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サポ限書下ろし 第6話



 目の前に現れた四角い箱に両手を伸ばして掴むと、大きさの割に意外と軽かった。


 これがサイコロと言う物なのですね。
 水晶は3回振って色々決めると言ってましたわ。


 マノンはサイコロを両手で持ったまま頭上に掲げた。


「待つのだ!まだ説明が! あぁ」


 水晶が何か慌てていたが、マノンは気にすることなく「エイッ!」とサイコロを両手で放り投げた。


「はぁ、最初の出た目は6だな。って、慌てるな!」

「エイッ!」

「あぁ、待てと言ってるのに・・・次の目も6だな。って、だから待つのだ!」

「エイッ!」

「なんてせっかちな人間なんだ・・・って、お?最後も6! 滅びの魔女がマノン・シャルド・ヘンケ・ハインツ・ド・ササニシキ!其方、凄いぞ!」

「3回振りましたわ。これで次の生が始まるのですね」

「いや、さっきから少し待てと言っておるだろうが。一旦落ち着くのだ」

「わたくしは先ほどから落ち着いておりますわ」

「兎に角、まずはサイコロの結果から説明するぞ」

「はい。次の世はどんなところなのでしょうか」

「6の世は、科学と宗教の世界だな。 其方の前世である魔術と宗教の世界よりも文明が発達しておるぞ。因みに新しい世界では魔術は無いから、古代秘術で国ごとぶっ飛ばすことは出来ぬからな」

「科学・・・聞いたことの無い学術ですね」

「今は科学についての説明はせぬが、新たな生を受けたのちに自ら学んで身に付けよ。 そして2回目の出た目も6。偶数だから新しい世でも女性と決まったからな」

「わたくし、魔女ですからね。女性じゃないとおかしな話でしょうし」

「ふむ。 そして3回目の出た目も6。6の運命は『古文の先生』なのだが、それとは別に6のゾロ目でフィーバーボーナスが発動されたのだ」

「コブンとかゾロメとか言ってることが難しすぎて、ついて行けそうにありませんわ。 もっと簡単に説明して下さらないかしら」

「つまり、新たな世で生き抜くのに有利となる能力が、生を受けた時から身に付いている状態となるのだ」

「有利となる能力。それは具体的にどのようなもので?」

「1とか2のゾロ目だったら、身に着く能力の数も効果も大したことは無かったが、なにせ6のゾロ目だからな、このような事はこれまで幾千幾億の魂の裁定をしてきたが、初めてのことだ」

「そのようなこと言われましてもどれだけ凄いことなのか実感するのは無理ですわ。それよりもその能力がどのような物なのか早く教えて下さいませ」

「相変わらずせっかちだな。 まぁ良い。 其方に備わる能力は、全部で6個だ。 1つ目は、声が綺麗。2つ目は、良い匂いがする。3つ目は、目が良い。4つ目は、手先が器用。5つ目が、料理上手で、6つ目が、床上手」

「それのドコが凄い能力なのですか?どれも微妙ではないですか」

「声が綺麗というのは、人を魅了する力となる。 同じ言葉や歌を唱えてもダミ声では聞いた者の心には響かぬが、綺麗な声だとそれだけで惹き付けてしまう力となりうる」

「なるほど、そう言われればその通りですね。2つ目はたしか良い匂いがするという物でしたか。それも同じ効果が?」

「人間にとって、臭いが重要なのは分かるか? 普段どんなに良い行いをしている者でも体臭が臭いというだけで人間というのは嫌われてしまうこともある。 また、ヒトの心理として、容姿のことよりも臭いのことを貶された方のが精神的ダメージが大きいのもあるだろう」

「確かに、醜いと言われるよりも、臭いと言われる方のがショックが大きいですわね」

「3つ目と4つ目は、そのままだな。目や手先が優れておれば、普段の生活や仕事をする中で様々な面で役に立つであろう」

「残りの料理上手と床上手はなんですの?舐めてらっしゃるのかしら? こんな物よりも、病気にならない体とか、人の心を読める力とかのが欲しかったですわ」

「其方の前世は王家の姫だったから分からぬのも無理はあるまい。 料理上手と床上手。この2つを兼ね備えた女性は、無敵だぞ? あと病気にならないとか人の心を読めるとか、流石にそれはズルすぎるので却下だ」

「無敵・・・無敵の滅びの魔女。 ちょっと面白くなってきましたわ」

「どうせなら、料理上手で床上手な滅びの魔女と呼んでも」

「それは却下ですわ。締まりませんもの」


「って、話が逸れ過ぎた! 其方と話しておると、調子が狂ってどうにもイカン」

「そうですわ。早く次の生へ行きますわ」

「本当に其方はせっかちだな。まだ説明が残っておるのだ。 新たな生を受けると、そなたの魂は次の世にて母体に宿ることとなる。 つまり赤子として――――

 ――――再び魂となった時に魂の記憶の封印は解かれるだろう」

「説明は以上で終わりですか?」

「なんだか反応が薄いの」

「話が長いですわ。気持ちが既に新しい世に向かおうとしているのに、先ほどからあなたが一々説明がどうのこうのと言うから、気も滅入るというものですわ」

「文句も多い人間だのう。まあよい。これにて準備は整ったから転生の儀式に入るぞ」

「・・・・・」


 目の前に浮かぶ水晶がゆっくりと回転を始めた。

 その回転の速度が徐々に上がると、頭上から教会の鐘の様な音が鳴り始めた。

 マノンは、その場で腰を下ろし、体操座りで転生の時を待った。



 カンコーン、カンコーン、カンコーン、カンコーン、カンコーン



 鳴り響く鐘の音が30ほどすると意識が微睡み、マノンは意識を手放した。








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