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読んだ

なかなか筆が進まないなか、ずいぶん前にちょろっと読んでると書いたヴィクトリア・エイヴヤード『レッド・クイーン』を読み終わりました。
面白かった……のでネタバレ注意ー。


えーと、こちら2015年のNYタイムズベストセラー一位で三部作の一作目となっております。また三部作か……でも大丈夫、今回は第一作を手に取りましたから――って長くありませんか!? 三部作の一作目が570ページ強って全編がこの調子だと1500ページを上回る超大作じゃないですか! ま、まあいいか。

あらすじとしては……いや先に設定から語るべきでしょうか? うーん。
あくまでも私の主観と認識であると前置いて、ざっくり舞台を解説しますと、現代の延長線上にあるアメリカ文明()が滅びたあとの新世界となっております。人々は赤い血が流れる被支配階級レッド(要は普通の人)と、銀色の血が流れて特殊能力まで使えちゃう支配階級シルバーに分けられ、主人公ヒロインはレッドの民として日々スリをやって生計を立てております。
で、どうもこの国、よそのレイクランドとやらと戦争をしているそうで、シルバーさんたちはレッドを徴兵したのち激戦地に送り込んでいてめちゃくちゃな数の戦死者を出している。主人公の家ももちろん例外ではなく、兄三人はすでに戦地送りで自分もいずれという状況。
国民というかレッドも黙ってはおらず、シルバーを倒して人権を取り戻そうと画策する爆弾テロリスト≒革命軍のスカーレット・ガードもいる様子。

あるとき最初のロマンス候補の幼馴染くんが急に戦地送りなるのが決まり、主人公は密航によって逃がそうと計画テロリストに接近し、資金捻出のためにシルバー本拠地でスリを働くも大失敗、まともな手段で稼いでいた妹が職を失うことに。
絶望のさなかに出会った第二ロマンス候補のちょっと内向的な青年がなぜか職を斡旋してくれ現場に行くと王子様の花嫁候補選考会場、なんと青年は王子様だったのです! んで主人公はレッドでありながら超強い特殊能力に目覚めて急に第三ロマンス候補の第二王子の花嫁になるのが決まります。
とはいえ、レッドがシルバーと同じ力を持ってるとバレるとヤバいし、なんならテロリスト黙らせるのに使えるんじゃねと考えた王妃様が主人公を白塗りシルバーの振りをさせます。

……まだ前半の三分の一も説明しきれておりません。まとめるの下手か。いや誓って言います。たしかに要約は下手かもしれませんが、これでもかなり頑張ってるし固有名詞を避けつつ設定も網羅しているはずです。多分。
物語はここからシルバーの宮殿で働くレッド及びシルバーに内在するスカーレット・ガードのシンパと接触、幼馴染もスカーレット・ガードに入っることが発覚して違うの私の心はレッドなのと叫びつつ革命を目指すことになります。で、第一王子にキスされてドギマギしたり第二王子にキスされてドギマギしたり第一王子の視線に違うのそんなんじゃないのと言いつつ第二王子を巻き込んだ要人暗殺計画の実行から爆弾テロ、第一王子はやっぱダメだ第二王子好き好き! からの……と続きます。
こう書くと、何か凄い話と分かってもらえるはず。


文体は女性の一人称小説ですが、翻訳ものなので手堅く、元がアメリカ文明()なので語彙も現代まんまです。なので感情移入的な意味でも性別問わずそこまで抵抗はなかろうと思われます。なんか最後の方は原子力だの核廃棄物だの放射線測定がどうのこのって話が出てきますし、アンダートレイン≒今の地下鉄の遺構とかもあったりします。ただし戦闘描写についてはあまり興味がないのか展開も含めてだいぶざっくりしています。まあ小説だし別にいいんですけど。


