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「創造錬金術師」書籍版3巻発売&コミック版発売1ヶ月前記念SSです

 いつも「創造錬金術師」をお読みいただき、ありがとうございます!

 書籍版「創造錬金術師」3巻が本日発売になりました。

https://kadokawabooks.jp/product/souzourenkin/322110000490.html
(「創造錬金術師は自由を謳歌する」3巻の書籍情報ページはこちらから)

 さらに、姫乃タカ先生のコミック版「創造錬金術師」1巻の発売日が3月10日なので、その1ヶ月前でもあります。

 というわけで、それを記念して「書籍版3巻発売&コミック発売1ヶ月前記念SS」を書いてみました。

 時系列は、トールが魔王領に来てすぐの頃。
「フットバス」をメイベルに使った直後のお話になります。
(コミックの記念SSでもあるので、そちらの時系列に合わせてみました)

 トールは、自分を雇ってくれた魔王への恩返しのために、役立つアイテムを考えるのですが……。

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『「創造錬金術師は自由を謳歌する」
 書籍版3巻発売&コミック発売1ヶ月前記念SS
「トールとメイベルと、ほかほかピカピカなアイマスク」』




「メイベルさんメイベルさん」
「どうされましたか。トールさま」
「魔王陛下の役に立つアイテムを作りたいんですけど、おすすめのものはありますか?」

 ここは魔王城にある、俺の部屋。
『フットバス』でメイベルの魔力を活性化させた俺は、魔王ルキエ・エヴァーガルド用のアイテムを作ろうと考えていた。
 魔王は俺を錬金術師として雇ってくれた人だ。
 その恩に報いるためにも、魔王向けのアイテムを作ってみたいんだ。

「そうですね。魔王陛下は、お疲れのことが多いようです」

 しばらく考えてから、メイベルは言った。

「ありのままの自分でゆっくりできるのは、お部屋にいるときだけだと、以前にうかがったことがあります」
「わかります。国を治める魔王としての重責があるからですね」
「え、ええ。それもあるのですけれど──」
「……?」
「い、いえいえ。やっぱり、重責があるからだと思います」

 メイベルは頭を振った。

「ですから、お部屋でのんびりするときに、役立つアイテムがいいのではないでしょうか」
「わかりました。探してみます」

 俺は『通販カタログ』を開いた。
 載っているアイテムから、役立ちそうなものを探してみると──

「この『リラックスアイテム』はどうでしょう」
「『いつでもぐっすり、ほかほかアイマスク』ですか?」
「はい。着けると目元が温かくなって、リラックスできるそうです。ほかほか効果は数分で切れるので、そのまま眠ることもできます。魔王陛下が自室でのんびりするには、ちょうどいいんじゃないでしょうか」
「でも、トールさま。目元を温めるだけなら、お湯に浸けた布を使えばいいのではないでしょうか? わざわざマジックアイテムを作る必要はないのでは……?」

 もっともな疑問だった。
 俺もこのアイテムを見つけたとき、同じことを考えたから。
 でも、これは勇者世界のアイテムだから、俺たちの想像を超える能力が追加されているんだ。

「よく見てくださいメイベルさん。隣のページにもアイマスクがありますよね?」
「は、はい」
「パーティグッズにも使える、『ほかほかアイマスク』のオプションだそうです」
「『アイマスク』の表面に、目玉のような飾りがありますね。これには何の意味が?」
「注意書きによると『これを見ればみんなびっくり』だそうです。つまり……」

『パーティグッズ』……つまり、これは勇者パーティが使うものだ。
 戦闘集団である勇者が身に着けて眠ると仮定すると──

「これは、勇者たちが敵の攻撃を避けるためのものじゃないでしょうか?」
「敵の攻撃を避ける、ですか?」
「異世界より召喚された勇者たちは、超絶の戦闘能力を持っていました。そんな連中が『アイマスク』を着けて眠るとき、なんの対策もしないとは考えられません。眠るときは無防備になりますからね。隙を突かれないように、工夫がしてあるんでしょう」
「工夫? 例えば、どういうものでしょうか?」
「睡眠中に誰かが近づくと、ダミーの目が動いて、相手の方向を見るとか」

 俺は言った。
 メイベルはびっくりしたように、目を見開いた。

「目が動く? もしかして、起きているように見せるためにですか?」
「そうです。『眠っていると思ったか? 残念だな! 貴様の動きは丸見えだ!』と威嚇するために」
「た、確かに。勇者ならあり得ます!」
「あとは、ダミーの目が光を放って、敵の目を眩ますとか」
「そこまで!?」
「相手は勇者です。敵を威嚇するためには、それくらいしますよ」
「……かもしれませんね」

 俺とメイベルは『通販カタログ』を見つめていた。
 右側のページには『ほかほかで目を休めるアイマスク』が。
 左側のページには『目玉のような装飾がついたアイマスク』が載っている。

