半年くらい前に書いて、放置したままだったものをちょこっと出しておこうかと。
4話まで書けていたりします、が、ダンジョンものばかりだったので途中放置、、になりました。
おっさん系主人公は好きなのでそのうち、、やるかも。自分で面白いのか分からないのが、、ちょっと。
2話まで公開、、。良さそうな感じなら、、連載にしてもいいかも(チラチラ
1.
スキル、スキル、スキル。だから何だってんだよ。子供だった頃は英雄やSランク探索者なんてものをキラキラした目で見たもんだ。
しかし、現実は努力だけで何とかなるもんじゃねえ。おっと、間違っちゃいけねえぞ、努力を否定しているわけではない。
……くっだらねえことをグダグダ考えてるわけじゃないんだぜ。
待つことも時に大切ってことだ。
ここは俺の庭。何しろ10年以上毎日毎日潜ってんだから。
瓦礫の裏にしゃがみ込み、耳を澄ませれば、ほら聞こえてきた。
ペタペタペタペタと、モンスターの歩く音がな。この音はグリーンバイパーで間違いない。
グリーンバイパーは蛇のような体にムカデの足が生えた奇妙なモンスターで、一階層では最も厄介なモンスターのうちの一つ。壁を這うことができるし、触れると体が溶ける酸を飛ばして来たりする。
まあ、倒すとすれば……なかなかタフな奴ってことさ。俺にとっては最も組みしやすいモンスターだがね。。
こいつらは無警戒に進み、ただ目に映る得物に飛び掛かるだけ。
ペタペタペタ。
瓦礫の裏にまで歩いてくることもなく、グリーンバイパーは通り過ぎて行った。そう、気が付かれずに通過させるだけならこいつほど楽なモンスターもいない。
さてっと。そろそろ行くか。
ソロリと音を立てないように歩き始める。俺の計算によると、この回廊を進み右手の部屋。ここにお宝が湧いているはず。
確率は7割ってとこかね。
進もうとしたところで、立ち止まり身を潜める。
「伏せてください! 風よ。ルチアナの名において命じます。刃となりて切り裂け」
まだ10代だろうローブ姿の少女のワンドの先から風の刃が放たれ、亀のようなモンスターをの甲羅をスパンと切り裂いた。
4人パーティか。彼女以外には真新しい鎧を着た重戦士と軽装の両手剣、彼女と同じようなローブを着た者が戦っている。
ここは一階層。ザ・ワンのほんの入り口だけに、彼らのような新米探索者とよく遭遇する。彼らもあと半年もしないうちに二階層、三階層と進んで行くのだろう。
彼らの戦闘が終わるまで影に隠れてやり過ごし、戦いが終わった彼らは俺の来た方の回廊を進んで行った。
挨拶をしようなんて気はさらさらない。どうせすぐに彼らと一階層で会うこともなくなるし。ソロの俺は相当に特殊だ。何しろ、ずっと一階層で宝箱を集めているだけの奴なんだからな。
これだけで食うには困らないくらいは稼げるんだって。一人は気楽さ。自分のしょぼいスキルで責められることもないし。相手に引け目を感じながら荷物持ちなんてやってらんねえだろ?
