ピンクの衝撃!!

【ふはははは!!ここが新たな戦場か!!】

 ここは深夜の幌幌町。空き地に突如出現した巨大な城…その城の玉座から、王とおぼしき暗い影が立ち上がった。

「ダイオキシン様…総王自らわざわざ前線に来られなくとも…」

 巨躯を窮屈にたたみ、恭しく頭を下げながら、幹部の一人『ヘドロ』が心底迷惑そうな顔を拵える。

【何を言うか!!これは余が交渉の末に勝ち取ったバカン…じゃない、戦場だ!!総王自らが指揮を取らんでどうするか!!】

 今絶対にバカンスって言おうとしたろ!!と口に出そうだったが、何とか堪えて長いパイプから煙を吸い込み、気分を落ち着かせる幹部の一人『シーオーツー』。仕方がないと自ら名乗りを上げた。

「私めにお任せ下さればこの戦争…早期決着させましょう。ダイオキシン様がわざわざ出向く必要などありますまい」

 それを聞いた幹部の一人『カドミウム』。褐色の肌を露出し、セクシーな踊り子みたいな姿を利用し、クネクネとダイオキシンに歩み寄り、しなを作る。

「そうですわん。ダイオキシン様ぁん。ここは私達にお任せぉん。総王はやはり自国で指揮を取ってこそですわん」

 何とかドリームアイランドに追い返そうと必死な三人。ダイオキシンは人望が無いのだ。皆無と言っていい。強いから誰も逆らわないだけなのだ。

 影では無能とか、死ねばいいのにとか、給料払えよとか、ハゲとか散々な言われようなのだ。ハゲていないのにも拘わらず。

 しかしダイオキシンは当然それを知らない。良い部下に恵まれた、と涙する始末だった。

【貴様等の熱き想いは理解した!!ますますやる気が出ると言うものよ!!】

 ダイオキシンは傍に寄っていたカドミウムを強く抱擁した。

 寄らなきゃ良かった。と果てしなく後悔しながらも愛想笑を続けている。立派なプロ根性といえよう。何のプロなのかは想像に任せるとして。

 このむさ苦しい抱擁から逃れたい…そこでカドミウムは一計を案じた。

「ダイオキシン様ぁん。私にフラワーパークの戦士とやらの抹殺をさせて欲しいですわぁん。今すぐに捜しに出たいですわぁん。血が騒いで仕方ないのですわぁん…」

 色っぽく、艶っぽく『おねだり』をするカドミウム。やはり流石のプロ意識だった。


 幌幌町にある市立幌幌高校…そこに通う神宮寺桜花しんぐうじおうかは、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗の高校のアイドル…しかも性格まで美しい、良いこと尽くめの女の子だ。

 今日も靴箱には大量のラブレター。

「ひゅ~♪桜花、相変わらず凄いね~」

 お友達の脇乃役子わきのやくこが毎度の光景に感心していた。

「そんな…嬉しいけど、困っちゃうな…お返事もちゃんとしなきゃだし…」

 はにかみながらも困った顔の桜花…腰まで伸ばした長い髪が微かに揺れている。

「桜花は律儀よね~。ちゃんと返事出すんだから」

 そう。桜花は律儀でもあった。故に返事が貰えるとの理由だけで、同じ男子生徒が何度も何度もラブレターを出す事もしばしばあった。

「そんな事じゃなくて、悪いから…」

 桜花はそう言いながら屋上へ向かった。

「また屋上?」役子はそう言いながら教室へ歩く。桜花は毎朝屋上に太陽を浴びに行くのを日課としていたのだ。

 役子は面倒なので付き合わない。つまり毎朝の屋上は桜花が一人きりになれる僅かな時間と場所でもあった。

 屋上についた桜花は屋上の扉の鍵を閉める。そして辺りを見回して人がいない事を確認してから、どっかと男らしく胡坐を組んだ!!