 魔王用には、どっちの『アイマスク』を作ればいいんだろう?
 しばらく考えて、俺が出した結論は──

「両方の機能を備えたものを作りましょう。メイベルさんも、手伝ってくれますか?」
「はい! トールさま」

 そうして俺は『勇者世界のアイマスク』の製作に入ったのだった。





 ──魔王城の玉座の間にて──


「これが、錬金術師トールが作った『勇者世界のアイマスク』か」
「トールどのはまた、不思議なものを……」

 数時間後。
 玉座の間で、魔王ルキエと宰相ケルヴは『勇者世界のアイマスク』を見ていた。

 大きさは、顔の上半分を覆うくらい。
 布製で、耳にかけるための紐がついている。
 火属性と水属性、光属性と闇属性が付与されているらしい。
 着ければ目元ぽかぽかで、眠っている間の身の安全も確保されるそうだ。

「じゃが、表面についている金属製の球体……目玉のような飾りには、なんの意味があるのじゃろう?」
「トールどのは『勇者世界のセキュリティシステムです』と言っていました」
「しかも、使えばリラックスして眠れるようじゃ」
「使っても大丈夫なのでしょうか? 陛下にもしものことがあったら……」
「問題ない。それに、魔王が帝国の錬金術師を恐れるわけにはいくまい」
「わかりました。このケルヴは陛下の邪魔にならぬよう、黙って見守ることといたします」
「うむ。頼むぞ、ケルヴよ」

 そう言って、魔王ルキエは、顔半分を覆う仮面に手をかけた。
 部屋にはケルヴしかいないのを確認してから仮面を外し、代わりに『アイマスク』を装着する。
 そして魔王ルキエが、『アイマスク』に魔力を注ぐと──


「お、おおっ! これは……」
(おお、おおおおおおおっ!?)


 魔王ルキエが声をあげ、宰相ケルヴが目を見開く。

「な、なんと、目のまわりが温かくなっていく。まるで、ぬるま湯に浸かっているようじゃ」
(な、なんと!? アイマスクの目が発光している!? まるで私を見つめているように!)

「おぉ。視界が暗闇に包まれておる。内側に『闇属性』と『闇の魔力』を使っておるのじゃな」
(ま、まぶしい! 外側に『光属性』と『光の魔力』を使っているのですか!?)

「……これは、よいものじゃ。なんとも肩の力が抜けていく」
(……これはどういうものなのですか!? ひ、光が、私を追いかけてくるのですが!?)

「……ふわぁ」
(……おおぅっ!?)

「なんとも、落ち着くものじゃな」
(お、落ち着きません。アイマスクが点滅しています! 表面についた目玉のようなものが私をにらんでいます! や、やめてください。どうしてこっちを見るのですか!?)

「なんだか、眠くなってくるのじゃ……」
(なんだか、背筋が寒くなってきます。光が私を逃がしてくれません……どこまでも……どこまでもついてきて……)

 こうして、魔王ルキエはつかの間のうたた寝を楽しみ──
 宰相ケルヴは、異世界のマジックアイテムの効果を確認したのだった。




 ──トール視点──


「陛下はよろこばれていましたよ。トールさま」

 次の日。
 部屋にやってきたメイベルは、そんなことを教えてくれた。

「よかった。魔王陛下はあれを使ってくれたんですね」
「はい。でも、宰相さまは『目玉のような飾りはなくして欲しい』とおっしゃっていました」
「あれは重要なオプションなんですけど」
「敵を避けるためのものですよね? 城内で使う分には必要ないのではないでしょうか」
「……言われてみれば、そうですね」
「それと宰相さまは『眠りが浅くなった。いつもなにかに追われているようで』とも」
「宰相ケルヴさんも眠れないんですか?」
「そのようですね」
「わかりました。リクエスト通りに作り直します。あと、宰相さまの分も」

 こうして、俺が作った『勇者世界のアイマスク』は魔王城で使われることになり──
 俺はオプションを外した『アイマスク』を、魔王ルキエと宰相ケルヴさんに献上して──
 外で使うときのために『発光する眼球』を組み込んだアイマスクも、一緒に渡した。

 魔王ルキエはよろこんでくれた。
 ただ──

「……やはりトール・リーガスどのは、おそるべき錬金術師です」

 ──なぜか宰相さんが怯えた顔で、じーっと俺を見てたのが、気になったのだった。


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 というわけで、記念SSをお送りしました。

 ではでは、書籍版・コミック版・WEB版あわせて、『創造錬金術師』をこれからもよろしくお願いします!

2件のコメント

  • 記念SS、早速拝読させていただきました! トールの解釈にはいつも脱帽ですw 書籍版3巻も、帰宅後に読ませていただきます!
  • >佐倉 砂緒さま

    ありがとうございます! 
    今回のお話は大分前に書いて、そのまま使う機会がなくてお蔵入りしていたものです。トールが魔王領に来た頃に、こんなこともあったかもしれない……というお話になっております。

    書籍版3巻は、WEB版から色々と追加しているところもありますので、楽しんでいただけるとうれしいです。

    コメントありがとうございました!
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