駄犬ルプーの冒険

駄犬ロール

第1話「トブの大森林とカルネ村」

「あれ? ここ何処っすか?」


 目の前がブラックアウトしたのか、気が付くと木々に囲まれていた。木漏れ日が漏れ、心地良い風がなびかせている。

 先程まで王座の間でモモンガ様にかしずいていたはすだ。久し振りにモモンガ様がいらしたと思ったが、もしかするとモモンガ様も他の御方々と同じ地へと行幸されたのかも知れない。

 モモンガ様の宸襟を安んじれば、御方々の元へ行幸あそばされるのも頷ける。そして王を失った我々の事を叡慮なされたのだろう。

 狼は元来、草木の生茂る野山を根城とする生き物だ。かつては動物を自然に帰すこともあったと伺った事もある。ならば動物らしく自由に生きるのも悪くはない。


「この広い土地を駆け巡る。悪くないっす!」


 ――よし、なんにもしたく無い。寝るか。

 いや、決してサボっている訳じゃ無いっすよ。ただ御方々の為……と言うかナザリックのメイドとしての仕事以外で働きたくないと言うか、このままマッタリと過ごしたい気分っす。


「なんなんっすかー、人がせっかくごろごろしてる最中に」


 狼の人間離れした聴力がその足音を逃しはしなかった。500m、400m……尋常じゃないスピードで駆け走っている。獣……いやこの速さは魔獣の類いだろうか。4本の脚で駈けている音なので人間の線は薄いだろう。


「……っ!? なんすかこの間合い!」


 まだ距離があった筈だ。それ故に不意を突かれてしまった。なんとか視認可能な速度だったので、鞭のような攻撃を聖杖であしらうことが出来た。


「某の攻撃を弾くとは……お主、只者ではござらんな!」


 言葉が通じる……これは危険だ。知恵を付けた魔獣とは、簡単に言えば人間のそれに近い。それが人間だったらまだ良い、脚は遅いし肉体は脆い。たが目の前のそれは屈強な肉体に、叡智を湛えた漆黒の瞳。決して油断をして良い相手ではない。


 ならば……


 聖杖を使い……いや、先の間合いから近付くのは危険だ。ここは遠距離から放つ魔法で仕留めるのが賢明だろう。


「|《吹き上がる》《ブロウアップフ》――」


「ま、待つでござる! 某の負けでござるよ!」


 ゴロンと引っ繰り返り、お腹を見せる魔獣。涙を浮かべ、戦意喪失している。それは無抵抗の証で、敗北の印である。

 しかし、ごろごろを邪魔された恨みはこの程度では晴らせない。


「駄目っす、そのまま死ぬっす。 |《吹き上がる炎》《ブロウアップフレイム》」


 白銀の魔獣と言えど所詮は生き物だ。魔獣は無抵抗のまま火花を上げ、次第に身体全体へと炎は広がって行く。


「ぶあち!! あちっ、あちっ! 死ぬ! 死ぬでござる! ごめんなさいごめんなさい!! 某が悪かったでござる申し訳ないでござる!!」


 謝るくらいなら最初から攻撃を仕掛けなきゃ済んだものの……だが、彼女とて無慈悲ではない。別に殺す事が趣味と言う訳ではないのだ。


「もう、しょうが無いっすねえ。今回だけっすよ。 《大治癒》ヒール


 慈悲のあるドヤ顔で魔法を唱えた私。広がった炎は鎮火され、皮膚はただれ中の肉が痛々しく焼け焦げた身体は元の屈強な肉体に修復された。

 今回は悲鳴と肉の焦げる香りが堪能出来たから良しとしよう。


「た、助かったでござる……」


「それで、なんでいきなり襲って来たっすか?」


 命の危機は去ったと感じたのか、魔獣はぐったりとしながらうつ伏せに戻っている。

 相手の戦意が喪失した以上、聖杖を握る必要はない。邪魔になるので背中にぶら下げることにした。


「この森の南側は某の縄張りでござるが故に、侵入者を倒すべく参った次第でござるよ。まさか参ることに成るとは……姫はお強いのでござるなあ」


 なる程、理由は分からないが魔獣のテリトリーに飛ばされてしまった訳か。この程度の強さなのは、生殺与奪の権利は私に任せると言う事だろうか。一匹狼も良いけど、敵を倒してくれるなら任せるのも良いだろう。下僕は多い方が楽ができる。


