ACT.4-3 合歓子の躍動

「では結果報告となります。具体的な数値は土内君のみが把握していますが、職務に関わる最低限の情報だけは共有させていただきます。そこは、ご了承ください」

「はい。それは当然だと思いますからお気になさらないでください」

 配慮ある紳士的な社長の二丘の対応に、合歓子の方も丁寧に応じる。

 株式会社ドッピアの会議室。

 面接はあっさり済み、その後受けた検査計測の結果が、発表されようとしていた。

「ありがとうございます。では、本人の了解を得たところで報告していただきましょう。まず彼女のサイズはどうでしたか? 最低限の資格であるGはクリアしていましたか?」

「はい。サイズはG、それも限りなくHに近いGでした。わたくしが保証致します」

 合歓子の胸のサイズを直接測ったスーツ姿の長身の女性、土内ロナが報告する。

「では、BOINとの適合性は?」

「文句なしだ。いや、奇跡的と言っていい。サイズと『生命エネルギーティファレト』の発生量の比率が、ロナ君の場合とは雲泥の差だ。これなら、ペタバイトに十分対抗できる」

 こちらは、グレーのスーツに白衣を纏った初老の研究主任、坂月教授が報告する。

 その報告に、ロナが少し辛そうな表情を浮かべているのが合歓子は少し気になった。これまで『巨乳ボイン獣の中の人』をしていたというので思う所もあるのだろう。

 だが、自分が彼女より力を持つのは間違いない。

 そこは割り切ろうと合歓子は思った。

「なるほど。及第点どころか、それ以上ということですね……」

 二丘の言葉を合図としたように、円卓を囲む合歓子以外の椅子が床下へとスライドする。

 一人だけ会議室に取り残されて手持ちぶさたに時が流れてしばし。床下から椅子がせりあがってくる。合わせて、合歓子の前も含めて何やら文字の書かれた透明のプレートが各席の前に生えてきた。

「オッケーデーーーーーーース! 井伊野合歓子さん、貴方をTKB団の新たな『巨乳ボイン獣の中の人』として迎え入れマーーーーーーース! それでは、早速作戦会議デーーーーーーース!」

 二丘の席に現れた丸レンズのサングラスの男が、テンション高く宣言する。

「は、はい、あの、宜しくお願いします」

 合歓子は紳士然とした二丘からプレジデントKへのテンションの変化に圧倒されつつも、どうにかそう口にして、頭を下げる。

 円卓には『首領 プレジデントK』から時計回りに『巨乳を科学する プロフェッサーπ』『秘書 レディ・F』『新米 レディ・G』『みんなの執事、執事といえば セバスチャン』と書いたプレートが並んでいた。

「突然で驚きましたけど、椅子とかこのプレートとか、面白いギミックですねぇ……」

「こういうのは、雰囲気作りに大切なのデーーーーーーース! 幸い、我がTKB団には大概のことは器用にこなす執事がいるので、井伊野さん、いいえ、レディ・Gの分も準備してありマーーーーーーース!」

「レディ・G? わたしのコードネームか何かですか?」

「そうデス! Gが何かは言うまでもありマセんね?」

「……そのまんまですけど、それっぽいからいいですよぉ」

 合歓子は自席のプレートを眺めながら、記されたコードネームを受け入れる。

「俺は認めてないよ。あんたが巨乳ボイン獣になるなんて!」

 そこで、合歓子を睨み付けながら執事服の青年が叫ぶ。

巨乳ボイン獣は姉さんがやってこそ意味があるんだ! あんたみたいな小娘が巨乳ボイン獣という崇高な役目を担うなんて、何かの間違いだ!」

「いい加減にしなさい、セバスチャン! 彼女の方がよりBOINの効果を引き出せるのです。ペタバイトを倒しプロフェッサーの悲願を果たすには、わたくしではなく、彼女が巨乳ボイン獣になるのは必然です」

「でも、あんな小娘に……」

「仲間内で揉めている場合ですか? 敵はペタバイトだと何度も言っているでしょう! ペタバイトを倒すため一致団結するのがTKB団の在り方! そこを間違えてはいけません!」

