1話 国盗り物語-1 王「化け物を勇者召喚しちゃった……」 

水に溢れた青くて美しい惑星。

でも、悲しい事かな。地球と同じく、高気圧のせいで雨がほとんど降らない砂漠地帯が存在する。

巨大河川ナイルン川。たった一つの川に水資源をほぼ全て依存した国。

国の北部には石で作られた壮大な都市と、古ぼけた宮殿がある。


(な、なんだっ……!この化け物はっ……!)


今、この国の長……初老の王セイルン。彼は冷や汗を流して、目の前に居座る大きな骸骨を見ている。

ただの骨ではない。生きて動く骨――アンデッド。

生者を憎み、不浄すぎる化け物。

しかも、その骨で構成された体は巨人と言ってもいいくらいに大きい。人間の成人ですら、彼から見れば子供サイズだ。

最悪な事に、大量の装飾が施された分厚い黒いローブの上からでも分かる負のオーラ。その凄まじさ、王の魂は震えあがる。

目の前にいる骸骨は間違いなく、死者の中の死者。何時か全てを無に帰す大魔王。

一目見ただけで、そう理解できる。

なぜなら……セイルンが生まれてから、ずっと、この都市の地下からも『骸骨(ワルキュラ)みたいな存在の気配』を感じとれるからだ。

広場にいる大勢の兵士達も恐怖で身動きが取れない。


(異世界の日本から人間を拉致ろうとしたら、なぜ、こんな化物がっ……!?

あの国は魔法が存在しないと聞く、だからアンデッドがいるはずがないっ……!あわわわわっ……!)


この状況を説明すると単純だ。

使い捨ての戦争奴隷を得る目的で、異世界にいる日本人を召喚魔法で集団拉致しようとしたら骸骨(ワルキュラ)が出てきた。

ただ、それだけ。

このセイルン王国は人材を他所から『強奪する』事で発展してきた特殊な国なのだ。

初代国王アントワネットですら『ウチに人材がいないなら、余所から拉致ればいいじゃない』『穀物がないなら肉を食べれば良いでしょ?庶民は馬鹿ねぇー』という数々の迷言を残し、奴隷売買で国を繁栄させた建国王として歴史に名前を残している。


(ひ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!化物が動いたぁぁぁ!!)


心臓が飛び上がる勢いで驚くセイルン王。地味に寿命が縮んでいそうだ。

骸骨(ワルキュラ)の何もない眼窩に紅い光が宿る。彼は周りを見渡した。

そして、すぐに頭上で輝く太陽を睨みつける。


(アンデッドの天敵である……太陽光を浴びても辛くないだと……?まさか、ここはあの世か……?)


その動作で、広大な広場にいる兵士・貴族・日本人奴隷を含む人間達はますます恐怖でビクビク震えた、

圧倒的な力を持つ化物(ワルキュラ)。そんな存在が次に何をするのか分からない。

疑惑は人間の持つ感情の中で焦りを生み、疲れをもたらす厄介な感情だ。

現実の小説家さんも『書けば書くほど、文章が下手になっている気がする』と疑惑を感じて、文章を書くのをやめめてスランプになるくらい辛くて、イヤーになる感情なのだ。


(いや、ここが天国ならルビーやアトリがいるはずだ……。

つまり、誰かが死んだ俺を復活させてくれたのか……?)


ワルキュラはすんなり現状を無理やり納得した。

肉体が消滅して、別の身体に魂を入れられた経験があるだけに、死んで復活する程度の事で動揺はしない。

デスゲーム開始前は蘇生魔法が存在していた影響もある。


(鳳凰院の言っていたデスゲームは嘘だったんだな。そうに違いない。

きっと死んだ奴らを片っ端から蘇生して……ここに放り込んだのだろう。

学生服や紳士スーツ着ている日本人っぽい奴らいるし。懐かしいな)


広場にいる人間で、見慣れた恰好の人間達がいるから安心でき……なかった。


(よく見たら、モンスターやアンデッドが一人もいない!?