「まあ、わたしの上司やご主人様には手も足も出ないっすけどね。わたしの名前はルプスレギナっす。気軽にルプーと呼んで構わないっすよ」


「そんな! 姫は姫でござるよ。某は……残念ながら一人で過ごしてきた身故、名前がござらぬよ。宜しければ姫に名づけて欲しいでござる!」


 名前か……少し考えてみたが、初めての経験も相まってアイデアが纏まらない。そもそもこの魔獣の種族すら知らないのだ。もう少し特徴と言うか性格を掴んでからでも遅くはないだろう。


「うーん、今は思い浮かばないっすね。断定としてもこもこ(仮称)なんかはどうっすか?」


「もこもこ……微妙でござ……い、いえ! 大変良い名前だと思うでござるよ!!」


「むー、やっぱり即興じゃダメっすかあ。まあその内アイデアが降ってくるっすよ」


 ――刹那、ルプスレギナの脳裏に一重の言葉が降り注いできた。


「これは……まさか――様が……」


「ん? なにか言ったでござるか?」


「な、なんでもないっす!」


 そんなはずは無い。仮に《伝言》メッセージだとしたら、見えない糸が繋がった感覚がある。脳に直接話しかける方法があるのだろうか。いや玉音かも知れない。


「ハムスケ……お前の名前はハムスケっす!」


「ハムスケでごさるか……」


 もしかして気に入らなかっただろうか。私が考えた名前なら問題ないが、至高の御方々から下賜った名前にケチを付けるとしたら殺す。この魔獣の運命はそれ迄と言う事だ。


「ハムスケ! それは良き名にござるな! 感謝の極みでござるよ!!」


 嬉しさを表現しているのか、立ち上がると歓喜のダンスらしきステップを踏んでいた。実に好感の持てる魔獣だ。


 ふと、何かに気が付いたのかピクピクとハムスケの耳が動いていた。私も澄ましてみると、南の方角から人間達の悲鳴や、甲冑の擦れる音が耳に入ってきた。


「姫……これは」


「なんだか楽しそうすっね! 一緒に向かってみるっすか」


 ハムスケがしゃがみ込み、視線を背中に送っている。これに乗れと言う事だろうか。聖杖が刺さる気もしたが、それも良しとしよう。


「ちょっ、痛っ! 刺さってる刺さってるでござる! 痛いでござるよおおおおおぉぉぉおお!」


 案の定、飛び乗った拍子に聖杖の持ち手が刺さり、ハムスケが悲鳴を上げながら人間の悲鳴が聞こえる方角へ駆け走っていった。


「大丈夫っす! 後で回復させるっすから!」







「よいっ……しょっと!」


 カルネ村で暮らす少女。エンリは朝の日課である水汲みの最中だ。貯水槽が満杯になるまでに何往復か要するので大変だが、水が無ければ生きていく事が出来ない。それ故に疎かにするわけにはいかないのだ。


 村の近辺に差し迫る中、ふと村が騒がしい事に気が付いた。祭事の日では無いし、客人が訪れる有無は聞いたことが無い。村が視界に入ると悲鳴が飛んできた。慌てて目を凝らすと鎧を着た人々が村人を襲っているではないか。

