赤い狂気!!

 すっかり肌寒くなった初秋。桜花と珊瑚は一緒にお昼ご飯を食べていた。

「あ、珊瑚、卵焼き食べる?」

「美味しそうね。じゃ、私のエビフライと交換ね!!」

 と、はしゃいでいたので、周りには仲良しだと思われていた。

 互いに真の姿を知っている者同士、惹かれ合っている……訳では無い。

 互いに自分の真の姿をバラされないか見張っているのだ。

(ったく面倒くせーなぁ…根暗女と表面上でも仲良くするなんてよぉ…しかし、バラされちゃ洒落になんねーし…コイツは下手に人望あるからマズいんだよなぁ…)

(わ、私が本当はネガティブなんて他に知れたら…ブツブツ…きっと学校中で私を撲殺しようと躍起になるに違いないわ…ブツブツ…桜花は人気あるから、絶対桜花の話は信じちゃうだろうし…ブツブツ…朽ち果てた屍のような私の話なんか誰も信じないだろうし…ブツブツ…いえ、私と同列に例えられるなんて、朽ち果てた屍に申し訳ないわ…ブツブツ…)

 とか腹の中で思っていた。 

 その時、「べ、別にアナタ達の為に作った訳じゃないんだから!!余ったら勿体無いからついでなんだからっ!!」

 なんか怒っているような少女の声が聞こえ、桜花はそちらを見た。

 背の小さい、綿菓子のようなフワフワな髪の美少女が、男共におにぎりを配っていた。

「ぶ、文化祭が近くて頑張っているからお弁当だけじゃ足りないかなあ、とか思ってないんだからねっ!!」

 少女はツンツンしながら、同じ部に所属しているであろう男子生徒に配っていた。

 男共は全員ポワ~ンとなり、土下座して敬っていたり、大事におにぎりを封印したり、泣きながら頬張ったりしていた。

「美術部の三千院紅葉さんぜんいんこうようか。アイツには男がヘーコラしていてムカつくんだよなー」

「お、桜花…ブツブツ…地が出てるわ…ブツブツ…私みたいなクズで生きている価値が無い女なんかに…ブツブツ…気を遣う必要は全く無いけど…ブツブツ…」

「オメーも出てるよっ!!お互い気をつけなきゃなぁー…」

 桜花と珊瑚は、何か居心地の悪さを感じ、お弁当を片付けて、その場から立ち去った。


「いけない!お昼休みが終わっちゃう!!絵の続き少しでも進めなくちゃ!!」

 部室に急ぐ紅葉。その歩く後ろに、男子生徒がカルガモのヒナみたいに連なって歩いていく。

 視線が細い腰や小さなお尻に降り注いでいるも、紅葉は気にも止めない。

 ジロジロ見られるのは慣れているからだ。

 しかし、美術室倉庫前まで来たときに、紅葉は両手をバッ!!と広げ、後に付いてくる事を拒んだ。

「ここからは付いて来ちゃダメなんだからねっ!!」

 男子達は紅葉に嫌われたくないので、紅葉の邪魔はなるべくしないよう心掛けていた。

 なのであっさり退く。すると紅葉はにっこり笑って「ゴメンね?」と言うのだ。

 すると男子達は『きゅうううううううん』と、胸を押さえて蹲る。

 紅葉は背の低い小柄なロリロリ系、その外見と相まったツンデレ口調から、文化系の男子達に圧倒的人気があった。

 美術室にストーカーモドキがやってきて、紅葉の美術道具を盗んだり、紅葉を見たさに詰め寄ったりで、他の部員の迷惑になるので、紅葉だけ美術室倉庫で活動している。いわば紅葉にとって作品に集中できる聖域だった。

 美術室倉庫は鍵が付けられており、紅葉だけがその鍵を所有しているのだ。

 紅葉は『自分専用部室』に入り、施錠した。

 残念そうに一人の男子生徒が呟く。

「あ~あ、これでしばらくは紅葉ちゃんの姿見られないなぁ…」

 相打ちを打つように、別の美術部部員が口を開く。

「下校時間までどっかで時間潰すか…」

 そうして男子達はゾロゾロと帰って行った。

 ここで紅葉は漸く自分の時間。やっと集中して絵を描く…訳ではない。

 ボロボロのウサギのぬいぐるみを愛おしそうに抱きかかえる。

 余程お気に入りなのだろう。おそらくぬいぐるみに癒しを求めているのだ。

 しかし、そんな訳ではなかった。

 紅葉はカッターの刃をカチカチカチ…と出し…

 そして『ザクゥ!!』と思いっきりぬいぐるみに刺したのだ。

 しかも一度では無い。何度も何度も!!笑いながら何度も何度も突き刺す!!

