六、副執事長は覚悟を示す

 エクレア・エクレール・エイクレアー。

 彼ほど残酷な運命を背負わされたNPCはほかにないだろう。


 その職務は副執事長――すなわちセバスの助手である。掃除を特技とし、愛らしいイワトビペンギンの姿を与えられている。


 彼は創造主たる至高の御方、餡ころもっちもちから、大いなる業を背負うことを宿命づけられた。


 ナザリックの支配を狙え。


 与えられた命令は、殉教者としての生を約束する過酷なものだった。

 絶対の忠誠を捧げることが、すなわち反逆者の汚名を自らすすんで引き受けることになるという矛盾。

 周囲の者たちは彼を煙たがり、嫌いさえした。彼が創造主に望まれたとおりの言動を取り続けるがゆえに。


 ああ、その在り方を嘆くことが出来たなら、彼の苦悩を少しでも理解しようという者が、いまよりも増えていたかもしれない。


 しかし、彼はそうしなかった。それは己をそう造ってくださった餡ころもっちもち様への裏切りだった。


 だから彼はいっそ誇らしげに、堂々と。一切の迷いも躊躇いも見せずに、我が道を貫く。


 誰よりも熱い忠誠を胸に秘め、誰もが眉をひそめるほどに反逆の意志を示し続ける。


 たとえばアインズの部屋を掃除するとき、ていっとティッシュ箱を床に落とし、慌てて拾い上げ傷がないか入念にチェックし、寸分違わず元の場所に戻すとか。


 たとえば食堂の椅子に仁王立ちし、「ふははは愚民ども! 私に付き従え!」と手を掲げて、メイドたちのブーイングやナイフやフォークやスプーンの嵐を男性使用人たちを壁として防ぎつつ、一時間にわたる演説をぶってみるとか。


 実に涙ぐましい努力の数々が繰り広げられている。そのとばっちりで男性使用人たちも蛇蝎のごとく嫌われたりするのはご愛敬だ。


 そんな彼だが、心に宿した覚悟はそれだけではない。


 創造主の意向に添いつつ、ナザリックの平穏を守るために自分に出来ることがあると、思い定めている。


 それは彼にとって、ある意味で最悪の――そして最高の、場合によっては最期の晴れ舞台だ。


 ナザリック内部で大きな問題が起き、シモベすべてに対する主の信用が失墜しかねない事態となったとき、その全責任を自らが被り至高の御方々のお怒りをなだめる。

 それこそが、彼が思い定めた究極の使命。


 御方々がシモベたちすべてに失望を向けるくらいなら、取るに足りないこの身一つにすべてを引き受ける。

 必要ならば死をも受け入れよう。

 それによって有意なシモベたちの失敗をぬぐい、彼らにさらなる貢献のチャンスを与えられるならば。

 レベル1でしかない弱い自分は、よろこんで罰を受けよう。

 そして、処刑される一分一秒前であろうとも、

 彼は己の忠義を口にしない。

 不敵に、傲慢に。ナザリックは私のものであるべきだと、叫ぶ。

 大いなる反逆劇の主役に躍り出て、さらなる結束の礎となる。







 フォーメーションA。

 それはいざというときのために、エクレアが考案した陣形の一つだ。


 男性使用人たちは言いつけどおり、それぞれの配置につく。

 互いに数メートルの距離を置いている。ときどきもっと短い距離の者もいるが、それは角にあたる位置にいる者だ。


「はじめ!」


 エクレアの指示で、まず男性使用人が数メートル先の男性使用人にエクレアを投げ、受け取った男性使用人がさらに数メートル先の男性使用人に投げ、その男性使用人が角に立つ男性使用人に投げ、さらにまたその男性使用人がその数メートル先に立つ男性使用人に投げ……


 などといっているうちに混乱してくるだろうから、エクレアの涙ぐましい努力はよそにしてショートカットした説明をしてしまうと、この『フォーメーション』は現在地から任意の地点まで、決められた間隔を置いて男性使用人が並び、エクレアを順々に投げ渡すことで素早い移動を可能とするものだ。実に乱暴な流れ作業である。ちなみに『フォーメーションA』のAは『アインズ様のお部屋』ということである。


