チェリーブロッサムの力!!トランスフォームせよ雷太夫!!

 資金をやりくりし、どうにか一体の機害獣をゲットできたダイオキシン。しかし浮かれる事は無く、配下の幹部達に口を酸っぱくして言い聞かせていた。

【よいか、この一体が壊れたら暫く機害獣は造れぬ!!臭い小娘共を確実に倒すのだぞ!!】

 ダイオキシンはカンキョハカーイの一番の権力者ではあるが、運営力がかなり乏しいので、カンキョハカーイ幹部達に「上が馬鹿だと下が苦労すんな~」と陰口を叩かれていた。

 お金がないダイオキシン率いる幌幌支部だが(ダイオキシンは幌幌支部長と兼務なのだ)各支部から資金を回して貰う事は極力避けたいので(一応それなりのプライドはあったのだ)、爪に火を灯したお金でようやく一体の機害獣を造る事が出来たのである。

【確実に仕留めるのだ!!そうでなくとも幌幌は実績が全く無いのだからな!!】

 他支部長に馬鹿にされたくないダイオキシンは、安全確実をモットーに部下にラフレシアン討伐を命令した。

「で、ではダイオキシン様、大人しく我等の故郷、『カンキョハカーイ帝国』で各支部の報告を待った方が…」

 主戦場は幌幌町だが、その他に色々な場所に支部がある。資源調達の場だったり、機害獣作成の秘密工場があったり、末端兵士の養成の場だったりと、その用途は様々だ。

 ヘドロは総王たる者、どんと構えてその各支部の吉報を待て、と言っているのである。

「そ、そうですよダイオキシン様!総王がわざわざ現場で指揮を取らずとも…」

 要するに邪魔だ、とシーオーツーは言っているのだ。

「そ、それにわざわざ幌幌に城を建てた意味が分りませんわん!!私達のアジトならばその辺のアパートでも事足りますわん!!」

 だから城ごと帰れ!とカドミウムは言っているのだ。

 どこの世界でも、権力者が現場であーだこーだ指図するのは好まれないようだ。

【だまれ下郎!このダイオキシンの決定に口を挟むな!!】

 ダイオキシンはマジ切れした。自分の威厳の無さの苛立ちを部下に向けているようだ。

 しかし、何度も言うがダイオキシンの強さは本物…これ以上何か言って本格的にへそを曲げられたら、自分の生活や命が危うい。

「わ、わかりました…確実にラフレシアンを倒してまいります…」

 仕方ないので、ヘドロ達はダイオキシンの命令を聞く事にした。やはりどこの世界も権力者の命令は絶対のようだ。

【ならば行け!グダグダ言うでないわ!!】

「「「は、ははっ!!」」」

 三人の幹部は、ダイオキシンの前から逃げるよう、退出していった。


「全く、城なんか建てるから金無くなるんじゃないか…」

 ぼやくヘドロ。

「ともかく、ラフレシアンを倒さない限りは、我々の身も危ういぞ?」

 焦るシーオーツー。

「三人で一気に小娘一人のみを狙い、フクロにしましょうよん!!」

 提案するカドミウム。

 自分達三人と機害獣一体でラフレシアンを一人ずつ倒す。

 少し情けない気がするが、背に腹は変えられない状況だったので、そうする事にした。


 ドガァン!!バリバリバリバリ!!

 激しい爆発音と共に破壊された校舎!早速作戦を実行しようと、幹部達は幌幌高校を襲撃したのだ。

 破壊されたのは三年生の教室だった。

 当然パニックになり、逃げ惑う生徒達。

「校庭に避難しろー!!」

 先生達の誘導で校庭に避難する生徒達と真逆の方向に「きゃー!!きゃー!!」と悲鳴を挙げながら走る美少女の姿。

 桜花だった。走りながら桜花は周りに人がいないか確認する。

「おいツチノコ。周りには誰もいねーよな?」

「大丈夫だぁ~!!チェンジだ桜花!!」

 ならば、と走りながら変身携帯を掲げる。

「チェィンジィィイ!!ラフレシアァァァンンンン!!」

 走る桜花の周りに纏わり付く光が晴れると、そこにはピンクの魔法少女ヨロシクフリフリでやたら短いスカートの、頭からピンクのバカデカい花を咲かせている女の子が現れる。ラフレシアン チェリーブロッサムだ。