「クスクスクス…ザクザクザクザク…クスクスクス…ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク…キャハハハハハハハハ!!」

 ぬいぐるみを刺しまくっている紅葉の表情は愉悦していた。瞳は潤んで、よだれまで垂れる始末だった。

「はあぁああぁ…いいのらぁ~…」

 紅葉はあまりの快感に舌っ足らずになる。

 紅葉はその容姿からブリブリのロリロリとして人気があったのだが、本質は猟奇趣味の固まりだったのだ!!

 これが文化系アイドルのツンデレっ娘の実態だった!!

 コツッ コツッ

『紅葉専用部室』の窓をノックする音。というかここは三階。一体誰がノックをすると言うのだろうか?

「誰!?私の邪魔しちゃダメって言ったでしょ!!」

 ノックされてパニくった紅葉。しかし刺しまくってボロボロになったぬいぐるみを超速でロッカーに隠す事を優先する。

 隠し終え、そして窓を見る。

 コツッ!コツッ!コツッ!

 窓を叩いていたのは、ずんぐりむっくりしているカラスだった。

 カラスの雛がそのまま大きくなったような、そんな感じだ。

「そ、そか。そーいや、ここは三階だったのら…」

 ホッと胸を撫で下ろす。ロリロリのツンデレで通している自分の真の姿を見られていない事に安堵する紅葉。

 実際はツンしか無い猟奇的な女の子だとは、流石にバレたくはない。

 紅葉は窓を開けた。カラスがこんなに目の前にいる事は無い。これはいい経験になりそうだ。

「カラスさん、カラスさん…こっちへおいで…」

 カラスを優しい眼差しで自分専用部室に手招きする紅葉。

 カラスは紅葉に導かれるが如く、紅葉が開けた窓から紅葉専用部室に侵入してきた。

「いらっしゃい、カラスさん。クスクスクス………」

 紅葉は静かに窓を閉じ、カーテンを引いた。そしてカラスをふん捕まえると、本気でギリギリと握り締めたのだ。

「うふふ…カラスのお肉は牛肉みたいな味って聞いた事があるのら~…」

 紅葉は右手にカラスを締め、左手にカッターを持った。そして「じゅる」とよだれを啜る。捌いて食べる気満々だった。

 いい経験とはこの事だったのだ。カラスを食べる機会なんて通常ではありえないからだ。

「カアアアアア!!ちょ、ちょっと待て!!私を食べる気か!?」

 カラスが喋った!!

「カラスも九官鳥みたく喋るのら~…命乞いなんて聞きたくないのら~」

 しかし紅葉は全く動じず、その右手の力を緩めようとはしなかった。

 何と言う胆力!!カラスが喋ろうが全く気にしていない!!しかも食べようと考えるなど通常の思考とは思えない!!

「待て!!少し話を聞け、三千院 紅葉!!君はラフレシアンに選ばれ…ギャース!!」

 締められ過ぎたカラスは、圧死寸前まで追い込まれた。

「ラフレシア?臭いお花なのら。いらないのら。クスクスクス……」

 カラスはかろうじて保っていた意識で紅葉を見た。

 笑ってはいるが、目は全く笑っていなかった。本気で恐怖を感じる。

 だがそこはラフレシアンの従者。何とか話を続けようと踏ん張った。

「ラフレシアンとは…あ~!!ほら、この前ピンクとブルーの女の子がおかしなロボットみたいなのを倒したの知っているだろ?あれだ。あれがラフレシアン…カアアアアアアアア!?」

 カラスが断末魔をあげた。紅葉が不意に力を緩める。

「あの臭いお花を頭に咲かせていたって女の子?あれがラフレシアンっていうの?」

 カラスは息も絶え絶えに続けた。

「私は黒乃守くろのす…ラフレシアンの従者だ。お前は『カンキョハカーイ』をカアアアァアガハッ!!」

 どうやら、自分をあのヒロインにしたいらしい事は理解出来た。が!!