 エンリは居ても経っても居られなくなり、汲んできた水を放り出して慌てて自宅へと駆け走った。


「お父さん! お母さん! ネム!」


「おお、エンリ! 無事だったか!!」


 両親と妹は自分が来るのを待っていたのだろう。既に荷物は纏めて逃げる支度を済ませている。

 今すぐに逃げようと、ドアに駆け寄った。しかし現実は無情であり非情であった。突然ドアは蹴り破られ、血の匂いと共に白銀の人達が入ってきた。


「母さん! エンリとネムを連れてさっさと逃げろ!」


 男は渾身の力を振り絞り、侵入者に飛びついた。攻撃をしても返り討ちにあって殺されるだけだ。どうせ死ぬのなら1秒でも長く足止めをして家族を守護りたいのだろう。


「ぐっ……この野郎! 邪魔をしやがって!」


「うぅ、うわあああああああぁぁぁぁあああ!!」


 横から入った別の騎士に背中を切られ、裂けた肉からは血が染み出している。気を失いそうな痛みが男を襲うが、倒れる訳にはいかない。今この手を離してしまっては娘達を、家族を危険に晒すこととなるのだから。

 考えてはいけない。気付いてしまっては生きる気力が消失してしまうのだから。そう、家には既に別の騎士が入り込んでいる。一人は足止めをしているが、それでは不十分なのだ。

 諦めかけたその時、天から光の矢が降り注ぎ騎士達が力無く崩れ落ちていった。必至にしがみついていた男は助けが来たことに安堵し、糸が切れた様にぷつりと倒れてしまった。


「お父さん! お父さああああああああん!」


「こんにちは〜 困り事っすか?」


 太陽だった――いや、太陽の様に光り輝く存在と言えば良いのだろうか。真紅に輝く髪は三つ編みに束ねられ、場違いなメイド服すら掻き消されてしまう絶世の美貌。


「た、助けて下さい! お父さんが……お父さんが!」





「むむっ、人間が人間を斬っているでござるよ」


 ハムスケが視線の先の光景を口にした。カルマ値0とは言え、人間に無関心なハムスケが同士討ちを目にした所で思うことは皆無だ。仮にルプスレギナが人間だとしたら、助けてやろうと思ったのかも知れない。だが我々とは別の種族。特に愛着心も無く、結果としてはルプスレギナに命じられたから従っているだけに過ぎない。


「楽しそうなことやってるっすね! 騎士の騎士による騎士のための蹂躙っすか!」


「某は楽しそうと言うよりは、現実から目を逸らしてる感じがするでござるなあ」


 騎士達が村人を蹂躙しているのだ。村人は武器を持たず、一方的な殺し合いになっている。彼らは好きで殺し合いをしている訳では無く、人類の為の尊い犠牲だと自分を誤魔化しているのだ。人間離れした察知能力が無ければ、知る術のないまま終わっただろう。何故無いのかと言うと――




 ルプスレギナは思考した。彼らをどうすべきか。

 別に全員殺しても構わないし、このまま見物するのも楽しそうだ。このまま日和見しても良いが、どうせなら騎士と農民。両方の悲鳴を堪能したい所だ。

 騎士を追っ払って、後の報復を利用すべきか。


「一先ずは村人を救うっすよ! ハムスケ!」


「承知でござるよ!」


 森の影から様子見をしていたハムスケが一直線に村へと猛進し始めた。救うのであれば一人でも多く助けた方が良い、その考えがハムスケを急かした。


「な、なんだあの魔獣は!? バケモノ、バケモノだあああああああああああ」

「見ろ! 上に美人が座ってるぞ!」

「それはお前の妄想だろ! ってなんじゃあの別嬪は!?」

「お姫様なら王子に連れ添って来いよ! 王獣じゃねえか!!」


 戦々恐々とする騎士達。視線が集中したことで一時的ではあるが殺戮が止まっている。


「美人で別嬪でお姫様からのプレゼントっす! 《集団標的》マス・ターゲティング |《魔法三重化・魔法の矢》《トリプレットマジック・マジック・アロー》」


 18本もの矢が中に現れ、騎士へと一直線に放たれた。甲冑で全身を纏っているとは言え、魔法対策の施されていない鉄の塊だ。易々と貫通し、心臓目掛けて突き刺さっている。

 騎士によっては何も知らぬまま命を奪われた者さえ居る。冥土の土産にメイドの美女を眼中に収められた者は幸せだろう。少なくともここで助けられた村人よりは。


「ありゃりゃ? 一発で死んじゃったっすか? もう少し悲鳴を上げて欲しかったっす」


 まさか《魔法の矢》マジック・アロー一本で死んでしまうとは思っても見なかった。ユグドラシルであれば駆け出しプレイヤーでもルプスレギナと良い勝負……とまでは行かないが、強化されていない第1位階魔法程度で殺られるなんて有り得ない状況だ。