「三年生の教室でいいんだよな?」

「そうだ~。急げ桜花…グエッ!!」

 桜花はわざわざ立ち止まって雷太夫を踏みにじった。

「私に命令すんなっていつもいつもいつもいつも言ってんだろツチノコぉ!!」

「ぐえぇぇ~…いちいち反応するなぁ~…そしてツチノコじゃなくメタボで短いマムシだぁ~…」

「うっせぇ!!」

 バイィィィン!!と桜花は雷太夫を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた雷太夫は、階段を登る手間が省けて、半壊した三年生の教室に辿り着く事が出来た。

「いててて…怪我の功名…かな~?グエッ!!」

 超ダッシュで到着した桜花に普通に踏まれた雷太夫。怪我の功名じゃなく、単なる怪我だった。

「何サボってんだよオメー!!カンキョハカーイはどこだ!?」

 自分で踏みつけたのにサボってるとはなかなか酷かった。

「チェリーブロッサム…」

「チェリーブロッサム!!良かったのら。先越されなくて」

 珊瑚と紅葉も変身して駆け付けた。

「待っていたぞラフレシアン!! この『ノーヤクサンプ』で貴様等を汚染してやる!!」

 ヘドロの命令で、掃除機をバカデカくしたような四角いロボットが、雄たけびを上げた。

――ノーヤクサンプゥゥゥウウウウ!!

 教室を半壊させたのはコイツだった。手にあたる部分がノズル式ホースとなっていた。それを振り回して壊したのだろう。

「三人雁首揃えて、またイジメられに来たのかクズコラ!!」

 いきり立つ桜花。

「その前にぃん…うふふん!!」

 カドミウムが煙玉を投げつける。

「くあ!!」

「あ…」

「うわー!!」

 桜花達は煙によって視界を奪われた。

 やがて煙が晴れると、桜花の目の前にはヘドロ、シーオーツー、カドミウムが機害獣ノーヤクサンプの頭に乗っかり、仁王立ちをしていた。

「グレートバリアリーフ?レッドリーブス?二人はどこだ?バックレたのか!?」

 二人のを捜すも、姿が見えない。一人は死にたいから戦っているし、一人は壊したいから戦っている、だから逃げたとは全く考えられないが。

「ふふふん…お友達は別の教室に移したわん」

 お友達と言われて一瞬誰の事かガチで解らなかったが表情に出さなかった桜花。 薄情以上に酷過ぎだった。

「今頃、我等の幻相手に頑張っている事だろう」

 シーオーツーが薄笑いを浮かべて桜花を見下ろした。珊瑚と紅葉は別の教室で幻相手に戦っているようだ。

「一番弱い貴様から順に潰してやろうと思ってな!!」

 ヘドロの一言で一瞬にして沸点に到着した桜花の怒り!!

「私が一番弱いってどーゆー意味だゴラアアアアア!!!」

 桜花が右拳を握り固めていきり立つ。

「貴様は武器を持ってないだろう?いわばザコだ!ガハハハハ!!」

 挑発するヘドロ。いつも逃げ帰っている奴にザコと言われたのだ。物凄い侮辱だと、桜花のコメカミに血管が浮き出る。

「上等だゴラアァァァ!!私を選んだ事を死んで後悔させてやるよクソ共がぁぁぁあ!!!」

 桜花はラフレシアンになって初めてマジギレをした。死んで詫びろと声高に名乗る。

「咲き誇る桜ぁ!!目にも艶やか心も豊か!!だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃぃい!!美少女戦士!ラフレシアン チェリーブロッサム!!!」

 桜花はピースの間から右目を覗かせる。その瞳には強い怒りしか現れていなかった。

「行くぜ!クズ共!!」

 桜花はノーヤクサンプの懐に一気に詰め寄った。

――ノーヤクサンプゥゥゥ……

 ノズルを向け、高濃度の農薬を桜花に撒き散らす。

「あああああああ!ああ!!あああ!!!」

 桜花はトップスピードを変えず、農薬を躱した。

「なに!?」

「まずはデカブツからだウラァアアア!!」

 ノーヤクサンプのボディにパンチをぶち込む桜花!!

――ノーヤクサンプゥゥゥ!!?

 ノーヤクサンプは校庭まで吹っ飛んだ!!

「うわあああああ!!」「きゃあああああ!!」

 校庭に避難していた生徒達が絶叫する!!

「くたばりたくなきゃ、さっさと逃げろクズ共!!」

 桜花は生徒達に怒号で避難を促した。生徒達は阿鼻叫喚になりながら、散り散りに散って行く!!