「あんな臭いヒロインにはなりたくないのら~…しかもカラスに黒乃守って名前は勿体無いのら~…クスクスクス…私はお前を捌いて食べる事しか頭には無いのら~…最悪食べるのは我慢したとしても、バラバラに斬り裂く事だけは絶対にやめないのら~…クスクスクス…」

「カアッ!!クワッ!!」

 黒乃守は死を覚悟した。従者たる自分が、仕えるべきラフレシアンに志半ばで殺される…理不尽すぎるが、これも人生、いや、カラス生…悪くないどころか最悪のカラス生だった。次に生まれ変わるとしたら、普通のカラスとして空を自由に羽ばたきたい…意識が遠のく最中、そんな事を考えていた。

 あの川を渡れば、きっと楽になる。向こうの川岸には、死んだじいちゃんカラスがニコニコしながら手招きしているし、きっと良い所に違いない。

 しかし、黒乃守はその川を渡る事が出来なかった。

 ガシャアン!!と、美術部が破壊されて驚いた紅葉が黒乃守を離してしまったからだ。

「な、何があったのら!?」

 カンキョハカーイが現れたのだ。息も絶え絶えだが、ここでカンキョハカーイの機害獣にやられたら、せっかく拾った命が無駄になる。

「こ、紅葉…あれがカンキョハカーイの機害獣だ」

 紅葉は唾を飲み込む。

「あの汚物処理する為のバキュームカーみたいな形をした超デッカイのが敵?私にあれを壊せって言うのら!?」

 あまりの大きさに絶句した紅葉だったが、アレを壊してもいいと思うと口元の緩みが抑えられなかった。


 紅葉が機害獣との邂逅を果たした同じ頃、桜花と珊瑚は破壊された美術室に向かって駆けていた。

「なんで幌幌学園にばっかり現れんだよ!?おかげで金稼げていいけどよ!!」

「ブツブツ…私を亡き者にして笑う為だわ…ブツブツ…私なんか道路で轢かれたカエルみたいな最後がお似合いとか思ってるんだわ…ブツブツ…いえ、轢かれたカエルに申し訳無いわ…ブツブツ…」

 それぞれ地が出ているようだ。臨戦態勢と思っていい。

「桜花!!変身だ!!」

「珊瑚、ブツブツ言ってないで早く変身しろ!!」

 桜花はマムシとヒトデに上から命令された気分になり、ムカついた。なので雷太夫を踏みつけ、棘紅郎を蹴る。

「ぐえぇ~!?な、何をする!?」

「わ、私は関係無いだろ!?なぜ蹴るんだ!!」

「うっせぇ!!テメェ等に命令されてると思うとムカつくんだよクズ共!!」

 更に強く棘紅郎を蹴った。蹴られた棘紅郎は、そのまま『紅葉専用部室』に飛んでいった。

「おわああああああ!?」

 紅葉専用部室の中に飛びこんだ形になり、そこにいた紅葉の目の前に突っ込んだ。

「きゃああああ!?」

 いきなり赤いトゲトゲの物体が飛び込んできたのだ。流石に紅葉も驚いて悲鳴を挙げる。

「いてて…桜花の奴、私は関係無いのに……ん?」

 棘紅郎の視界に飛び込んで来たのは、フワフワな髪をしたあどけない顔の少女と、圧死寸前でピクピクしている仲間の黒乃守の姿だった。

「く、黒乃守?なんでお前が?」

「おお、棘紅郎か…私はもうダメだぁ…ガクッ」

「黒乃守うぅぅ~!!」

 紅葉の目には、デカいヒトデがずんぐりむっくりのカラスを抱きかかえ、号泣しているという、およそ普通に生きていてはお目にかかれない光景が映っていた。

「何何何何??ヒトデさん、カラスさんと知り合い? 」

 黒乃守は翼を紅葉に向ける。

「この娘がラフレシアンだ…」

 棘紅郎は黒乃守がボロボロな理由わけを悟った。自分と同じ目に遭っているのだと。

「……この子も人格破綻者か…」

「今はブリブリしているが、私を殺して食おうとしたり、~のら~とか語尾を使ったり…カアア!?」

 紅葉は黒乃守を再びむんずと掴んだ。

「余計な事は言わないのらカラス~…」

 もう本気で殺してやろう。ついでに自分の真の姿を知ってしまったヒトデも亡き者にしよう。

 そう思い、カッターの刃を出した。その時!!

