくそ!!」

 切り刻む手が止まった瞬間、ヘドロは月夜から離れた。

「お?逃げるかぁ?」

 イヤらしく笑う月夜。

「こ、今回は分が悪い!出直してくるから首洗って待っていろ黒いラフレシアン!」

 ヘドロはコウギョウハイスイと共にテレポートして逃げ出した。

「私はフルムーンナイトだボケ~!!名乗っただろうがボケ!!」

 いきり立った月夜だが、ヘドロは尻尾を巻いて逃げた後。これ以上は叫び損なだけだ。

 そして、敵去りし後、桜花と月夜に微妙な空気が流れる。

「ま、まぁ仲良くやろうぜフルムーンナイト」

「そ、そうだな。プライベートでも仲良くしようか」

 それぞれの思惑が絡み合い、桜花と月夜は仲良しになった。

「な、仲間も紹介するぜ。来いよ」

「ぜ、是非紹介してくれよ。これから共に戦うんだ。変身を解いた後でも親睦を深めたいしな」

 かなりぎこちないが、月夜は桜花達の仲間になった。

 六人目の黒いラフレシアン…ラフレシアン フルムーンナイトとして!!

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