 本来なら騎士のヘイトを集め、じっくりと時間をかけて嫐ろうと考えていた矢先の失態だけに悲しさが拭いきれない。


(まあ、村人をモンスターにでも襲わせて気分を晴らすっすかね〜)


「お父さん! お父さああああああああん!」


 近くの家から子供の叫び声が聞こえてきた。ふと声がした方向に目をやると、二人の騎士が倒れているではないか。なるほど、この騎士に切られたのだろう。

 悲鳴は誰でもウェルカム。絶望をより深く味あわせる為にも、ここは一つ正義の味方を偽るとするか。


「こんにちは〜 困り事っすか?」


「あ、あの……騎士を、騎士を倒して下さった魔法使いマジックキャスターですか!?」


 少女は泣き崩れながらすがり寄ってきた。その手は血に濡れており、このままでは至高の御方々から下賜れた服を汚してしまう。

 半歩横に動くことで軽く躱したルプスレギナ。宛の無くなった少女はうつ伏せに倒れてしまったが、それを気に留めず男性の元へと歩み寄った。


《大治癒》ヒール


 滴下した血溜まりは消失し、服に染み込んだ赤は身体に吸い込まれるように本来の色へと戻っていった。

 剣によって裂かれた背中は塞がり服まで修復されたそれは、先ほど斬られた事を感じさせられない。乱れていた呼吸は、正常な洞調律どうちょうりつに戻っている。魔法とはかくも偉大である。


「お父さん!」 「お父さん!」


「おお! エンリ! ネム! 父さんは無事だぞ!!」


「あなたー!」 「妻よー!」


 家族仲良く抱き合う姿は、欠けてしまい穴の空いたピースが無事に塞がった様だった。

 生を実感したことで余裕が生まれ、自らを救った少女に顔を向けた。


「あ、貴方様がお救い下っさったのですか! ありがとう……ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」 「ありがとー」


「ふふっ、どういたしましてっす!」


 父のお礼に釣られ、口々に謝礼の言葉を述べる。それに対して笑顔で返すルプスレギナであった。


「あ、あの! 他の人達は無事でしょうか!」


「うーん、良く分からないっす。騎士は全滅させたっすから、これ以上の被害は無いから安心して良いっすよ」


 今でも死にかけている村人が居るかもしれないが、一先ずは置いておこう。因みにエンリ達は興奮のせいでそこまで気に掛けることが出来なかった。


「えーっと……」


「ルプスレギナっす! こっちのデカいのがハムスケっすよ」


 門を潜ることが出来なかったので、家の前で待機していたハムスケがひょこっと顔を出した。


「某はハムスケでござる。皆々様にはよろしくでござるよ!」


「ひぃ!」


「私のペットだから安心するっすよ。言葉を介するなら知性もある。知性があるなら理性もあるっす!」


 多分……と最後に小声で付け足したことはハムスケ以外聞こえていない。


「それよりも姫、某の傷も癒やして欲しいでござるよ」


 さっきから地味にじんじんするでござると痛がるハムスケ。血は出ていないが、刺さった剣の聖杖みが未だ癒えないでいる。


「すっかり忘れてたっす。許して欲しいっすよ。 《軽傷治癒》ライト・ヒーリング


「痛みが引いていくでござる……あれ、先程の魔法とは違わぬでござらぬか?」


 回復量の少ない第2位階の治癒魔法だ。流石に攻撃意志のない傷程度なら治癒してしまうが、本当に心配しているのなら大治癒を……いやそもそも聖杖を持つかアイテムボックスに仕舞えば刺さらないのだが、ここで指摘するのは野暮だろう。