 彼はすでに主が居室にいることを知っていた。そういう情報網は発達しているのだ。ナザリックの支配を狙う者として、少なくともあの御方が第九階層にいる間は位置を把握する。まあ予期せず転移されたりすると困るのだが――

 今回は、そんな危惧は不要だった。












 ノックの音に、アインズは驚いて顔を上げる。


 慌ててベッドごろごろタイムを終了し、着衣の乱れを直し、姿見で急ぎ威厳ある感じかを確認し、問題ないな、とうなずく。それからようやく「誰だ」と尋ねる。


「副執事長、エクレア・エクレール・エイクレアーです。運び手として使用人を一人連れております」

「入れ」


 珍しいな、と思いながら、アインズはペンギン姿の執事助手を迎え入れる。

 男性使用人は抱えていた上司を床に置き、自らはそのまま跪く。

 エクレアはぺたぺたと二歩ばかり前に出て、立ったままでじっとアインズを見る。


 おや、と新鮮な感覚に打たれ、エクレアを眺めた。きりっとした表情のペンギンの何がこんなに不思議な気分を引き起こすのかを首をひねり、なんかふつうにかわいい系だからかナザリックでは少数派だし、と的外れな思考を経て、答えに辿り着く。


 跪かないのだ、こいつは。

 軽い目礼はあったが、深々と頭を下げることもない。超然として当然のごとく、対等の者のようにアインズの前に立つ。


 ふっと微笑ましさを覚えた。


「用件は何だ」


 声が常よりも柔らかくなる。エクレアはしかし、肩肘張った様子でぴしっと立ったまま、ほとんどにらんでいるかのような目つきで、


「ついに私の野望が実現するときが来たのです」

「ん? ああ、お前は『ナザリックの支配を狙っている』という設定だったな。ふむ、そうかそうか」


 何度も頷きながら、はたとアインズは思い悩む。

 ここはどういう態度で接してやるべきか?


 いかにも魔王っぽくローブをひるがえし、「ついに来たな! 待っていたぞ、勇者よ!」とか言った方がいいのか? それともここはどっしりと構えて、「どこからでもかかって来るがいい」と待ち構えるか? いやしかし、エクレアってレベル1だよな。ううん……こいつでも使える武器で、俺にちょっとでもダメージ与えられそうなのってあったっけ?


「すでに私の計画は実行段階に入り、階層守護者を巻き込んでの内紛が勃発しております」

「……は?」

「順調に進めばさらに戦火は拡大するでしょう。とりあえずさっきまでは第九階層の廊下、広間とバーの間を中心として戦闘が行われておりました」


 髑髏の眼窩から赤いきらめきがすうっと薄れる。


 え、ちょ、なに? まじ内乱?


 改めて執事助手を見下ろす。その凜とした顔つきには、しかししてやったりという風情はない。どこまでも真面目一徹といった空気がある。


 ……待て、冷静に考えるんだ。


 エクレアは『ナザリックの支配を狙っている』設定だが、実際はちゃんとこちらに忠誠心を持ってくれている。掃除は隅々まで行き届いた完璧なものだ。履き物に画鋲が仕込まれることもないし、ベッドが落とし穴になっていたりもしない。


 実際にエクレアが内乱を主導するとは考えたくないし、やろうとしても守護者たちが言うことを聞くとは思えない。


 とすると、これはつまり『設定に矛盾しないように言動を調整している』ために混乱が生じているのであって、その部分を丁寧に取り除いて報告内容を改めて眺めてみれば、事実が浮かび上がるはずだ。


 つまり……階層守護者たちの間でちょっとした諍いが起きている、といったところか。まあ言い争いがヒートアップした程度だろうが、あいつらのレベルではにらみ合いだけでへんなスキルが発動しかねない。


 だいたい、第九階層にはレベル1のシモベが多くいるのだ。まさか怪我をさせたりはしないだろうが、それでも十分すぎるほどに怖がらせてしまうことは請け合いである。


 そもそも。

 シモベ同士で争うなど、アインズの望むところではない。


 反射的に込み上げた強い怒りは抑制された。


 まずは事情を聞いてやらなくては。頭ごなしに叱りつけるのでは、根本的な解決にはならない。

 双方の言い分を公平に秤にかけ、正しい裁定を下してやらなくてはなるまい。片手落ちにならぬよう、どちらもが遺恨を残さぬよう。


 ……俺にそんな芸当が出来るのか?