「チェインジィィ!!ラフレシアァンン!!」

 と、美術部の外から声が聞こえて、釣られて紅葉は外を見た。

「え?神宮寺 桜花と来栖川 珊瑚??」

 無論、紅葉も二人を知っている。

 かたや高校のアイドルとして幌幌高校に君臨し、かたや運動部のアイドルとして運動部部員に絶大な指示を受けている二人だ。

 文化系の男共を虜にしている文化系アイドルツンデレ娘の自分としては、二人をライバルだと意識していた。

「その二人が臭い臭いヒロインだったのら!?」

 驚き意外に何も無い。臭いイタいコスのパンツ見せ女が、幌高のアイドル達なのだから。


「来たかラフレシアン!このヘドロと『マキチラシン』が相手だ!!」

 ヘドロは不敵に笑う。自分はあの二人とは違う。自慢の屈強なボディは勿論、持ってきた機害獣も技と硬度が備わっているのだから。

 しかし、機害獣は元々硬かった。残念ながらヘドロの自信は意味をなさない。

 バキュームカーみたいな機害獣の頭に乗り無意味な自信をもって挑発するヘドロ。

「あ~?何だテメェはよ?イジメられた二人の仕返しか?オメーもイジメてやんよクズ!!」

「…ブツブツ…そのバキュームカーで私に何か汚物を撒き散らすと言うのね…ブツブツ…私には汚物がお似合いだと笑っているのね…ブツブツ…いけない…私なんかとお似合いにされた汚物が可哀想だわ…ブツブツ…」

 紅葉は度胆を抜かれた。天使の如く扱われていた桜花が毒を吐き、前向きで後輩に慕われていた珊瑚が自分を卑下している!!

「何なのらあの二人??」

「桜花と珊瑚は極端な人格を形成しているのだ」

 答えたのは棘紅郎。何故なら紅葉の傍に一番近くにいたからだ。

「紅葉、これを!!カアッ!!」

 黒乃守は器用に羽根を使い、紅葉に変身携帯を滑らせた。

 ヒョイと拾い上げる紅葉。そして難しい顔を拵えてそっぽを向いた。

「…私は文化系ツンデレ娘なの!!あの二人みたいに地は出せないの!!」

 変身携帯を返そうとする紅葉。その時、マキチラシンが汚物を『紅葉専用部室』に撒き散らした!!

「きゃああああ!!」


 紅葉の中で


 真の人格が囁く!!


 壊せ!!


 自分の大切な物を汚物まみれにしたクソ兵器を!!


 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!


 紅葉は半壊した美術室に移動した!!そしてマキチラシンに対して憤る!!

「待ちなさぁい!!これ以上やったら…許さないんだからあっ!!」

 紅葉は変身携帯を頭上に掲げた!!

「お、おい?あれ三千院 紅葉じゃねぇか?」

「…ブツブツ…どうせ…ブツブツ…私なんかより…ブツブツ…三千院さんの方が戦力になるとか思ってるんでしょ…ブツブツ…」

「オメーいちいち面倒くせぇよっ!!」

 桜花と珊瑚のやり取りを冷静に見つめながら変身した紅葉。

 私もあっち側になるのか、と溜息を付きながらも目を見開いた。

「チェインジィ!!ラフレシアンンン!!」

 眩い光が紅葉を包み込む!!

「アイツもかよ!!ツチノコぉ!オメー私は選ばれたとか言ってたじゃねーかよ!!」

 桜花は雷太夫をグリグリと踏みつける。これ以上増えると自分の取り分が減ると思って怒っているのだ!!

「ぐえぇ!!内臓が出るぅぅ~!!そろそろホントに内臓が出るう!!」

 雷太夫が悶え苦しんでいる最中、光から現れた紅葉。

 赤いの魔法少女みたいな格好だ。フリルが桜花のより多く、スカートにボリュームがある。やはり動いただけでパンツは見える。確実に。

 オーバーニーソックスは赤と白のボーダーで、靴はつやつや光っている。ローファーのような形だ。

 そしてやはりバカデカい真っ赤な花を頭部に咲かせていた。

 紅葉は右手を腰に当てて、脚をクロスし、左手を上に掲げて天を仰いだ。

「燃ゆる山…緑に黄色にそして赤…だけど!!銀杏臭いし、かぶれて不快ぃぃぃ!!

美少女戦士!!ラフレシアン レッドリーブス!!」

 上に掲げていた左手を広げて、指の隙間から大きい瞳を覗かせる。これがレッドリーブスのキメポーズのようだ。

「赤いラフレシアンだと!?また一人増えたか!!マキチラシン!!汚物を撒き散らせ!!」

――マキチラシンンン!!