「細かいことを気にすると剥ぐっすよ! それより、この村の村長って生きてるっすか? 少し話がしたいっすよ」


「そうですね。お礼もありますし、先ずは外に出ましょう」


 脅威が去った今、無事だった村人達は怪我人の治療に当たっている。魔法は使えないが、カルネ村は薬草で有名なだけあり薬の調合には手馴れている。傷の治りを早くする程度は可能な為、薬を塗ったり副木を当てたりと忙しなく動いている。


 ルプスレギナ達が外へ出ると、村人達の視線を一様に集めた。怪我の手当は続けられたが、手の空いた者は救世主へと駆け寄り賛辞の言葉を述べた。


「村長です。この度は村をお救いくださって……感謝の言葉もありません」


 村長が頭を下げると、それに釣られんとばかりに村人達が深くお辞儀をした。

 少し眺めていたルプスレギナだったが、自分が言わないと先に進まないと察し言葉を口にした。


「いやー、旅人として当然のことをしたまでっすよ。みんな頭を上げて欲しいっす」


 ルプスレギナが喋り終わると村人達は静かに顔を上げた。しかし若干の不安を顔にする村人達。どんな対価を迫られるかと気掛かりなのだ。


「少しお腹空いたっすから食事って用意できるっすか? 出来ればハムスケの分も欲しいっすよ」


 ずんっと顔をつき出す賢王(元)に戦々恐々とするが、彼女が従えている魔獣だと知ると安堵の表情を浮かべた。

 あの騎士達を一網打尽にした魔法使いマジックキャスターであれば、手懐けるのも造作のないことだろう。


「では私の家へお越しください。今用意できる最高の料理をお出し致します」


 村長に連れられ、村で最も目立つ家へと案内された。妻と思しき女性も付き添っている事から、彼女が腕を奮うのだろう。


「わー! 美味しそうっすね!」


 並べられた食事はナザリック基準では見窄らしい食べ粕以上に劣る品々ではあるが、神の住まう聖地を基準にしては可哀想だ。干されてはいるが肉料理とは下々でもご馳走の部類だろう。ならば甘んじて受け入れるべきだ。

 因みにハムスケは、その気持ちだけでお腹いっぱいだと断っている。


(うーん、不味くはないっすけどやっぱり微妙っすね)


 外の生肉の方が垂涎の的となっているが、村人を安心させるために射るわけにはいかない。この程度の強さなら何時でも食せるのだから、焦って愉悦の時を逃してしまっては事だ。


「ご馳走さまっす! ふー食べた食べたっす」


「お粗末さまです。ルプスレギナ様は大切な恩人なのですから、何日でも居てくださって大丈夫ですよ」


「うーん、そうっすね……」


 この先どうするか思考した。ふと耳を澄ますと遠くから2足音が近づいていることに気がついた。

 片方は纏まりの取れた、もう片方はバラバラな足音だ。対象的な音だが、向かうところは同じ。ならば――


「私は旅人っす。様々な土地を流浪してこそっすよ。お腹も膨れたっすから、また出掛けるっす」


 村長は少しだが、落ち込んだ雰囲気を見せた。可能ならこのまま村に定着して欲しかったが、居を構えては旅人とは言えない。仕方のないことだろう。


「私達は何時でもルプスレギナ様の事を歓迎いたします。またよろしければ、村へ立ち寄って下さい」


 犠牲の言う犠牲の少ない。それこそ数人しか犠牲に合わなかったのは奇跡としか言いようがない。襲われてしまい運は悪かったが、悪運強いのだろう。再び村として活動を再開しつつある。

 仮に彼女が来なければ、騎士達に蹂躙され村としての機能を失う破目になっただろう。聞いた話では数人だけ残し開放されたという。


「お姉ちゃん!」


「こ、こらネム、ルプスレギナ様に失礼でしょ」


 去り際に駆け寄ってきた少女に抱き寄られる。どうやらネムと言うらしい。


「えへへー、お姉ちゃん! お父さんを助けてくれてありがとうございます!!」


 純粋無垢な笑顔だが、最後の言葉には力強い感情が込められていた。


「ふふっ、どういたしまして。また会いましょうっすよ!」


 ぽんぽんっと軽く頭を叩くと、今度こそ村を後にした。

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