第9話「テロリストに学校を占拠された妄想」

「やば……!」


 こうなったら、校内でどこか隠れられる場所を探すしかない。とりあえず階段を駆けのぼる。


 そうだ、先生たちに相談すればなんとかなるかもしれない。

 なんとか二階の職員室に駆けこみ、声を上げる。


「先生!」


 だが頼みの綱の先生たちは、すでに自我を失っていた。窓から狙い撃たれたのか、背中には『横溝たかしを見つけたら連絡を』の文字。


 まるで自動人形のように、先生は校内放送のマイクを取る。


『横溝発見しました。二階職員室でお待ちです』


 たかしは慌てて部屋を飛び出す。


 何事かと、他の生徒たちが教室から出てくるが、その背中にも次々とメールが刺さっていった。まるで一斉送信でもしたかのように、校内のほぼ全員が敵に変質していく。


 奴は人を人とも思ってないのだろう。使えるものは全部使っていく。校内が混乱しようとお構いなしだ。


 必死で追手をまくが、逃げるのにも限界がある。


「やべぇよ、やべぇよ……」


 息が切れるまでダッシュしたのは小学生以来だ。


 このままでは、いずれ追いつめられて、あのメールに射抜かれる。そうなったら、何をされるかわからない。


 そもそも向こうは、なんであんなに怒っているのか。やはり、他に能力者がいるのは目ざわりだったのだろうか?


 じわりじわりと行動範囲が狭まっていく。


「なあ、ねとり。なんとかしてあの女のケータイを奪えないか?」


 走りながらの問いに、ねとりは顔をしかめる。


「ご主人の力だけじゃ無理ね。イマジネが作り出したものに触れられるのは、イマジネだけだから。けど、あたしが正面から行っても、きっとメールを当てられて、そこで終わり」


「じゃあ、俺が矢を受けるから、そのスキに」


「ダメよ。そうしてご主人が気を失いでもしたら、あたしも消えちゃうし」


「おいおい、もうどうすれば――」


 と、先回りしたのか、階段の踊り場に一人の女子が待ち受けていた。


 あれは昼間、獅子王の隣にいた、巨乳の女の子だ。背中にはしっかりと『横溝たかしを捕まえろ』のメールが突き刺さっている。


 下の階がざわつき始めている。前の敵は一人。ここはどうにかして切り抜けたい。


「ここは、華麗なステップで!」


 と思いきや、あっさり首元を掴まれ、壁際に追い込まれてしまう。


 ガッっと首を絞められる一方で、相手の巨乳がたかしの体にくっつきそうになる。


「ねとり、なんとかして……いや、しないで……でもなんとかしてくれ!」


 ねとりが後ろから女の子を殴るも、ビクともしていない。徐々に意識が朦朧としてくる。


「っ……背中の! 刺さったメールは! 抜けないのか!?」


「やってみる! せーの!」


 ねとりが背中のメールをひっこ抜く。と同時に、相手は気を失ったように倒れた。


「あ、あぶねえ……」


 だが、それもつかの間。すぐに追手たちが階段下に現れる。

 さすがに全員を相手にするのは無理だ。そのままフラフラになりながら、上の階に逃げ込む。


 どうしたらいい? 連中に捕まったら何されるかわからない。


「こいつは能無しだし」


「今助けたでしょ!」ねとりが必死の抗議。「それに戦闘用の力がないだけで、戦闘後ならあたしだって……」


「なんかあるのか?」


 ごにょごにょというねとりの言葉を聞いて、目の前がぱっと開ける。


「それマジ?」


 ねとりが言ってることが本当なら、わずかながら希望の光が見えた。


 これはなんとかして勝つしかない。ただその方法が難しい。


 相手は遠距離攻撃をしてくるので、うかつには近づけない。どこかで隙をついて反撃をするしかないのだが、その隙をどうやって作るのか。


 考えろ、考えるんだ。たかしは妄想を加速させる。


 銃を持ったテロリストが学校を占拠した、なんて最も妄想してきたテーマではないか。たまたま屋上でサボっていたたかしが、テロリストを一人また一人と倒し、ついには親玉と一騎打ちに。シミュレーションは何度もしてきたはずではないか。


 だから今回もきっと解決策があるはず。


 そうしているうちに、ついに前からも追手がやってきた。


「ヤバイ……!」


 戻ろうにも、後ろはすでにふさがれている。廊下の真ん中で、完全に挟みうちの形になってしまった。


 こうなったら仕方ない。近くの無人の教室に逃げ込み、中から鍵をかける。


 すぐさま教室の周りは取り囲まれ、扉を叩く音が響いていた。中になだれ込んでくるのも、時間の問題だろう。


「どうする? どうする?」


 横溝たかしは完全に追い込まれていた。

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