 存在しない胃がきりきりと痛んだ。

 

 しかし、やらないわけにはいかない。

 NPCたちは、大切な子どもたちなのだから。

 

 思案を終え、アインズはエクレアに頷いてみせる。

 報告ご苦労、と言いかけて、思い直す。


「見事な宣戦布告だ、エクレア・エクレール・エイクレアーよ。では私が直々に赴いて、その挑戦を受けるとしよう」


 エクレアははっとした顔をして、それから何かを堪えるように目を伏せた。目尻にうっすらと輝くものがあったのは、涙が溢れそうになったのだろう。ぷるぷると小さな身体を震わせて懸命に堪えている。


 ……たまにはこいつ相手に魔王勇者ロールをしてもいいかもしれないな。


 などと思いながら、颯爽と転移したアインズは――


 眼前に剣と槍と魔法とスキルと打撃が一斉に迫ったのを見て、凍り付いた。











 コキュートスは二本の腕で盾を、二本の腕で剣を、それぞれに見事に使いこなして攻防一体の怪物となり。

 デミウルゴスはその盾に守られながら、スキルで相棒を支援しつつ、戦闘域を廊下に固定すべく攪乱し翻弄して。

 セバスは執拗に悪魔を狙い、体術の限りを尽くし流れるような連続攻撃を仕掛ける。


 戦闘スタイルの相性から、コキュートスとセバスが争えば後者が有利となるはずである。

 しかしながらこの場合、圧しているのはコキュートスの方だった。


 原因は後衛のデミウルゴスとコキュートスの連携が非常に円滑に、言葉なくともほぼ完璧に成り立っているからだ。もとより互いに親交が深く、信頼し合い、能力についてもよく知り合っている仲であればこそ可能なチームワークだった。


 もっとも執事の方にも援軍はある。プレアデスたちが息の合った連携をとりつつ、華麗にそして苛烈に攻め立てる。


 そこにふわふわと気ままに、誰でも手当たり次第攻撃してくるのがシャルティアである。いつの間にかフルアーマー仕様で飛び回り、さすがに手加減はしているようだが楽しげに攻撃したり邪魔したりしてくる。


 場所は廊下。

 複数人が争い合うにはあまりに狭い空間だ。


 誰が誰を狙おうとも。誰が誰を庇おうとも。

 その隣には、その奥には、必ず誰か別の者がいる。


 廊下の先、一般メイドたちから聞いて戦場に参じようとわらわらNPCたちがやって来る。

 だが、いまこの場で争っている彼らに新参者らを気にする余裕はない。


 彼らの中心、吹き荒れる暴虐の集約。

 プレアデスらがたまらず弾き飛ばされた、その直後。


 凍河の支配者の二刀が舞い、

 炎獄の造物主のスキルが放たれ、

 鋼の執事の蹴撃が空気を裂き、

 鮮血の戦乙女の槍が突き出され、

 プレアデスの魔法が飛来し、

 まさにそれらが交錯するはずの、その地点に。




 アインズ・ウール・ゴウンは姿を現した。




 その刹那に、空気は凍った。


 この場にいる誰もが時間対策を施されている。

 アインズがタイムストップを無詠唱でかけようとも、無駄だ。

 待ち受ける無惨な結果は必然である――はずだった。


 そのとき起きた一糸乱れぬ連携こそ、まさしく奇跡のチームワークであった。

 なんの示し合わせもないままに、彼らはやってのけたのだ。


 一刀が槍を弾き、槍はあらがわず流れて蹴り足の膝裏に添えられ、均衡を崩した足が強引に振り抜いた先は魔法の群れ、いくつかを滅されながらいくつかの魔法が進まんとしたところ、スキルをまといつかせたもう一刀が完全に打ち払う。