「ご、ごめん、姉さ……レディ・F」

 ごねるセバスチャンは、レディ・Fにピシャリと怒鳴られ、しゅんと項垂れる。

 そして「敵はペタバイト……やっつけるならペタバイト……」とブツブツと言い始める。

 しばしの後、気持ちが落ち着いたのか、おもむろに顔を上げる。

「レディ・G! レディ・Fを差し置いて巨乳ボイン獣になるからには、必ずペタバイトを倒してくれよ!」

「うん、言われなくてもそのつもりだよぉ。わたしもちょっとロナさ……じゃなくてレディ・Fにも悪いと思ってるし。だから、任せておいて大丈夫よぉ」

 想いを託すセバスチャンに、合歓子はのんびりした口調で応えた。

「心強いデーーーーーーース! では、レディ・Gを『巨乳ボイン獣の中の人』とした上での、作戦を検討しマーーーーーーース!」

「あ、それなら、あれをやってみたいです」

 合歓子が物怖じすることなく、挙手して提案する。

「あれ、とは?」

「ペタバイトがやったバスを正面から受け止めるって奴です。下手に破壊とかよりは嫌がらせらしくていいと思いますよぉ?」

「なるほど……悪くない提案ですが、プロフェッサーπ、レディ・Gの作戦は技術的に可能デスか?」

「そうだな。危険な行為ではあるが、先ほど計測したレディ・Gの『生命エネルギーティファレト』発生量を考えれば、理論的には十分可能だろう。安全面を考慮する必要はあるが、あのときのように暴走しているバスに挑む訳でもなし。通常運行のバス相手であれば、新しい巨乳ボイン獣の性能試験には打って付けともいえるな……よし、早速、新たな巨乳ボイン獣用のBOINスーツの調整に入るとしよう」

「それなら、いつか使うべく準備を進めていたスーツがあります。レディ・Gに合わせて調整は必要かと思いますが、小一時間もいただければ対応可能です」

 プロフェッサーの言葉に、レディ・Fが即座に応じると、

「あれは、秘蔵のデザインなんじゃ……」

 セバスチャンが驚きの声を上げた。

「確かに、ここぞというときに備えてずっと使わずに準備しておいたデザインのスーツです。でも、それはすべてプロフェッサーのため。わたくしが直接着なくとも、プロフェッサーの研究のお役に立てるのですから、なんの問題もありません」

「……………………………………………………………解ったよ。姉……レディ・F」

 合歓子の巨乳ボイン獣就任に若干のわだかまりを残している様子のセバスチャンも、最後には渋々ながら状況を受け入れていた。

 そして小一時間ほどの後。

 TKB団の作戦会議に、新たな巨乳ボイン獣の姿があった。

 その姿は、白黒斑の模様の付いた、体にフィットするスーツ。

 左右に突き出た黒い耳付の口元の空いた覆面。

 そう、それは、レディ・Fが秘蔵のデザインとしていた、牛。

 巨乳の代名詞である『ホルスタイン』をモチーフとしたBOINスーツであった。

「うわぁ、凄い、凄い! 力が溢れてこのビルぐらいなら破壊できちゃいそうですよぉ」

 そう言って、はしゃいで跳ねると胸が揺れる。

 それも、単純に『ポヨン』というよりは『ポヨヨーン』とでもいうべき、質量を感じさせる余韻のある動きだ。

「素晴らしいデーーーーーーース!」

「わたくしが着られなかったのは残念でしたが、よくお似合いですよ、レディ・G」

「姉さ……レディ・Fを差しおいて秘蔵のデザインの巨乳ボイン獣になったからには、確実な成果を頼むよ!」

「先ほどの計測値通りかそれ以上の『生命エネルギーティファレト』発生量だ。君は、新世代の巨乳ボイン獣、ネオ巨乳ボイン獣だ! これなら、ペタバイトにも負けはせん。通学バス程度余裕で止められるだろう」

 それぞれに、新たな巨乳ボイン獣の姿を見て感銘の声を上げる。

「それでは、行くのデーーーーーーース! ネオ巨乳ボイン獣ポヨヨーンπ7!」

「らじゃぁ☆!」

 このノリに慣れてきた合歓子は、ちょっとキャラを作って可愛らしく応え、ネオ巨乳ボイン獣ポヨヨーンπ7として初の作戦行動へと移った。

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