ここから面白ポインツ! ただ、若干というか多分に作者視点が入っております。
ストーリー自体はいわゆるシンデレラストーリーを思わせつつのロマンス重視。特に二人の王子様の間でヒロインが右往左往する様は内面描写も含めて濃厚です。少年向けのバトル要素も完備。ただ、作者的な面白ポインツは全く別。設定の作り方が凄いのです。
本作はヤングアダルト作品で、対象年齢はおそらく十代前半から。そしてアメリカというお国柄ですから、若年層読者の読解力レベルは未知数です。
本作の設定は、そこに完璧にアジャストしているのです。多分。
まず奴隷階級のレッドと支配階級のシルバー。流れてる血が違うからという安直さ! みたいに思いがちですが、複雑な名前をつけて理解されないよりはこっちのがよいです。また歴史の浅いアメリカという国に住まう若年層にとって中世風ファンタジー世界は想像しにくかろうというところから始まるバリバリ現代な設定。監視カメラ出てくるし車走ってるし、なのにレッドの編むシルクが高級嗜好品としてシルバーに喜ばれてたり、銃も剣も出てくるし、なんかこれもうXメンじゃないかって感じの設定もあるし、十歳から十五歳くらいの読書経験の浅い少年少女を対象にしていると考えると完璧です。
私とかアバウトな設定を書くとついこれ読者をバカにしてると思われんかと余計なことを考えてしまいがちなのですが――逆だと。それ日本語だけで成立してるし小中で古文まで習ってるのが基本の国に暮らしてるからだと突きつけられたような気分でした。
相手は多言語国家アメリカです。私が想定しているよりもずっと公用語のレベル差も既知の文化レベル差もとんでもないのです。わかりやすく言うと、なろう系を世間一般にも伝わるよう噛み砕いた感じの物語なのです!
……かえって分かりにくくなったか?
んーと……なろう系ってゲームファンタジーを基礎に置いているのでゲームやってないとわからないんですが、そこすら超えた、みたいな? 全編を通して知ってる言語とそこから想像のつく設定だけで書かれているみたいな感じでしょうか。わかりやすさでぶん殴れみたいな。そこが一番おもしろかったです。私的には。


一転、気になるポインツその1。
訳者あとがきで絶賛されていたのですが、複数のアメリカエンタメを組み合わせた設定とシンデレラストーリーを成立させる中世風と分かりやすさを担保する現代設定の見事な調和が……いや、して、ない……です。
たとえば舞台となる街の名前がスティルト≒高床式住居なので北アメリカか南アメリカの湿地帯を想像し、コロッセオでシルバー同士が戦うのを見物し(それがシルバーの強さをレッドに誇示するためらしい)、家で妹ちゃんがシルク織って刺繍して売って一家の稼ぎ頭だと知ったところからの急に停電、主人公が「私のパクってきた電気料金カード使わなかったの?」と怒るシーンで宇宙猫です。で、電気料金カード? このあたりの道はシルバーの暮らすところと違って舗装されておらず……舗装? 車が出てきた……? 銃。銃? 剣。絢爛豪華な宮殿に張り巡らされたバリアと監視カメラ……誰か、誰か映像にして見せてくれ……! 私の想像力ではうまく整合させれられぬ……! となりました。
とはいえ先述の面白ポインツを思い出せば簡単です。勢いです。勢いが大事なんです。いい意味でいちいち全体の世界観を想像することなど想定していないのです。そもそも私が混乱したのは私がどうしようもなく日本人でかつ日本の中世ファンタジーに慣れきっているからで、アメリカ的にはこれで充分なのかもしれません。なにより、そのとき必要なロケーションが大事です。私とかいちいち移動シーンまで書いちゃうので勉強しないといけません。マジで。

気になるポインツ2
そういうものだと理解しているんですが、主人公ヒロインがわりとずっと役に立っていないというか、なんなら余計なことして事態を悪化させてるのは主人公ヒロインです。あと有能な軍人にお兄ちゃん王子とちょっと影のある線の細そうな弟王子に取り合いされてドギマギな展開がめっちゃ長いです。まあ年頃の女の子なので仕方ないですね。
……いや仕方なくないよ! 表紙絵から想像したのは向けられた好意を利用する自分に苦悩するタフネスヒロインなのに打ちのめされたり喜んだり勝手に期待してちょっと読みが外れたら毛嫌いしたりとこう……こう主人公の頭悪いな!? でも大丈夫です。序盤から主人公はあまり頭がよくなく直情径行強めなのは明らかなので。いやでもごめん、ちょっとストレスでした。

気になるポインツ3 +重大なネタバレ(数行空けます)