 アインズの前後左右で展開したこの一連の打ち消し合いはアインズが身動きする間もなく始まって完了し、

 そののちにシモベたちは一斉に跪き、口々に謝罪を迸らせる。


 アインズはおごそかに「争いはそこまでにしてもらおう」と命じた。

 その落ち着き払ったさまは、まさに絶対支配者の威厳に溢れている。


 ……すでに凄まじい動揺からの強制的な精神安定をされていたりするわけだが。

 とっさに絶叫しなかった自分を褒めたい、と小市民な鈴木悟は思う。


 ふつふつと沸き上がる怒りは決して小さくはなかったが、精神抑制が束の間にせよもたらした完全な冷静さは、彼に感情を差し控えさせるに足るだけの疑問を提起していた。


 これほどの人数のシモベが、一斉に争うなど尋常ではない。

 まさか、シャルティアを操った者の計略なのか。

 ……エクレアが本当に内乱を引き起こした、とかでなければいいのだが。


 アインズは咳払いする。骸骨の身体には不要ではあるが、心の準備が必要だったのだ。


「ところで、これはどういう事態だ?」


 デミウルゴスとセバスが説明し、そこに驚いたようにユリが口を挟み、セバスが「私の言葉が足りませんでした」と謝罪し、などとまああれこれやりつつ話を聞き終えて。


 アインズは頭を抱えそうになる。


 こんなことが今後もあると困る。「NPC同士で争うなど言語道断だ!」としっかり伝えねばならない。


 だがこの場合、頭から否定するわけにもいかなかった。

 それではデミウルゴスがあまりにかわいそうな立場になってしまう。


 実際、この二人が言い争っているときに上機嫌になってしまったのは事実なのである。

 それもこれまでになく凄まじく上機嫌に。精神抑制されるほどに。


 ただでさえデミウルゴスは深読みをするのだ。あれでは「喧嘩してほしがっている」と思われても仕方がない。

 もっとちゃんとフォローしておくんだった、と思っても後の祭りである。


 では正直なところを言うべきだろうか?


 デミウルゴスとセバスが喧嘩しているのを見ると、彼らの創造主もまたよく喧嘩していたことを思い出し、ひどく懐かしくなったのだ、とでも?


 だが、至高の四十一人の間にも不仲はあった、という情報は、彼らに知らせない方がいいだろう。NPCたちの心を傷つけてしまいかねない。


「私が二人の言い争いを喜んだというのは、確かにそうだ。しかしそれは、ことさらにお前たちが争うのを見たかったからではない。いや、このように互いの身体を傷つけるような争いはまったく望ましくないな。これだけは頭に叩き込んでおいてほしい――私はお前たちを傷つけ合わせたくないのだ、と」

「で、ではアインズ様はいったいなにをお望みでありんすの?」

「うむ、よい質問だ。私は……そうだな、お前たちが無理に仲良くしたりするのではなく、好きなら好きで、嫌いなら嫌いで、伸び伸びとその感情を表現出来るような環境を整えてやりたいのだ。もちろんそれで嫌な思いをするときは配置換えをしてもいい。お前たちが日々快適に忠義に励めるよう、不要なストレスを抱え込むことのないよう、私に出来ることならしてやりたいと思っている。だから……まあ、デミウルゴスとセバスの場合、私が常々そうした心配をしていたところに、ちゃんと私が望んだように、嫌いなことを隠さず伸び伸びとしているように思えたので、私はとても満足したのだ」


 若干微妙な空気が流れている。これはたぶん理解してもらえてない。営業マンとしての数々の失敗したプレゼンテーションが脳裏を過ぎる。


「そういうことでしたか、アインズ様」


 うん、信じてた。お前ならそう言ってくれるって……!