 マキチラシンはホースで汚物を撒き散らす!!

 桜花は汚物をかい潜り、マキチラシンの懐に飛び込んだ!!

「くらあああああ!!」

 気合と共にホースを持ってぶん投げる!!

――マキチラシンンン~~!?

 マキチラシンはぶっ倒れた!そのがら空きのボディに、珊瑚がドロップキックを放つ!!

「…あっ?…」

 珊瑚のドロップキックは簡単に弾き返された!!

「がはは!マキチラシンのボディは鋼鉄製よ!!」

 硬さ自慢は伊達じゃない。というか今までの機害獣のボディが何製なのか気になるところだ。

「つまり頑丈だって訳かよ。クソ面倒くせえ」

 硬いと言っても何ともならない硬さじゃない。通常以上に攻撃を与えればそれでいい。

 そう、桜花は考えたが、黒乃守が桜花より一瞬早く紅葉に指示を出す。

「レッドリーブス!!変身携帯を01と入力するんだ!!カアッ!!」

 紅葉は言われた通り入力した。

「ラフレシアンンンンン!!01!!」

 レッドリーブスの頭上の花の匂いが倍化した。同時に黒乃守の羽根が巨大化し、弓のような形となる。

「これがレッドリーブスの必殺技…クロスボウだ!!」

 それを見た桜花は羨ましくなる。珊瑚もモーニングスターなる武器を持っている。自分には何も無い。

「マジかよ!!ツチノコ!!私にも!!」

 雷太夫にねだるその刹那、紅葉はクロスボウでマキチラシンに狙いを定めた!!

「壊れるのら!!メチャクチャに壊れるのら!!」

「のら?」

「…のら?」

 桜花と珊瑚は顔を見合わせた。現実世界で「のら」を語尾に使う女子はいないからだ。

 黒乃守の口が開き、光の弾が乱射される。さながらマシンガンのように!!

 ズガガガガガガガガガガ!!

「クロスボウって弓矢だろ!?何で弾丸!?」

 桜花の突込みが耳に入っているのかいないのか、引き金を弾き続ける紅葉。

 ズガガガガガガガガガガ!!

 あっという間にマキチラシンは穴だらけになった。

「お、おい、勝負あったんじゃねーか?」

 桜花の言葉を無視する紅葉。光の弾を乱射する事をやめない。

「壊れるのら!!クスクスクス…壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ…クスクスクス…壊れるのらあ!!ヒャアッハハハハハ!!」

 遂に消滅したマキチラシンだが、紅葉は歓喜しながら、消え去ったマキチラシンに攻撃を中止する素振りも見せない!!

「あ、アイツこえぇなぁ…」

「…ブツブツ…巻き添え喰らって死ねとか思ってるんでしょ…ブツブツ…」

「ヒャハハハハハ!!壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろアッハッハッハッハッハッハッ!!壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!!」

 結局、黒乃守がトランスフォームを解除するまで攻撃は続いた。

 紅葉は終始愉悦の表情だった。おかしな薬を服用していると言われても違和感が無い程。


 一方、テレポートで城に逃げ帰ったヘドロは、作戦失敗のお仕置き、逆さ宙吊りの刑に処されていた。

「ダイオキシン様あ…頭に血が昇りますぅ…フウウ…」

【貴様等は揃いも揃って失敗ばかり!この役立たずの無駄飯食いがっ!!】

 シーオーツーとカドミウムはひれ伏しながら聞いていた。無駄飯食いはアンタだろ、と口に出さずに。

「こ、この次は必ず…」

「借りは必ず返しますわん!!」

「ラフレシアンなど…フウゥ~…我等が本気になれ…ハアァ~」

 ダイオキシンは玉座に腰をかけ、考えた。が、いい案が浮かばない。

 何故なら新たな機害獣を作る資金が無いからだ。金が無ければ戦争は続けられない。

 苦渋の決断を下すダイオキシン。

【機害獣は資金不足でまだ作れそうもない。よってしばらくは待機せよ!!】

 待機したら欠勤扱いになり給料が減るじゃないか。しかし、それを口に出す程シーオーツーもカドミウムも神経が太くは無かった。

「わ、わかりました…」

「待機しますわん…」

「そ、その間給料は…フウゥ~」

 ヘドロの空気を読めない発言にシーオーツーとカドミウムが凍り付く。

 いつもは一時間程度で終わるお仕置きがこの日は丸一日行われる事になってしまった…

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