第九話 「そろそろ限界かもしれないわね」 一

 部員全員による初詣の甲斐があって、「神様の御加護」は年が明けてすぐに、思いがけない形でやってきた。

 しかも神様が相当奮発したらしく、それは二つの形をとって現れた。一つ目は個人を直撃し、二つ目は部全体に影響を及ぼして、その前後で私達の世界を大きく変化させたのだ。

 ところが私達は、最初のうちそれが「神様の御加護」だとは全く気がつかなかった。始まりは普通の部活動の一こまでしかなかったし、その渦中にあった時には悪夢としか思えなかった。

 それが終わった後、しばらくして心が落ち着いてからやっと「もしかしたら、あれは神様の御加護だったのかもしれないなあ」と思えたのである。

 これがなかったら私達は、前進するのにもっと時間がかかっていたかもしれない。ただ、

 ――それにしても、もう少しましなやり方もあったんじゃないかな。

 と私は思うのだが、神意というのは計り知れない。


 *


 宮城県の高校弓道部が「公式戦」として意識している大会は、三つある。

 一つ目が、六月に開催される高等学校総合体育大会の県予選大会。いわゆる「インターハイ」で、この後には全国大会や国体が控えているけれど、誰でも出られる訳ではないのでそれはカウント外にする。

 二つ目が、十一月上旬に開催される宮城県高校新人弓道競技大会。別名「新人戦」で、三年生が抜けた後の各校の実力を計る重要な大会であり、翌年のインターハイ県予選の前哨戦でもある。

 三つ目が、一月下旬に開催される東日本弓道大会宮城県予選会。これは前の二つに比べると小物の大会ではあるものの、県内での順位を確認するためには重要な大会である。

 仙台第一高等学校弓道部は、このうちの「新人戦」に出場しなかった。

 もちろん「新人戦」という大会があることは部員全員が知っていた。しかし、

「部員が六人しかいない」

「その時期はちょうど『和弓は武器である』という議論をしていた直後で、私達は自分達の未熟さを思い知らされていた」

「早いうちから、今年は不参加ということが部内で明確に通知されていた」

 ことから、誰も疑問には思わなかったのだ。

 しかし、よく考えてみるとこれはおかしなことである。

 部員数がぎりぎりでも、大会に出られないほどではない。一チーム五人は準備できるからだ。

 また、その少し前に竹駒神社の弓道大会に私と西條先輩、かおりちゃんが出場していたわけだから、大会に出られないほど私達の技に問題があったとは思えない。

 それに、早い時期から決定事項であったという点が、それが意図的なものであることを十分に示していたのだ。

 それはともかく、その時点で私達はそのことに気がついておらず、一年生部員の公式戦デビューは東日本弓道大会宮城県予選会となったのである。


 一月四日の朝、私は加奈ちゃんと一緒に学校に向かって歩いていた。

「気をつけてはいたんだけど、お正月って太るよね」

 加奈ちゃんがそう言って溜息をついた。

「うちは特に上の兄貴達がよく食べるから、その勢いにつられちゃうんだよね」

「そういうの、あるよね。一人で食べるとすぐにお腹一杯になるのに、みんなで食べるといつまでも食べられちゃうって」

「それそれ。昨日なんかお昼から食べ放題のお店にいっちゃったから、最後にはテーブルの上が凄いことになっていたよ」

 加奈ちゃんはやれやれという顔をしたが、最後のデザート勝負が彼女の圧勝であったことは想像に難くない。

「美代ちゃんのところは三人家族だよね。お正月はどうしていたの?」

 加奈ちゃんにそう訊ねられて、私は眉を下げて言った。

「休んだのは十二月三十一日と一月一日だけ。年末は大掃除で、年始は初売りだったから」

「あ、自営業だとそうなるのか。むしろ普段より大変だね」

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