獣耳な人間はいるけど、俺みたいな外見の奴が皆無!?)


そう、この場にいる骸骨(アンデッド)は、ワルキュラ一人のみ。

社会は異物を排除する傾向にあり、全身が骨な超異端者はぶっ殺される運命にある。

しかも、目の前のいる日本人達が『先ほどまで殺し合いを繰り広げていたプレイヤー』だったら、ワルキュラは勿論ボコボコにされる。


(待てよ、俺のLVは一万だ。

兵士っぽい奴らは、槍とか剣程度の武装しか持ってないし、今の俺の身体なら楽勝……

ステータスを見て落ち着くんだ!俺!)


~~~~~

ワルキュラ Lv0

HP0 MP0 力0 魔力0 魅力0 感覚0


①人間への攻撃を禁ずる。(世界の敵への攻撃なら許可される)

②鳳凰院の命令に服従

③ ①と②のルールを破ろうとすると激痛を味わう。

④以上の条件を守って第三の人生をゆっくり楽しんでいってね。


by 鳳凰院ガイ『デスゲームに勝ち残った優勝景品だ。眷属復活スキルをくれてやる』


~~~~~


(あばばばばばばばっ!)


ステータスがバグって可笑しい事になっていた。

正直、スライムに殴られて即死どころか

『貴様は既に死んでいる。骨(アンデッド)だけに』と宣告されているも同然のウンコステータスだった。

これだけでも致命傷すぎるのに、その上、人間への攻撃禁止。


(……死ぬ。俺はここで三回目の死を迎える……!?)


ワルキュラは周りにいる人間を見渡す。やはり全員が自分を注視している。

やばい。殺される。外見が骸骨だから恐れられてる。

何か切欠があれば、今すぐ斬りかかってきそうだ――


「野蛮なアンデッドめ!ここを何処だと心得るか!」


そう叫んだのは、王の隣に立っていたフミィダイ・ウ・セイルーン王子だった。

デップリと太った青年で、散々、親に甘やかされて育ったんだろうなぁと、誰でも理解できる風貌をしている。


「皆の者!さっきから何をビビっておる!

骨の一匹や二匹に恐れる必要はない!殺せぇー!」


命令を下した。兵士達は条件反射的に剣を鞘から抜く。ゆっくりゆっくり恐怖で小動物のようにプルプル震えながら、ワルキュラに近づいてくる。


(や、やばいっ!俺はここでっ!苛め殺される!?)


ワルキュラには、なぜか兵士達の顔が、高校時代に見かけたモヒカンヘアーの不良達に見えた。

『苛め殺される前に殺してやるっ!主義』の持ち主としては反撃せざる負えない。

例えば、自分は魔法使いだから、魔法とか、魔法とか、やっぱり魔法とか――


(MPゼロの魔法使いだよ!?今の俺!?

そもそも俺が攻撃したら人間なんて蟻みたいに容易く死ぬ!

つまり、人間を殺す事を禁じられた俺は反撃すら許されない!)


ステータス表記が正しいなら、MP0。

どんな小さな魔法も使えない。

こうしている間にも、兵士達が恐怖で顔を真っ青にしながら迫ってくる。

今にも泣き出しそうだ。


(剣向けられている俺の方が怖いわっ!アホか!)


兵士達の顔を見ていると、逆に落ち着いてエセ関西弁を使って、心の声でツッコミする余裕すらあった。

ゆっくりと1m単位で、ソローリ、ソローリと近づく兵士達。

彼らの心境は、絶対生きて帰れない戦場へと向かう旧日本兵のごとし。ただし勇気はゼロ。


((こんな化け物に勝てる訳ないだろっ……!馬鹿王子がっ……!))


