《第5話》

はじめての親友(1)

 メルが執務室を出て行ったあと、一人の老人が部屋の奥から杖を『コツン……コツン…』と、つきながらスコッティオの傍まで歩いて来た。

 それに気づき、スコッティオは立ち上がると、窓辺へと向かう。


「で、どうだったかの。実にいい子じゃったろうが?」

 そう言い切った老人を、不愉快げにスコッティオは見つめ、吐息をつく。


「どうもこうもありませんよ、カジム管理長。話にもなりません。

あんな娘を雇ったとメルキメデス様にもしも知られたら、このわたくしの首が危なくてたまりませんでしたよ」

「そうかのぅ? ワシには、そうは思えんかったがなぁ~……あの子は、とてもいい娘じゃったよ。ワシにはよう分かる。経験的にじゃがなぁ。

そもそもメルキメデス様がそんなことくらいで、お前の首を切り捨てるほど小さなお方なのかね? ワシにはとても、そうは思えんよ」


「……」

 そう楽しげに言いきるカジム管理長を、スコッティオは困り顔に見つめ、ため息混じりに言う。


「ええ、そうでしょうね。オルブライト・メルキメデス様の下で共に戦った戦友でもあるカジム将軍には、全てがお分かりなのでしょうよ。

しかし私には、わたくしなりに、この屋敷を任された管理人としての立場というものがあるのです」

 嫌味とも取れるスコッティオの言葉を受け、カジム管理長はここで初めて困り顔を見せた。


「わかっておるさ。無論、お前さんの責任問題に関わる裁量にまで口出しするつもりはないがのぅ。

ただな……ワシには、少々残念だっただけだよ」

「……そりゃ、わたしだってそうですよ!」


 ポツリと呟いたスコッティオの本心とも取れるその言葉を耳にし、カジム管理長は「ほお~」と興味深そうな表情を向ける。

 それに気づき、スコッティオは咳払いをし、再び口を開いた。


「ともかく! あんなおしゃべりな子を、メルキメデス様の前へ出す訳には参りません。一体、どこで何を言い出すか、分かったもんじゃない。

そういうことですから、この件はこれまでとさせて頂きます」

「ああ、ああ……わかっとるわい。くどい奴だのぅ、お前さんも」


「……」

 スコッティオはそれで面白くもなさそうに、カジム管理長を独り残し、この執務室をあとにした。



 一方、わたしは執務室をあとにし泣きそうになる思いを抑えながら静かに階段を降り、一階で拭き掃除を何気にしていたJ・Cに気づくと。そこで立ち止まり、静かにそのまま俯いた。

 そんなわたしの様子を見て、J・Cは面接の結果がどうであったのか悟ったらしく。困り顔を見せたあと、無理に笑顔を作り、元気よく語りかけてきた。


「メ、メル! 今晩アンタは、私たちメイドが住まう別棟で泊まることになってるんだ。あとで仕事が終わったら迎えに行くから、それまでの間、さっきの裏手で待っていな! 

本当は違うんだけど、今晩は特別に、わたしの部屋に泊めてあげるよ。ゲームだってあるんだぞ♪ 

な? そうしなよ! 遠慮なんて要らないからさ♪」

「……ぅん。ありがとう、J・C」


「あ、ぁあ……元気…出せ、よ……な? ハ…ハハ……!」 

 

 わたしはそのJ・Cの気持ちに感謝し、でも小さくため息をつきながら元気なく屋敷の裏手へと向かい立ち去って行く。そんなわたしを、J・Cは頭を軽く掻きながら困り顔に見送っていた。


  ◇ ◇ ◇


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