こと一階層に関してだけ言えば、俺は誰よりも把握している。モンスターの息遣い、構造、宝箱がポップする位置予測さえも。
そうさ、俺は底辺さ――。
決して声は発しない。声を出して得をすることなんて何一つないのだから。
右手の部屋をそっと覗き込むと、目的の宝箱が置かれていることを確認できた。
底辺だから何だってんだ。ゴミスキルでも、それで生きていけるなら文句ねえだろ。誰にも迷惑なんてかけちゃいないし、な。
ちょっとばかし、他の新人の宝箱の得る数が減るだけさ。どうせすぐに湧く。
金属製の錆びが浮いた宝箱の上蓋に手を当て、コンコンと指先で叩く。
罠はなさそうだ。鍵は……かかっている。
慣れた仕草で鍵開けグッズを出し、宝箱の鍵穴へ向ける。
「固有スキル『器用さ強化(小)』」
囁くように呟き、針金を鍵穴へ突っ込みちょいちょいと動かす。
ガチャリと音がして、あっさり開錠完了となった。こんなスキルでも無いよりはマシだ。
おまじない程度にしか指先が器用にならないもんでも、スキルを使っているという気持ちが心を平静に保ってくれる。指先が震えずに動く。
宝箱の中には小さな赤い宝石が入っていた。100ゴルダくらいかねえ。二日分の家賃と酒代くらいにはなる。
そんじゃま、次へ行くか。
順調に二つ目、三つ目の宝箱を開け、お宝を取得する。しかし、四つ目の箱を開けていると事件が起こった。
「おいおい、新人かと思ったらケチな泥棒クラウディオじゃねえか」
「ブルーノか。お前、A級にあがったとか自慢していなかったか。何でこんなとこにいるんだよ」
「ほらよお。俺みたいなA級探索者ともなると、新人のことも気に掛けるもんだろうが。くたばりそうな奴がいたら助けてやらねえとなあ! ガハハハハ」
よく言うぜ。
全くこんなところで会いたくない奴にあってしまった。
頭まで筋肉でできたようなずんぐりとした巨漢の男が丸太のような腕を組み愉快そうに笑っている。
こいつは俺と同じ時期くらいに探索者を始めたんだが、「倍化」だかなんだかの戦士向けの固有スキルを持っていて、すぐに深いところまで潜るようになった。
俺のことを「一階層だけの泥棒野郎」と酒場で会うたびに馬鹿にしてくる。無視だ無視。相手にしてもつまらないだけ。
「言う事はそれだけか? 俺はもう行くぜ」
「まあ待て。せっかくここで会ったんだ。前々からお前の弱いくせに斜に構えた態度がいけ好かなかった。詫びを入れたら許してやる」
「意味が分からん。俺は別にお前に謝罪するようなことはしていない」
「まあそうだよな、そうだよな、お前ならそう言うと思ったよ」
なあ、と仲間の探索者に顔をやり、下品な笑い声を漏らすブルーノ。
面倒な奴らだな、本当に。お前らにとって一階層は遊びかもしれないが、俺にとってここは仕事場なんだぞ。
酒場ならまだしも、仕事の邪魔をされるのはかなわん。
ブルーノら四人を無視して素通りしようとしたら、奴に肩を掴まれた。
「哀れケチな泥棒は行方不明と報告しておくぜ」
「っつ。何を」
「ほらよ。お前じゃお目にかかれねえ高級品だ」
ポンと背中に何かを張り付けられる。抵抗しようにも俺と奴の身体能力の差は大人と子供以上にあるからどうしようもできない。
そもそも、抵抗しようにも奴の動きがまるで見えなかった。
「転移の札だ。何階層に出るかお楽しみにってな。ほい、起動」
「な、お前!」
「心配すんな。一番深くても30階層だって。ガハハハハ」
ブルーノのイライラする高笑いが遠くなり、視界が切り替わる。
部屋だ。先ほどまで俺がいた部屋より二回りほど広く、扉のない外へ続く隙間が見える。隙間といっても店の扉より広く高い。これだけの広さがあれば、大型のモンスターでも易々と通過できそうだ。
天井も高く、5メートルほどだろうか。
「運がいいのか悪いのか……」
つい、言葉が口をついて出てしまう。
部屋の壁際に錆の浮いた金属製の宝箱が鎮座していた。
人の気配はもちろんのこと、モンスターの気配も感じ取れない。しかし、何もいないってのに体にまとわりつくような圧力に心臓が嫌が応にも高鳴る。
そのプレッシャーを払うためなのか俺としたことがつい、声を出してしまったというわけだ。
こいつは良くない。長年培ってきた俺の探索者としての勘が告げている。ここが何階層なのか不明だが、一階層とは比べものにならねえぜ。
ジワリと手に汗が滲む。それでも、宝箱をじっと観察していたのだから、笑えて来る。
死なねえ。こんなところで死んでなるものか。
宝箱に罠は……ありそうだ。鍵はかかっていない。
深層の罠ともなると凄まじい威力があるんだろうな。ひやりとしつつも、罠は罠さ。あっさり解除できた。
箱の中には「ブレイクスキルの書」という見たこともないアイテムが入っいたではないか。
ひょっとして、この状況を打開できるかもしれない。
焦る気持ちを抑えつつ、ブレイクスキルの書を確認する。
『固有スキルを別のものに変更します』
と書かれていた。
確かに俺の固有スキル『器用さ強化(小)』は底辺も底辺、ゴミスキルと言われても、「そうだ」と当の本人が即答できるようなものだ。
生まれてこの方28年間、連れ添ってきたもの。俺の固有スキル以上のゴミスキルに変わる可能性は低いだろう。
だが、今ではない。生きるか死ぬかの状況において、未知のスキルに一発をかけるよりはまだ使い慣れた『器用さ強化(小)』の方がまだ信頼できる。
少なくとも俺のスキルは俺の行動を制限するものではないからな。
今のままでは状況を打開できない、死ぬしかないという場面が来れば一発逆転に賭けることになるだろうけど、まだ早い。俺はまだ諦めてなんていないんだ。
しかし、その希望もすぐに打ち砕かれることになる。
2.