「ふぅ…」と、ポケットからタバコを取り出し、ジッポで火を灯し、大量のラブレターを封も切らずに引き裂いた。

「ああ~っ、ダリイわコイツらよー!!高橋なんて今月三回目じゃねーかよ!!不細工で貧乏人は私に憧れるだけにしやがれ!!」

 ごはぁぁぁぁぁ…と煙を吐き出して首をコキコキとさせる。

「ふうぅぅう~…朝の一服はたまらんなぁ~…」

 桜花は屋上にタバコを吸いに来ていたのだ。

 そして破ったラブレターの差出人をチェックする。

「うわ!!小林かよ!!デブの分際で色気出すんじゃねーよ!!木村?ヤンキーはヤンキー同士でつるんどけや!!ったく面倒くせーな!!」

 ぶつくさ言いながら鞄から大量の可愛らしい桜色の便箋を出し、全ての差出人宛てに返事を書く。

「ったく私がこんな面倒くせー真似しているなんて、クズ共には理解できねーんだろうな!!ああ~っ!!マジ面倒くせえ!!」

 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、そして美しい性格の桜花は、猫を被っているだけなのだ。

 他人を卑下し、外面を保っている彼女こそ、高校のアイドルの真の姿だったのだ!!

 その時「コイツがラフレシアン?マジかよ…」と、桜花の傍から不声がした。

 慌ててタバコを揉み消し、煙をパタパタと仰いで証拠隠滅を図る。

「誰?誰なの?私怖い……」

 超速で態度を豹変させる桜花だが、特にバレても手遅れだとは思っていない。

 色仕掛けの甘い声で目撃者の記憶を削除した事が何度もあるのだ。時には暴力も使って。

「まぁ、毒を以て毒を制するって言葉もあるからな…」

 死角になっている壁の角から、ビール瓶みたいな体型の蛇がのそのそと出て来た。

 それを桜花は咄嗟に蛇を踏みつける。

「ツチノコだ!!マジだぁ!!私はこれで全国区の美少女になれるかも!!」

 桜花の頭には、『お手柄美少女女子高生、ツチノコ捕獲成功!!』とか、『ツチノコ懸賞金を恵まれない子供に寄付!!心優しき天使!!』とかの新聞の見出しがアップされていた。

「ぐえぇええ~…俺はツチノコじゃないぃ~…メタボで背の小さいマムシだぁ~…」

 踏みつけられているツチノコが言葉を喋った。

「うわ!!人語を喋べるツチノコ!売って金にした方がいいかな?」

 桜花は女の子なら恐れ怖がる蛇に対して、全く動じていなかった!!

「待て待て待て!!ちょっと話を訊け!!ぐええええええ!!」

 だんだんとクタッとしてくるツチノコ。結構な力で踏んでいるのだ。死んでしまったら元も子もない。

 桜花は踏みつけた脚の力を緩めた。あくまでも緩めただけである。

「ふう…取り敢えずそのままでいいからよく聞け神宮寺 桜花。お前は地球を守る伝説のヒロイン…ラフレシアンに選ばれたのだぐぇっ!!」

 いきなり訳の解らない事を口走るツチノコを、踏みつけていた脚の力を強める。

「人語を喋るだけじゃなく頭も湧いてんのか。ラフレシアってデカい花だろ?ウンコみたいな臭いする花だろー?私みたいな美少女に相応しくないぞ。私に贈るのなら薔薇とかじゃねーのか」

 ギリギリと脚の力を強めて行く桜花。

「ぐえぇええええ~!その花の事は知らんんん~!!そもそも贈るなんて言っていない!!直ぐに敵がやって来るんだ~!こ、これをををを~!!」

 マムシはどこから出したのか、携帯電話を桜花の足元に転がした。

 当然桜花は怪訝な顔をする。

「これはラフレシアンに変身する装置だ~。これを~!!」

「変身とか何とか…セーラ〇ムーンか?プリキ○アか?んな事どーでもいいんだよ。私はお前をお金に替える事で頭がいっぱいなんだよ?」

 マムシは桜花の顔を見た。キュッと身体が縮こまる。

 醜悪!!

 こんなに醜い人間がいたのか?そもそも本当に人間か?

 マムシはそう思わざるを得なかった。


 ドガン!!バリバリバリバリ!!