旧日本兵なら、家族のため、好きな人のため、国のため、米軍相手でも自殺特攻するだろうが……世間知らずの馬鹿王子のために死ねる奴は誰もいないから元気が出ない。

死んでも遺族年金とか存在しないし、遺族へのアフターサポートは絶望的だ。

だから、ワルキュラには考える余裕がたっぷりある。


(魔法は駄目。近接戦闘は危ないから駄目。殺したら罰ゲーム。アイテムボックス使えるが入っているアイテムは、魔力がある事を前提にしたもの。

なら、これしかない……)


スキル欄にある見慣れないスキル。

『眷属復活』

アンデッドの眷属といえば、やっぱり死者(アンデッド)。

復活と書いてあるから、部下の死刑囚プレイヤー達が復活するのかなぁーと思った。


(駄目だっ?!

俺のギルドに入っていた奴らっ!

レイプや殺人で死刑になった死刑囚だっ!?

仲が良かった奴もいるけど、殺されかねない!)


でも、このスキルを使わないと生き残れそうになかった。


(せめてレイプ魔の和樹(かずき)が出ますようにっ……!

あいつだったら、可愛い娘談義で色々と会話した事があるから、俺を苛めないはずっ……!

あ、でも、レイプの話を聞くと、妹を思い出すからぶっ殺したなる……)


百人も女子高生をレイプした死刑囚くらいしか頼れる友達がいない。

なんと悲しい我が人生。

きっと、高校時代に出会った不良三人組が全部悪いに違いなかった。でも、他人のせいにしても解決しないのが人生。

その場その場で決断して道を切り開くしかない。

出来れば吸血鬼娘のルビーちゃん達が全員復活してくれると嬉しいが、彼女達は眷属ではなく雇用契約関係。

眷属復活という言葉のイメージ的に出そうにもない。


(妹よ!俺に力を貸してくれぇー!)


『眷属復活』スキルを選択し実行――世界が一変する。

広場を膨大な数の骸骨が埋め尽くしていた。数万とか、そういう単位ではない。

三十万だ。しかもすべてが最低レベル百越え。

吸血鬼、触手、ダークエルフ、エルフ、リッチ、スペクター、デュラハン……無数の強者が場に入り乱れている。

全員、ワルキュラには見覚えがあった。


(あ、プレイヤー達との激戦で死んだ部下達だ。やったー。

プラチナちゃん、ルビーちゃん達が生き返ったー)


ノーライフ・オンラインのNPCは、実際にその世界を生きている生物だ(ワルキュラの部下の場合、ほとんど骨だが)

特に八人いる魔王はLV5000超えで、廃人プレイヤーよりも強く、各個撃破戦(弱いもの虐め)を得意とする。

だが問題はそれよりも――


(でも……こいつらのステータスが十分の一……?)


闇に属する種族は、太陽がある場所ではステータスが十分の一以下になる制限がある。

つまり大幅に力がダウンしまくって、見かけ倒しの軍勢が目の前に出来上がっていた。

今のスケルトン達は、ベテラン兵士より、少し強い雑魚モンスター。

この場の人間側の兵士に、LV1000超えの化物が居たら、バサッバサッと斬られまくってワルキュラの人生終了間違いなし。


(や、やっと理解できたぞっ……!鳳凰院は俺の絶望を楽しむためにっ……!

復活させたんだっ……!あばばばばばばばばっ!)


酷すぎる現実を前に、ワルキュラは立ったまま気絶した。

骨だから、誰も彼が気絶している事に気付かなかった。




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この話のコメントまとめ+作者の感想


http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Fusiou/c4.html



【小説家になろう】 読者「強引な勘違い展開はゆっくりできないよ!」カメレオンの事かぁー!

http://suliruku.blogspot.jp/2016/02/blog-post.html


【内政チート】「流浪の民を保護して、その情報網で軍事チート」

http://suliruku.blogspot.jp/2016/02/blog-post_11.html



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人間達(´・ω・`)(´・ω・`)オワタ・・・この国・・・・

死者の国なってしまうんだ・・・・



ワルキュラ(´・ω・`)オワタ・・・俺の第三の人生・・・

アンデッドが弱体化しすぎぃ・・・



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