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パクチーチキンバーガーに学ぶ創作論


 近くのフレッシュネスバーガーに立ち寄ってみたら、期間限定メニューに「パクチーチキンバーガー」というのがあった。
 広告用の看板に「パクチー6倍」という実に悪魔的なオプションがあったので、それを指定した上で注文してみた。
 私はパクチーについてはそれなりに好きだったので、悪くない選択だと思ったのだ。

 運ばれてきた時点で清々しいほどパクチーだった。
 かわいげのあるサイズなのだが、場違いな量のパクチーが挟まっている。香りもパクチー。
 加えて、それはまだ「3倍」の状態であり、別添えされた容器にこれまたパクチーが入っている。
 こういったものを見ると、人間というのは興奮か恐怖か、口元が引きつるらしい。
 3倍状態のパクチーチキンバーガーの口を開かせ、そこに容器にあるパクチーをねじ込んだ。なんとなくエロティックだった。

 それを思い切り頬張った。

(oh,pakuti-)

 ものの見事パクチーだった。実際、食べる際にパクチーが前に出てくるので、一口目はパクチーしか食べていなかった。
 野郎の口一面に入ってゆくパクチー。
 頬張る。頬張る。バンズやチキンやエスニックなソースも一緒に頬張る。
 しかし、パクチーなのだ。すべてはパクチーへと還元されてしまう。
 私の中枢が占拠されたことを瞬時に悟った。
 あの時の私は賢者であった。いや、巨大な考えるパクチーであった。

 鮮やかな緑をたゆたう中、私は考えた……

 ああ、何であれ主役を殺すと碌なことにならんのだなあ……

 分かる。色物の脇役が凄い人気キャラになるパターンとか、登場回数は少ないのに猛烈なインパクトを残した敵キャラとか。そういう奴らは「当たり」だから引き立ててやりたくなる。
 だが、それでも、主役は大事なのだ。いくら批判を矢面に受けようが、脇役だったキャラに愛着を持って贔屓したくなろうが、主役はやはり物語の原動力なのだ。
 主役がいなくなってしまえば、物語は崩れてゆく。類稀なバランス感覚か、飛び抜けたセンス(あるいは狂気)を持つ人間でしか、触るべきではないのだ。
 王道以外をすべて邪道だとは思わない。だが、主役殺しは明らかに邪道である。

 ほら見ろ……
 収拾がつかずに……迷走しはじめた……

 忘我の時間は終わった。


 現に私は、毎日6倍パクチーを食べたいかと言うと、うーんとなってしまう。
 こういったものは不定期でポコッと出てきて一時のタイムラインを揺るがし、ごく一部に熱心なファンを抱えて消えてゆく。そういう類いのものだ。

 パクチーチキンバーガーに関しては、チキンバーガー部分も美味しかったので、次回あったらまた注文するかもしれない。6倍にするかは分からない。

 ありがとう、パクチーチキンバーガー。

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