宝箱のある部屋を出てだだっ広い回廊を少し進んだところで、心臓がぎゅっと掴まれたような錯覚に陥った。
モンスターだ。奴はまだ俺のことに気が付いてはいない。
敵意をこちらに向けていないってのに、奴から放たれる重圧に押しつぶされそうなほど。これが深層のモンスター……。
ゴクリと唾を飲み込もうとしたがうまくいかず、乾いた舌の感触に舌打ちしそうになって慌てて途中で止める。
獅子の頭とヤギの頭の双頭で、獅子の体に蛇の尾を持つこのモンスターはマンティコア。有名なモンスターで俺でも噂だけは知っていた。
ブルーノの馬鹿が自慢気に言ってたっけ。「俺たちだから倒せたんだぜ、ガハハハハ」とな。
本当にあの馬鹿が倒せたのか、と鼻で笑ったものだが……。
幸い、マンティコアの全ての目は閉じている。このまま音を立てぬように進む。一階層と同じように身を隠す瓦礫もある。
奴の視界に入らぬよう、慎重に慎重に歩け。
一歩、もう一歩。
額から汗が滲み、顎を伝って落ちる。汗が目に入り、視界が揺らぐが歩くことができる。大丈夫だ。
蛇の尾がむくりと起き上がり、シャアアアと長く細い舌をこちらに向けた。
まさか、気が付かれたのか!
見えてないのに、あちらからは瓦礫が遮っており見えてないはずなのに!
マンティコアの強靭な爪に力が入り、瞬きをする暇もないくらいの刹那の時間で俺のいる瓦礫へ体当たりしてきた。
ガラガラと瓦礫が崩れ去り、咄嗟に転がって避けたものの飛んできた瓦礫の破片がどこかに突き刺さったようで鋭い痛みが走る。
あんな攻撃、まともに喰らったら一発でおじゃんだ。
片手をついて前転し、足の力だけで起き上がる。瓦礫に隠れても無駄だ。蛇の頭が俺の体を正確に捉えてくる。
瓦礫の粉塵が開けたその時、きっと突っ込んでくるに違いない。
まっすぐに逃走……ダメだ。奴の方が俺より早い。7メートルほどの巨体だってのに俊敏性まであるなんて酷い話だよ。
「理不尽には慣れっこだ!」
気が付かれているなら声を殺しても同じだ。ならば思いっきり叫んでやる!
風圧……!?
盾になるように瓦礫の裏へ転がり込み――。
ドガアアアン。瓦礫ごと吹き飛ばされてしまった。
は、速い。煙が晴れるまではと思っていたが、蛇の頭は粉塵さえものともしないらしい。
「ッツ」
右腕の肘から先の感覚がない。こいつは折れたな。荒く息をするとあばら骨も痛む。
どうやら数メートル吹き飛んだようで、瓦礫と瓦礫の間にある溝にハマって止まったみたいだ。
いよいよ進退極まったか……。一か八か使ってやる。
「ブレイクスキルの書」に手を乗せ、強く念じた。するとブレイクスキルの書が強く輝き出す。
あまりの光に視界が真っ白になるが、構いはしない。
「来い! 神スキル!」
頭の中に新しく獲得した固有スキル名が浮かぶ。
「吸収」――と。
吸収スキル? 聞いたこともないスキルだ。
っちいい。どう使えばいいのかも分からん。分かっていたさ。俺の運のなさくらいは。
目的は書物系のアイテムを使った時に放たれる閃光だ。蛇の目は誤魔化せないかもしれんが、獅子とヤギにはたまらんだろう?
