第4話「仏舎利・2」
「風力、太陽光、バイオマス、地熱、化石燃料、原子力。果ては縮退炉や次元階差機関に至るまで……人類は様々なエネルギー源を利用してきた。それでも尚、社会が徳エネルギーを用いるようになった理由。それは『再生率が極めて高い』という点にある」
徳ジェネレータの前で、ミラルパは呟く。
「例えばある者が徳を積み、それがエネルギーとなる」
老人は、ソクシンブツを見つめる。ミイラは何も応えない。
「だが彼は、徳エネルギーを人々を助けるために使うことで……更に徳を高めることができるのだ。徳エネルギーが徳を生み、徳が徳エネルギーを生み出す。故に再生可能。そして……」
老人は言葉を切る。
「もしも仮に、徳と徳エネルギーの変換効率を100%に近付けることができれば。それは、『徳エネルギーによって人々が救われる限り、徳が積まれ、徳エネルギーが供給される』ことを意味する」
人類社会そのものを炉心とした連鎖反応(チェイン・リアクション)。徳の無限連鎖。それは遠い人類の夢。第二種永久機関に限りなく近い。
「だが……そんなものの存在を、この宇宙の法則は本当に許すのだろうか?」
ソクシンブツはやはり、何も答えはしない。
「いや、許しはしなかった」
その結果が、あの惨劇だ。徳エネルギーは、他の多くのエネルギー源と同様……その負債を、何処かへ抱え込んでいるだけだった。違いは、それを知り得るかどうか。
そうして人類全体の徳が『高まり過ぎた』が故の、徳カリプスだというのに。
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「ヒクッ……やっぱり俺は、思ったね。ヒクッ、今回のソクシンブツは、天啓に違いないって」
「……また、その話か」
クーカイは酔ったガンジーの肩を支えながら歩く。帰りの道中でも、ガンジーは同じ話を何度もしていた。
「あれほどのブツが見つけられたんだってぇ……いけるっての」
「しかし、有るかどうかも怪しい代物だろう……無限の徳エネルギーなんてな」
内なる徳に見切りを付けた彼等は、徳エネルギーをそのまま扱うことはできない。徳ジェネレータで徳からエネルギーを取り出し、マニタービンを回して発電、或いは水素を作り、それを利用する他ない。
だからこそ高レベルの徳を保持するソクシンブツなどの徳遺物は貴重なのであるが、それでも、幾ら高レベルのソクシンブツと言えど持てる徳は無限ではない。死んだ人間が徳を積むことは殆どできないからだ。
仮に『無限の徳エネルギー』があるとすれば、それは夢のような話だ。
「よく知ってんなぁ……」
「お前がさっき言ったんだろう。正体無くすまで飲むな」
「ヒック……でもよぉ、あの爺さん……ありえるって言ってたぜ」
「『有り得る』と『見つかる』は別問題だろう。道端で吐く前に帰るぞ」
「ヒクッ……」
クーカイはガンジーを抱え直し、家路を急ぐ。徳エネルギーの歴史と原理を解しない彼らには知り得ぬことだが……確かにそれは、有り得ることなのだ。徳連鎖反応によらず、単体で無限の徳を生む伝説の徳遺物。
嘗て存在した偉大な覚者が世界に残した爪痕。
人はそれを、『仏舎利』と呼ぶ。
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