「おうコラ…私を一番弱いと言った事、後悔させてやるよクズ共!!」

 桜花はノーヤクサンプのノズルを両手に抱きかかえた。

「らああああああああああ!!」

 そのままノズルを引きちぎる桜花。

 ブチィィン!!と、簡単に右のノズルが引きちぎられた。

「ヤバいわん!壊されたらダイオキシン様に凄いお仕置きを喰らうわん!!」

 カドミウムは桜花の前に立った。機害獣を桜花から守る為に。

「チェリーブロッサム!!死ぬのよん!!」

 カドミウムは右手から雷光を発した。

「うおっ!!」

 間一髪躱す桜花に追撃するシーオーツー。

「たった一人で大したものだ。だが!!」

 シーオーツーは咥えていたキセルから煙を吐き出した。

「くわっ!何だ!?」

 それも躱した桜花。

「躱したか…その煙を吸い込めば窒息していたのだがな」

「物騒なもん使いやがって…うわっ!!」

 ヘドロが桜花の足を持って吊り上げた。

「バカ野郎!!パンツ見えるだろ変態イモゴリラが!!」

「先程から見えておるわ小娘!!」

 そのまま地面に叩きつけられた桜花。反射的に体を丸めた為、頭部へのダメージは避けたが、背中を痛打した。

「ぐわあっ!!」

 堪らず転げまわる。本気で痛そうだった。

「終わりだラフレシアン チェリーブロッサム!!」

 好機と見たか、ヘドロとシーオーツーとカドミウムは桜花にジリジリと詰め寄った。

 絶体絶命、とまでは言わないが、そこそこピンチの状況。その時雷太夫が桜花の前にぴょんと飛び出る。

「チェリーブロッサム!!01だ!!」

「そ、そういや使った事がなかったな…よし!!ラフレシアアァァァン!!01!!」

 変身携帯のボタンを押した桜花。雷太夫が真っ直ぐに伸びていく。メタボなマムシのボディが単なるマムシになって行くのだ!!

「グレートバリアリーフがモーニングスターで、レッドリーブスがクロスボウなら、主役の私は剣な筈だ…!!」

 期待マックスの桜花。めっさワクワクしながらトランスフォームの様子を見ていた。

「こ、これは…」

 トランスフォームを終えた雷太夫の姿に唖然としたカドミウム。

 そうだろう。真っ直ぐに伸びた蛇の尻尾に、滑り止めのグリップが付いただけなのだから。

「ま、まさか?あまりにもマニアックな武器だぞ?」

 シーオーツーはその正体に気付いたようだが、まさか?との思いが強いようだ。

「単なる棒と言う話もあるが…」

 ヘドロの言う通り、それは単なる棒。トランスフォームした雷太夫は剣ではなかった。

「なんだよコレよ!?」

 期待していた分だけ落胆が大きかった桜花。トランスフォームした雷太夫に目を剥いた。

「これがラフレシアン チェリーブロッサムの必殺技…硬鞭だっ!!」

 雷太夫は誇らしげに言い放つ!!己の武器化した姿に一片の不安も無かった!!

 鞭には硬鞭と軟鞭がある。普段目にする、もしくは耳にする鞭とは軟鞭の事だ。

 硬鞭とは、読んで字の如し!硬い鞭!!

 曲がりもしなりも無い、敵を『叩き潰す』武器なのだ!!

「美少女の私が鞭…しかも、見た目ただの棒っキレとは…」

 桜花はガクンと項垂れる。仮にも主役である自分の武器が棒っキレなのがショックのようだった。

「ま、まあいいや…取り敢えず使ってみるか…」

 桜花は落ち込みながらも硬鞭をノーヤクサンプにぶち込んだ。

「らああああ!この!クズがぁぁぁぁぁ!!」

 バシイイイィィィィンッッッ!!と凄まじい打撃音と共にノーヤクサンプのボディが叩かれた所から内側に捲れていった!!

――ノーヤクサンプゥゥゥ~……!!

 ボガアアアアアン!!とノーヤクサンプは簡単に爆発した。それをぼんやりと見ていた桜花だが、次第に凄まじいパワーを感じて震える。

「ツチノコ…いや、マムシ…いや、雷太夫…お前凄かったんだな!!」

 雷太夫は硬鞭のまま得意気に返した。

「大したもんだろ~!!残り三人!行け、チェリーブロッサム!!」

 桜花の目が輝いた!!

「うらあああああ!!」

「うっ!!」

 ヘドロは腕を十字に組み、ガードしたが!!

 バッシィィィィン!!

「ぎゃあああああああ!!」

 ヘドロは泡を吹いて気絶し、倒れてしまった!!