後半、第二王子と相思相愛ムードで一緒に革命しようと動き出し、待ちに待ってた第一王子の恋心を利用して……からの一連の流れが面白いけど気になるポインツ。ストーリーは面白いんです。盛り上がってまいりましたとなりますし。作者からのセルフ突っ込み&擁護「世界の命運が子どもの恋愛?」「ありえるよ」という会話は御愛嬌としても王道な展開です。しかし、第一王子は国家を優先、ヒロインは彼は私を選ぶと思ってたのにバカ!ってなります。……まだ大丈夫です。私は私の価値観的に第一王子に感情移入してしまいましたが大丈夫です。結果として玉座の前に引き出され、なんとここで王妃の裏切り! 第二王子が主人公に協力して革命を謳っていたのは自身の王位継承と政敵抹殺のためにスカーレットガードを利用したかったからなのです! ナイスな展開! これを待ってたと盛り上がりました。本当です。で、美形ゴリラ第一王子が曇る最高の展開。曇り果てる美形王子からしか接種できない栄養がふんだんに含まれ腎臓あたりにダメージきそうです。よき。
なんですが、ここがもったいないんですよね……。
先述した通り、分かりやすさが凄い作品なのです。
なのに、この王妃と第二王子の裏切りだけは丁寧な説明を欠いているのです。

物語の流れと設定的に、今の王妃は第二王妃でして、第一王子は前妻との子で第二王子が今の王妃との子どもなのですね。しかも今の王妃に至っては前妻を暗殺までしているっぽい。そうとは知らず(薄っすら疑っている)王様は第一王子を大事にしてて、第二王子はないがしろなのです。したがって第二王妃は王の謀殺と王位簒奪をしつつ、その原因をテロリストとそれに色ボケしたバカな前妻との子どもになすりつけるという計画を立て、実行に移したのです。
大人な読者はこの生々しくも理解できる設定と筋に唸ります。
んでも、この大事なクリマックスが他の要素と比べて確認不足なのです。誤解されたくないので強調しますが、他の部分と比べての話です。
他の筋はちゃんと確認が入るんです。
「そうか〇〇が✗✗したのは△△だったからなのか」みたいな、ついついダサイと思ってしまうけれど分かりやすさを重視するなら最も大事な確認&説明作法です。
それが、ない。
主人公は嘘にまみれたお芝居だとか内面で非難するばかりで理解したことを確認してくれないのです。ここだけ。ここだけは大人向けというか、読んでれば当然わかるんだけど当然のことも確認したほうが流れ的に親切じゃない? と思いました。普段だと思わなかろう感想なのに思ったということは、本当に分かりやすさ重視だと感じていたからかもしれません。分かりませんけど。



まとめ……ベタで王道だけどわかりやすい何でもありなヒロイックロマンスファンタジーSFで面白かったです。読みやすさは正義を地で行っています。
欲を言えば主人公がもうちょっと活躍したり冷静だったり賢かったりするといいんですが、この辺はアメリカと日本の感覚の違いって感じかもしれませんね。
あくまで私の主観ですが、日本だとわりかし主人公の周囲がバカな行動をして主人公が解決する流れが強く、海外だと主人公がやらかして乗り越えて解決みたいな流れが強いイメージがあります。実際は読書量不足でまったく正しくないかもしれませんけども。ジャンルによっても違うし。ヤングアダルトだから? わかりません。色々と自己弁護の文言を並べたいところですが主観なのでご容赦ください。

魅力としては分かりやすい往年のラノベにほんのりハーレクインを混ぜたような……好きな人は割とがっつりハマりそうですね。色々とツッコミたくなるものの何より大事なのは細けぇことはいいんだよ! という強烈なパワーです。大事。私としては第一王子くんのアイロニカルな立ち位置にがっつりもっていかれてしまったので主人公ヒロインの思考と行動にイライラすること多数だったんですが、このへんは読み手によるかと思われます。

いや長い感想になりましたね。本編も長いし仕方ありませんが。



明日のラッキー思いつきフレーズ
『いえ、違います。皆さんはこの凶器が消えることを前提に思考しておられる。つまり犯人は計算が外れトリックに失敗したのだと。そうではないんですよ。このトリックははじめから失敗するように計画されていた。冤罪を生むため? 自分が捕まらないようにするため? 違います。皆さんが犯人の思い通りに動くことを目的としたトリック失敗トリックなんです』

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