 桜花がツチノコモドキを踏みつけている最中、校庭から激しい破壊音が聴こえた。

「来た!!来た来た来た!!カンキョハカーイの機害獣きがいじゅうだ!!桜花っ!!早く変身…ぐげぇえぇ!!」

 踏みつける力が更に強まる。

「ってかオメーよ?名前くらい名乗れよ?礼儀知らないのかクズ!!」

 今更名乗れ?と思ったが、長い付き合いになるかもしれない(ホントは御免だが)ので、素直に名乗る事にした。

「おごぉぉお…わ、私は雷太夫さんだゆう…ラフレシアンの従者だ…かはっ!!」

 普通変身ヒロインモノの従者と言えば小動物だが、それがこんなメタボなツチノコモドキとは…

 桜花は落胆するも、大義名分の元(正義執行の為)に敵をぶちのめすのは、日頃のストレス発散になると考えた。

「雷太夫か。解った。私が平和を守るよ!!」

 桜花は携帯電話を地面から拾い上げ、取り敢えず開いた。

 随分あっさりしているな、と思ったが、口を開かない方が平和だ。そう本能が囁いたので、黙って頷く。

「…おい雷太夫…変身の仕方解らないけど…?」

「そ、そりゃそうか…真ん中のデカいボタンを押して頭上に掲げてくれ…」

 ヘロヘロになりながらも、雷太夫は桜花に変身の仕方を教えた。因みに未だに踏まれたままだった。

「真ん中のボタンを押して、『チェンジ、ラフレシアン』と叫びながら天に翳せば女王のお力が…ぐぇぇぇ!!な、何をする!?」

 桜花は雷太夫を再び踏みつけたのだ。

「この絶世の美少女の私が、そんなふざけた真似できるか!!誰かに見られたらどーすんだツチノコぉ!!」

 自分で誰もいない事を確認して素に戻った事などすっかり忘れていたようだ。

「だ、大丈夫だ。変身している間は姿が消えるから!!」

 ふん、ご都合主義だな、と思いながらも安堵する桜花。見えなければどうと言う事は無い。そもそも屋上には自分一人しかいないけど。

「よし!!チェイインジィ!!ラフレシアァァァン!!」

 桜花は携帯のボタンを押して天に翳した。結構ノリノリだった。

 眩い光が桜花を包み込み、桜花の姿は確かに一時消えた。

 そして姿が現れた時、桜花はピンク色のフリフリの、俗に言う魔法少女の格好だった。

「おお!ラフレシアン…ラフレシアンチェリーブロッサムの誕生だあぁ~!!グェッ!!」

 感動する雷太夫。しかし、変身した桜花は再び雷太夫を踏みつけた。

「なんだこのコスプレはぁ!?スカート短くてパンツ見えるわ!!ヒラヒラして動き難いわ!!何よりバカデカい花が頭に咲いてるじゃねーか!!」

 ピンク色の魔法少女みたいなコスチュームは動いただけで確実にパンツが見える仕様。無駄にフリルがあしわられ、本当に戦闘するのか?みたいな状態。

 オーバーニーのソックスが太ももに張り付き、靴は堅そうなローファーだ。見事な黄金比率を演出している。

 そして圧巻なのは、頭に咲いている花である。

 五枚の花びらから成るピンク色の花は、カチューシャーにくっ付いている感じなのだが、デカいのだ。桜花の顔と互角の大きさだ。しかし、何より我慢できない事があった。

「臭せぇんだよこの花はよぉ!!頭の真上からウンコみたいな匂いがするんだよ!!小蠅もたかっていやがるしよぉ!!」

「ぐぇぇぇ!!やめろ~!!死んでしまうぅ~!!」

 雷太夫の内臓が桜花によって破壊されそうなその時、機害獣の頭に乗っかっているカドミウムが、桜花…ラフレシアンチェリーブロッサムに気が付いた。

「あらん?何この恥ずかしい格好の女は…ん?クセェ!!」

 カドミウムは機害獣の頭に乗っかりながら鼻をつまむ。しかし機害獣はひっくり返った蟻の形そのものだったので、頭に乗っているというよりも顎に乗っている状態だった。

「なんだとキャバ女が!!営業なら学校来ないで会社廻りしやがれ!!それかタチンボとかなぁ!!ババアだから買い手がつかねーか?ギャハハハハハ!!」

 桜花は毒を吐いた。被っていた猫を取っ払った桜花は心身ともに充実中なのだ。すこぶる気分が良い。

「なぁんですって小娘!!アナタ何者よん!?」

 カドミウムはキャバ嬢ほど給料を貰っていないのでムカついた。もっと給料が高かったら広い心で暴言を許していただろう。

「私?私は…」

 桜花は左手を腰に当て、中腰にし、右手を胸の辺りで旋回させる。

「咲き誇る桜…目にも艶やか心も豊か…だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃ…!!美少女戦士ラフレシアンチェリーブロッサム!!」

 旋回させた右手を顔に当て、ピースを作って指の間から右目を覗かせる。これがチェリーブロッサムのキメポーズなのだ!!