「理解してもらえたかな?」


 デミウルゴスが深く頷き、あとはうな垂れたり、必死に考え込んでいたり、首を傾げていたりするばかりだ。悪魔はその様子に気付いて、


「僭越ながら、私の方から皆に説明しても?」

「好きにするがいい」

「ありがとうございます」


 デミウルゴスは立ち上がって皆を振り返り、


「アインズ様は我々の相性をはっきりさせることをお望みなのです。ここでいう『相性』とは能力的なものではなく、性格的な一致不一致ですね。

 職務を遂行する上で共同作業が必要となった場合、互いの関係が良好であれば効率も上がることが期待出来ます。

 逆もまたしかり。たとえ異なる職務を受け持っていたとしても、同一ないしは近隣のフィールドで活動する場合、情報の共有がうまくいかなければ互いの仕事にマイナスを出す危険があります。

 であればこそアインズ様は、我々の性格的一致不一致という相性が判然とするよう振る舞えと命じられているのです。仲が悪いにもかかわらず仲がよいふりをするなどして、惑わせることのないように、と。

 ですが当然そこには限度といいますか、節度が求められます。互いを攻撃したり、仕事の妨害をするのは厳禁です。あくまで職務を効率的に遂行するための調査のようなものなのですから、ことさらに過激に行動することなく、争う場合は言い争い程度に留めておくべきでしょう」


 なるほど、と納得の空気が広がる。目的が明確化され、それに対する手段として配置されることで、因果関係が汲み取りやすくなり、理解も早まるのだろう。


 アインズの『NPCはかわいい子どもたちだから、出来れば仲良く楽しく幸せに働ける環境を整備したい』などというふわふわした理由は、彼らにはぴんと来ないものなのである。


(ほんとは口喧嘩さえいやなんだが……でもそれを命令するのはな……まあこの場はこれでいいか。焦らず頃合いを見ながら、俺が本当に望む形を伝えていこう)


 それよりも、とアインズはNPCたちを眺める。

 みんなそれぞれにダメージを負っている。特にプレアデスたちとデミウルゴスがひどい。

 『生命の精髄ライフ・エッセンス』を使うまでもなく、HPを半分以上削られていると察せられる。


「……謹慎を命じているペストーニャを呼び出せ。治療が済み次第、それぞれ持ち場に戻るように。ああ、それからセバス、一般メイドに命じて掃除のついでに建物の被害状況を報告させろ」

「はっ」


 うむ、と頷いて、アインズはきびすを返す。


 リングでさっさと転移してもよかったのだが、だれか話したがっている者がいるかもしれない、と思ったのだ。自分のあとを追ってくるようなら、声をかけてやればいい。


 だが、そんな気配はないようだ。


 そのまま自室へと向かいかけたアインズは、廊下の角を曲がったところに、男性使用人がいるのに気がつく。


 使用人は慌てて跪き、小脇に抱えられていた者を床に下ろす。

 すっくと立ち、アインズを見据えるのはエクレアだ。


「お見事です。私の完全なる反逆計画をこうもあっさりと打ち砕くとは」

「ん? ああ……いや、なかなかひやりとさせられたぞ。やはりお前は私を楽しませてくれるな。今後とも挑戦してくるがいい」

「当然です。このエクレア・エクレール・エイクレアーこそが、ナザリックの支配者となるにふさわしいのですから。誇り高きこの名とこの姿、そして不屈の魂をもって至高の御方々に挑み続けるのです。その使命がいかに重かろうとも、その達成がいかに困難であろうとも」


 きりっと凜々しく宣言し、手を前後にちょいちょいと振る。男性使用人がペンギンを小脇に挟み、一礼して逃げるように去って行った。


 ……あいつもたいへんだな。


 難度超級のロールプレイを綱渡りする者として、アインズは同情を禁じ得ないのだった。



【あとがき】

 人間たちに向けて製作されたアニメにおいて、エクレアの姿は確認されていない。これは帝国側に己の存在を知られるのは時期尚早と考えた彼自らが、痕跡ごと抹消したためである。人知れず忠義を尽くし、アニメからさえ慎み深く姿を隠す彼に賞賛の意を込めて、ここに記す。


(『ナザリック史』第七巻、千百二十七ページ)

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