 ヘドロが倒れた事により、別の教室で戦っていた珊瑚と紅葉の幻が解けた。

「あ、あれれ?」

「…ブツブツ…どうやら…ブツブツ…幻だったようね…ブツブツ…幻程度で充分と思われているのね…ブツブツ…」

「そんな事より三年生の教室に戻るのら!チェリーブロッサムに全部壊されてしまうのら!!」

 ブツブツ言っている珊瑚の手を引き、桜花の元へと急ぐ。

 三年の教室に辿り着いた二人だが、そこには桜花の姿は無い。念の為に見渡してみる。

「あ…壁が壊れてる…」

 その破壊された壁から外を見ると、桜花がイキイキと敵をぶっ叩いているではないか!!

「ここから校庭に落としたのら!!」

「チェリーブロッサム…何か持っているわ…」

 それは棒のような物。それでヘドロを気絶させていたのが目に映る。

「棒?棍?いや、違うのら…」

 その時、シーオーツーが桜花に襲い掛かった。

「こ、この小娘!」

 例の煙を吐き出すシーオーツー。

 桜花の目がギラリと光る!!

「細けぇ攻撃すんなクズあああああああああああ!!」

 硬鞭を奮う桜花。すると煙が掻き消された!!

「なにぃ!?」

「終わりだヒョロ男ぉ!!」

 バシイイイィィィィン!!

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 シーオーツーは白眼を剥いて、泡を吹き、気絶した。

 その様子を破壊された三年の教室で眺めていた珊瑚は素直に驚嘆する。

「一人で…凄いわ…」

 紅葉がパン!!と手を叩いた。

「思い出した!あれは硬鞭なのら!硬い鞭なのら!」

 鞭と聞いた珊瑚はウンウン頷いた。

「チェリーブロッサムにピッタリの武器ね…」

「恐ろしい程ハマっているのら…」

 女王様に鞭!桜花に硬鞭!確かにこれ以上ピッタリな武器は無い。

「チェリーブロッサム…覚えてなさいよん!!」

 形勢不利と見たカドミウムはテレポートで逃げようとした。

「逃がすかよクズ!!くらえメス豚ぁ!!」

 桜花はそれを許さずに超高速でカドミウムの間合いに一気に入り、硬便で思い切りぶっ叩く!!

 バシイイイィィィィン!!

「はぁああぁああぁぁぁんんんん……!新たなセカイ…っ!!」

 カドミウムは高揚して顔を赤らめて気絶した。

 気を失ったカドミウムの表情は新たな自分を発見したように、それはそれは幸せそうだった。

「どうだクズ共!!一番弱いと言った非礼を謝りやがれ!!」

 倒れている幹部三人をぶっ叩く桜花。

 バシイイイィィィィン!!

 バシイイイィィィィン!!

 バシイイイィィィィン!!

 と、平等に何回もぶっ叩く。容赦なく。口角が微妙に持ち上がっているのが何とも。

「ほんとピッタリ…」

「女王気質は伊達じゃないのら」

 珊瑚と紅葉は妙に納得し、ただ頷いてばかりだった。

 

 闘いの様子を水晶玉で見ていたダイオキシン。

【ぬぬぬ…おのれラフレシアン!!我が財産の機害獣を破壊したばかりか、我が可愛い部下まで酷い目に遭わせおって!!】

 ダイオキシンは指をパチンと鳴らした。

 ヘドロ達が校庭からテレポートし、城に現れる。

 それを戦闘員に手厚く看護せよ。と申し付け、敵が消えてきょろきょろしていた チェリーブロッサムを水晶玉越しで見ながら叫んだ。

【幌幌町で全面戦争だラフレシアン!!】

 ダイオキシンは各支部に通達を出した。

 幌幌町のラフレシアンを殲滅せよ!!

 通達は支部長の元に届く!!

 城の電話という電話が!!

 パソコンというパソコンが!!

 ファクスというファクスが!!

 ダイオキシンの招集に応じるという、支部長達の返事だった。

 中には返事も寄越さない幹部も勿論いたが。と言うか沢山いたが。

 まあそれは置いといて、腐っても使えなくても『カンキョハカーイ帝国』の総王である。

 ダイオキシンの恐ろしさは、支部長達が良く知っているのだ。

【ラフレシアン!!貴様等は骨すら残さぬわ!!】

 既に気が付いていたヘドロ達だが、まだ気絶したフリをしていた。

 やべー、マジ切れしてるよダイオキシン様…とか思いながら。

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