「本当の美少女は自分で美少女とか言わないのよん!!潰しちゃって!アリノスコロリン!!」

 カドミウムは超巨大なひっくり返った蟻みたいな姿の機害獣に命じる。

――アリノスゥゥゥ~!!

 既にひっくり返っているような機害獣にパンチを喰らいそうになる桜花。しかし軽やかに躱す。

「遅ぇわウスノロが!!」

 アリノスコロリンは桜花のスピードに付いていけず、そのまま校舎に激突し、校舎を破壊した。

「チャーンス!!」

 桜花は繰り出された腕に乗っかり、アリノスコロリンの顔面目掛けて駆ける。

「うらあ!!」

 桜花の右ストレートがアリノスコロリンの眉間にヒットした。

 アリノスゥゥゥ~…と呻きながらアリノスコロリンはぶっ倒れた。

「いいぞチェリーブロッサム!!パンツもピンク色でラフレシアンの衣装に合ってるぞ!!」

「踏み殺すぞツチノコぉ!!」

 桜花は雷太夫に膨大に殺気を込めた視線を浴びせた。

 雷太夫は蛇なのに、蛇に睨まれたカエルの如く、固まってしまった。

「な、何?何なのこのパワーは?…って!!クセェ!!」

 カドミウムは驚きながらも鼻を摘んだ。

「キャバ助、オメーもぶち殺してやるよ。ツチノコ、必殺技とか無いのかよ?」

 桜花はカドミウムにムカついてトドメを刺そうと思った。

 何故なら、先程から超絶美少女の自分にクセェと侮辱発言を繰り返していたからだ。これはもう万死に値する。

「ラフレシアンの最大の武器は不快。故にそのままでいい」

 何を言ってるんだこのUMAは?桜花は心の底から死ね!!と思った。

「お前も気付いているとは思うが、ラフレシアンは己の不快感を武器にして戦う。不快感が高ければ高いほど攻撃力が増し、防御力も増す」

 成程、さっきからクセェクセェと言われて不愉快だったからこそ、この力か。

「しかしそれじゃあ決定打に欠けるだろうが?こんなカッコまでしてんだぞ。魔法のステッキみたいなアイテムくらいあるだろうが?勿体付けないで出せよツチノコぉお!!」

 ある事はあるのだが、踏みつけられて内臓を圧迫された雷太夫は「ごほおおおおお…」と呻く事しかできなかった。

 しかし、その副産物というかラフレシアンの特徴というか。とにかく桜花は雷太夫の『使えなさ』にイライラし、より強い不快感を生み出す。同時に頭部のデカい花からの悪臭が増した。

――アリノスゥゥゥ!!アリノスゥゥゥ!!

 アリノスコロリンはあまりの臭さに転げ回って、しまいには動かなくなった。死んだ、いや、壊れたのだ。

 ラフレシアンの臭気は巨大兵器の機害獣すらも破壊できるのだ!!匂いでどうやって破壊できるのかは置いといて、とにかくそういうものなのだ!!