既に俺は全力疾走している。
逃げ切れる? いやいや、無理だ。
蛇の頭がある限り、奴の方が俺より速いのだからそのうち追いつかれる。
あいつが俺の何を感知しているのか、何を見て俺を捉えているのかは分からん。生きて帰ったらブルーノじゃないA級かS級探索者にでも聞いてみるか。
ここを凌げれば……だが。
俺が欲しかったのは僅かな時間。
「思ったより、速い!」
もう、ダメだ。追いつかれる!
奴の発する風が背中に触れた気がした。ぽっかり空いた隙間に指をかけ、転がりながらも滑り込む。
「ハアハア……」
一瞬後に真っすぐマンティコアが通り過ぎていった。間一髪、何とか間に合ったようだ。
ここは部屋。そう、最初に俺が転移した場所である。
――グルウウウオオオオオ!!
小虫のような俺に体当たりできなかったからか、怒りの咆哮をあげたマンティコアがすぐさま部屋に飛び込んでくる。
俺はといえば、宝箱の後ろにしゃがみ込んでいた。
「うう、思ったより重てえええ!」
宝箱を僅かばかり持ち上げ、足先をねじ込んで梃子の要領で斜めに倒す。
俺の動きなど構いもせず、マンティコアが突っ込んできた。
宝箱がひしゃげ、その勢いで壁にたたきつけられてしまう。
宝箱からカチリと音がして、風の唸る音が耳に届く。しかし、俺の位置からでは何が起こっているのか確認できない。
『ギャアアアアアアア!』
悲鳴があがり、マンティコアが仰向けにひっくり返ったままビクビクと体を震わせていた。
奴の胴体は大型の槍で貫かれたかのような風穴があき、ドクドクととめどなくどす黒い血が流れ出ている。
「深層の罠……恐るべし……」
何とか仕留めたぞ……。宝箱の罠ならばダメージを与えることができると賭けに出た。
そのために「ブレイクスキルの書」を使って僅かな時間を稼いだ。
まさか罠がマンティコアを倒すほどの威力とまでは思ってなかった。ダメージを与えた後なら逃げ切れると踏んで、この部屋に飛び込んだのだ。
「二度は無理だ……ここだとマンティコアでも数ある雑魚の一体なんだよな……」
一矢報いた。ただそれだけだ。その結果、右腕と肋骨がいかれた。死を覚悟し、幸運もあって九死に一生を得る。
次はない。どれだけ楽観的な者でも俺と同じ気持ちになるはずだ。
マンティコアが足先から砂のようになって溶けていき、光へと変わっていく。
いつぶりだろうか、自分でモンスターを倒したのって。久方ぶりに見たモンスターを倒した時の光はキラキラとしていて、荒み切った自分の心をひと時だけでも癒してくれた。
ん、光が俺に集まってくるじゃないか。
集まった光は俺の体に吸い込まれていった。
「熱い!」
肋骨や腕の痛みからくる熱さを感じ無くなるほどの熱が俺の体を駆け抜ける。まるで、細胞の一つ一つが焼かれ、生まれ変わっていくような……。
その時、頭の中にメッセージが浮かぶ。
『スピード+++++
スタミナ+++++
力+++++
スキル「麻痺耐性」を獲得しました』
「ぐ、ぐうう。吸収スキルの効果……か?」
メッセージが本当だとすれば、俺の身体能力は大幅に向上したはず。
熱が収まり、んーと伸びをしてみたが、特に変化は感じないな。ん、あれ、肋骨の痛みがそれほどでもない。
右腕もあがる。
「信じられん。怪我が一瞬にして癒えた。スタミナがあがったから?」
モンスターを倒し、光を吸収すれば俺の力に変わる……というのが吸収スキルの能力と仮定しておこう。
ついでに怪我まで回復する。
このスキル……とんでもねえぞ。
「問題は。俺が生きて帰れるかどうかだな……」
しかし、先ほどまでの悲壮感はない。スピードがどこまであがったのか、試してみるか。
ここから俺の無双が始まる……なんてな。