「目がっ!!目が刺激臭で超痛いわん!!」

 カドミウムが目を押さえながら身体をクネクネとさせた。機械ですら壊れるのだ。生物なら絶命してもおかしくは無い。

「おお…意外と効いてるな…つかクセェ!!」

 凄まじい破壊力なれど自分にもダメージが及ぶ。

 美少女の自分からこんな悪臭が発生しているなんて、マジで泣きたい。だが、桜花は演技では泣けるが、素では全く涙を流さない。

 対するカドミウムは涙を流している。泣いているのでは無い。匂いが網膜を焼いているのだ。

「こりゃたまらないわん!!せ、戦略的撤退!!」

 カドミウムは消えた。テレポートして城に戻ったのだ。

「と、取り敢えず退けたぞチェリーブロッサム…」

 機害獣一体を破壊できた事は大きい。これでカンキョハカーイの戦力も多少は落ちるだろう。

 一安心した雷太夫。しかし桜花は本気の殺意を雷太夫に向けた。

「全然スッキリしねぇ勝利だよツチノコ!!やっぱりお前売るわ。売って金に替えた方がいいわ」

 桜花は雷太夫を自分の鞄にグリグリと押し込んだ。まだ教科書が詰まっているにも関わらず。

「や、やめろ~!!この先は…グエッ」

 雷太夫を鞄に押し込んだ桜花は変身を解く。念じれば変身は解けるようだ。

 何事も無かったように、屋上からバックれて教室に入る桜花。そこに友達の役子が話しかけてきた。

「大丈夫だった桜花!?今学校に怪獣みたいなのと、凄い悪臭がするピンク色のフリフリの恥ずかしい格好をした女の子が現れたんだよ!!」

 桜花は顔色を変えたが、直ぐに戻した。オリンピックに外ヅラの種目があれば金メダルを取れる程の速さで。

「そ、そうなの?気が付かなかったわ」

 当然桜花はすっとぼけた。まさか異臭をさせた張本人が自分とは言えないし、言いたくもない。

「女の子は正義の味方みたいな感じだったけど、あの臭いはテロよ!!核にも匹敵する兵器よ!!…ん?桜花、アンタ少し……」

 匂うわよ、と言おうとしたが、あの悪臭が校舎内に充満していたので、きっと匂いが移ったのだろうと思った。

「そ、そうなの?見たかった、かな?」

 桜花は、その話題から逃げたかった。

 しかしこの事件はあまりにもショッキングだったので、学校中に光の速さで広まった。

 授業中にもこそこそと噂をし、休憩時間にも噂が飛び交う。

 パンツ丸出しのコスプレ美少女が空を駆けてひっくり返った蟻のようなロボットと交戦した事なんて、日常生活ではありえないのだから当然と言えば当然だ。

 しかし、やはり話題の中心はあの凶悪な悪臭だった。

 校内にはまだまだ匂いが充満しているのだ。これで騒ぎが収まる方がおかしい

「もう三限目だけどまだ匂うよ…ウエッ」

「さっき隣のクラスに行ったんだけどさ、気のせいかもしれないけど、このクラスより匂いがキツくなかったんだよな…」

「マジ?って事は、あの悪臭美少女はこのクラスの…?」

 桜花は四限目を待たずに早退した。早退理由は悪臭に当てられて気分が悪くなったとしたが、本音は悪臭の発生源が自分だと万が一にも知られたくなかったからだ。

 家に帰った桜花は、鞄から雷太夫を引っ張り出し、乱暴に机の上に置いた

 そしてマジマジと見て呟く。

「お前いくらで売れるんだろーなぁ…」

 この目は本気だ!!本気で売るつもりなんだ!!雷太夫は戦慄し、慌てて口を開く。

「ま、待て桜花!!ラフレシアンであり続ければ、フラワーパークから多大な報奨金が出るんだぞ!!」

 多大な報奨金!!その言葉は、桜花の心を一瞬で捕えた。

 桜花は椅子に座り、腕を組みながら暫く考えている。

「…いくら?」

「え?」

「だから、いくら貰えるんだよ?」

「え?あ、ああ…確か家一件買えるとか何とか…」

 これは嘘や出任せでは無い。選ばれた乙女が首を縦に振らなかったら提示せよとのお達しがあったのだ。要するに金で解決しろ、という事だ。

 命の危険に晒される戦いに身を寄せる条件に金とは如何なものか?と思ったが、桜花は速攻で喰い付いた。

「ツチノコ…私やるよ!!ちょっとくらい臭くても我慢するよ!!」

 戦士は正義の心で動いて欲しかったのは本音だが、贅沢は言わない。自分が金に替えられるかもしれない瀬戸際なのだ。逆に桜花が俗物だったのが功を奏したと思う事にしよう。

 雷太夫は無理やり自分にそう納得させた。

 

 一方、城に帰ったカドミウムは、ダイオキシンによって失敗のお仕置き、石畳に正座の刑に処されていた。

「ダイオキシン様ぁん!!足がビリビリしますわん!!」

 その様子を薄く笑いながら見ているシーオーツーが、ダイオキシンの前に跪く

「ダイオキシン様…次回はこのシーオーツーにお任せを……」

【よかろうシーオーツー!!カドミウムのように匂いごときで貴重な機害獣を捨てて来るなよ!!】

 シーオーツーは薄く笑う。

「鼻をつまんでしまえばラフレシアンなど恐るに足らずです」

 カドミウムは愕然とした!!その手があった!!と。

「(ダイオキシン様を滞在させる)邪魔者は私が倒す。安心して正座しているが良い」

 シーオーツーは声を高らかに笑った。ダイオキシン様を帰すのはこの私だ!!と!!

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